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平和を求めた者たち 第二章   仲間  作者: 折り紙王者
プロローグ
5/5

第3節 3の4連合軍

    ●吉崎:赤十字病院屋上

 今、仲間たちに予定を送ってもらっている。健ちゃんが腕時計を見ると

「そろそろか、ちょっと降りてくるよ」

健ちゃんが室内に向かった

「仕事か?」

「いや、友人が久しぶりに日本に来ててな。これから会う約束してんだ」

健ちゃんの友達か、同じ医者かな。

「医者仲間?」

俺の問いに健ちゃんは首を傾げた

「何なら、一緒に来いよ。お前らの知ってる奴だ」

分けありか?俺らに会わせるのが気まずい人物。なおかつ、健ちゃんと仲がいい奴。察した。

    ●吉崎:ナースステーション

 俺たちが再びここへ向かうと、矢沢と話している小柄な女がいた。矢沢が俺たちに気付いたようだ

「あ、来たよ」

女はこっちを向いた。こいつの名は辻井梨佳、会うのは中学卒業以来だ。一回目の会議には矢沢が行かないという理由で来なかった。

「久しぶり、健ちゃん。直接会うのは高校以来だね。あれ?後ろのお二人は?」

「吉崎と坂本さんですよ」

健ちゃんの説明に、辻井は疑問を持った顔をした

「え~と、どこの方?」

こいつ、俺らを覚えてねえ。俺は腰を引いて、目線を合わせながら近づいた。

「ようよう、辻井さん。世間じゃ有名になったらしいが、身長だけはちっこいままだな」

俺が挑発すると、辻井はすぐさま俺を背負い投げで投げ飛ばした。床に背中を打ちつけて、激痛をあびた。こいつが空手かなんかで黒帯もってたの忘れてた。

「おいおい、こいつ一応刑事だぞ」

健ちゃんがなだめると、辻井はうでを組んで、俺を叱る

「なんだお前だって中学んときはチビだったくせに!知ってんだからね、高校入ってすぐにバイトの面接で背が小さいからって不採用になったの」

グサッときた。俺は高校2年から背が伸び始めた。それまではこいつと並ぶ程のチビだった。バイトの面接のことは高校時代に健ちゃんに話したのを知られたのだろう。

「ったくよ、器も昔のまんまだな、お前は」

俺が立ち上がりながら、負けじと挑発すると、辻井が言った。

「ほっときなさいよ、ご立派に刑事になんかなりやがって」

柚紀が辻井に言った

「梨佳ちゃん、ノーベル賞おめでとな。一躍有名人やな」

そう、こいつは高校時代に科学の発明をして、世界から注目を浴びた。偏差値の高い帯刀高校在校だったが、ハーバード大から推薦が来るという過去に例をみないであろう結果をまねいた。その後、そこへ行き、日本を出たこいつは俺たちとは住む世界が違う人間になった。ただ1人、健ちゃんを除いて。

「そんなことないよ、あれは健ちゃんも協力してくれたんだよ」

健ちゃんは片手で顔を隠した。健ちゃんは照れるとこうなる。

「一緒にテレビ出ようって言ったのに、お前1人の実績とか言い出すし。賞金だって受け取ってくんないしさ。さも私1人の実績みたいになったじゃん」

健ちゃんはたしかに取材には応じなかった。全部辻井の手柄と言わんばかりだった。その理由が日本から出たくないという、つまらない固執らしい。辻井はアメリカに行った後も、健ちゃんとは交流があったようだが、俺たちのことなんて眼中になかったんだろうな。だから、さっきも思い出せなかった。そんなところだろう。

