ウォンデルF
朝ごはんを食べ終え、身支度を済ませたところでふと思った。
「なあ、ここからミミ国までどれくらいかかる?」
少なくとも、この場所から見える距離には建物らしきものが無いことは、昨晩確認済みだ。
「全力で走って一日かかるくらいですかね」
「全力ってどれくらい速い?」
「一時間に60キロメートル走れますよ!速さには自信あります!」
ガッツポーズをして見せるレイ。ダメだ。人の子である我には到達できぬ領域である。
それに、一日も走り続けるなんて。
「うん、俺ムリ!」
「そうですか…」
「しかもこいつらを置いていかなきゃいけないのは辛いな…」
生活必需品やら食料や道具、あと紙書籍や電子機器。どうせなら全部持っていきたいのだが。
「え?このゴーレム動けないんですか?」
「ゴーレム?あ、ああ、ゴーレム。そうだな、動けな……って、そうだよ、動かせばいいだけの話じゃんか」
なんてったってここはファンタジー世界ウォンデル。魔法があるのだから。
「操ったりとかできるかな…っと」
意識を集中し、このゴーレムがどこかの動く城のように動き出すイメージを練る。
「どうしたんですか?いきなり黙りこんで……きゃあ!?」
『全機、トランスフォーメーション!』
老年の艦長を思わせる貫禄のある渋い声。いや、どっから出てきた!
そして、けたたましく鳴り響く警報音とともに、シャッターのようなもので部屋ごとに区切られ、揺れ始める。タカヤとレイは揺れに耐えられずソファーに座った。
なんかイメージと全然違う。
「なんですかこれ!?」
「いや、俺もよくわかんないけど、トランスフォーメーションっつってるし変形するんじゃね?」
十秒後、警報音が止み揺れも収まると、
シャキーン!シャキーン!シャキーン!
『コンプリート!』
「いや、本当になんだよこれ!?終わった後にいらん効果音つけんなよ!」
雷魔法の着弾地点といい、自分の魔法はどうも不安定なようだ。不安定という一言でまとめていいものではないと思うが。
依然としてシャッターは閉まったままだが、何が起こったのか確認するために立ち上がろうとすると、ソファーの前に大きなディスプレイが現れた。
『目的地を 設定してください』
「カーナビかっ!」
画面には見たことの無い世界地図が広がっていた。
「広すぎるわっ!この近辺に範囲絞っとけよ!」
こんなやりとりを前にテレビで見たことがあるような。たしか映像を駆使する芸人さんだったか。
『拡大します』
カーナビの声に合わせて地図が拡大され、だいぶ範囲が絞られた。
「あ、意外と言葉通じた…レイ、頼めるか?」
「任せてください!えっと、今ここだから、ここから南へ…これです、ありました!ここを触ればいいんですか?」
「たぶんそうなんじゃないかな」
レイがそこをタッチすると、その地点に向かって現在地から矢印が伸びた。うん、完全カーナビだわ、これ。
『目的地を ミミ国 に 設定しました。自動操縦を 開始 します』
「おっ、こいつ自動でミミ国まで連れていってくれるみたいだぞ」
「タカヤがそういうふうに魔法をかけたんじゃないんですか?」
「え?あー、うん、そうだった。タカヤうっかり☆」
またしても誤魔化してしまった。勇者召喚が失敗したと思わせたくないから。
「これ、どうなってるんでしょう?」
レイが不思議そうに目の前の画面をつついていると、地図から画面が切り替わり、人型ロボットの図が現れた。
「えっと、なになに…《ウォンデル級移動住宅 ザ・カンザキ》って書いてありますね。あ、右下に小さく《元神崎邸》って出てますよ」
「なんだよウォンデル級て!しかも名前ビミョーだな!」
さらにこの図、どうやったらこんな形になるのか、と思ったほど変形していた。割と直方体っぽさは残っているが、顔と手はどっから出てきた。
「まあ、動き出すまで待つか。幸い、部屋の移動は階段でできるみたいだしな」
「そうですね、くつろがせていただきます」
ー6時間後ー
「外には出られないし、窓はシャッターで閉じられてるし、画面は地図に戻らないし!こいつダメじゃね!?」
変形後から震動がない。燃費が悪すぎて自分のスピリトが尽きてしまったのだろうか。
「さすがに長いですよね…」
『目的地 に 到着 しました』
「はい!?」
「おかしいだろ…」
シャッターが開き、窓から見えたのは木々に囲まれた大きな城。
「間違いありません、ミミ国です!」
「フォールド航行でもしたのかこいつは…」
貯蓄ができたので四日サイクルに切り替えまする。
なんというきまぐれ。




