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平和を求めた者たち 第二章   仲間  作者: 折り紙王者
プロローグ
2/5

第一節   襲撃と再会

    千秋の夢の中

玄関のような場所で千秋が立っている。眼の前で男性と女性が出て行くところでした。

「じゃあ行ってくるね」

「すぐ帰って来るからね」

二人は出て行きました

    葬式場

千秋の前で二つの棺が置かれていました

「お母さん・・・お父さん・・・」

    ●千秋 西垣亭にて

辛い夢を見た。今日から環境が変わるのだ。しっかりしないと。

    食堂にて

「どうぞ食べてください、自信作です」

狂歌さんが私の前に食事を出した。一口食べてみると、とてもおいしかった。どうすれば、こんな味が出るのだろう。

「狂歌さん、おいしいです」

狂歌さんは静かに微笑む。最近、ここへ来たそうだが、関西弁じゃないところを見ると、彼女はこの家の付人では無いのだろうか。私はそうこう考えながら、食事を終えた。

「ごちそうさまでした」

私は食器を流しに戻そうとした

「あ、お気になさらずに。車が出ると思います。お向かいください」

とても優しい方だ。世話をやかれるのは自分にとって悪いことだが、この手の人は世話をすることを喜ばしく思っている。甘えてみるのも、たまにはいいのかもしれない。それはそうと、魁人さんは起きてこないのだろうか、話したいことがあったのだ。

「あの、魁人さんたちは?」

「あの方たちは先ほど出て行かれました、伝言ならばお伝えいたしますが」

できれば直接話したい

「いえ、ただ話したい事があったので」

「また会えるでしょう、いつか・・・」

狂歌さんは真剣な顔をしました

「いつか・・・ですか」

つまり会う機会はほぼ無いという訳だろう。


    ●夛眞 走行する車の中

我々はこれより、二か所の家に足を運ぶ。魁人様の使命を果たすためじゃ。

「これでよかったのかな・・・」

魁人様が一人呟く。やはり嘘を付き通すのはこの方にとって辛いのだろうか。話しをずらさねばな

「今は何も思わなかろう、その方がいいでしょうに、それより向日葵ちゃんに会うのも楽しみじゃろう」

「そうですね・・・」

この様子は納得していないか。すると

「夛眞さま、検問です」

道路で警官が検問をしていました

「さすがに車の炎上じゃあ警察も黙ってないだろうね」

「免許書を拝見します」

須藤は免許書を見せた

「はい結構です」

車は先に進んだ。

    その場の警察官

 警察官は無線を取り出しました

「こちらA-3、支部長、ターゲット発見、発信器を取りつけました」

 別の場所で青甲が無線で応答しました

「了解、全兵に告げよ、追跡せよ」


    ●魁人

車が高速道路に乗って10数分が経った。おばあちゃんが言った

「サービスエリアによってくれ」

「分かりました」

    サービスエリアにて

なにかいるな、掃除でもするか。俺は男子トイレに向かった。


    男子トイレ

 魁人が警戒しながら付近を見渡していると、透明な人物が槍のようなモノを構え、魁人に斬りかかった。魁人はつかさず懐から小刀を出し、背を向けたままそれを防ぐと、弾き返し、体制を捻ると、小刀を透明人間に振り払った。透明人間はそれを避け、再び魁人に槍を向けると、透明が消えていき、その姿は青甲だった。青甲は右手で眼鏡を直しながら言った。

「さすがですね、江舞寺魁人君。一筋ではいかんか」

青甲は右手を挙げる、その合図によって片方の出口からゾロゾロと男たちがやってきた。

「貴様、妖術使いか」

魁人の発言に青甲が返答する

「その通りです。我が部下たちも貴殿には劣るが妖術使いだ。一度に相手が出来るのですか?」

男たちは構える。魁人は青甲に武術を使い、喰ってかかる。男たちが様々な術を使い、魁人を攻めるが、魁人は諸ともせずに防ぎ、男たちを武術ではね飛ばした。青甲は魁人の攻撃を一発も食らうことなくかわし、槍の武器で魁人に対抗する。