「ところでさ、さっき友里也から聞いたんだけどさ、まだ正義ごっこ続けてんの?」

辻井の言葉がさらに深く胸に刺さった。その通りかもしれない。俺たちのやってることは茶番にすぎない。

「たしかに変かもしれないけどさ、あんま首突っ込むのもやめたら」

現実的な発想だ。俺たちの理想を打ち壊す発想だ。

「おい梨佳、言葉がすぎるぞ」

健ちゃんが一喝すると、辻井は呆れたような顔をした。目が潤んでるように見えたが気のせいだろうか

「そう、まあ、あんた達が決めたことだからね。私が口出すことじゃないんだろうけど、現実もみなきゃダメだぞ」

焦っているように見える。健ちゃんに一喝されて堪えているようだ。

「心配いらんよ、ありがとうな。昔と同じで優しい子やね」

「そうですか?柚紀ちゃん、いつのまにか関西弁になってるし」

高校時代に交流がなければ、変に思うのは当然だな。中学のときは通常語だったからな。

    ●辻井

 まったく、こいつら危険なことをしている。事件を起こした者たちが常人ではないのが分からないのか。第一、健ちゃんまでまだ乗る気だったなんて、ショックがでかい。この怒りは未だに収まりそうにない。そりゃ、行きたかったよ一回目の会議、でも友里也を慰めてて結局行かなかったんだ。私は小学校から友里也に憧れていた。スタイルがよくて運動もできる。なにより思ったことをすぐ言えて、人を引っ張れる性格。私はずっとそばにいた。でも彼女は私より異性の魁人を見た。私より頭が良くて、運動も出来て、料理や手芸、あらゆる才能を持った魁人を見た。私はというと、何一つ魁人に優るモノなどなかった。魁人に負けたくないと思い、ずっと頑張ってきた。勉強をした、体力を付けた、空手を極めた、料理もした、あらゆることを極めた。ただ魁人に負けたくなかった。中学に入っても、友里也は私を見てくれない。私は友里也の性格を真似した。でも友達としてしか見てくれなかった。私はその頃から、魁人になりたかったのかもしれない。そして結局、勝つこともできずにあいつはいなくなった。あの日程、空虚な思いをした日はそうは無いだろう。友里也を私だけが支えられるという実感があったとしても、ただ辛いだけだった。私は彼が戻ることを望み、信じていた。だから、高校時代はもっと自分を磨いた。ノーベル賞を取った。世界最高の大学へ入学した。これであいつに勝てると思った。

 そう思っていた。大学で、あの人たちに出会うまで。私は、彼のことを知った。彼の家がどんな家なのか知った。彼らがどんなことをしているのかも知った。それが彼の強さの秘密だ。つまり、私のような一般家庭の子供には、どんなことをしても彼に敵う訳はないのだ。

 もうひとつ知ったことがあった。彼の家を襲った者たち、飯沼たちの家を焼いた者たち、彼らは魁人たちの敵、そして世界の敵だ。このことを知った私が言えるのは、このことに首を突っ込むこいつらは、最低でも2人は命を落とすだろう。できればみんなにはあまり魁人に近づいてほしくないんだけど、みんな本気のようだ。私はすぐに日本を出るが、みんなには生きていてほしい。私は逃げるように国外に出るが、時が来れば世界のどこにいても助からない。それは分かっていることだ。

「じゃあ、私は帰るから」

「え?梨佳、これから飲みに行かない?このメンバーで」

友里也の誘いは断りたくない。ただ、私は酒を少しでも飲むと・・・

「やめろ、こいつに酒を飲ましてはいけない」

健ちゃんのストップが入った。

「前に一緒に飲んだときに、いろいろと大変だったんだ。本人も飲みたくないだろう」

その通りだ。酒は1人で飲むものだ。私はこれからホテルに戻って、部屋で飲む。

「そっか、じゃあまたね、梨佳」

友里也は今も優しい。危険な目には遭ってほしくない。私が立ち去ろうとすると、吉崎が健ちゃんに問う

「そういえば、お前ら会うの高校以来なんだよな。なんで一緒に酒飲んでんだ」

やばいな。飲んだのはたしかに高校時代だ。ノーベル賞祝いで飲んだ。私は颯爽にその場を後にした。


    ●辻井:帯刀のホテル

 私は借りていた部屋に向かった。誰かにつけられている気がした。技術を奪う為に襲われたことは何度かあるが、空手や合気道をたしなんでいる、今まではそんな奴ら、そうそうにお帰りしてもらってきた。しかし、恐ろしい気分だ。何度も狙われると挙動不審になりかねる。トイレをするのも一苦労だ。

 私の部屋の前、明らかに視線がある。あたりを見渡しても人の気配はない。だが、只ならぬ空気の重みがある。何か、何かに見られている、そんな気がしてならない。今にも恐怖に押しつぶされそうだ。部屋の鍵を開けた。扉を開け、中に入り、すぐに鍵を閉めた。一安心か、嫌、まだ電気を付けていない、暗闇のままだ。電気を付けたら目の前に何かがいたらどうする。これほど恐怖を感じるのもそうはない。電気を付けた。目の前には何もない。ソファにバックを投げ捨てると、私はベットに寝っ転がった。思えば、私は汗だくだ。急に尿意を催した。思えばホテルについてから恐怖感で忘れていた。公園や駅のトイレは恐ろしくて使えなかったからな、自室のトイレが安心して使える。

