24.邂逅
ながーい3000文字!
今回はアスカ目線です、ご注意下さい。
アスカはキョウヤを追おうとした男をけん制して再び刀を正眼に構える。
結果的にはキョウヤの向かった部屋の奥の扉を背に四人と対峙することになった。
四対一でもアスカに焦りは微塵も無かった。
数的不利を抱えても尚、自分とステイルとの実力には雲泥の差があることは明らかだった。
そしてアスカには決して油断も無かった。
睨み合いにしびれを切らして剣を持った一人が突っ込んでくる。
その背中に隠れるようにもう一人短刀を持った男が動くのも見逃さない。
最初の男が剣を振り上げる。
と同時にアスカは距離を詰める、通常の倍にも達する速度で。
振り上げられた剣が振り下ろされるよりも遥かに早く隙だらけの胴に一撃。
予想の何倍も早く目の前に現れたアスカに動揺する背後の男にも返す刃を見舞う。
崩れ落ちるようにして倒れた二人に意識は無かった。
これで二人。
一瞬の交錯のうちに二人を、しかも峰打ちにする余裕すらを持って無力化する。
『疾風の剣姫』その通り名は伊達ではなかった。
二人が戦闘不能になったのを見て慌てて魔法使い風の男が詠唱を始める。
しかし、それはアスカを相手にするにはあまりに遅すぎた。
アスカはその場にあった空き瓶を蹴り飛ばす。
それは魔法使いの頭に正確に直撃する。
そしてそのまま気絶してしまった。
下卑た笑みと共にステイルの余裕は失われる。
真面目な様子でステイルも剣を構えなおす。
そう、それでいい。
お前もそれだけの実力があるのだ。
それなりの努力の過去と矜持を持ち合わせているはずだ。
私がここで権力に溺れてしまった根性を今一度叩き直そう。
そして本来のお前を取り戻そうじゃないか。
二人の間に一瞬の沈黙が流れる。
次の瞬間ステイルが踏み込む、先ほどの男のような隙だらけの大上段とは違う、鋭い切り上げ。
しかし、それはアスカには当たらない。
完全に見切って一切の無駄のない動きで躱す。
しっかりと体幹を保ちステイルもすぐさま手を返して剣を振り下ろす。
力ならばステイルに分がある。
ここで勝負をかけたステイルの判断は正しかった。
が、アスカはそれをまともに受けるのでなく横に流す。
力を込めた分、重心が少し前にずれる。
その小さな隙をアスカが見逃すことは無かった。
素早く鋭いその一撃がステイルの手に入る。
ステイルが呻き剣を落とす。
峰打ちとは言え鉄だ。
良くても骨にヒビくらいは入ってるだろう。
決着だった。
「流石、疾風の剣姫
俺の敗けだ
ははっ、敗けたのなんていつぶりかな……」
「殺しはしない、が牢に入ってもらうぞ」
「殺されないのはわかってるさ、みんな峰打ちってやつだろう?
片刃の剣を使うなんて剣姫様は大層お優しいこったな
悪いが牢屋で何年も時間を無駄にする気はないぜ?」
ステイルは不敵に笑う。
その言葉が何を意味するかアスカはよく知っていた。
持ち前の正義感でいままで何度も悪事を働く勇者を役人に引き渡してきたが、牢に入ったものなど誰一人としていないのだ。
自分のやり方では更正させられないのかそれがアスカの最近の悩みでもあった。
しかし、アスカはこれ以外の方法は思い付かないでいた。
小さくため息を落としながらキョウヤの向かった扉へ目を向ける。
キョウヤは無事、探し人と再会出来ただろうか。
見たところ彼は戦闘能力を持ち合わせてはいないようだった。
もし、扉の奥にステイルの仲間がまだいたのなら……
そう考えると少し不安になる。
いや、それはない。
奥の部屋から争うような物音はしなかった。
きっと無事だろう。
そう考え直しながらもやはり不安に思って奥の部屋へと向かおうと足を踏み出そうとした瞬間。
…………ッ!!