「詰め込みが甘いですね、私を殺す気があるのですか?」

魁人はその挑発を無視し、青甲に攻撃を放つ。

「そうか・・・」

青甲は槍を思い切り振り、魁人の首を払い落そうとしました。魁人は瞬時に横へ避け、体制を崩す。魁人の首は少し切れ、血が流れた。

「速いな、傷が付くのは久しぶりだ」

魁人は再び青甲に構えると、魁人に疑問を持ったような視線をおくった。

 そこに神差がやってきました

青甲は気配に気づいたように背後を見て驚くと

「ボス、なぜあなたが」

「青甲支部長、ごくろう。江舞寺魁人、探したぞ」

「お前は!」

神差は眼帯を外すと、魁人に言った

「僕を覚えているかい?」

魁人は神差の眼が潰れているのに気付くと

「月平の神差・・・」

神差は人間の首を背後から浮かばせ、魁人の足元に転がした。魁人はその首の顔を見ると、顔が強張り静かに言った

「須藤さん・・・」

「その者がここに押し入ろうとしたものでな、首だけは残してやった」

「非道なり・・・」

魁人は小刀を構えました

「おやおや、意外と冷静だな。僕はてっきり妹を求めると思ったのだが」

魁人は怒鳴る

「桜はお前が殺した。違うか!」

神差は言った

「そうだな、殺してしまった。やはり分かるようだな。しかし、傷つけてしまったのは君なのではないのか?」

魁人の顔が強張る。

「あの時もそうだが、なぜボスがわざわざ顔を出した?どういうつもりだ?」

魁人が冷静に聞くと、神差は言った

「君は少々と特別な人間でな。僕が直々にさらいに来たのだ。素直に同行すれば手荒な真似はしない」

魁人は神差に構える。神差は魁人に近づいてくる。その時、神差の背後から無数の氷柱のクナイが放たれ、神差を含め男たちに突き刺さる。その奥には夛眞が構えていました

「魁人様は奪わせない、恒人さんの仇を討たせてもらうぞ月平の神差!」

神差の体に空いた穴が銀色の煙で塞がりました。つかさず男たちは夛眞に襲い掛かりますが、夛眞は空中に飛び上がると天井を蹴り、指から糸のようなものを出し、男たちを一気に切り付けました。

「北澤夛眞、嘗められたものだな」

神差は拳に闇の塊を生みだしました。それを夛眞に向けると

「人間のお前が、この僕に敵うと思うのか?」

夛眞は後ずさりをする。

「ん?」

神差は動きを止めた

「どうかなさいましたか?」

青甲が気遣うと

「青甲支部長、少し面倒な事になった、かぐやのもとへ行こう」

「急ですね、副官殿からですか?」

「君は賢いな・・・次の機会もあるだろう、江舞寺魁人は置いていく」

「了解しました」

神差は右手を挙げました

「逃がさん!」

夛眞は妖術で大量の氷柱を神差たちに放ちました。すると、神差の周りが銀色に爆発し、爆煙が晴れると神差と青甲を含めた数名の男たちが消えていて、一緒にいた男たちの何人かに氷柱が刺さり倒れていました。

「ッ、逃げられたか・・・魁君、大丈夫?」

夛眞が魁人に近づくと、魁人は首を触りながら

「首を切られたくらいです、安心してください」

そこへ警官たちがゾロゾロ入ってきて、夛眞と魁人は囲まれてしまいました。

「動くな!」

警官が銃を向けると、夛眞は魁人の腕を掴み煙玉を投げました。

 トイレが煙に覆われると、夛眞は魁人をひっぱり連れ出そうとしましたが、警官の一人が魁人に覆いかぶさり、魁人は捕えられました

「魁人様!」

「おばあちゃん、行って!」

魁人が叫ぶと、夛眞は逃げました。

 外に出た夛眞は乗ってきた車を出した。

    ●魁人 煙の晴れたトイレ

警官の一人が俺に手錠をはめながら言った

「昨日の爆破事件の犯人だな!」

無駄と分かっていたが、俺は言い返した

「俺ではありませんよ」

その警官が言った

「じゃあ、ここにドタバタ倒れている死体は説明できるのか!」

「ここに他の奴がいたのですよ」

「嘘をつくな!トイレから出てきた者はいなかった!」

奴らは空間を移動した。狂歌と同じ力だ。そんなこと説明できるはずがない。

「それは、奴らが人間じゃないからですよ」

「連れて行け!」

まあ、こうなるな。俺は護送された。

    パトカーの中

警官たちの会話を聞く

「もう一人は逃げたようですね」

「全てのインターとサービスエリアをふさぐように本庁に連絡、急げ!」

「そんなの無駄だよ・・・」

俺の一声に上司の方の警官が言った

「何だと?」

俺は手錠の掛かった腕を持ち上げ、妖術で発光させた。この光は浴びた人間の精神を混乱させるものだ。とたんに俺を乗せたパトカーはガードレールに激突した。そして俺は車から降り、逃げだした。後ろを走っていたパトカーは止まり、俺を追おうとしたが俺は傍の崖を登った、両腕が使えなくても、こんな傾斜など、何も苦ではない。俺たちは天井だろうと走ったり立ったりできるからな。その上に着くと、下を見下ろした。

一部の警察官は激突したパトカーに近づき中を確認している。別の警察官が連絡を取ろうとしているのを見た俺は、つかさず大きめの光を警官たちに放った。当然のように、警官たちは全滅したのだ。連絡が間に合わなかったことを願う。俺は奥の森に入って、山を登った


 一方、夛眞は川の上の橋にて車を降り、川に飛び降りた。そして水面に着地すると、橋の下に移動し、携帯を開くと、コードを打ち込みました。その途端、乗っていた車は爆発した。夛眞はそれを確認すると、北澤亭に連絡を取った。

「めんどうなことになった、名古屋にいるから至急迎えにきてくれ」

夛眞は電話を切ると、水面を走って岸へと上がりました


    ●向日葵 北澤亭にて

「一大事だ!名古屋に急げ!」

「分かっています!急ぐぞ」

私が階段を降りると、使用人たちが慌てふためいていた。

「何かあったの?」

私の問いに使用人の一人が答えた

「少し問題が生じました。麻美様としばらくお待ちください」

「ふ~ん」

詳しくは教えてもらえないか。ふう君の捜索は進んでんのかな


    ●魁人:山道にて

 俺は森を駆けあがった、どうやら山道に出たようだ。手錠はチェーンを外し、両腕は自由だが、輪っかはまだ外れないな。おばちゃんは大丈夫だろうか・・・なんとかして、どっかの分家に逃げ込まねばならない。

