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真実の中の虚構世界《フィクショニア》  作者: AKIRA SONJO
第2章【首都奪還プロジェクト、女の子が最優先です】
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47話【神域の力、か。すぐに追い付いてやるからな?親友fromジン】

───リィィィィン……………───


涼やかな音色が耳朶を打つ。


───………れるな。キミの声はい………───


音色に誘われて、音が届く。

しかし音色は明瞭でも、何故だか声は明確ではない。


───……丈夫。そのときは………───


そしてそれは消えていく。

掴もうとしても掴むことの出来ない、水の流れのように、遠く遠く、消えていく。。。


―――――





春の3月、5の日。


………5?

5って何!? また俺ぶっ倒れてたのか。そんな長い時間。

まぁ、3の日が凄い長かった気もするしな。何だか数話分とかレベルでなく長かった気もする。今までで一番長い日かも。

4の日は感じてさえもいなかったがな。

つーか、なんか変な夢を見たような。


さて、取り合えず現状把握。叩き込まれたスキルというのは、冷静さを生むんだな師匠。


身体のダメージは………、特になし。五体満足。だが、酷い筋肉痛に近いものを感じる。動かすことは出来るから、支障はない。

ただ、戦ってたときのような身体能力は感じない。

通常時の身体機能、寝過ぎてちょっとボヤケた感じしかしない。

右手の傷も、焔で治したまま、綺麗になっている。

ベッドの掛け布団から両腕を抜いて確認。

ついでに腕時計も確認。良かった、壊れてない。これ凄い頑丈に出来てるな。助かるぜ、愛着あるからな。

んで、時間は朝か。確か、倒れたのは夕刻に入る少し前。子昼くらいだから……、凡そ40時間ってところか。

場所は、城の部屋。俺に割り当てられた部屋だ。埃も何もない、清潔に保たれ……? てない部分が必死に隠された痕があるな。

そして、両腕を引き抜く時、いや起きたときから感じていた違和。

熱源がある。

何故か、俺のベッドから。怪我人に近い扱いのはずの俺のベッドの中で何らかの大きな熱源。


平たく言えば、誰かが潜り込んでいるのだ。

さて、両側(・ ・)から熱源を感じる。抱き着かれている。

大きくはない。そこまで大きくはないな、身長とかそんなとことか。

ただ、柔いのは確か。多分女性、いや女子か。おにゃのこか。

男なんざぜってー入れてなるものか。


どうしよう。掛け布団をめくるか? 恐らくは、心配して潜り込んでいるのだろう。ありがたいことだ。

だが、未だ朝方。無理に起こしたくない。

取り合えず、チラッとめくろう。起こさないように、そーっと。


よし、ビキビキいってる気もする腕をそっと動かして確認。


…………? 半分程予想通りだが、どういうことだ?


右にはヴェル。エルフの女の子。ちょい小さめで長い耳が特徴的な可愛い娘。

これは予想通り。前にもあったし。


だが、左に居る女の子は誰だ?

ヴェルよりも小さい。小学生で通る体躯。僅かに見える寝顔も、とても幼い印象を受ける。

いや…? 何だろうな。この、会ったことはないけど知っている感じ。

仲の良いクラスメイトの兄弟に初めて会ったときのような感覚。

でも、この女の子からは繋がりを感じる。

俺と繋がっているという、強い感覚。

一体これは、


バン!(扉が勢いよく開かれる音)


「説明しよう!」

「静かにしろ、絞めるぞ」

(もう絞めてる。もう絞めてるってばー!)


ジンが現れた。


騒音だったので、幾重咲きによる応用、柄紐から強化したワイヤーで首をキリッ♪と絞めてみた。(ワイヤーは両端が投剣の柄から伸びている)

