3.フードの中身
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序章のうちはしばらく説明臭くなってしまいます。
ファンタジーを書くに当たって世界観を固めるのは必要と考えますので退屈かもしれませんがお付き合い下さい
恭弥は距離を詰め拳を振りぬく。
相手が油断していたこともあり、
完全に不意を突いたその一撃は先頭の男の顔面にクリーンヒットする…………はずだった。
しかし、男はそれを難なく避け恭弥の拳は空を切る。
そしてバランスを崩し、前のめりになった恭弥の顔面を男の拳が襲う。
その激痛に恭弥は顔を抑え二、三歩後ずさり尻餅を付く。
は?
嘘だろ……
不意打ちだぞ?
それをわかっていたかのように……
何なんだよこいつ………
驚きと恐怖に混乱する恭弥に追い打ちをかけるように今度は生暖かく、
ドロっとした液体が恭弥の全身を襲う。
顔を抑えてる恭弥にはそれがなんだかわからないが、
本能的に恐怖を掻き立てるような感触が全身を駆け巡るように広がり、
遅れて全身に粟が立つ。
思わず手をどけ顔を上げると、
何かがこちらに倒れ込むのが見えた。
恭弥のすぐ横に倒れ込んだそれは首を失った男だった。
先ほどまで男が立っていた位置には四人組とは別の男が剣を持って立っていた。
剣は赤く染まっており、
その男が首を飛ばしたのは明白。
それを理解するとともに自分にかかった液体が血液だったことを理解する。
そう……理解してしまった。
自分では全く歯が立たなかった相手が殺され、
そしてそれを一瞬のうちにやった者が自分の前にいることを。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
そこからは一切の思考が恐怖によって塗りつぶされ機能しなかった。
恭弥はのどが潰れんばかりに叫びながら、
手元にあった何かを握りしめて脱兎のごとく逃げ出した。
その背中に必死に声をかける者があったのだが、
それに気づける余裕など恭弥には無いのだった。
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無我夢中だった。
そこに理性などとうになくて、
ただ警鐘を鳴らす本能に従って走った。
正気に戻ったのは手に抵抗を感じたからだ。
「∬£∂∈¶!‡∬£∂∈¶!!」
相変わらず何を言ってるのかはわからないが必死に何かを恭弥に訴えるフードの外れた紅い瞳の持ち主がそこにいた。
フードが外れたことによって露になったその頭には小さくも立派な角が生えており、
風になびく長い髪は飲み込まれそうなほど艶やかで黒く、
対照的にその肌は雪のように白く月明かりを照り返す。
また作り物のように端整すぎる顔立ちは造形美という言葉を連想させる。
まるで絵のような少女だが、
その中で瞳の紅さが一層その生命と意思を感じさせる。
これがフードの中身…………?
なるほど拐われる理由も理解できる
ちょっと待てよ……
俺はそもそもなんで捕まってたんだ???
少女もいい加減言葉が通じないことを理解したのだろう何も言わずに少女の腕を掴んだままの恭弥の手をペシペシと叩く。
恭弥はそれに気づくと慌てて手を離す。
「あ……ごめ……って言葉は通じないんだったな」
少女は腕を少しさすった後、
「大丈夫?落ち着いた?」
とでも言いそうな様子で恭弥の顔を覗き込む。
恭弥は言語が通じないので平気という意味を込めて笑顔をつくって見せる。
すると少女もニコッと笑い返す。
天使のようとはこういう時に使う比喩だったんだな
せめて親元まで届けてあげないとまたすぐ拐われそうだなこりゃ……
と言っても言葉通じないんだよなぁ……
少女は恭弥の様子をチラチラと見つつ所在なさげに立っている
んー、この子も道わからなそうだな……
困ったな……
「…………あっ!!」
急に声を上げた恭弥に少女はびっくりする
恭弥は癖で手を合わせて少女に軽く頭を下げるが、
当然その意図は少女に伝わらず、
少女も恭弥の真似をして手を合わせて首をかしげる。
何で今まで忘れてたんだろう
いや、思い出す余裕も無かった気もするが……
そういえば封筒渡されてたじゃん!
内ポケットから封筒を取り出して中を確認する。
中には手紙が入っていた。
『こちらの世界にうんざりしていた様子でしたので異世界に送らせていただきました。
今どんな感じでしょうか?
楽しくやれてるでしょうか?
申し訳ありませんが、既に神を引退した私には知り合いの別世界の神に頼んで扉を繋げてもらうことしか出来ませんでした。
あなたに何か力を授けることもあなたの現状を知る術すら私にはありません。
その世界は色々とこじれてしまっているらしく人助けをするには絶好の世界だと思います。
ただ会話すら出来ないのではお困りだと思いますので私の手作りで申し訳ありませんが、あなたの使っている日本語とそちらの世界の言語との辞書を同封いたします、お役立てください。
あなたのご活躍を心から願っております。
追伸、この手紙は読み終わると勝手に辞書に変化いたします。』
ん?
ちょっとなに言ってるのかわからない……
とりあえず楽しくやれてねぇよ、危うく今度は天国に旅立つところだったわ!
手紙を読み終え、恭弥がその内容に混乱していると手紙がボフンと奇妙な音と共に白煙を上げる。
そして突然重くなったと思うと手の上には手紙ではなく分厚い本があった。
質量保存の法則とは一体なんだったのか……
え、てか本当に言語を一から勉強し直すの?
こういうのって魔法みたいなやつで言語通じるようにしてくれたり、ご都合主義で日本語通じたりするんじゃないの?
誰もがって訳ではないかもしれないけど憧れる人が多いであろう異世界が俺に優しくないんだけど……
普通にこの世界で生きていける気がしない……
とりあえず辞書の中身を見てみるか
うわ、本当に全部手書きだよ
頑張るな元神様
恭弥はこの世界での一般的な挨拶の言葉を辞書で引く
そして少女に向き直るとゆっくりと発音してみた