到着、ミミ国
ミミ国に到着したゴーレム、ザ・カンザキは、元の家の姿に変形し、全隔壁を開放した。
ミミ国の地へ降り立ったタカヤの目に飛び込んできたのは、武器を携えた獣人、ビスティアの人々。
「は、はじめまして…でいいのかな?」
軽く手を挙げると、先頭に立っていた猫耳の女の人が剣の切っ先をあごに突きつけてきた。
「貴様!何者だ!こんなゴーレムを連れて我らがミミ国に攻め入るとは!」
「ちょ!ちょっと!?刺さるって!」
ファーストコンタクトで敵意むき出しなんですが。
まあ無理もない。ただでさえ存続の危機にあるビスティア、そんなところに他種族がこんな厳ついロボット連れて来たら、攻めこまれたと思うだろう。
「剣を下げなさい、ミーシャ」
「姫様!?ご無事でしたか!…ということはこのお方は…」
おそるおそるといった様子でこちらを窺う猫耳の人と、その後ろで武器を構えていた人々。
「やあ、どうも」
「勇者…様」
「まぁ、そうなるな…」
沈黙。
ですよねー、こんなのが勇者だと思えるわけないよねー。しかしタカヤの諦念に反し、思わぬ言葉が沈黙を破った。
「「「「失礼しましたぁぁぁ!!」」」」
「へ?」
謝罪の言葉と共に、皆持っていた武器を取り落とし、右膝を地に着いて右の拳を左胸に当てる姿勢に。
「あの姫様が、まさか勇者召喚に成功されるとは思ってもいませんでした…」
「おい、レイ。お前けっこうダイレクトにけなされてるぞ」
「いいんです…私、本当に魔法が得意じゃなくて…」
「まじすか…」
だから俺が召喚されちゃったのかー、そうなのかー、なんてもういまさら言えません。もうちょっと早く言ってほしかった。
まあ、帰る気はまったくないけど。
「お願いですから殺さないでください勇者様!」
「お前らの勇者のイメージどうなってんだよ!?」
先ほどの姿勢のまま肩をガクガクと震わせるビスティアの人々。ビスティアは勇者を暴君か何かだと思っているのだろうか。心外だ。
まずは対話が大事。レイに皆を立たせてもらい、話ができる状態にした。
「とりあえずこいつ、どこなら置いていいかな?正面に置いとくわけにもいかないし、俺の家でもあるし」
「その異常に速く走る、恐ろしいゴーレムですか…」
「走ってたのか…そりゃ怖いな…」
どうやらこのザ・カンザキ、転移魔法とかではなくちゃんと走っていたようだ。内部の揺れ軽減しすぎだろ。
「大丈夫大丈夫、こいつ動かしてるの俺だから。勝手に動くことはないよ」
「勇者様がそうおっしゃるのなら…ミミ国のすぐそばのジャレの森に拓けた場所があります」
「ミーシャ!なぜ国内ではない場所へ!」
「で、ですが姫様!私たちだって恐いんですよ!」
ビスティア、随分臆病な種族のようだ。レイもごめんなさい連呼するし。
「いいよ、俺はその方がいいから」
召喚される前からそうなることは決まってたんだから、今さら人が多い場所に置かれても困る。
「でも!」
「いいんだって。ミミ国の中に入るときはみんなを驚かせちゃうと思うし、また動くときがあったら不便だろ?」
「勇者様…お心遣い、感謝します」
「むぅ…」
若干1名、不満そうに頬を膨らませている(かわいい)が、その方がお互い困らないだろう。
「じゃあ、えーと…」
「ミーシャ・キティルです。ミーシャとお呼びください」
「うん、ミーシャ、その森の場所を教えてくれ」
「よろしければご案内しますが」
口ではそう言うが、やはり下がってしまう尻尾。ビスティア分かりやすっ。
「無理しなくていいよ…尻尾下がっちゃってるし」
「……面目ありません……」
心なしか尻尾が持ち上がった気がした。それだけ我が家が恐かったのだろう。
ミーシャから教えてもらった場所へ移動するために我が家へ戻ろうとすると、服の裾をレイが掴んでいたことに気がついた。
「本当に、来てくれますか?」
「呼んでくれればいつでも行くし、呼ばれなくても行くと思う。だからレイはひとまずみんなを安心させてくれ」
「…わかりました、頑張ります!」
レイを皆のもとへ向かわせ、タカヤはジャレの森へと我が家を移動し始めた。
今度は自動操縦ではなく自分でなんとか動かし、ジャレの森の空き地へと移動させることができた。
まずは割れた食器を買い、食材を調べに行かなければ。
「ん?待てよ、そういえば…」
俺、この世界のお金持ってないじゃん。