アイコンタクトですぐに助けを求めてきたので、すぐに解いてやったが。


「ったくー。寝起きそうそうなんつー殺人術かけやがる」

「静かにしないテメーが悪い。あと声も似せろ」

「無茶言うなよ……。アー、アー。んで、説明しよう!(ミュート)」

「あの後のことからか?」

「ああ。聞きたいだろー?」

「まぁな。これ(・ ・)のこともあるし」

「それも説明すっからよー」


「んで、何時から待ってたんだ? あの登場するためだけに」

「一時間くらいだ」

「バカだな」

「勿論だ!」

「褒めてねーよ」


―――――――


春の3月、3の日に戻る。

ただし、視点は大幅に切り替わる。


「おい! 何故俺様を呼び戻した!」


一人称から、三人称へと。


―――


魔人達が本国と呼ぶ場所。

そこは西大陸から見て東にある大陸。中央大陸。

中央大陸の更に中央。世界の中心とも呼べる場所に、【本国】は存在する。


「説明しろ、D!」


リョーガと戦闘中、本領を発揮しようした直後に本国から念話が入り、水入りとなった。その直後のシーンだ。


「おやおや、バレス、君がそんなに怒っているとは。君が感情を露にしている所を見るのは何年ぶりだろうね」


Dと呼ばれた人物、いや魔人物はさも意外そうにおどけて見せた。

彼等が居るのは体育館ほどの大きさがある部屋。

そこには大きな透明な筒の容器があり、ぱっと見試験管かビーカーを逆さに置いたような感じのものが、数個置かれている。

形としては試験管と称したが、上は10m程。直径4m程で人1人なら充分すぎる程の大きさだ。

それの1つがエネルギー、源子のスパーク光が迸り、中にバレスを生じさせた。この容器は空間移動の基点であり、この部屋はその施設であるようだ。

Dは小柄であり、体躯の大きなバレスと比べると相当に小さく見える。しかしその存在感はバレスに引けをとらない。


「そんなことはどうでもいい。何故俺様を呼んだ、その理由を聞かせろ。俺様は死命の執行中にも関わらず呼び戻したんだ、それだけの理由が有るんだろうな!」


急くように捲し立てるバレス。

しかしDは落ち着いていて答えを返す。


「勿論だとも。君にしか、君の能力が必要な案件なんだ。あまり重要度の高くないリバティ、いやレーヴァテインの鞘たる少女の殺害りよも、余程重要度と緊急性の高い案件がね」

「チッ。………分かった。あんたが迎えに来たということは、それだけレベルが高いんだろうからな。だが、リバティについてきちんと教えてもらうぞ。不可解なことも多分に有るからな」

「ふむふむ。勿論良いとも。聞きたいのなら教えよう。しかし本当に珍しい。君がそこまで気にかかるとはね」


Dが珍しいものを見る目でバレスを見て、そして気づく。


「ふむ? それはそれとしてバレス。君の使っていた武器。死与奪命のデスサイズ。それはどうしたのかな? 持っていないようだけど」

「ああ。壊された。替わりを寄越せ」


Dが平常から一息で変わる。

喜びに近い、驚きへと。


「おやおやおやおや! アダマンタイトの鎌を壊された? それはそれは。凄まじい相手だね」

「あんたの言ってたレーヴァテインの主が居たんだ! そいつともっと戦り合いたかったというのに、呼び戻しやがって」

「へぇへぇ。成る程成る程。だから聞きたいのか。さて、替わりだがすぐには用意できない。だけどダマスカス鋼の鎌なら用意できる。アダマンタイトの、前よりも強いのを鍛造するから、今はそれで代用してくれるかな?」


合点がいったとばかりに頷くD。


「チッ。良いから寄越せ。そして案件を言え」

「せっかちだね。まぁ良いさ。緊急だしね。それじゃあ───」


バレスとDが部屋を出て、別の部屋へと向かう。

バレスという大柄ながら均整のとれた体躯。

Dという小柄ながら存在感を放つ女性体(・ ・ ・)

通る道ですれ違う魔人達は、皆即座に道を空け、礼を尽くす。

それだけ彼等が高い地位があることを示している。


そしてまた、視点は大幅に切り替わる。


―――――――


「おいおい。どーすんだよこれー」


三人称から、一人称へと。

つまり、オレ、ジンへと。

時列はリョーガが倒れた直後。

バレスという、おこがましいんだか戦闘に誠実なのかよく分からない強力な魔人。大鎌を携え、死を与える能力を持つ死神が如き魔人。

リョーガがリアトリスと戦っている途中でなんだか乱入してきた。

その後何故かリョーガはリアトリスを守り、リアトリスはリョーガに力を与え、まさかまさかのレーヴァテイン抜剣。

神代の武器を用いて追い返したは良いが、例のごとくお約束を守り派手にまぁぶっ倒れた。


さて、マジでどうしましょうかねー。

取り合えず、リョーガを抱え起こそうかとも思うのだが、リアトリスが近くに居て起こそうとしてるし、女性陣はティー以外ヤッバイことになってる。

っと、女性陣がフリーズだか怒りだか殺意だかヤンデレさんだかを発動してたようだが、復活したみたいだな。このバカ、ヤンデレに好かれるなー。ヤンデレは1人で充分だから、その辺なんとかしとけって。