 ふと上の道を見たら、俺の方に女性が歩いて来た。手錠を見られては面倒だな、俺は森へ入ろうとした。しかし遅かったようだな、俺は女性に声を掛けられた。

「魁人、だね・・・」

戸惑った。十年も日本にいなかったにも関わらず。なぜこんな場所で俺の知人がいるのかということに。女性を見たら、見覚えがあった。

「榊・・・」

女性の名は榊弥生。元三年四組のメンバーだ。彼女は常人より体が弱かった、在校中はほぼ不登校だった。人と話す事が少ないせいか、彼女との会話はたまに成り立たない。

「どうして、ここに?」

俺はすぐさま問いただすと、大きな謎を残して納得のいく答えが返って来た

「ウチな、ちょいとばっかし江舞寺にお世話になっとるんだ。んで、お前の助けに急いで向かったっつーこと」

ようするに、彼女は守護四亭のどこかに頼まれて来たのだろう。大方、夛眞おばちゃんの差し金か。とにかく、これでどこかに逃げ込める

「ありがと、でも何でお前が派遣されたの?」

「あ、そうだ魁人、そっちの道、行って山を降りると、道路に出んだ。お前も良く知る仲間が待ってるから、合流するといいよ。ウチ、人前に出たくないからさ」

良く分からない・・・昔からだ。彼女の言う事に虚実はないが、質問に対する答えが噛み合わないのだ。とにかくその道を降りるとしよう。

「おお、ありがと、じゃあね」

俺は道を進み始めた

「じゃあな!」

榊は俺に手を振った。昔からだ、子供っぽいという訳ではないが、難しいな


    謎の場所

芹江(魁人たちの祖母)と白い衣を着た18歳くらいの少女が話していた。二人の前には台があり、その上に栄恵が倒れていました。

「どないでしょう?」

「心配するでない、準備は万全ぞ」

そこへ桜と赤乙が率いる男たちが大勢乗りこんできました。

「江舞寺芹江か、江舞寺に与する者などみな死罪だ!」

「舞さま!」

芹江が動揺していると舞という少女は言った

「そなたら、何故ここが分かった?」

「教えるものか!貴様が誰かは知らんがな!」

赤乙は背中に付けてある羽扇を構え、舞を扇ぐと、舞に向かって炎の鳥が飛び立ち、舞の体を貫いた。すると舞の体から銀色の煙が出て傷口が消えました。

「お前は、何故ボスと同じ!」

赤乙が怒鳴ると、舞は芹江の前に手を出し言った。

「妾と奴は同類だからだ」

舞は掌を赤乙たちに向けると、掌から光を放ちました。

赤乙たちはそれに当たり、石になったように体が固まりました。桜もそれに当たったが、平然としていました。

「おかしな能力ね・・・神差は何も言ってなかったけど」

舞は桜を見ると驚いたように言った

「そなた・・・奴に何らかのことをされてはおるが・・・そなたの名は?」

「月平のかぐや。私のこと知っているなら教えなさい!」

桜は舞を襲おうとすると、舞は桜に手をかざし桜の動きを止めました

「やはり利用されておったか。きわめて危険だ。せめて、術を解かねばな」

桜にかざした舞の手からまがまがしい気が放たれ、桜の頭を包みました

「うわーーー!」

桜の記憶がどんどん遡って行き、やがて大きなカベにぶつかりました。そしてそれにヒビが入りました。すると、桜の首に蛇が現れ、舞の手に噛みつこうとしました。舞は手を引くと、桜は膝をつきました。舞がその蛇を不思議そうに見ていると、突如、赤乙の隣に仮面の女性が現れ、気力で舞は吹き飛ばしました。舞は着地し、女性を見ると

「ソナタまで来るとは・・・」

仮面の女性はしばらく舞をじっと見ると、静かに言った

「この場に狂歌を置いておかなかったのは不幸中の幸いだな。だが、時期に我らのボスがやってくる、あの方はアンタに会いたがっているよ・・・」

「そうか、だが妾は、奴に会う気はない。また会おうぞ」

舞は栄恵を浮かばせると奥の扉の奥へと消えました。仮面の女性はゆっくりと追おうとしました。すると、芹江が薙刀を持ち立ちはだかりました。

「誰だか知らんが・・・夫の仇を取らせてもらうで」

桜は頭を抱えながら芹江を睨みつけました

芹江はその凄まじい邪気に充てられ身動きが取れなくなった。桜が手を翳した瞬間、芹江は死に、前へ倒れた。

 扉の奥では舞が栄恵の顔に手をあて、静かに言った

「すまぬな・・・」

そう言うと舞の体が銀色に輝き、栄恵の体に輝きが移りました。たちまち舞の体は銀色の煙へと変わり、栄恵の体に溶け込んだ。すると、栄恵が起き上がった。その直後、扉を打ち破った仮面の女性が入ってきました。女性はその光景を見て、黙っていました。その前では、栄恵が首を回し、体が銀色の光になり消えました。

仮面の女性が部屋から出ると、赤乙の隣に神差たちがやってきました

「クッ」

神差はその光景に声を漏らした。

「赤乙?」

青甲が固まっている赤乙をさすると

「奴に何かされたな・・・」

神差が固まっている赤乙たちに息を吹きかけると赤乙たちは動きだしました。

「ボス・・・」

赤乙が申し訳なさそうに取りいると

「気にするな、相手が悪い」

仮面の女性が気分の悪そうな桜に聞いた

「かぐや、どうしました?」

桜は頭を抱え倒れ込みました。

「こっちは厄介だな・・・」

仮面の女性は桜を抱えました

「それじゃあみんな、撤収!」

神差とその兵たちは煙になり消えました。


    ●魁人:山のふもと

ここを降りたら俺の友人の誰かが待っている。いったい誰が来るか・・・

さっそく一台の車があった。誰のかは知るよしもない。山道を曲がると、女性が携帯をいじっているのが見えた。俺は一目で誰なのか分かった。彼女は降りてくる俺に気付き、振り向くと、俺に手を振った