背後に強者の気配。
強者に背後を取られるということはつまり死を意味した。
警鐘を鳴らす本能に従って部屋の奥の方へ転がりながら抜刀する。
ビチャという水音。
振り返った先に見た光景は首を失いその断面から血を噴き出すステイルとその側で双剣を手に佇む男。
そしてその男をアスカはよく知っていた。
スロフリバ……!
私が最も止めなければならない勇者。
そしてこいつなら役人も味方しない、牢屋に入れられる!!
敵意を剥き出しにして睨み付けるアスカをまるでいないかのように無視して何かを探すようにキョロキョロと周りを見渡すその姿にアスカは憤りを感じる。
探し物は見付からなかったのかようやく興味無さげにアスカをその目に捉え……彼は欠伸をした。
アスカの堪忍袋の緒が切れた。
常人の倍の速度で駆け寄る。
まずは牽制の突き、かわされるこれは予想通り。
そこから直ぐに横に切り払うが双剣の一対を合わし綺麗に流される。
速度を緩めること無く、剣を返して切り上げ切り下ろす。
しかし、これもまた両手の剣を交互に合わせながら難なく流される。
強い、明らかにステイルなどとは比べるべくも無いほどに。
大きく切り払い後ろに飛ぶ。
対峙して再び睨み合い。
いや、睨んでるのはアスカだけだ。
スロフリバの目は相変わらず、興味無さげにアスカを見つめている。
疾風の名を冠するアスカの剣閃を軽々と捌いてこの余裕。
アスカは背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
もう憤りは無かった、いや憤る余裕がなかった。
感情に任せて挑めば命は無い。
むしろ今、相手が攻めに転じなかったのが不思議なくらいだ。
私にこの男を止められるだろうか。
アスカの胸に不安がよぎる。
その不安からかアスカは口を開く。
「なぜ殺した?」
反応は無いと思っていた。
しかし、予想に反して彼は口を開く。
「逆になぜ殺さなかった?
こいつは反省はおろか、牢にすら入る気は無いと明言していた
また同じ事を繰り返すだろう」
「その時はまた止める
何度だって反省するまで止める」
「では、その度に犠牲になる民にお前は何て言い訳をするんだ?」
「それは……」
「お前の甘い考えのせいで犠牲になる民がいるんだ
それをお前は考えたことがあるか?」
「うるさい!
殺人鬼のお前にそんなこと言われたくない!!」
「そうやってすぐに感情的になる
だから女は嫌なんだ……」
その言葉にアスカは激昂する。
こいつは絶対に牢屋にぶちこむ!!
その思いはすでに正義感ではなく、明らかに感情によるものだったがアスカがそれに気付くことはない。
怒り狂った目はスロフリバを睨み付けて、低く腰を落とす。
両手でしっかりと柄を握る。
斬りあっても勝ち目はない、だからアスカは自身の全力の、最速の一撃で挑むことにした。
一閃。
甲高い金属音が響く。
そして続くのは床に刀が刺さる鈍い音。
振り抜いたアスカの手には刀は握られていなかった。
「残念、お前の敗けだ
軽すぎるんだよ、お前の剣も正義感も」
私は死ぬのか?
ここで?何も思い出せないまま?
気が付いたら何も覚えていなかった。
自分が何者なのかも。
あるのは刀だけだった。
なぜかそれの名が『刀』であることと、体に染み付いたその使い方だけは覚えていた。
記憶とお金を得るために探索者になった。
鍛練を続けて勇者に選ばれた。
でも勇者は腐りきってばかりでそれと同じと思われるのが嫌で数多くの悪事を挫いてきた。
なのに、なのに何で私は最期にその全てを否定されて死ななければならないのか。
私はこんなにも苦労してきた!
正しいこともしてきたのに!
アスカは今にも泣きそうだった。
その時、ガチャリと奥の扉が開いてキョウヤがフードを被った小さな子を連れて出てくる。
アスカの涙はそれを見て引っ込んだ。
そして咄嗟に叫んだ。
「こっちへ来るな!」
彼らは戦えない。
私が少しでも時間を稼いで逃がしてやらないと。
手元に刀は無い。
アスカは鞘を腰から抜いて必死の形相で構えるのだった。
平日三日連続投稿してやったぜ!
休日は休みます!!多分!