「さて、リアトリス。君は、その、えーと、リョーガの仲間になったってことで良いのか?」

「それは違う」

「え? 違うのか?」

「正しくは、隷属。主、リョーガのものだ」


ズァァアアア、と何処からか強い思念が。ガン無視。


「んじゃあ、リョーガに付いてくるってことで良いのか?」

「うむ」

「取り合えずコイツぶっ倒れてるから、オレ達、リョーガの安息地(セーフポイント)に戻るんだが」

「勿論、付いて行く」

「そうか。………さて、オレはジン。そこで伸びてるバカの親友設定だ。宜しく」

「うむ」


一応、他の娘達も挨拶するが、あーあー、まっいいか。


「さてまずは。リョーガをとにかく抱えねーと」

「それは妾がやろう。妾の役目だ」

「いや、それはどーかな」

「何故だ。妾は主のものだ。支えるのは当然であろう?」

「あー。そのな。リョーガは女の子を助けるのは良いんだが、助けられると精神的にダメージ食らう奴だからなー」

「だけれども、支えたいのだ」

「なら私がやる!」

「ワタシも」

「…………いや、私は別に」


王女様も対抗して、エルフちゃんもノッて、騎士さんはちょいツンデレてる。


「いや、だから、オレがやるってば。それが良いんだよ、リョーガにとってはな」

「しかし。……まずは起こさなくては。地面に寝かせておくのは忍びない」

「あ、ちょ」


リアトリスが前のめりに倒れたリョーガを、腹側に腕を入れて抱え起こそうとする。

体格差は多少有るものの、神域の存在なら腕力も桁違いだろうし、恐らく抱えられるだろう。だけどなー。リョーガがなー。


腕を回し、まずは仰向けに。そして肩甲骨辺りと膝裏を抱える。

そして力を入れて立つ!

そしてリョーガが再度落ちる!


「え?」

「え!?」

「えええええ!!!??」


別にリョーガが重い訳じゃない。多少筋肉質だし、見掛けよりは重いが、そんなドスンッ! と見事な擬音が似合うような落ち方をするほどではない。

そう、問題は、


問題は、


「何故、ミニマム化してるの?」


そう、リアトリスが小さくなっているのだ!


―――


「てことは、ここに入ってるもう一人のロリはリアトリスで合ってるのか」

「おっ? 分かってたのかー?」

「まーな。顔立ちは似てるし、何より俺との強い繋がりを感じたからな」

「それじゃ、続きいくぜー?」


―――


先程までの体格とはまるで違う。

二次性徴半ばの、美しさの中に幼さを僅かに残した肢体と相貌から。

小学校低学年クラスの身長体格。

相貌もまた、身長相応のロリータフェイス。美しいよりも可愛いという表現の似合う、将来性たっぷりの美幼女といった具合だ。

大人時よりも、大きな瞳が印象的だ。躯のサイズに対しての瞳がより大きい分、強く記憶に残るのだろう。


現在此処にいる、誰よりも小さくなってしまっている。

チラッと周りを伺うと、エルフのマーヴェルさんが、かなり青ざめていた。やはり、衝撃的なのだろうか。


「ワタシの、アイデンティティーが……ッ!」


オイコラ。

つーか、気にするのそこかよ!

つか自分の属性をきっちり把握してるのかあのロリに近いエルフ。

策士肌か?


身長相応に、腕も短くなってしまっている。

それゆえに、抱えきれなくなったのだろう。


「これは、一体……?」

「あれ、リアトリス、君は意外と落ち着いてないかー?」

「………そういうことか。主も不可思議な身体をしている」

「いや、一人で納得してないで説明してくれないか」


オレは本来こういう役回りじゃないはずだ。どちらかと言えばボケ役なはずなのに。何故かツッコミだよチクショウッ!


