5話【ちょっ、俺魔法使えないんだが!」
シンシア⚫ミルワードは憤っていた。
(なぜあんなぽっとの男に頼むのだ)
私や、近衛隊もある程度の強さがあるのに。
セリア様やリネット様は、私達を信頼して下さってないのか。
あんなよく分からない男なんて。
補足すると、彼女シンシア⚫ミルワードは男という存在が嫌いな訳ではない。
自分の実力を信頼されてないような、そんな感覚が嫌なのだ。
(この決闘で、今一度私の実力を王女様達に示す!)
決闘相手を観察する。
身長は172㎝程だろうか。筋肉はそこそこついているようだが、
?身のこなしが、一般人じゃない?
しかし、【ビジター】とはいえ、この世界に来たばかりだそうではないか。ならば、魔法は使えないはず。
リネット様の発言から、源子を手や足に集中して、威力をあげる程度は出来るようだが。
つまり、遠距離技は無い。
ならば、遠距離から攻め立て、近距離で決める。
ある程度怪我しても、セリア様ならば治せるだろう。
剣を構え、魔法発現の為、集中を開始する。
――――――――――――
お約束なのか?これは。
バトルすることになるとは。
カチーンときたとは言え、女の子殴るとか、気が進まねぇな。
でも、勝つしかない。
怪我は治せるらしいが、させたくねぇ。
(しゃーない。あの技で決めるか)
さて、まずは相手の観察だ。
身長は150程。髪は薄い金色と黄色の中間くらい。それを肩辺りで切り揃えている。
瞳は、強い意思を感じるな。敵意もだけど。
色はサファイアブルー。この辺りの人間は、蒼か翠が多いな。
華奢だが、しなやかな筋肉かな。弱そうなイメージを持てない。
胸囲は、うん、未来に期待しようか。言及はしない。
装備は、服は軽装、しかしガントレッド?脛当もつけてる。
何より、腰の剣だ。細いな、レイピアってやつか?
ククク、厨二で鍛えた観察力。何処で役にたつかわからんな。
「それでは構えて下さい」
無表情系侍女が審判を務めてるのか。
構えね。カッコつけるか。
(シントウ流の恐ろしさを見せてやる)
シントウ流とは、この俺新藤リョウガさんの造りし俺だけの流派。
習ってきた武術と、培ってきた厨二の集大成だ。
まっ、何にも完成してないし。かなり適当だがな。
シンシアも構える。
!あれはレイピアじゃないな。細身の直剣。
斬ることより、突くことの方が強いだろうな。
さてと、バトルに意識を切り替えるか。
―――――――――
「では、決闘……開始ィ!!!」
だが俺は動かない。両手を浅く握り、ボクシングっぽい構え。
「どうした?来ないのか」
「レディーファーストだ。そちらからどうぞ?」
まっ、出方を伺ってるだけだがな。
「なら、その余裕ごと斬るまでだ!」
なんだ、剣を縦に構えた?
「<風は剣に寄り添う>さて、いかせて貰おう」
!!!あれは、剣の周りに風が!
あれが魔法か!
「<斬撃は風に乗りて遠方を断つ>シッ!」
!咄嗟に右に飛ぶ。
「斬撃波、ってやつか。これが魔法かよ。なんて威力だ」
城内にあった闘技場みたいな場所で戦う俺達。
おいおい、俺の後ろの壁が斬れてるぞ。
「かわしたか。ならば、連射だ!」
シュイン!シュイン!ズパァァァ!!!
「うおおお!!!やべぇぇぇ!!!!!!」
右ジャンプ!左ステップ、バック、右へ、急停止!
「よく避けるな。ならば<風は軌跡に準じ薙ぎ払う>」
真一文字の軌跡。言葉の意味は。
(広範囲攻撃!まずい、逃げ場は、真上!)
源子を足に集中、ハイジャンプ!