 私は立ち上がった。その時、部屋のカーテンの前に2人組の女が立っているのが見えた。一瞬にして恐怖で身が凍る。ここは12階だ。鍵も閉めた。こいつらは一体何なのだ。

赤い浴衣の若い女が、私を赤い瞳で見つめている。心を見透かされているかのようだ。もう一人の大人の女が言った。

「ソナタ、外の者だな。どこのまわし者だ」

「え?」

赤い少女が言った

「あなたの身に宿るは異国の力、我ら江舞寺を、もしくはこの国を探りにでも来たのか」

どうやらこいつらは江舞寺で、私はスパイだと思っているのか。私は大学で知り合った教授に江舞寺のことを聞いた。その教授は人間ではない。その力を目にして、私は今まで学んだ科学を捨てようかと思った。それほどの力だ。この人たちが教授のような力を持つ人だとすれば、急に現れたのも納得できる。そして、私は教授から力の一部を分けてもらった。それによって、今狙われているのだな。なんとか弁明せねば殺されかねん

「私はたしかにアメリカで力を手にしました。しかし、あなた方江舞寺に反旗をふるう為ではありません。私はただ、友人に会うために来ただけです」

泣きそうになった。話が通じるかも分からなかった。赤い少女が言った

「本当でしょう。嘘は付いていません」

「そうか、ならば信じよう。そなたはこの国の子だな、世間ではずいぶんと重宝されとるようだな。脅かしてしまってすまないな」

女たちは消えた。助かったのか。体が思うように動かない。たった今、命をひろったのだ。とても恐ろしい気分だ。先月、銃を向けられたときなどとは比べ物にならない恐怖だった。まだ心臓が激しく動いている。こんな恐怖は初めてかもしれない。このことは教授に報告しよう、無傷だが酷い目に遭った。あの女が江舞寺のトップだとすると、恐らくはこの世界で誰よりも強大な存在だな。もう少しゆっくりしたかったが、予定を早め早急にアメリカに帰ろう。


    舞憂亭

舞と狂歌が現れた。狂歌が言う

「よろしかったのですか、あの娘を生かしておいて」

舞は答えた

「妾たちの情報は与えておらん。何もせんだろう。それはそうと、ここの結界も強くせねばな、人間に外から入ってこられては困りものだ」

舞は壊された屋敷の部位を見ていた。狂歌が言った

「人間どころか、あの子が入ってくるとは焦りました。私がいなくて本当に良かったです」

「そうだな。あの場にいたら大変であった。奴らは恐らく妾たちがおることは考えておらんかったのだろう。妾がおったゆえ、あの子が来た。恐らくは入ってきた人間を糧に転送してきたのだろう。あやつらはこの結界に触れることなどできぬからな。あとは人間、いっそのこと、外からの出入りはを不可能にしてしまうのもよいな」

狂歌がきょとんとして言った

「空間を切り離すのですか?」

「可能であろう。奴らもしていることぞ。妾たちはより強力な結界を張ろう。妾とソナタだけが転送できるとすればよい。さすれば、人はふれられない。ただ、ソナタ1人に転送を任せるには荷が重いだろう」

「そんなことはありません。それも仕方ありませんよ。何しろ江舞寺には私しか妖獣が残っていませんから」

「そうだな、決戦が近い、他の妖獣を集わせる必要がある」

「稲荷は時期に戻るとは思いますが、花鈴はどうかと」

「そうかの、あの子はすでに宿り木に入ったと思うが」

「そうですね、私でも感知できないとなると、国外に出たか、人に憑いたとしか考えられませんね。案外、好意的に江舞寺に戻ってきてくれるかもしれません」

「ならばいいのだが。それに、妖獣は他にもいるだろう」

「あの三体のことですか。彼らはこの国を捨てた者たちです。戻ってくるでしょうか」

「この世界の破滅を防ぐためには、集ってくれるはずだ。敵方に付く者もいるであろうがな」

舞は続けて言った

「ソナタ1人でも見方にいてくれてありがたいのだぞ。狂歌よ」

「御冗談を、私はあなたに逆らえませんので」

2人は屋敷の奥へと進んでいった


    その夜

    ●鶴峰:居酒屋

 2人は酒を飲みながら、昔話でもりあがっている。俺はというと、酒もろくに飲まず、梨佳のことを考えていた。昼はアイツに酷く言いすぎただろうか。吉崎の気持ちを考えて言ったつもりだったが、アイツを傷つけてしまったからな。せっかく会えたのに、ろくに話せなかった。あいつの滞在中に今日しか会えなかったのにな。おそらくあいつは帯刀のホテルに泊まっている。深夜だが、今から会えるだろうか。