「説明すれば、長くなるだろうな」

「ちゃちゃっと簡単でいいから」

「妾は主・リョーガに隷属している。妾は主の影響を受ける。これは、主の状況によるもの」

「三行かよ。いや、主って、コイツに何かあるのか?」

「強力な封印がかかっておるのだろうよ」

「封印、だと?」

「身体に、精神に、かかっている。その影響を受けて、妾の身体が縮んでしまったのであろう」

「それで、随分落ち着いてるのな」

「妾達は、鳳としての神性も持つ。元々身体の形はある程度揺らいでいる」

「よく、わかんねーな」

「加えて妾は数えで十になる。この身体でも違和感はなかろう?」

「だったら寧ろさっきまでのが違和感バリバリじゃねーかよッ!」


ダメだ。後でリョーガ経由でもう一度聞こう。


「とにかく。オレが抱えてくから、いいなー? もうコイツずっと落ちてるし、さっさと戻って診せねーと」

「そうだね。早くリョーガを連れて帰らないと」


「ジン、ジン。これ、どうする?」

「どうしたティー。……ってこれは」

「うん。魔人の持ってた大鎌」

「柄は折れてるが、刃の部分は大丈夫そうだな。良い戦利品になりそうだし、持ってくかー」

「それじゃ、アタシが持つね」

「気を付けろよ? 死神の鎌のようだしなー」

「うん。大丈夫」


ティーが2つに別たれた大鎌。柄尻側と、刀身側。

そのうち、まず柄尻を持つ。

持とうとして、


「重ォ!?」

「そんなにかー?」


現在オレはリョーガを背負ってるから、持てる状況にない。

いや、横抱きはしねーって。


「私がやってみよう」


シンシアが刀身側の柄を持とうとして、持ち上がる様子がない。


「どうなってるんだ、これ。どんな金属で出来ている!」


相当力を込めて、更には風の力で浮かせようとしたみたいだが、まるで効果はなかったみたいだな。

この中で、腕力や膂力があるのは。


「ボクも試してみよう」


後は、ルイしかいない。男だし、リョーガとある程度打ち合っていたから、ある程度のパワーはあるだろ。ん? なんか違和感が。


「スゥ。………ハッ!」


全身に源子を漲らせ、多少だがパワーが倍増。

軽い柄尻側を持とうと試みる。


「ハァァァァ!!!!!」


おっ。少しずつ持ち上がるぞ。って、あれだけ込めて少しずつって。


「ハァ、ハァ。あっ。痛ッ!」


あっ、指が挟まった。

って、見てる場合じゃねーよ。


「誰かあといないか。何でも出来そーで、パワー値不明なチートキャラは」

「呼びましたか?」

「居たな! さっきからなんなんだもうこのツッコミの連打は!」

「では、あれを持ち帰れば良いのですね?」

「あ、ああ。多分、何か役に立つ。最後にリョーガが大鎌に視線送ってたし」

「それでは」


チート侍女は木の棒を拾うかの如く、パッと柄尻も刀身も持ってしまった。


「流石ハンナ。凄いじゃない!」

「お褒めいただき、光栄ですリネット様」


凄いで済む問題か?


「チィ。霧がまた出てきやがったな」

「ワタシに任せて」

「マーヴェル? ……そうか、霧に働き掛けるのか」

「うん。視界確保位ならすぐに、………出来た」

「便利だなー。んじゃ、帰ろーぜ」


―――


「ジン。大変だったんだな」

「ああ。ボケだけで居られるって、結構楽なことだと知ったよ」

「しかし、俺に何があるってんだ?」

「それは後で話せば良いだろう。次は、何故ベッドにロリ二人が入ってるのとか。何故この部屋は戦闘痕があるのか、とかをな」


―――


皆で急いで下山。

全員、バレスが呼び出した死神の係累(仮)と戦っている時に、かなりの疲労がある。

力量そのものは大したことはなかったが、触れられない上に近付くのも危険。おまけに中々素早くて遠距離攻撃の命中率が低くなり、そこそこ体力と防御力もあり手を焼かされた。

