ワースとネリー
「近くで見るとでかいな」
たどり着いた城は、遠くから見て分かっていたが、中世のヨーロッパの城によく似ている。某夢の国のシンボル的な城を想像すると分かりやすいだろう。
しかし今は夜中。
辺りは暗く、月明かりで白っぽく照らされ色が判別しにくい。遠くから見たときは確か、白を基調にして所々に橙色が置かれていたと思う。今度は明るい時に来たいものだ。
城の前に到着すると、正門は開かれ、重厚な鎧に身を包んだ門番らしき人が二人立っていた。左右で大きさが全然違うのでなんだかコミカルな雰囲気。
大きい方は肩幅が広いから男だろう。小さい方はおそらく女性。
小柄な方の門番はこちらに気づいたようで、こちらへ歩いてきた。
「こんばんは。勇者タカヤ殿で間違いありませんか?」
「どうも。これを見せればいいかな」
「契約の紋章ですね。確認しました、どうぞ」
右手の甲を月明かりに当てて見せると、門番は頷き道を開けてくれた。
「こんな遅くに悪いな」
「いいんですよ、姫様も喜んでいらっしゃいます」
姫様も?「も」ってどういうことだろうと思っていると、門番の猫のような尻尾がピンと立っていた。たしか、犬と違って猫は機嫌が良いときは尻尾が立つんだっけ。
もう一人の大柄な門番は、犬のような尻尾をブンブン振っている。
と、タカヤが尻尾観察をしていると大柄な方もこちらへ歩いてきた。
尻尾を見ていたのが気に障ったかな、と思い叱責を予想して体を強張らせた。
「ゆっ、勇者殿!」
「はっ、はい!すいません!」
「わわわ私はワースと申します!も、もしよければこの、手甲にサインを!」
「…へ、サイン?」
すっかり拍子抜けしてしまった。
この門番も昼の子供同様サインを求めてくるとは。まぁ、怒られなくて良かった。
「ワース!勇者様を困らせないの!」
「でっ、でもネリー、勇者様が目の前にいると思ったらいてもたってもいられなくて…ネリーだってさっきから楽しみにしていたじゃないか」
どうしよう。まだ勇者のお仕事一度もしてないのに。肩書きの力とんでもないな。
これは本気で頑張らないと。
「サインくらいかまわないよ」
「ありがとうございます!」
ワースの手甲の目立つ所に「神崎タカヤ ワースへ」と、やはり日本語で書いて、今度はもう一人の方へ向き直った。
「ネリー、でいいのかな?なんか要望あったら言ってくれ」
「いいんですか?では…また今度、勇者殿の世界のものをいただく、というのは」
「ん、いいよ」
「いいなぁ。ネリー、今度勇者様と会うときは僕にも声かけてくれよ?」
異世界のものはやはり気になるか。自分だってウォンデルのいろんなものに興味を抑えられないのだから。
「じゃあそろそろ行くよ。また今度な」
「「はい、ごゆっくり」」