 俺が携帯に手を付けようとすると、梨佳から着信が来た

「はいこちら鶴峰です」

あ、仕事の癖が。

「夜遅く大丈夫?」

冷静だ。機嫌は悪くないみたいだな

「ああ、俺も今、連絡しようとしたところだ」

「そう、なら良かった。あのさ、駅前のホテルにいるんだけど、今から来れるかな?」

「分かった。今から向かうよ」

大かた、互いに会う気満々かな。

「お?嫁か?」

吉崎のチャチャには真面目に返そう

「梨佳に会ってくる。話したいこといっぱいあるからな。悪いが先に上がるよ。代金は・・」

思ったが、俺はビール一杯頼んだだけで、他の食べ物には手を付けていなかった。だがここは割り勘かな。吉崎が笑顔で言った。

「6000円だから1人2000円な」

「あほ!健ちゃんはなんも食べてへんやろ」

「そういやそうだ。いいよ、ビールも一口しか付けてねえし。残りは俺が飲む。タダで帰ってよろしい!」

2人とも相当飲んでるな。気がかりだが、梨佳の方が大事だ。俺は店を出た。飲まないなら車を持ってくるべきだっただろうか。まあ、これから飲むかもしれないからな。


    ●鶴峰:ホテルにて

 フロントを通り過ぎ、メールで言われた部屋に向かった。1人分の追加料金を払うべきだっただろうか、深夜だし、あいつが1人部屋に泊まっていたら、めんどくさいしな。

 部屋のチャイムを鳴らすと、少しして、梨佳がパジャマ姿で出てきた。高校時代と変わらず、見た目、中学生だな。

 何も言わず中に入ると、梨佳はカギをかけた。ドアガードの上に厳重にクサリを巻いている。向こうで何度も命やら技術やら狙われてたらしいからな。平和ボケしたこの国でも、そうそう抜けないよな。

 部屋の奥へ行けば、ベッドが二つあった。

「2人部屋か」

こいつ、はなから俺を呼ぶつもりだったのか。すると梨佳が今思ったことを言った。

「健ちゃん呼ぶ気満々だったからさ」

梨佳はベッドに座った。

「健ちゃん、昼のことだけどさ」

やっぱり気にしてるか。俺に味方でいてほしいのだろうな

「俺は考えは変えないさ。危険なことは分かってる。バカみたいかもしれない。だが、お前だって本当は、魁人に戻ってきてほしいんだろ」

「別にそんなことはないけどさ。私は、みんなが心配なんだよ」

泣きそうになっている。俺にだけ打ち明けたのだろう。俺は梨佳の隣に座ると、梨佳を抱きしめた。これが得策だな。

「分かってるさ」

お前はいつも強がるからな。吉崎たちとかみ合わないんだ。

「本当に危険なんだよ。江舞寺もその敵の存在も。私たちただの人間が、どうこうできる訳ないじゃない」

梨佳は泣きながら言った。どうやら、俺より調べているようだ。このことは知りたいが、まだ知るべきではないだろう。

「梨佳、お前の気持ちは吉崎たちに伝えるべきだ。お前の優しさをもっと知ってもらうといい。メールでもして、なんなら俺が伝えて・」

「やめて!私の気持ちなんて、理解できるのは健ちゃんだけなんだから。他の人に干渉されたくないの」

「あいつらは仲間だぞ。このままではお前は羽賀みたいに酷い奴だと言われてしまう」

羽賀椿、吉崎の招集を酷く蹴った奴だ。

「椿のこともみんな酷いよ。あれが普通の子の反応なんだよ。深湯とも揉めたままだし、友里也とも喧嘩しちゃったし。みんなのせいだよ」

言われてみれば、その通りだ。あの日、俺たちは計21名で羽賀1人を集中的に罵倒した。みんな気が立っていたから、そのストレスを一気にぶつけた感じだった。あいつもあいつで言い返してはきたものの。数の力は絶大だ。結局、そこにいたメンバーと絶縁。その中には一番仲の良かった松村もいた。思えば、松村を中心に罵倒したな。その後、矢沢のもとへ行ったらしいが、矢沢と揉めて、結局は1人になったそうだ。梨佳からしてみれば、俺たちこそが酷い奴らなのだろう。こいつはこのことも打ち明けられずにいたのだろうな。俺は本当に酷い奴だ。この子と一緒に高校生活をおくったのに、今日まで悩んでいることに気付かなかった。