よくリョーガはあいつ等を一気に倒せたな。それが神域の力か。


魔法や特技を使うためのエネルギー、源子は戦闘中じゃなければゆるゆる回復していく。

皆ある程度の回復は出来ているし、特に回復の早いシンシアは殆ど全快だ。

だが、体力やスタミナ、精神力はそうはいかない。

疲労というものはきちんと休まないと抜けないし、休息を挟んだとはいえ激戦だった。これ以上余計に戦いたくはない。

ここに出没する魔物や外獣はそれほど強くはなく、ノーダメで殲滅出来る程度だが、それはあくまで通常時の話。


回避できるものなら回避したいと思ったが、それは杞憂だった。

うちにはマーヴェルという便利キャラが居るのだ。

往路ではあまり使わなかったが、魔物避けの結界だかなんだがをかなり強めに使ってるらしい。

リョーガがあまり消耗するなと言っていたので、行きは使わなかったそうな。

確かに便利だこりゃ。特にこんな一人が使い物にならんときは。


そんなこんなで下山。

大作RPGの山越えって簡単すぎるような。食料の減りが早いのは納得だけど。


―――


「お帰りなさいリネット、皆さんも。ってリョーガさん!?」


セリアとオリヴィア。そしてジェイクとその他多分偉い人達が何らかの会議中だったようだ。

ってか、ジェイクさん以外誰だよ。


「とりあえず、リョーガを休ませたい。あとエティさんを呼んでくれ」

「すぐに手配します。皆さんも休んでください……? この娘は一体」

「リョーガが仲間に「正しくは隷属だ」した女の子だ。この娘にも部屋を用意してもらえるか?」

「れ、隷属?」

「気にしないでくれ」

「とりあえず、すぐにとはいきませんが用意は出来ます。ハンナ、疲れているとは思いますが、侍女の指揮をお願いします」

「かしこまりました」


リョーガを医療部屋に運び、後は侍女達に任せよう。

恐らく丸洗いにされるだろうが、そこまでは知らん。


―――


再びオレは会議の方に戻り、遠征中に城で何かなかったかを聞く。

同やら会議はもう終盤だったようで、ジェイクさんとセリア、オリヴィアしか残ってなかった。

つーか、残りの大臣的なの出す気ねーだろ。


「ふむ。こちらでは特に何も有りませんでしたな。訓練や哨戒、討伐も上手く交代で回っていたようですし。リョーガ殿は?」

「今汚れやらなんやらを洗われてる。そのあと検査・治療だと。まぁ、怪我そのものは問題じゃねぇ。色々と別の問題がな」

「神域。リバティ、いやレーヴァテインの鞘たる少女でしたな。仲間にするとは言っていましたが、本当にしてしまうとは」

「まさか、隷属までさせるとは。凄いですねリョーガ君は」

「本人は隷属なんて気に入らねー。仲間にする、って言ってたけどなー。リアトリスちゃん側は隷属って言ってるが」

「そのリアトリスさんの部屋は用意できました。ですが……」

「まぁ、最初はリョーガにくっつけたまんまで良いだろう。マーヴェルちゃんもリョーガにべったりしてるしなー」


バタン。


「到着しましたよぉ」

「エティさん。リョーガがまた無茶して倒れた。診てやってくれないか?」

「勿論ですよぉ。話は聞きましたぁ。面白いことになってるようですねぇ」

「ああ。神域の力まで手に入れたようだしな」

「研究のしがいが有るのですよぉ。その為にも、じっくり看させて貰いますねぇ」

「……ほどほどになー」


うーむ。ここの女性は相変わらず、手に負えない感が強すぎる。

リョーガはよく付き合えてんな。まぁ、あれだけの妹を扱いきれてる時点で、相当なものなのだろうけど。


「それで、何か新しい情報は?」

「食料が少し、心許なくなってきましたな」

「あと、どのくらい持つんだ?」

「これ以上の大きな変化がないとしても、以て数ヵ月。早くて1ヶ月と半分かと」

「猶予はないってか」


食料事情も、ちゃんとあったんだな。RPGはどこで食べてるか不思議だが。キャラバンを組むハートを探す旅は、きちんとその辺あるよなぁ。

元々、避難用に準備されていた、【砦】と【関所】には、相当量の食材。大体が保存食だが確保されていたらしい。

たまに商隊が訪れるあるようだが、国としての存亡が危ういこのフェイクライナを訪れる、或いは通る商人は少ないとか。

ルイがこの世界に来たときの初期地点の町は誰も居なくなっていたそうだし。

あの大変な騒動を起こす原因となったキャラバンは、相当に強いのか? だとしたら。


「国民感情とかは? こんな本当に崖っぷちな展開。疲れも溜まってるんじゃないのか?」

「ああ。その辺は大丈夫ですよ」

「このフェイクライナの国民は、変化にとても強い国民性のようでしてな。更に言えば、こういう事態には慣れているんですよ」

「ここまでの事態は、流石に無かったようですけどね」


いや、こんな状況デモってもおかしくないだろう。

まぁ、その辺はリョーガが手を回しに回ってるだろうけど。

この国だけが、こんななのか? こんなご都合主義みたいなのな。


「ふーむ。まぁ、オレが考えても仕方ないか。んじゃあ。そろそろオレもリョーガのところに行くわ」

「彼は我々の最後の希望に等しいですからな。万全で居て欲しいものですが」

「大丈夫だろ。アイツはバカだけど、強いからさ。それに」

「それに?」

