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捨てられ勇者の奮闘記  作者: 肉付き骨
飛ばされて異世界
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勇者降臨?

 夜中の3時21分。激しい雷鳴と激しい揺れで目が覚めた。


「何事だ!?」


 急いで起き上がろうとしたが体が動かない。まるで重力が大きくなったように布団に押し付けられている。


「な…んじゃこりゃぁぁぁぁ!?」


 起き上がろうと腹筋に力を入れていると、体が急に浮き上がり天井に叩きつけられた。今度は重力が反転したように天井に押し付けられている。


「うおぉぉぉぉぉ!?」


 再び激しい揺れに襲われ、布団に落下した。全身バキバキだ。


「天変地異か!?」


 雷鳴と揺れが止まり、重力が元に戻ったことを確認して跳ね起き、外に逃げようと走り出した。が、何かを踏みつけて盛大にすっ転び、顔面から床にスライディング。


「イッテテテ…時計か?」


 踏んづけたアナログ時計の時刻を見てみると、時刻は0時00分ピッタリで止まっていた。


「なにがGショックの壁掛けアナログ時計だよ…とんだインチキ時計じゃねぇか」


 痛む鼻を押さえながら玄関の扉を開くとそこには…


「何もねぇ…」


 見渡す限り広がる大草原。

 確かにタカヤは辺境の地へ送られたが、今朝見渡した時には山の麓の民家や海が見えていたはずなのだが。


「そもそも、どこだここ…」


 タカヤが呆然としていると、家の裏から声が聞こえることに気がついた。


「誰かいるのか?」


 こっそりと、スニーキングゲームのように壁にはりついて覗いてみると、ローブを被った人がいて、ようやく声がはっきりと聞こえるようになった。声の感じから、恐らく少女だろうと思う。


「まさか勇者召喚で新種のゴーレムが現れてしまうとは!ど、どうしましょう!?こんなことになるなら誰かを連れてくれば…あぁでもこれは秘術!誰かに見られるわけには…ひぃぃ!お助けくださいぃ!」


 絶賛パニック中だった。タカヤの家を指差しガクガクと震え、(しまい)にはへたりこんでしまった。


「何言ってんだ、あいつ…ゲームのやりすぎか?」


 タカヤの家は光沢のある立方体がいくつも組合わさったような特殊な造りだが、まさかゴーレムと呼ばれるとは思ってもいなかった。

 あまりにも情けなく震えているので、歩み寄り肩を軽く叩いた。


「おい、あんた大丈夫か?」


「うひぃひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 タカヤが声をかけると、ローブの人は悲鳴をあげて跳びあがり、しりもちをつき、そのまま器用にタカヤから距離をとった。


「ごめんなさいごめんなさい!わっ私おおおお美味しくないですよ!」


「落ち着け。俺は人間だ、ほら」


 タカヤが自分の顔を指差して声をかけると、ローブの人はようやく顔を上げたのだが、暗くて顔が見えない。


「え?人間ですか?ではこのゴーレムは…」


「俺の家だ」


「なんと!あなたはゴーレムの中に住んでいらっしゃるので?」


「もうそういうことでいいよ…」


 タカヤは説明するのが面倒くさくなり、早めに話を切り上げた。


「そっちの疑問には答えたから今度はこっちが質問させてもらうぞ」


「はい、どうぞ」


「ここはどこだ?」


「ここはですね、あなたの世界とは違う世界、ウォンデルですよ。勇者様」


「は?ウォンデル?勇者?え?え?」


 ウォンデルなんて地名も国も地方も、聞いたことがない。

 それに勇者と言ったか。タカヤは後ろを振り返ったが、辺りを見回してもローブの人しかいない。


「もしかして、勇者、俺?」


「はい!数々の世界で勇名を馳せた武勇伝はさすがです!だからこの世界で私たちを助けていただくためにお呼びしたのですが、違いますか?」


 数々の世界で勇名を馳せた、と言われても、今この瞬間まで他の世界があるなんてことを知らなかったのだから、そんなことができるわけない。

 早めに誤解を解いて、元の世界での先の見えないスローライフに戻らせてもらうとしよう。


「ああ、悪いんだが俺は…」


「しかし、一発で勇者召喚が成功してよかったです!一回の勇者召喚で、この地で1000年で生み出される量のスピリトを消費してしまうのです。もし失敗していたら、私たちの種族は次の1000年を待つ間に滅びてしまうところでした」


「えっと、そのスピリトってのは何だ?」


 鉱物か何かだろうか。どうせすぐに去ってしまうのだが、やはり気になる。


「スピリトというのは、大地から放出される力の源で、これが無くなると魔法も使えませんし、人間以外は生きることもできなくなるそうです」


「…冗談じゃなく?」


「本当ですよ?ここまで使わずに溜めるのは苦労しました…」


 これはマズイ感じがしてきた。ここで自分が件の勇者ではないなどと言えば、元の世界に帰してくれるかもしれないが、そのかわりにその種族が滅んでしまう。しかし自分に何ができるのだろうか。


「えぇっと、聞いていいか?勇者って何すりゃいいのかな?」


「それは当然、迫り来る他種族をバッタバッタと倒していただくに決まってるじゃないですか」


 タカヤは運動は苦手ではないが得意でもない。ましてや戦闘なんてできるわけがない。


「ギフトゲームとか盟約に誓ったゲームとか、そういうのでなく?」


「はい、ゲームではなく己の力と魔法で、ギッタギッタと」


 マズイ、とてもマズイ。このままでは隠していても確実にバレる。どうする、どうすればいい。


「では、私たちの本拠地へ参りましょう」


「ちょ、ちょっと待った!じ、実は!」


 タカヤが選んだ解決方法は…



「俺は前の戦いで黒龍に力を封じられてしまったんだ!くっ…左鎖骨が疼く…」



 選んだ解決方法は、厨二病になることだった。

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