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捨てられ勇者の奮闘記  作者: 肉付き骨
ビスティアの国
13/19

歓迎される勇者

「あ、あの…こんなにいいのか?」


「勿論ですとも。それよりもこの異世界の貨幣、コレクターやマニアに売ればもっと高くつくと思いますがいいのですか?」


 質屋の男が示した額は相当のものだった。詳しく言えば、百円玉でさっきの果物が100個買えるくらい。他の硬貨は元の世界の値段と同じような順番の価値がついた。

 高額紙幣はお金になるか分からないが、緊急用にとっておこう。


「もっと高くか…いや、やっぱりいい!俺は普通の生活が送れればそれでいいから」


「そうですか?では、ありがたく買い取らせていただきます」


「助かるよ」


 最終的に換金したのは、日本円の1000円分。かさばったのでほとんどは一度預かってもらった。

 タカヤが換金を終えて質屋から出ると、数十人の子どもに囲まれていることに気がついた。しかもそのほとんどが手を後ろに隠している。武器だろう。


「まずいな…この世界にもいるのか…」


 子どもによる強盗。

 元の世界のどこかの国では、観光客が被害に遭っていると聞く。しかし、こんな白昼堂々とやってくるとは。

 幸い、高額紙幣は家にあるので、穏便に済ませた方がいいだろうと思い、財布の代わりに貰った皮袋をズボンのポケットから取り出そうとした。

 その瞬間、子どもたちが一気に走りより、



「「「ようこそ勇者様!」」」



「え?」


 子どもの一人が花束をタカヤに手渡した。


「あ、ありがとう」


「勇者様握手して!」


「はいはい」


「サインちょーだい!」


「さ、サイン?」


 獣の耳を持つ子どもたちがかわるがわるにやって来て、タカヤにいろんな頼みごとをしてきた。

 まだこちらの言葉は書けないので、サインは日本語で書いた。


「なんてよむの?」


「カンザキタカヤだ。まだこっちの言葉は書けなくてね」


「ゆーしゃさまもわたしとおんなじだね!」


「そうだね。勉強しなきゃだな」


 読めはするけど書けない。漢字の薔薇みたいなかんじ。あ、今のダジャレじゃないんで。


「ゆうしゃさまだっこ!」


「はいはい…よっと」


 抱き上げて立ち上がったときに周りを見ると、子どもたちの親も集まっているようだ。心配そうに見守っている。

 その中の一人が申し訳なさそうに頭を下げているので、手を振って、気にしないよう伝えた。


「ちょっとこの悪目立ちはヤバいかもな…」


 子どもを下ろしてから子どもの波を抜けて一人の母親に質問した。


「なんだってこんなに集まったんだ?」


「果物屋の辺りからすでに集まり始めていたみたいですけど…」


「まじか…全然気づかなかった…でも別に手の甲は見せてないぞ?」


 勇者の証となる手の甲の紋章。さっきのおばちゃんもこれで気づいたはず。


「勇者様、頭」


「頭?」


 そう言われて頭を触るが、髪以外特に何もない。そう、何もない。


「耳か!ありがとう、気付かなかった」


 完全に失念していた。この国は獣耳だらけなのだから、そうでない人がいたらそりゃ目立つだろう。


「帽子も欲しいけどまずは果物屋だな」


 まずはあのおばちゃんとの約束を守らなければ。


「なんだこりゃ…」


 果物屋に着いたタカヤが目にしたのは、人、人、人。果物屋が見えないくらい大盛況だった。

 どうにか人の群れを迂回して店の裏まで来て、ようやくおばちゃんを発見。


「どうなってんだ?」


「ああ!勇者様!それがね、勇者様が食べてたエイプルが欲しいってみんな集まってきちゃったのよ!」


 あの果物、エイプルというのか。

 それよりも、勇者の経済効果異常過ぎる。これからはお忍びで買い物しなきゃいけないのだろうか。


「そうだ、おばちゃん、換金できたから何かおすすめの果物くれないか?」


「それなら…このシューティングスターダストフルーツとかどうだい?」


「名前無駄にカッコ良すぎだろ!まあ、それ一個貰おうかな」


「これは70ロンだね」


「はい、70ロン。さっきは本当にありがとう。美味しかったよ」


「またおいで!」


 果物屋をあとにすると、後ろの方から「スターダスト十個!」などと聞こえるが、もうツッコまない、ツッコまないぞ。

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