「リョーガは、この国を助けると言ったからな。アイツはフェイクを使えばミスリードも使う。だけど、嘘が嫌いだからな。そして、言ったことは守る。そういう奴だからな」

「フフッ。よく理解してるんですね」

「親友だからな。これでも」


―――


「あれ? リョーガは?」

「リョーガ様は現在自室です。検査は終了。エティ様によると大事ではないようなので、自室にて治療を行うそうです。ジン様」

「あちゃー、行き違いになったか」

「ジン様。何か御入り用は」

「あー。特に今のところはないなー」

「かしこまりました。では、失礼します」


自室に戻ったって、誰が運んだんだ? 女性が運んでたらリョーガ相当落ち込むってのに。

侍女Bモブに話を聞いて、って、居たのかモブ。いや、侍女のモブが居ることはきちんと明言されてたな。

しかし、治療か。何すんだろーか。前みたいなことは色々と問題に発展したり、変な伏線になるから止めて欲しいんだが。


―――


リョーガに教えてもらったスニークを使ってリョーガの自室の前へ。気配を消すまではいかないが、足音を消すことぐらいなら可能だ。

ドアは、空いている。

中には、何人か居るな。リョーガはそこそこ大きい部屋を割り当てられてるから、多少人が入っても窮屈と言うほどではない。

どう部屋の中を伺うか。

気配探査の力なんてねーし、読める奴はどーなってんだ。

よし、ここは今日発現した力を使ってみよう。

………今日? なんだか数ヵ月経っているよ


ガタン!


変なこと考えないほうが良さそうだな。


「(ガンズ・カーニバル(ミュート))」


銃を一丁精製。火力は要らない。隠密性の高い、小さく小回りの効くものを。

そして、小さなスコープを。


新たに発現した能力、魔法。

スコープ越しの視界を直接脳内に送れる技術。

本来スコープは覗くものだ。しかし、ガンズ・カーニバルで手元から放れているものは覗けない。なので、その視界を送ってみた。

結果は成功、とも言えない。多方向から見ることも可能なのだが、とにかく負担が大きすぎる。

相手の情報を読み解くことも出来るようなのだが、脳が負担に耐えきれない。

結局は、目覚めたは良いがまるで使いこなせない欠陥技だ。


しかし、視界が1つ。そしてオレ自身が目を閉じることで負担を最低限に。

そうすると、オレの銃が偵察ユニットになるのだ!

しかも、ガンズ・カーニバルの銃操作限界範囲は広いとは言えないのだが、この偵察時には操作限界範囲が何倍にも広がるようだ。

オレ自身の戦闘力がガタ落ちするし、反応も鈍くなるが、これは使える能力になりそうだ。

さっそく、手のひらサイズのミニ偵察銃(名前考えねーとな)を潜入させる。

目を閉じ、視界チャンネルオン!


むっ。視界が少し狭い。だが解像度は高めだな。

部屋の上に操作。俯瞰する。


ベッドにリョーガ。

その上にエティさん。(何らかの器具で検査中?)

周りに、

心配そうに見ているマーヴェル。

全然心配していなそうなリアトリス。


あれ? 二人だけか?

リネットとシンシアは居ないんだな。

しかしエティさんは何をやってるんだ? 検査は終わったんじゃねーのかよ。


ガシッ!


ガシッ? 今、視界が揺れたようn


バキン。


「! ………ったぁぁぁ!!?」


いきなり視界が真っ暗に。ダメージがフィードバックする仕様なのか。眼をやられたような痛みなんだな。


「何をされているのですか? ジン様」

「やっぱり、あんたか。ハンナさん」


―――


「これは偵察銃。銃? なのですか。それは失礼しました」

「いや、オレが悪いんだが、よく気づいたな」

「すぐに分かりますよ? あの程度なら」

「もっと隠密性を高めないと、有用性は低い、かー」


送り込んだ偵察銃に気付いたハンナが、握りつぶしたらしい。

視界にハンナが写らなかった理由も、気付いた瞬間視界からフレームアウトするように動き、死角から掴んだと。

そもそもオレが居たことも気付いてたようだし、どうなってんだこの侍女は。


「これで、大丈夫ですよぉ」

「エティさんは何をしていたんだ?」

「身体にぃ、過負荷の反動がぁ、てんこ盛りだったのでぇ、各所にぃ、疲労抜きとぉ、回復剤を打ち込みましたぁ」


ああ。何かに似てると思ったら、注射器に似てるのか。

針? は細くないし、形も違うけど。なんとなくそんな感じがする。


「そんなことまで出来るのかよ。本当にヒーラー役じゃないのか?」

「単なる研究の副産物ですからぁ。実際の医術師には及びませんしぃ。道具がなければ殆ど何も出来ませんしねぇ」


いや、その道具を造れたり操れるのがそもそも凄いと思うのだが。


「んで、リョーガはいつ頃目覚めそうだ?」

「今日明日では無理だと思いますぅ。早くて明後日の夜明けくらいですかねぇ」

「大丈夫なのか? それ」


毎度毎度、疲労で寝るのはともかく、栄養だとかは。


「栄養剤もきちんと飲ませましたからぁ、大丈夫ですぅ。………ふぅ」


オイ。なんだそのため息は。なんで微妙に惚けているんだ。

いやまてよ。どうやって飲ませた? 口に入れるだけじゃ流石に無理だろーし。………よし、思考停止だ。


「さぁてぇ。リアトリスさんでしたねぇ?」

「うむ」


ん?


