レイのドキドキクッキング
翌朝、タカヤが目を覚まして起き上がり、おもむろに横を向くと、その目に入ったのは白銀の髪の後ろ姿。
「何してんの…?」
「あ、タカヤ!おはようございます!泊めていただいたお礼に朝ごはんを、と思ったのですが…使い方が分からなくて…」
キッチンには、どこから取り出してきたのか、エプロンを着たレイが立っていた。
「あー、たぶん使い方が分かっていたとしても、使えないんじゃないかな?」
失念していたが、今現在、この家…ゴーレムにはガスも電気も通っていない。
昨日は外から差し込む月明かりで視界は確保できていたが。
「ここのスイッチを押せばつくんだけど…」
試しにダメ元でガスコンロのスイッチを押して見せた。
しかしタカヤの予想に反し、ガスコンロに見慣れた青い炎が灯った。
「あれ?ついた…」
「そこのスイッチを押せばいいんですね。タカヤは座って待っててください」
コンロはなぜか使えたが、料理をするとなると食材が必要になる。そしてその食材が入っているのは冷蔵庫。
「待ってくれ。食材がダメになってるかも」
そう言って冷蔵庫を開けてみると、中から冷たい空気が流れてきた。
「んん?おかしくね?」
「これは便利ですね!氷魔法が封じ込めてあるんですか?」
面白そうに何度も開けたり閉めたりしているレイ。電気代食うから、よいこのみんなは真似しないでね。
「レイ、ウォンデルの家庭にはガスとか電気とか通ってるか?」
「電気?ガス?どちらも魔法で出せますが…家を通過したりはしませんね?」
「オーケーわかった。やっぱり魔法か」
しかしタカヤは魔法を使ったつもりはない。だとすると。
「このゴーレム自体もウォンデルに適応したのか?新エネルギー源スピリトに」
これで電気代などに悩まされる必要はない。が、スピリトがあまりにもクリーンなエネルギー過ぎて逆に恐い。いつかしっぺ返しされそうだ。
ゴーレム中のいろんなところを見て回ってみたが、ウォンデルへ来る前から使えたものは全て使えることが判明した。
「タカヤ!できましたよ!」
見回っている間、レイは料理を続行していたようだ。そういえば美味しそうな匂いがする。
「ミミ国の食材とはちょっと違いますが、なんとか完成しました!」
「すごいな…普通未知の食材じゃここまで作れないと思うぞ?」
どこかの海賊団の戦うコックさんは未知の食材でバンバン料理を作るが、あれは例外と考えよう。
食卓に並んでいるのは、定番の朝ごはんベーコンエッグと、味噌汁だった。この際、この程度のミスマッチは許容範囲内だ。てか、いきなり味噌汁作れるって、天才ですか。
「さあ、召し上がれ」
「おう、いただきます」
まずはベーコンエッグを一口。これは食材の味だけで、他に味付けが要らないので普通に美味しかった。
そして次は味噌汁。余計なものを加えなければ美味しいはずだが、果たして。
「どっちも美味いっ!」
「よかった…喜んでくれてうれしいです!」
味噌汁は今まで飲んだ中で一番と言っても過言ではないくらい美味だった。
「何か、味噌の他に加えたものは?」
「ヒミツです!あえて言うなら、愛情、ですかね…きゃっ」
頬を赤らめてくねくねした動きをするレイ。
なんだか急に心配になってきた。まあ、このキッチンの中にあるものならば問題ないだろう。
メシマズ属性?いえ、知らない子ですね。