「魁人~魁人だよね?」

富田楓、少し大人っぽい見た目になったが、中身は中学から変化なしか。俺は楓に手を振ると

「久しぶりだな」

「飾森く~ん!ちょっと来て」

どうやら、もう一人いるようだ。飾森翔麻、俺の昔からの友人だった。よく悩みを話し合った。俺に友というモノを理解させてくれた第一人者だ。もっとも一番古い友は美弥だがな。翔麻は横の道からやってきた。少し男らしくなったようだ。

「おう、待ったぜ」

「悪いな」

楓は俺の手を引っ張り翔麻に言った

「さっそく家に連れてこ」

「はいよ、魁人、乗れ」

どうやら、この車は翔麻のモノだったか

 車が走っている

「魁人、あの後何してたの?」

当然のように聞かれるか、とても心配をかけてしまったな。

「オヤジと中国に身をひそめていたんだ。連絡もしないでごめん」

「千秋ちゃんが記憶失くしちゃったって知ってる?」

「ああ、てかこの前会ったよ」

あれは偶然のハズがない、おそらくは津川さんたちの作った必然だろう。

「ねぇ、桜ちゃんは?」

俺は言葉に詰まる。認めたくはないが、死んだのだ

「富田、もう諦めろよ」

翔麻が言った。助手席に座っていた富田が俺に飛びかかった

「知ってるよね・・・」

富田は泣いていた。心配なのは分かる。この子にとって最も大切な友人なのだからな。

「家が襲われたとき桜は・・・」

俺は言葉に詰まる。死んだ、そう思いたくはないが、この世界からあいつがいなくなったのは分かる。小さい頃から、あいつがどんなに離れていても、どこにいるのか自然と分かった。気を感じたのだ。引かれ合い、あいつも俺がどこにいるのか分かった。その気が感じないのだ。つまりは、この世界のどこにも、あいつはいない。これもすべて、あの男の言うとおり、俺がしでかしたことだ。

「何・・・死んだなんか言わないでよ」

「富田、俺も信じたくない」

未だ生きている可能性を探す。しかし、一切の手がかりが得られない。

「ねぇ、生きてるよね!昔みたいに元気だよね・・・」

楓は俺の切れた手錠のチェーンをガンガンと引っ張る。運転中の翔麻からしたら、非常に邪魔であろう。

「あの~暴れんの止めてもらえる?運転中なんだけど・・・」

「ん、手錠・・・」

楓は掴んでいた俺の手錠を見た

「うわー囚人だー!」

気づくの遅・・・


    ●魁人:富田宅

高層マンションの最上階の部屋に着いた。今いるリビングも相当広い。

「なんでお前らこんな良い部屋に住んでいるんだい?」

2人から予想内の返答を受けた。

「それは富田のおかげだな」

「2人で漫画作ったら売れた」

翔麻は小説をよく書いていた。それも、とてもおもしろい作品ばかりだった。楓は昔から絵がうまかった。漫画のイラストを得意としていた。2人はわりと仲が良かったが、とうとう一緒に漫画を描いたようだ。