「リョーガさんは大丈夫ですよぉ。あなたには分かっていたようですけどねぇ?」

「主とは繋がっているゆえに、主の体調はある程度分かる」

「ふぅん。隷属と言ってましたねぇ。面白ぉい対象ですねぇ。リアトリスさぁん、すこぉし研究に協力してくれませんかぁ?」


ヤバい。なんかヤバい。大して口調も変わってないし、表情も変化はないんだが、とにかくなんかヤッバイ雰囲気出してやがる。


「それは出来ぬ」

「えぇー? ダメですかぁ?」

「ダメ、だ。妾の全ては主のものゆえ。妾に決定権もない」

「それがぁ、隷属なんですかぁ?」

「それは違う。隷属は意のままに操るという訳ではない。他の例は知らぬが、妾の場合、レーヴァテインの所有権と行使権。妾自身の全権だ。だが、妾には妾自身の意思がある」

「成る程ぉ? あなたにとっての隷属とはぁ、肉体や能力は使えてもぉ、精神まではぁ、操れないのですねぇ?」

「うむ。妾には拒否権はないが、抵抗は出来る。妾が同意しなければ、力は満足に使えまい」

「ふむふむぅ」


研究、されてるぞ。普通に研究されてるぞおい。


「それではぁ、リョーガさんは?」

「主は理想の、否、理想以上の主だと思う。現時点で、妾が拒否することはまずないだろう」

「リョーガさんが許可したらぁ、あなたを研究してもぉ?」


既にしてるだろ。


「あまりいい気はしない。それに、主は許可しないように思う」

「確かにぃ、彼は自分はともかくぅ、他人を巻き込むことはぁ、良しとしてないみたいですしねぇ」


ダウト。正しくは女の子は、だな。

てゆーか、ほぼ初対面なのにそこまで見抜けるものなのか? 隷属の関係って。つーか、リアトリス側が従じゃないのか?


「エティ様、リョーガ様はもう安心していい状態なのですね?」

「そうですねぇ。私の検査ではぁ、そう結果が出てますぅ」


あっ、ハンナが口はさんだ。ここで研究されるのもなぁ。


「それでは、エティ様は仕事を進めた方がいいのではないのでしょうか」


仕事? 研究じゃなくてか?


「それもそうですねぇ。……楽しみは後に取っておくのも、乙ですねぇ。それでは、マーヴェルさん、リアトリスさん。また宜しくですよぉ」

「……うん。また」

「主を通してくれれば」


あれ、マーヴェルも研究されてたのか。エルフも対象かー。節操ねぇな。確かリョーガが言ってたな。エティさんの研究対象は人間、人種が主だと。その中でオレ達ビジターは特に興味深いのだと。

まっ、特に特にリョーガに御執心みたいだがな。


「さて」

「それでは」


ゴソゴソ。(マーヴェル、リアトリス両名が掛け布団を捲った音)

ピタッ。(お互いに気付き動きを止めたオノマトペ)

ギラッ、バチバチッ。(両名の視線が合わさり、火花を上げている音)


っておい! 火花散ってるよ! 焔使い! そっちも炎の精霊使えたな!


「……一応聞く。何する気?」

「リョーガは妾の主。ゆえに寝所を共にする」

「ゆえになってない」

「こちらも聞く。何をするつもりだ」

「早く治るようにくっつくだけ」

「治癒能力でも?」

「簡易的なものなら」

「あの妙な女性が回復はしたと言った」

「それでも。ワタシの精霊魔法なら負担を掛けずに癒しが出来る」

「妾の焔は生命の焔。ゆえに妾の焔なら容易に回復出来る。妾に任せればいい」

「ダメ、ワタシがやる」

「妾は主の鞘。妾の役目だ」

「ワタシがやりたい。だからワタシがやる」

「………」

「………」


「「…………………」」


また嫌な沈黙だな。


バッ!


「燃えろ」

「<渦巻く風は全を散らす>」


リアトリスが小さな焔弾を至近から放つ。

マーヴェルが気流の壁で焔を散らす。


即座に攻撃、即座に対処行動。

って、あぶなッ!