「そうだな、ごめんな。今日まで気付いてやれなくて。お前は本当に優しいんだな」

俺は梨佳のサラサラの髪を撫でた。すると梨佳は少し笑顔で返してきた。

「うるさいな、照れるだろ。あとそこ汚いよ」

 この夜、ホテルに追加1人いれてもらい、一晩をこえた。梨佳のことを吉崎たちに正しく知ってほしい。本人は嫌がっているが、これは伝えるべきだ。

 そう思った俺は、翌日の仕事の合間に、吉崎に伝えるにいたった。吉崎は秘密にすると約束した。これで梨佳の評価は下がらないだろう。同時に俺は梨佳を裏切ったのだ。申し訳ないが、お前の為なんだ。すまない。


    ●吉崎:数日後 帯刀市役所 会議室

 メンバーの1人、梅前はやみがここに勤務している。そいつのおかげで立派な会議室が借りれた。すでにここには連合軍の面子が何人か集まっていた。正面のドアから梅前が入ってきた。

「ありがと梅前、こんな部屋使わせてくれて」

「いいよ別に、こういうことする場所だしさ」

なぜ、こうも簡単に許可がおりたのか不思議ではあるが、人を丸めこむ力は中学のときから一目置いていた。ボーイッシュな見た目でよく男子だと馬鹿にされていたが、ただのおっとりタイプの女子だ。さらに俺とバカヒマ、司に並ぶ四人の学級委員の1人だったからな。だが、こいつは四組四天王の中でも最弱。

    数分後

「じゃあ時間だから出欠とるよ」

みんなは席に座っていた。ここへ来て柚紀と梅前以外、誰とも話していない。ぱっと見て少ないように感じたが、いなくなった奴らが多いから仕方ないな。

「姉津」

「はい!」

姉津美琴。こいつは雰囲気は変わらず、今も真面目そうだ。情報通だった天文バカで、今は老人ホームに勤務している。その次から絶望的だ。飯沼、宇多、江舞寺四人。六人も飛ばすとは寂しい限りだ。

「ナギ(鹿島)」

「はいよ」

休日とはいえ教師がよく来れたな。まあ、俺もなんだがな。ヤス(枯間)は飛ばして

「涼さん(菊岡)」

「はーい」

相変わらず、元気そうだな。こいつはこないだ結婚式で会った。

「たっくん(熊谷(くまがい))」

「はい」

こいつも結婚式で会った。末永く爆発しろ。

「栗原」

「はい」

こいつはやけに予定がスカスカだったな。たしか今はどっかのボンボンに拾われて、良い暮らしをしているらしいが、涼さんが言うには居心地はよくないそうだ。いろいろと大変らしいが、相談できることじゃねえんだろうな。

「榊」

「ん?」

榊はこっちを向いた。昔から抜けてる奴だな。こいつはよく学校を休んでいた。体育はずっと見学、たまに倒れたっけ。仮病だと言っていた奴もいたが、そんなふうには見えなかった。そのわりに、今は元気そうな姿だ。完治したのだろうか。

「坂本柚紀」

「はい!」

相変わらず、いい返事だな。1人だけフルネーム呼びはツッコミなしか。えっと次は飾森か、あいつは遅れてくるんだったな。

「飾森は後で来るとして、タケシ(竹下)」

返事が無い、見渡してもいない。休みか。てかメールの返事が来なかったな。次の辻井、健ちゃんが言うにはもうあっちに帰ったらしいからな。来てほしかったが、仕方ないな。

「健ちゃん」

「はい」

一番忙しいであろう医者の身で、よく来れた。友情を感じるよ。信(永火)も消えちまったからな、次は富田か。こいつも遅れてくるんだったな

「富田も遅れます。次は・・成瀬」

「はいよ~」

成瀬桃香。こいつは恥ずかしい奴だから詳しく説明したくない。梅前の話では一番のりがコイツだっけか。この変態女、もう変な性癖は直ったのだろうか。次がアリー、あいつは地震で祖国に帰ったから、まず来れない、だから連絡はしていない。

「梅前」

「はい」

提供者だ。こないハズが無いな。羽賀は・・あの日に来なかった人間が来るはずないか・・・

「松村」

「はい」

そういえば一回目の会議のとき、矢沢のグループの中で来たのってこいつだけだっけ。

「うさぎ(守夜)」

「は!」

普通に返事しろよ、中二病は健在か。守夜兎丸。中学時代にアホみたいに中二病キャラをしていた。その頃から眼帯を付けていたが、まさか今でも付けているとは驚きだよ。こいつ、遊びに来てるんじゃねえだろうな。