「そうか、今度買っとくよ」

翔麻が俺に問う

「それで魁人、なぜ手錠なんか掛けてたんだ?警察にでもしょっぴかれたか?」

「ちょっとな」

俺は部屋をウロチョロしている少女を見た。愛恵と同年齢くらいだ

「富田、あの子は?」

俺が少女を指さすと

「ウチの娘だよ」

「は?」

俺は翔麻を見た

「俺の子じゃねぇぞ」

俺は少女に言った

「お譲ちゃん何歳?」

少女は振り返り微笑みながら言った

「8歳だよ~」

俺は再び楓の方を向いて言った

「嘘つけ、お前高2で産んだって事になるぞ、相手は誰だ?」

俺は再び翔麻の方を向いた

「だから、俺の子じゃねぇって」

「じゃあ誰の子だよ?」

楓から予想外の言葉が返ってきた

「魁人の子だよ」

「俺8年前いないからね」

当然のこと、愛恵といい俺が父親になるはずがない。第一に、俺は25年間の人生で性行為を行ったことがない。自慰行為すらも無いのだ。

「だって桜ちゃんに目つきがそっくりなんだもん」

俺は少女の瞳をじっと見つめた。たしかに桜の面影がある。

「たしかに似てるけど、俺には似てねぇだろ・・・ほんとにお前が産んだの?」

楓はキツク叱るように言った

「そうだよ!ウチから産まれたよ!」

「じゃあ相手は誰だよ?」

楓は押しつけるように言った

「だ~か~ら~魁人じゃないの?」

バッサリ切ろう

「そんな記憶はない」

「ウチもそんな記憶ないよ!」

だろうな、少し聞いてみるか

「あの子、名前は?」

「富田留奈」

「この子、何月産まれ?」

「え、8月だけど」

「高一の10月頃に変わった事は?」

「わかんね」

そりゃそうだよな。昔から何か抜けてるから困る。

「お前が妊娠して、お前の母ちゃんと姉ちゃんはどんなだったんだよ・・・」

余談を聞いた

「何かビンタされた・・・」

「だろうな」

通常の家なら追い出されるだろう

「姉ちゃんに私より先に子供作りやがってって言われてさ、鼻にめん棒刺された・・・」

「地味な報復だな」

「超痛かった・・・」

聞いた様子では、さほどツラい思いはしていないようだ。

「お前、高一のとき誰かと付き合ったことある?」

「あるわけないじゃないか、告白は2回くらいしたけど、今まで彼氏なんか出来たことすらねえよ」

そうだな、自慢げに言っているが、昔のことを抉ってしまったかもしれない。内心は辛いのではないだろうか。

「血液鑑定とかしたのか?」

「してないよ、だって相手が分からなきゃ意味がないでしょ」

その通りだ、俺の予想では翔麻が酒に酔ったという線を押しているのだが。楓は言った

「もしかしたら魁人かもしれないし血液鑑定しようよ」

「ああ、それもいいかもな」

ただ、そのときは翔麻にもしてもらおう。責めるつもりはないが、楓も父親が誰か知りたいだろう。

「ところでさ、お前しばらくここに住めよ。榊の話じゃ、たしか居候する場所、決まってねえんだろ」

そのとおりだ。こいつらと泊まるのは中学の頃はざらにあったからな。わりと楽しいかもしれない。しかし東城と南原に早いとこ行かなきゃならんからな。

「いいけど、行かなきゃいけないとこがあるんだよ。それだけ早いとこ済ませたいんだ」

「じゃあ明日にでも車出すよ。俺ら今、安泰だからさ」

そらは助かるが、あまり俺の傍にいると、こいつらが危険ではないだろうか。少しだけ世話になろうか。

「じゃあ少しの間だけ世話になるよ」

「やった。魁人の料理また食べたい!」

どうやら、世話をするのは俺の方だったようだ。こうして俺は楓の家に居候することとなった。


    京都警察 警視監室

窓際に警視監と思わしき年配の男性が立っていました。

ドアの前の刑事が言った。

「どないしましょうかね・・・遺体調べる間もなく、塵になったなんて、考えられへんよ。その場におった警官たちも、何が起きたんか理解できひんかったそうで」

それに警視監が問う

「このことは、ただの放火事件と報道しよう。何か聞いたことはあるか?」

刑事は答える

「犯人と思える少年をしょっ引いた警察官の話では、他に人がおったとゆーてたゆーんですよ。けんでも、便所の二つの出入口からは誰ひとり出てきてないんやという報告を受けとるんね。それと・・・」

言葉に詰まった刑事に警視監が言う。

「言うてみ」

「その男がゆーには、そこにおった他の人物が人間じゃないゆーてんですね。警察官はくだらない言い訳やとおもうて連行したらしいんやけど、逃げられてもーたと」

警視監は少し無言で考えると、机のマイクで庁内呼び出しをした

「坂本課長、ワイの部屋へ」

「警視監?なして娘さんを?」

「いや・・・」

若い女性が部屋へ入って来た

「失礼します」

※坂本柚紀(元歩川中学3年4組のメンバー)

「前に、気になるとゆーて、調べとったことがあったやろ」

「はい、今も調べていますが・・・」

警視監は頷くと、柚紀に言った

「同じ匂いのする事件が起きてもうてな、ちょうどええやろ、お前に一任しようと思うんや」

「え、では・・・」

柚紀は喜ぶように言った

「柚紀、しばらく好きにしろ」

柚紀は部屋を出た

「よろしいんでっか?」

「ああ、君にも少し苦労を掛けるかもしれないな」

「いえ、別にいいのですが。私は一応は部下ですので」

柚紀が荷物を持ち、部屋に戻って来ると

「桑田、明日、朝から車を用意して!少し遠出や」

「まかせといてください」

 柚紀たちは刑事たちの仕事場を通った

「坂本はん、遠出でっか?」

「せやで」


    その夜

    ●黄壬:永久の月、本部地下牢獄にて

俺は手足を鎖で縛られ、石の椅子に座っていた。

美弥の奴は笑っていたが、副官の女は俺に二日間の禁固刑を下した。支部長ともなれば、この程度の身勝手も死罪を免れるようだな。まったく、美弥の奴はよくこんな奴を支部長になんて任命したものだな。あいつとは小3の頃からの知り合いだった。あいつも確か、俺を勧誘した1人だったな。昔のことを考えていると、牢獄の柵付きの窓に見覚えのあるウザい顔があった。

「よお黄壬さんよ、禁固食らったって?」

こいつは俺の同期にして、隣の支部長の藤庚(どうきょう)こと宇多(うだ)(まさる)。俺が知る中で最もウザい奴だ。

「てめえ、出たらぶっ殺すぞ」

勇は笑って言った

「お前、美弥に感謝しろし。副官様に頼み込んだそうだぞ」

そんなこと分かっている。あの女は俺を処断したがらないからな、何度も見逃されている。

「そういや、魁人たちを殺せとか無理言われたよな。お前、昔ひどい目に遭ったっけな」

過去を抉ってくれるな。こいつのこういうところがウザいんだ。殺したくなる。だが俺たちは昔より強くなった。大きなものを犠牲にし、常識をはるかに超える力を得たのだ。魁人がいなくなってから、最初はあいつをひどく心配し、かつての仲間たちとともに連合軍を名乗った。だがいつの日か、俺たちは仲間を捨て、倫理すらも捨てた。ただ、力を欲しただけだ。あの時、俺は魁人に会うのを恐れていた。だから、この行為に及び、今に至る。美弥にはバレたが、こいつには知られたくない。捨てた仲間たちは俺たちの今を知りもしないだろう。もし合うことがあれば、そのときはそいつを殺すことになるかもしれないな。そのときは、黄壬ではなく、飯沼司として全力でぶつかろう。それもまた、おもしろいかもしれないな。

