プロローグ
第二章の前座です。はっきりさせました。
私は何なのだろう・・・月平のかぐやとは、偽りなのだろうか、私の親は誰だ、私の本当の名は何だ・・・私はいったい何なのだろう。凄まじい虚無がこの身に降り注ぐ。この気持ちはどこへ逝くのか、人をいくら殺しても満たされない。何を得てもその一瞬のみの幸福だ。そもそも幸せとは何だ。私はそれを理解できない。
ここには私を心より大事に思っている者が二人いる。彼らは私に本当のことを教えてくれない。二人とも江舞寺にいたそうだが、そのころから私を愛しているらしい。私もまた、江舞寺の関係者だったのではないのか、そう考えたとたんいつも思考が止まる。何者かに遮られるのだ。
私の部屋はいつも殺風景、これといった物がない。私は癇癪を起すと側にある物を破壊する。破壊もまた一瞬の幸福なのだろう。こんなことでは私は何も得られない。そもそも、私には命がない。何度も死んだ。だが必ず生き返る。死ぬことはない。だからだろう、命の価値が分からない。平気で人を殺せるようになった。私が殺すのは無力な脱走者と裏切者だ。そんな者達しか殺してはならない。その約束事を破り、一般人を殺めるとどうなるか、ボスたちから叱られたりすることはない。私は何をしても許されるからな。だが深刻な問題があった。私が一般人を殺めるとその霊たちは私に襲い掛かる。霊力の高い私を蝕むことはどんな怨みを持った強力な霊でも不可能だ。だが、ただ私に問いかけるのだ、私は何なのかと。それが恐ろしい。江舞寺の霊も永久の月の霊も私には何もしてこない。なぜ、霊力もろくにないただの人間の霊がここまで私を問い詰めるのか分からない。ただ分かることは、私にとって一番の恐怖は自意識ということ。それは誰にも救ってもらえない。ずっと私を苦しめる、助かるすべはない。
そんな私のもとにやって来たのは美弥ちゃんだった。彼女は私を誰よりも大事に思っている子だ。私の持つ七年ばかりの記憶の中で彼女は最初から一緒だ。私が信用する数少ない人材だ。そして私の剣と盾でもある。
「お嬢様、仰せつかったものをお持ちいたしました」
美弥が出したのは私の食事だ。私は美弥の作った料理以外を口にしない。召使のようなものだ。彼女だけは私と同等を許しているのに、彼女は私の下にいつまでもいる。それでも自分の側にいつまでも置いておけるのは変わらないがな。
「体の調子はどうでしょう?また蘇生なさったそうですが」
「うん、大丈夫よ。あなたは?最近ずっと仕事でしょ」
美弥は笑った。
「お気になさらず、私は疲れなど知りませんので。それでは失礼いたします」
美弥は行ってしまった。忙しいのだろう、兵隊たちの育成が彼女の仕事だ。私のように自由に研究している仕事ではない。
もう一人の奴を呼びたくなった。あいつは男だ。私に別の快楽をもたらす。あいつが来たのは5年前だ。初めて会ったときのアイツの目を見て、美弥と同じものを見た。あとは自然と溶け合ったのだ。ずっと昔から仲が良かったかのようにな。
桜、もうすぐだ。もうすぐお前に幸福を与えられる。何も恐れることはない。俺はずと側にいられるか分からないが、そのときが来るまで、何があっても側でお前を守ってやる。たとえ誰と剣を交えることになってもだ。なあ、魁人・・・お前は今、誰を思っている?
美弥は桜にとっても魁人にとっても重要なキャラです。それが伝わったらいいと思いました。