「焔の出力が著しく落ちている……? 主の封印の余波か。まるで力が出ない」

「焔が使えないの?」

「使えぬ訳ではない。相当に落ち込んで、神域に程遠い焔、いや炎でも、普通の相手に対しては過ぎた力だ」

「言ってくれる」


御互いがにらみ合い、


ザッ!


そこそこの広さを、だが戦うには狭い部屋の壁際にお互い飛び退く。

距離をお互いに稼ぎ、そして。


「たとえ出力が低くても、神域でないにしても、精霊族(エルフ)の一人ぐらい、軽く捻れる」

「アナタに合わせて炎で相手してあげる。鳳とか神域とか、ワタシには関係ない」


リアトリスは半身になり、右腕を曲げ、顔の手前に。

マーヴェルは両手の手のひらを前に押し出すように。


「燃えろ!」

「<駆け抜けろ炎精><炎が名の如く猛り撃ち抜け>」


リアトリスは腕を振り抜き、小さな、しかし高密度の炎弾を放つ。

無造作にも見える腕の振りだが、コントロールは正確だ。

対してマーヴェルは二重詠唱。シンシアが得意としている、魔法詠唱の少し高度な技術。

精霊で形をつくる何時もの技ではなく、精霊使役による魔法で、真っ向からの攻撃。

手のひらに現れた炎が、形も成さぬままに飛び、燃え上がりながら弾丸へと成型されていく。


その両攻撃がぶつかる、その瞬間。


バシュッッッッッ!!!


「むぅ!?」

「ッ!?」


水煙が部屋一体に充満する。


「……水?」

「水撃、誰が」

「オレだよロリッ娘ども」


バシュ!

バシュ!


「ンッ!?」

「……痛い」


「ったく。いい加減にしろよなー」


―――――


「水鉄砲?」

「ああ。オレの銃火器シリーズの1つで、ネタ銃みたいなもんだが、放水銃ってのは、案外使い勝手がいいもんだな」


この二人の戦いに、文字通りに水を差したのはオレだ。

流石に看過出来なくなってきたしな。


「全く、火花は散らすだけにしとけ。リョーガは無事でも、部屋は壊れるんだからな」


余波が部屋にダメージを与えている。誰が直すのだろうか。


「でも」

「しかし」


ビシュ! バシッ!


「次は実弾な」

「……………はい」

「…………でも」


ズダンッ!


「………痛い」


それでもごねるリアトリスに、放水銃ではなく、水の圧縮弾を額に撃ち込んだ。大したダメージはない。


「困るのはリョーガだぞ? その辺にしとけってー」

「………了承した」


ショボーンとしているロリ2人。


「ったく。いいか? リョーガの脇は2ヶ所ある。片方ずつ使えばいい」

「「!」」

「ケンカしねーで、おとなしくくっついてるなら構わねーからさー」

「分かった!」

「了承した!」


そーいや、2人ともオレの言うことも聞いてくれるのか。

一応はオレも信じてくれてるのか?


「それじゃ、オレも休むけど、ちゃんと休めよ?」


ゴソゴソ。


きっ、聞いちゃいねぇ。

落ち着いたならいいか。


さて。

バタン。(扉の音)

バタンキュー。(オレ限界のオノマトペ)

ガシッ。(ティーがオレをキャッチ)


「お疲れさま」

「疲れてるとは思うが、頼むーZZZZ……」


―――――


「ある程度の経緯は分かった。他に何かあったか?」

「特にないな。昨日はオレも起きたの遅いし。ただ、女の子達がその2人を見て、またこの部屋が終わり掛けただけだなー」

「………それでこの部屋は炎以外のダメージもあんのか」

「おっと、そろそろいい時間だなー。ロリッ娘起こして、飯に行こうぜ。早起きしすぎて腹減ってんだー」

「アホか。……いや、この2人は寝かしておくよ。気持ち良さそうに寝てるしな。もうしばらくは起きそうにないし」

「そうか。んじゃ、行こうぜー」

「おう。………なぁジン。俺の服誰が着替えさせた?」

「………さぁな」

「………」

「………」


「先に行ってるぜ☆」

「待てやオイ、ジン!」


―――――


────エティ・ダーリングの研究レポートより抜粋。


彼の戦闘力に変わりは特になし。

確実にレーヴァテインの影響はある。

封印という新情報。


そして、


彼の致命的な欠陥が存在する?


研究意欲は尽きず。

彼こそが────。


以降、データ欠損により情報なし。

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