「もう、あんな奴、目じゃねえよ」

そうだな、この壊れた俺を処分するのは、魁人であってほしい。


    次の日

    京都県警

柚紀と桑田は車に乗りました。

「どこに行くんでっか?」

桑田がシートベルトを閉め、聞くと。柚紀が言った

「覚えとる?10年前、神奈川のある町で起こった放火事件」

「あ、あの訳分からん事件でっか。上からの圧力で捜査を打ち切らすゆー異例の事態でしたな。坂本はん、たしかアンタ・・・」

「ええ、私の故郷なんや、その子供たちは私と同じ学校、同じ日に卒業した。そんでその日、事件が起こった」

「アンタ、そういや中学卒業まで母親と田舎に住んでたそうやな・・・で、神奈川警察庁に向かってんでっか?」

「せや・・・そこに私の友人がおる」


    西垣亭

善宣が電話をしている

「そうか、まだ帰らないのか」

電話の相手は夛眞だった。夛眞は言った

「向日葵にはもうすぐ会えると、ずっと言い続けてるが、いつまでもつか。そっちの千秋様はどうじゃ?」

「とくに不信感もお持ちでないようじゃ。わしらに悪意が無いのは分かるようじゃな。せやけどな、なして襲撃した女を見抜けなかったのか。はたしてその女は何者だったんやろう。お前さんらが襲われたときやって、奴らはその死体を持ち去ったそうやないか。お前、殺した自信はあるんか?」

    夛眞 北澤亭

私は逃げ際にあの死体から抜き取ったクナイを手に取って見ていた。

このクナイには江舞寺の紋章が無い。これはおそらく、直前にあの女が千秋様に向けていたクナイだ。どういう訳か、あの一瞬で入れ替わり、私のクナイはどこかへ消えた。その後の部屋の処理をした狂歌様からもクナイは見当たらないという報告を受けた。謎が多いが、あの女は殺したのだ。死亡も確認済みだ。

「ああ、確実に殺してある。薬を飲んでいるようには見えなかった」

「そうか、ならいいんやが、まだ魁人様は残りの2人に報告をしてへんやろ。情報が遅いと、取り返しがつかん。ワシらからしてはならんしの、急がせる必要があるんではないやろうか?」

そうじゃな、早めに行かせる必要もある。弥生ちゃんの話によれば、魁人は名古屋で友人の家にいるそうだ。箱根が近いな。おそらくは南原に行くだろう。

「ところで夛眞よ、向日葵の面倒は見ておるのか?」

「今日は昔の友人が店に来るそうでな、会いにいっとる」

「護衛は付けたか?」

「むろんじゃ」

やはり我らは用心深いな

「店も結界の敷地内だ。ただの人間でなければ入れまい」

「そりゃそうじゃな。」

通話は切れる。


    向日葵:たぬきち札幌店

 ここは北澤亭からすぐ近くの飲食店。私たちが中学の頃に手伝っていた店の別店舗だ。使用人からここに私の友人が来ているという報告が入った。

 中では2人の女性が待っていて、私が入ると同時に手を振ってくれた。彼女たちの名は栗原聖良と菊岡涼子。中学時代を共に過ごした友人たちだ。

私が彼女たちの待つ席へと座ると、すぐに聖良が言った。

「ヒマー!久しぶり!元気だった?心配したんだよ」

懐かしい、そう呼ばれるのは久しぶりだ。手元を見れば、2人とも結婚指輪をしている。もう結婚したんだ。うらやましいな。だが、大きな疑問を持った

「よくここが分かったね」

そう、私がここにいるのは江舞寺の関係者しか知らないはずだ。その問いに聖良が答える

「えっとね、涼子がこないだ教えてくれてさ、家飛び出して来ちゃった」

涼ちゃんが答える

「うん、吹雪鬼君にこの前会ってさ、その時に教えてもらったんだ」

驚いた、ふう君は江舞寺の力でも見つけられなかったのだ。なぜ、涼ちゃんに会いに行ったのだろう、とても不思議だった。

「ふうくんに会ったの?」

確かに涼ちゃんはふう君と仲が良かった。たしか涼ちゃんはふう君の部活でマネージャーをしていた。それでも、おかしい。

「この前ウチに押し掛けて来たんだ、永火(とこしび)君の連絡先を教えろって、ウチのママ何か吹雪鬼君を見たとたん、家に引きずり込んで、どこ行ってたんだーって怒鳴ってた」

