オフトゥン・オア・ベッド
「一階にある本ならいつでも読んでいいから、この部屋に入るのは極力避けてくれ…と、そうだ。そろそろ片付け終わりそうなんだが、レイは寝るときはベッド派?布団派?それとも床派?」
「床はさすがにないですよ!?えっと、じゃあ布団でお願いします」
「OK了解。一階で待ってて」
万が一の時のために来賓用の布団を数枚用意しておいて良かった。もっとも、使う予定は永遠に来ないと思っていたのだが。
とりあえず自分の部屋を片付け(ついでにそういう本を自分でも出しにくい場所へ封印し)てから、同じ二階の倉庫から布団を用意して一階へ運んだ。
「そういや日本語読めたの?ビスティアがどんな文字使ってるか知らないけど」
失念していたが、なんで異世界で普通に意思疏通できているのか不思議だった。
「何言ってるんですか?全部ビスティア語で書いてあるじゃないですか?タカヤだって普通にビスティア語で喋ってますし」
「いや、日本語しか喋れないよ?さっきの本だって日本語で書いてあっただろ?」
「じゃあこれは何ですか?」
レイがこちらに見せてきたのは布団に付いているタグ。洗濯の方法などが書いてあるあれだ。
しかしそこに書いてあった文字は、日本語とは全く違う形をしていた。
「あ、あれ?なんで?確かに日本で買ったはずなのに…でも、読める…」
見たことも無い文字。ファンタジー系の作品で見るような、地球上に存在する文字ではなかった。
「召喚の際にこの世界に適応させられたのではないでしょうか?」
そういえば、と思い例のポンコツ時計を見てみると、00:00から表示が変わってこれまた見慣れぬ、しかし読める、数字らしきものが表示されていた。現在23:06。召喚から適応まで少しタイムラグがあったようだ。
なんというご都合主義だろうか。どこかの中二病ファクターも、ナイスな展開じゃないか!と言わざるをえないだろう。
「まあ、おかげで困らなくて済んだから結果オーライだ」
「よかった、タカヤを困らせなくて…」
よかった、またレイを謝らせるようなことが無くて。
「思ってたより遅くなかったみたいだけど、寝るか。じゃ、おやすみ」
「あ、はい、おやすみなさい…ってどこ行くんですか!」
「どこって、俺の部屋二階だし」
階段を上ろうとすると、がっしりとズボンを掴まれた。
「とりあえず放してくれ、脱げる」
「じゃあ私もベッドにします!」
新品オフトゥンがお気に召さなかったのだろうか。それとも布団を知らなくてためしに使ってみたけどベッドには勝てなかったよ…だったのだろうか。
「わかった。ほら、ついてきて」
「はいっ!」
自分の部屋に着き、レイがベッドに飛び込んだのを確認して、
「んじゃ、おやすみ」
「はいっ、おやすみなさい」
バタン
「って違いますよ!」
「何が!?」
思っていたベッドよりしょぼかったのだろうか。それは失礼なことをしてしまった。
「ああそうか。レイ、一般家庭のベッドはこんなもんだ。ごめんな」
「あっ、その点は問題ありません。ふかふかです…じゃなくて!」
レイが床を思いきり踏んづけたので、一拍おいて軽くジャンプ。
「なんなんですか!?おちょくってるんですか!?」
どうやら日本のギャグセンスは通用しなかったようだ。ダチョウさんは悪くない。使い場所を間違えた自分が悪いのだ。
「だから!その…ひ、一人じゃ眠れないんですっ!察してくださいよ!」
見れば、レイは顔を真っ赤にしていた。さすがにこの年で一人じゃ眠れないことに対しての羞恥心は持ち合わせているらしい。
「あーっと…わかった。でもさすがに同じベッドってのはちょっと…」
「えっ…私のこと、嫌いですか…?」
「いや、むしろ逆っていうか…まあ俺がリビングのソファで寝れば問題ないけど、それでいいかな?」
「うう…すみません…それでお願いします」
「じゃあ今度こそ下で待ってて。すぐ行くから」
レイを先に下のリビングに行かせ、タカヤは倉庫から掛け布団と枕を出してリビングへ向かった。
が、リビングに入ると、レイはすでに布団で穏やかな寝息を立て眠っていた。
「一人じゃ眠れないんじゃなかったのかよ…まぁ、二階に戻るのもめんどくさいし、このままソファで寝るか」
レイのあの言葉は嘘だったのか、はたまたただ単に疲れていたのか。タカヤとしては後者であってほしかったが、こちらは睡眠を中断された身。もうすでに限界だったため考えることもできず、ソファに倒れこむようにして深い眠りについた。