「矢沢」

「はい!」

さっきから目には映っていたが。言った通り、来てくれたことにうれしく思った。こいつは昔から言ったことをしないからな。いいことだ。

「28人中二人遅刻者を入れたとして、16人来てるか・・・来てない12人のうち、8人は行方不明、3人は呼んでないから来ない。最後の一人は連絡したのに来ない、返事すら来ない、多分来ないだろ。でも、今ここにいる、これから来る、16人で、何とか頑張ってみよう」

その時、ドアが開き、飾森と富田が入ってきた。

「17人だ・・・」

飾森が言うと、奥から男が1人入ってきた。よく見れば、やはりそいつは魁人だった。

「魁人!」

みんなが声を上げると、俺は飾森にツッコミを入れた。

「お前ら魁人と接触してたのかよ!」

それに富田が謝った

「ごめんね、驚かそうと思って」

それで、わざわざ魁人に妙な演出つけさせたと。めんどくさいがイキなことしてくれんじゃねえか。

「この会議に出席させてくれ、俺もみんなの情報が欲しい」

「まあ座れよ、俺たちはお前らの為に集まったようなもんだ。それに俺たちはお前に聞きたいことがたくさんあるんだ」

では会議を始めるか

「じゃあ魁人君に質問をバシバシしちゃいましょうか」

俺の一言でみんなの目つきが魁人に注がれる。が、誰も挙手をしない。仕方ねえから俺が最初に聞くか。

「じゃあ俺から質問だ。お前、今までどこで何してた?」

唐突だったか、そんなことはないよな。魁人は口を開いた

「オヤジと一緒に中国に身を潜めていた。日本には先月10年ぶりに戻ってきたんだ」

ふむ、オヤジさんはたしか中国に単身赴任していると聞いていたが、連れて行かれたのか。すると柚紀が魁人に問う

「京都で事件を起こしたんはあんたか?」

「聞いてるよ、君は刑事なんだってね。確かに俺は関わった。あの場にいたのは俺だよ」

柚紀が俺のところに来たとき、そのことを言っていた。柚紀は最初からそれが魁人と関わりがあると考えていたのかもしれないな。それにしても、刑事と分かっていてそれを話すとは。柚紀が信用されているのが分かる。

「犯人はあんたやないんね?」

「ああ、俺はあのとき襲われたんだ。家を襲った奴らにな」

「そうか、せやろうと思っとったわ。まあ、ええねん。あんたが戦っとるんは普通の人間やねえへんねやろ」

魁人は頷く。おそらくは大きな組織だろう、それこそ江舞寺と同じくらいのな。俺たちでは正直なところ何ができるのかも分からない。柚紀が黙り込んだので、俺は他の奴に話を振った