涼子のママもふう君によくしてくれていた。そのせいか、ふう君は家出するならいつも涼ちゃんちだったな。

「さすが涼子のママ、迫力が違う、それで教えたの?」

「それがね・・・」

涼子が黙りこむ、何かあったのだろうか

「永火君、5年くらい前から行方知れずなんだ」

「そうなんだ・・・」

永火信高、中学時代はとくに変わったところもなく、まじめな男子生徒だった。たまに魁君や桜と個人的に話しているのを見るが、何を話していたのか分からなかった。

「でも永火君だけじゃないんだ」

「え?」

続けて聖良が言う

「向日葵たちの事件の日、津川先生も忽然と姿を消した、家族を置いて、校長室に退任届が置いてあったそうよ、その後も元3年4組の子がどんどん消えていったの、七年くらい前かな、飯沼と宇多、それに枯間君の家が放火にあったんだよ」

「本人たち三人は今も行方不明だし、他の家族はみんな死んじゃったらしいよ。それに5年前に永火君が消えて、警察もさすがに不審に思ったんだって」

「そう・・・」

驚いた。飯沼と宇多に枯間か・・・共通点が分からない。飯沼と宇多は仲が良く、いつも一緒にいた。でも枯間君はふう君の一番の親友だ。飯沼たちとも仲がいいわけではなかった。

「そういえば、ふう君ってどこに住んでるか言ってた?」

「聞いたら那須高原だって」

「は?」


    箱根の宿にて

ベランダの柵に栄恵が座っていました

「やはり外は美しいの・・・ようやく新しい体も馴染んできた。ソナタはどうじゃ?久しぶりの外は」

すると奥の部屋から男が歩いてきた

「清々しいですね、やはり外は」

栄恵は男を見ると言った

「君もそう思わないか、信高」

    ●信高

俺の名は永火信高。幼少より舞様に直属で仕える根の戦士だ。5年前の闘いで呪いを受け、今は仲間とは別にこの方の付き人となった。

「戸惑いの色が見える、妾の新しい姿に動揺しているのじゃろ」

仕えていた人が変わった気分だ。だが、姿が違っても俺の主なのは変わらん。

「まあ多少は、5年近く貴方のあの姿でともに過ごしてきましたからね」

「そうじゃな、役目を果たせば、すぐに戻るさ。さあ、出発しよう、目指すはすぐそこの南原亭だ」

南原家の頭首に用があるとのことだが、俺は舞様とともに宿を出た。


    神奈川県警、ロビーにて

柚紀と桑田が入ってきました

「ご用件は?」

柚紀は警察手帳を見せました

受付の人は立ち上がり

「これは失礼いたしました!それで、ご用件はどういったことで?」

柚紀は答える

「ここの刑事と話しをしたいんよ」


    ●魁人:富田のマンション・リビング

俺と翔麻はテレビを見ながら話していた

「翔麻、今なら楓はいない、お前は知ってるんじゃないのか?留奈ちゃんのことを、あの子の父親は誰だ?」

俺は真剣に聞いた。すると翔麻は大きくため息をつくと

「魁人さ。俺はお前に頼まれた通り、富田を守ってきた、高校に行ってもな・・・お前はどういう理由か知らないが、あいつを俺に託した。その理由も教えてほしいのだが」

身勝手に押しつけてしまったからな、訳を話す訳にはいかないが、そっちを先に説明しよう

「悪い、詳しいことは聞いていないが。あの子は江舞寺にとって必要だったんだ。親父からの助言でさ、頼める奴がお前しかいなかった」

そう、俺は使命を破る際、親父からいろいろと助けをもらった。様々な助言をもらった。その中に楓を守ることがあった。そこで翔麻に頼んだのだ。翔麻は中学の頃から楓に片思いをしていたからだ。

「アイツとずっと一緒にいて気づいた、アイツはもっと暗くなったぞ。東城のことの傷が癒えてない時に、お前らは消えたんだからな」

東城流布、彼は親族の子供だった。桜とも仲良く、三年の春と夏の間だけだが楓ともなれ合っていた。楓はあいつのことを好きになっていたのだ。夏の終わりとともに彼は死んだ。何より、もっと昔にも似たようなことがあったのだ。実際、それがきっかけで出会ったようなものだ。桜や俺、美弥がいたから、まだ耐えられたのだろう。申し訳ないな、せめて楓には一声かけておくべきだった。

「高1のときに何かあったか知りたいんだろ。ああ・・・あったさ・・・」

俺はうなずく。翔麻は話してくれるようだ。アイツに近づいた男はお前ぐらいのハズだ。なのに父親はお前ではないのだろ

「10月20日、俺は富田に連れられ秋葉原に行った」

年頃のカップルのようだな

「そこで富田が迷子になってな、ケータイの位置は調べられたからすぐに場所は分かった。明らかに車で移動してたよ。俺もタクシー使って追いかけた。裏路地で反応が止まったからタクシーを降り、急いでそこへ向かった。そしたらそこで富田がぐったりと倒れていたんだ」

確実に何かあったようだな、ただのレイプならいいのだが

「者影は?」

「俺がそこに駆け付けた時には誰もいなかった、とりあえず家まで送ったよ」

「それだけか?」

「十分だと思うが、不満か?」

何か巨大な陰謀が隠れている気がする。留奈ちゃんには凄まじい量の霊力が宿っていた。それこそ桜に類似する量だ。この量は狂歌曰く、人の持てる量ではないそうだ。俺や親父ですら、そんな量を持たない。何かがあると俺は予想している。

「富田はなんて?」

「アイツは何があったのか全然覚えてないらしいぜ」

「まあそんなとこだろうな、一応、血液鑑定してみるよ」

「する必要ねぇだろ、お前中国滞在してただろ」

「いや、少し引っかかるんだ。一応、しておこうと思う」

楓の言うとおり、留奈ちゃんには桜の面影がある。ただし、生んだのが楓であるならば、相手の男性が必ずいるはずだ。もし、俺の知らぬところで起こされたことならば、俺も調べる必要があるのかもしれない。何にしろ、すでに俺の子がいる訳だからな。

