0.プロローグ
序章のうちはしばらく説明臭くなってしまいます。
ファンタジーを書くに当たって世界観を固めるのは必要と考えますので退屈かもしれませんがお付き合い下さい
僕の名前は東恭弥。
今の僕の状況はというと草原のど真ん中に立っている。
なにを言っているのかわからないって?
自分でもなにを言っているのかわからない。
……一度振り替えって整理してみよう。
数時間前に何が起こったのかを話そうじゃないか。
〜遡ること数時間前〜
笑顔ですれ違っていく家族を見たのはこれで何度目のことだろうか。
それもそうだろう。今日は日曜日。
国民の……いや、世界の大半の人々が休日を謳歌する一週間の間で最も素晴らしい日。
当然だ、神だって日曜は休みと言ったのだから。
だが僕はどうだろう。
一日の中で比較的暑いお昼過ぎにきっちりとスーツを着込んでいる。
有給休暇など名ばかりで使う権利などもとよりない。
日曜日だって午前は仕事だ。
一週間のうち遅くまで寝ていられる日なんて存在しない。
僕の人生には二度寝など実装されていないのだ。
だから今日、僕は会社帰りにそのままハロワに向かった。
神の定めたことすら平然と無視するこんな会社にいつまでもいられるものか!
しかしそこにも希望は無かった。
ハロワの職員が僕に言ったのだ。
「ブラック企業?ハハハ、まだ社会に出て間もないから辛く感じるだけですよ。皆さん同じ境遇で働いているんですよ。ゆとり上がりで辛いとは思いますがあなたが思い描く転職先なんてありませんよ」
はぁ?週休半日が普通だと!?
ふざけるのも大概にしてほしい。
どんなに現状が酷いかを説明しても職員は大袈裟に言っているのだとまともに取り合ってはくれなかった。
もしも僕に彼女や養うべき家族がいたら現状に我慢していられただろうか。
考えても意味などない。
残念ながらそのような人たちは居ないし、貯蓄しているお金を使う時間すらない。
僕は一体何のために生きているのだろうとそんな考えばかり頭をよぎる。
あぁ、神は一体どこに行ってしまったのだろう。
僕は無宗教だ。そりゃそうだろうもし神がいるのならアフリカの貧困にあえぐ子供達を何故救わない?
同様にいつか倒れるだろう生活をする僕を何故救わない?
僕もとある宇宙人のように神が行方不明だとチラシでも配ろうか。
お金が無ければ生きていけない。
しかし転職先も見つからない。
完全に袋小路だ。
重い足を引きずるように家路につく。
何度もため息をつきながら今後の生活を悩みトボトボ歩いているうちにすっかり夕暮れになってしまった。
辺りの街灯が光を灯し始めると一週間のうちの唯一の半日を無駄にしてしまったことを思い出し一層暗い気分になる。
「どうした若人よ。そんなに暗い顔をしよって。財布でも落としたのかい」
突然声を掛けられ驚きつつ顔を上げると白い髭を蓄え杖をつくおじいさんが僕の横で微笑んでいた。
その優しい声を聞くだけで目頭が熱くなる。
思えば仕事以外で人と話すのはいつぶりだろう。
……ハロワの職員?そんな奴は知らん。
「ど、どうした?何か辛いことでもあったのかの? 儂のような老骨でよければ力になってやるから落ち着きなさい」
その優しい言葉に僕は涙を流していたらしい、情けなくもそのまま見ず知らずの老人に愚痴を全て吐き出していた。
「なるほどの……儂はもう隠居した身ゆえしてやれることは少ないじゃろう。しかし人間一人斡旋してやることぐらいはできるかもしれん。どんな仕事をお望みなのかな?」
「斡旋!?いいんですか!?」
予期していなかった申し出についつい声が大きくなる。
「いいんじゃよ、希望の仕事に就かせてやれるとも限らん。遠慮せず言うてみい」
「多くは望みません、せめて誰かの役に立てているという実感を……やりがいが欲しいです」
「ふむ……やりがいか……」
おじいさんは紙にスラスラと何かを書き込むとそれを茶封筒に入れて僕に差し出す。
「どれちょっとついて来なさい」
そう言うとおじいさんは歩き始める。
ついていくとたどり着いたのは路地裏にある扉の前。
「ここじゃ、ここに入りなさい」
おじいさんの家だろうか?
もう完全におじさんの好意にやられてしまった僕は大した疑問抱かずに扉をくぐる。
そこに広がっているのは大草原。
降り注ぐ日光は清々しく、風に吹かれる草の香りが鼻腔をくすぐる。
この素晴らしい光景に心を奪われていると背後からバタンと扉が閉まる音がした。
その場で跳ね上がらん勢いで背後を確認するがそこには扉などなく、ただ青々とした草原が広がるだけだった。