「他に質問があるもの」

すると栗原が手を挙げた

「じゃあ栗原」

栗原は立ち上がり、しゃべりだす

「あのね魁人、私と涼ちゃんはこの前、ヒマ(向日葵)に会いました。その時に聞いたんだけどさ、魁人はなんで家に残ったの」

アイツも無事なのか。そのことについて詳しく聞きたい。魁人は顔を強張らせている。

「栗原、そのことについて詳しく話せ」

栗原は長々と話し始めた。

「~だったらしい」

いろいろと分かった。魁人はおそらく、知っていたようだな

「どうなんだ魁人、お前はその後どうしたんだ?」

「あのとき俺は体を動かすことが出来なかった。火の通らない部屋で寝ていたら、中国のホテルときたもんだ。驚いたよ」

つじつまが合うが、何か引っかかる、嘘があるのだろうか。刑事の感だ。柚紀も同じだろう。涼さんが言った

「そういえば、こないだ吹雪鬼にも会ったよ」

「お前、兄の方にもあったのか」

ここまで他の奴が接触しているとなると、少しばかりへこむな。

「うん、この前ウチに来てね、その時に向日葵のことを聞いたの」

家に来たと。お前たしか神戸住みだよな。引っ越す前だろうか。聞いてみよう。

「帯刀に住んでるときか?」

「うん、看護学校に行ってた頃だから、二年くらい前かな」

「わざわざ何しに来たんだよ」

「なんか永火君のことで聞きにきたみたいで」

飾森が言った

「そういや、俺の実家にも来たらしいな」

なんで俺んとこには来ないんだ。ずっと帯刀に住んでんのに。

「居場所は聞いたん?」

「一応ね、那須高原って言われた」

ネタかよ。すると急に健ちゃんが立ち上がり

「俺からの情報だ。安澄のことだ。定かではないが、一応伝えておこう。吹雪鬼と一緒にいる」

このことを魁人に伝えたのは意味があるのだろう。吹雪鬼を見つけられれば、仲間が2人戻ってくるからな。

「他にある人、挙手・・・いないか、じゃあ俺から質問する。俺と坂本、それに矢沢はどうも魁人に選ばれたらしい・・・そうだよな、魁人」

「ああ、選んだよ、気づいちゃった?」

魁人はほほ笑んだ。なんとなく遊ばれている気がした。

「お前は一体何人選んだ?」

「7人だ・・・そのうち5人はこの場にいる」

この場に後2人か。柚紀が言った

「楓ちゃんと飾森君。だね」

「ああ」

やはりそうだよな。さらに追及する。

「なぜこんな回りくどいやり方を使ったんだ?何を伝えようとしている?直接教えてもらいたいんだが」

「それは今は教えられない。でも、もし本当に俺に協力する気があるなら、いつか分かる」

謎だらけだが、いつか分かるならいいさ。幸い、俺は今でもこいつの為に何かしたいと考えているからな。

「そうか、待つよ」

「とにかく、みんなありがとう。こんな盛大に会議とか開いてくれて。元気強いよ。でも、あまり激しすぎると敵に眼をつけられるから注意してね。あと、俺からの情報をいくつか。まず永火は無事だ、それだけは伝えとくよ」

アイツは無事か、よかった。吹雪鬼が探していた理由も知りたいが、まあ今はいいか

「次に、千秋の安否だが、事件のあとに記憶を失くしたのは御存知の通り、ゆいつの証人が記憶喪失で、独自捜査していた刑事は路頭に迷っただろうな。今はウチの分家で落ち着いて生活しているよ。優しさだけは人一倍ある子だからね、不安も口にしないんだ・・・でも、その純粋さが千秋を救った」

「どういうことだ?」

俺の問いに魁人は冷たく返す

「お前、刑事だろ・・・悪いがこれは教えられない」

その言葉が胸に刺さる。こいつには思いを伝えておかないとな。

「ああ、そうかい。魁人、一応言っておくよ。たとえ俺が刑事でも、お前のどんな罪も俺は何も問わん。柚紀も同じだよな」

柚紀は頷く。

「魁人・・・これが、俺たち3年4組の絆だ・・・この中で誰ひとりとしてお前の判断をとがめる奴なんていないんだよ。なんなら、ここにいる全員でお前の罪を隠してやったって構わないと思う、それが10年前俺らで誓った約束だ。そりゃ大変なことになるかもしれない。だがよ、仁(担任だった津川仁先生)が消える前に俺たちに言ったんだよ。魁人たちを助けてやってくれってな。世界の危機なんだってよ。信じなかった奴もいたが、ここにいる俺たちは信じた。魁人、お前と一緒に戦わせてくれ」

「吉崎・・・」

涼さんが言った

「私も、私も戦うよ・・・」

するとたっくんは自分の嫁の肩に手を掛けて言った

「それから魁人、涼子は千秋ちゃんと同じ幼稚園で働いている」

「お前ら・・・」

魁人は感動しているようだ。それにしても、自分の嫁を自慢するなよ。

「あーたっくん、ウチが言いたかったのに~」

たっくんは嫁を指さし

「こいつ俺の嫁。お前らの役に立ちたかったんだってよ。俺もそう思ったから納得はしたさ。でも大変だよ、わざわざ神戸に引っ越して、俺の会社は移設できないから、夫婦なのに離れ離れでよ。子供作りてえのに、そんな暇すらねえの」

涼さんは顔を赤くして照れた。クソリア充が。涼さんが言った。

「健ちゃんに助言されたんだ。少しでも千秋ちゃんの記憶を取り戻せるかもってね」

健ちゃんは顔を片手で隠す。

「さすが健ちゃん。そんなこと聞いてなかった」

俺が皮肉じみて言うと、健ちゃんは苦笑いをした。すると守夜がカッコつけて言った。

「ともに語り合ったよしみだ、協力させてもらおう・・・」

中二病帰れ。お前語り合うって、ただの空想の話か何かだろ。たまに魁人と一緒にバイオリン弾いてたっけか。そういやバイオリン弾くの上手だったね、君すごいよね。そんな皮肉を思っていると、榊が言った。