「分かった。そうしよう」

別件で翔麻に頼みがあった。

「そうだ、ちょっと頼みがあるんだ。車出してくれるか?」

「もうすぐ富田が帰ってくるから、ちょっと待ってろ」

「おう」

津川さんから得た情報を他の四亭に持っていく必要があった。俺は車が使えない上に、家臣の兵を呼んでしまっては行動に制限がかかる。翔麻に頼む他になかったのだ。


    ●柚紀:神奈川県警、警視監室

 警視監が私に話しかける

「柚紀ちゃん、どういった用で来たんだい?」

ここの警視監とは昔から顔なじみだ。

「吉崎刑事を呼んでくれますか?」

「吉崎君ね、分かったよ、おーい吉崎君呼んでくれ」

彼は部屋の外の刑事室に向かって叫んだ。すぐに一人の刑事がやって来る。

「お呼びでしょうか?わたくしが何か?」

彼の名は吉崎大河。中学時代、クラスで学級委員とムードメーカを務めていた。会うのは数年ぶりだ。背が伸びたな。

「久しぶりだね、坂本柚紀です。覚えとるか?」

彼は鼻で笑うと言った。

「忘れるわけないだろ。懐かしな坂本」

つかさず警視監のいちゃもんが入る

「きみ!なんて口の聞き方をするんだ!一警視監の娘さんだぞ」

「かまいません。昔からの友人なので」

「もしかして俺に用があって来たのか?」

「ええ、ちょっと昔のことをもう一回振り返ろうと思って。分かるわね」

私の問いに、彼は真顔で答える

「うすうすな」

私は警視監に向かって言った

「吉崎君を少し借りますね」

彼は笑って言った

「どうぞどうぞ、ご自由に持ってちゃってください」

「代わりにウチの桑田を使ってください、少しは役に立ちます」

桑田は不安そうに苦笑いをしていた。別の職場だからといって、動揺しているようだ。私たちは部屋を出る。

    ●桑田

 まったく、柚紀ちゃんには恐れ入る。さすが警視監の娘やな。まさか、これほどの情報を嗅ぎつけるとは。江舞寺についてのことを知られるのも時間の問題やろうな。ワイも江舞寺に集う者として、秘密を守らんとならんのやが、いつまで持つんやろうか。

 ワイは西垣家家臣、桑田重成。江舞寺の茎の者や。

    補足

 根とは日本のいたる場所から関係者の監視を行う者たち。その全てが幼少期より暗殺や潜伏を仕込まれ、常人を超えた能力を持つ。大人にもなれば、一切の素性が明かされなくなる。

 茎とは根とは違い、宿り木を持つ。警察庁や学校などを含む、あらゆる企業で平凡に活動し、その裏で根を通し、別の茎が宿る企業の情報を共有する。これにより、江舞寺はあらゆる企業の情報を握ることができる。

 葉とは茎の得た情報を管理する者たち。おもに家臣の家の者たちが当てはまるのだが、江舞寺家の頭首は葉の筆頭として、これに当てはまる。つまり、魁人は筆頭ということだ。彼らはその情報をもとに、企業の財政を密かに牛耳る。そしてその大部分は花に送られる。

 花とは江舞寺の王とその側近ともいえる者たち。根や茎の者ですら、素性を知る者はそうはいない。

 また、根になる前の子供は種と呼ばれ、それを仕込む者の大部分は根の者だ。しかし、特別な任務を任せる人材の場合、花の者が直接仕込むのだ。朝舞美弥はそれに当てはまり、それだけ貴重な存在だった。

 それぞれの者たちは名刺のように歩札を所持し、それにより互いを見極めることができる。根の者は素性を明かさない為、たいていは葉の者に歩札は出さない。なお、歩札を偽ることは不可能。江舞寺の摂理はこうやって成り立っているのだ。


    ●魁人:飾森の車の中

車は国道を走っていた

「ねぇねぇ何処行くの?」

楓の問いに俺は答える

「箱根」

楓が驚いたように問う

「遠くない??ここ名古屋だよ」

「夕方には帰れるから、きっと」

「ふ~ん」

楓は納得したようだ。俺の横の席では留奈ちゃんが寝ている。なぜだか、起こすのが大変な気がした。そういえば、桜は寝起きが酷かったな。


    箱根・江舞寺守護四亭・南の分家・南原亭

大広間で現南原家頭首、忠一と舞が話していました。忠一が怒りを言葉に秘めて問う。

「どういうおつもりですか?よりにもよって娘の体をよりしろにするとは、こんな老いぼれの葉の者に何の御用ですかい?」

舞はそれに答える

「奴ら、舞憂亭に襲って来たぞ」

忠一は驚きを表す。

「あの庭園には誰も近づけないハズですぞ」

「舞憂亭の位置を知る者は少ない。美弥や智人ですら、その場所への道は公開していなかったのだ。それを知っておるのはソナタたち守護四亭の頭首、それに魁人のたった5人ぞ。いったい誰が情報を漏らしたのじゃ?」

忠一は黙り込んだ。


一節の最後の方で江舞寺の構造を書きました。このことから美弥がヤバいということが伝わるでしょう。

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