「弥生はもう役に立った」

いつ役に立ったんだよ、こいつも今日初見じゃねえのかよ。松村が言った

「私、教員だけど、少しでもお前の役に立たせろ。中学時代はお前ら兄弟にいろいろと世話かけたからな、津川先生の言ったことも気になる」

ナギが言った

「俺も教員だ、だが魁人の力になる、もしくわ情報を集めることぐらいは出来るハズだ。一緒に戦おう」

「じゃあ俺も戦っちゃいますかな~」

姉津がそう言ったが、星見てる介護士がどう戦うんだよ。

「ちょっと怖いけど、私も何か手伝う。だってそれが私たちでしょ」

栗原が言うと、成瀬が言った

「役に立つか分かんないけど、10年前の約束を守るよ」

梅前が誇らしげに言った

「また会議するなら、ここを使えばいいよ、それだけでも力になれるでしょ」

健ちゃんが言った

「魁人、俺は今の日々に満足はしている。だが、みんなで話し合って決めたことだ。もし身の危険になったとしても、仕事を投げ捨て団結するとな。だから俺も協力する」

「俺らはもう言った」

飾森が言うと、富田が何度か頷く。次に柚紀が言った

「できるかぎり情報を集める、何とかお前の役に立ちたいんよ」

矢沢が立ちあがると、泣きながらしゃべった。

「魁人・・・ずっと言いたかった、ごめんね・・・いつも私の為に何でもしてくれたのに、私はいつも酷いことばっかりしちゃって、感謝したことなんて一度もなかった。でも、今なら言えるよ、心からの感謝、ありがとう・・・言葉だけじゃ足りないのは分かってる。私は、罪滅ぼしと恩返しも兼ねて、魁人の役に立つ。10年前の会議に私は行ってない、だから今日約束する、私は戦う、ここにいるみんなとともに」

「友里也・・・」

魁人は感激しているようだな。もっとも、魁人は酷い扱いを受けていたとは思っていなかっただろうが。

「俺たちの気持ち、受け取ってくれ」

「みんな・・・ありがとう」

魁人はみんなに向けてほほ笑む。

「受け取ってくれるのか!?」

「ああ、だが戦うって言っても補佐だけでいいよ。情報収集とか、職務上の提供とか、まんまの意味で戦おうなんて思ってないよね?」

そのつもりだ。みんなも多分。

「あたりまえじゃねえか、刑事の俺や坂本以外、戦闘でなんの役に立つんだよ。丸腰だぞ」

みんな笑いだした。たっくんが言った

「建築道具にチェーンソーとかがあるが」

それ危険。松村が言った

「私、自衛隊出てるから、銃は持てば使えるけど」

こいつも危険。銃の腕、俺以下だからな。もう何年も使ってねえし。守夜が右目の眼帯に手を当て、中学のときのようにカッコ付けて言った。

「我が右目に宿る、夜の力を使えば」

「うるせえ、目を見せてみろ、あん?」

俺は守夜に絡んだ。

「やめなさい、この目を見た者は・・」

矢沢が言った。

「私、誰かが怪我とか病気したら、看護する。少しは役に立てるよ」

魁人は矢沢にほほ笑んだ

「ありがと、友里也」

魁人はみんなを見ながら続けて言った

「みんなもありがと。でも、怖くなったら逃げ出していい。だから約束しいてくれ、命の危機を感じたら瞬時に逃げるんだ、すぐに海外で暮らす手筈をとるから」

「ああ、約束する」

さすが、金持ちの家だ。これだけの数の人生を保障しようだなんて。すでにその権利があるのだろうな。

 会議は終わろうとしていた。

「それじゃあ、また次のときに連絡するから、おひらきにしようか」

俺がそう言った途端、ドアを女が開けて、中へ入って来た

「私もまぜてくれる?元三年四組なんだから」

コイツの名は羽賀椿。一回目に揉めてから会っていなかった。一体誰が連絡したんだよ。たしか松村も矢沢も喧嘩中だし、四面楚歌だよな。よく、のうのうと来れるな。羽賀は魁人を見ると、キョトンとした顔で言った。

「あら、魁人じゃない。戻ってきたんだ」

腹が煮えくりかえる気分だ。みんな同じだ。

「お前・・・10年前の会議に来なかった奴が、どういう意味でここへ来たんだ?あの日お前は何と言った!」

俺は怒鳴った。

第二章終幕です。キャラがドバッとでて終りましたね。この子たちのキャラ設定は本文で語るつもりです。次の三章から次第に敵の幹部が動き出します。そして、そろそろメインキャラで死人が出ます。辻井ちゃんや一章に出てきた津川さんたちは当分出てこないよ。そこそこ重要なキャラなんだけどな・・・

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