「<風は切っ先から打ち出される>」
「ぐっ、がぁぁぁあ!!!」
ジャンプした先に風の砲弾が飛んできた。
(くそ、戦いなれてるな。咄嗟にガードしてもこの威力か)
(これでも決められないか)
シンシアは手加減していない。
全力こそ出していないが本気だ。
そもそも、最初の斬撃波、連射を避けきれるとは思わなかった。
かなりの敏捷性。判断も早い。
だからこそ、薙ぎ払いの風で動きを制限、風の砲弾で狙い打ちの二段構え。
(かなりの源子力を込めたというのに。どれだけ耐久力が高いと言うのだ)
源子を集中し防いだにせよ、かなりのダメージのはずだが。
(存外戦い慣れている。仕方ない、近距離で仕留めるか)
「<風は我を護り渦を巻く>」
防御の強化。
バリアのように、気流がヴェールを型作る。
シンシアは風の魔法を得意とする。また武術も習得している。
風を組み込むことで、武術の性能を増しているのだ。
「<風は剣の能力を底上げする>」
剣の強化。
準備は整った。
「いざっ!」
(あれは、風の強化魔法といったところか)
言霊を用いて魔法を発現させるのが、この世界の魔法なのだろうか。もしくは彼女独自か?
どちらにせよ、これならばある程度効果を読める。
だとすれば、シンシアは近距離戦に持ち込むつもりだ。
(俺の手札は、多少頑丈な身体、拙い源子力集中による強化、そしてシントウ流(笑)だ!近距離ならありがたい。迎え撃つ!)
実はそこそこ風の砲弾が効いているのだが。
そこは気合いで無視。
源子を両拳、両足に集中。
「さぁ、来やがれ!」
「<風発条は足裏にて跳ねる>」
ドンッと加速する。
一気に距離を詰める。強化剣による左斜め上からの斬撃。
「シントウ流<瞬加>!」
(また避けられた。この男、加速技を持っているのか)
右へ逃げる相手に追撃。右へ振り抜く。
「<瞬加>!」
(!?後ろに回られたのか!加速力が高いっ!)
後ろを向くまでの時間が足りない。
(大丈夫だ。間に合う)
事前に張り巡らした風の防陣がある。
例え強い攻撃を受けても、風は向きを変え、威力を削ぐ。
しかし、それは相手が普通ならの話。
「シントウ流<叩き割り>!」
(なに!?はたく、だと。なぜそんな攻撃を)
速度はあるものの、威力は弱めの攻撃。だが、
パキィン!
(そんなっ!強引にヴェールを破壊しただと、魔法を知らぬ者が出来る芸当ではない!)
(おっしゃ、成功だ!)
叩き割りなどと、名前をつけてはいるが。
実は名ばかり、単なるはたきだ。
源子を込めて、風の護りを手の掌で圧迫するように破壊する。
(案外上手くいくもんだな。その前の瞬加もなかなかだし)
瞬加もまた、単なる加速だ。
源子を足に込め、一足で踏みきる。
名前をつけて行動すると、効果がある気がするのが不思議だ。
(後はその剣、弾かせて貰うぞ)
風の護りを壊され、一端距離を取ろうとするシンシア。
「逃がすかよ!<瞬加>!」
(笑っ、た?………罠か!)
「<風は切っ先から打ち出される>!」
再度放たれる風の砲弾。
(食らうわけにはいかねぇ。でも避ける隙はない。なら、砲弾を打ち消すしかない!)
右手を貫き手に、脇辺りまで下げる。
そして、
「シントウ流<貫き>!」
一気に右手を突き出す!
風の砲弾と源子を込めた貫き手。
勝ったのは、
ドバン!
「そん、な、砲弾を、貫くなんて!」
更にもう一度踏み込む!
剣を振り上げ、後ろに下がりながら構え直している。
距離が近付く。
俺から見て、左上から斬りかかってくる。
この場面でやることは1つ。
「真剣白刃取り!(+叩き割り)」
風の強化を砕きながら剣の腹を押さえる。
「!!!」
左側へ払いながら、右手をある形で構える。
(これで決める)
「シントウ流<デコピン>!」
流派関係無いわこれ。
だが、源子を込めた指は、恐ろしいダメージを発揮し、
シンシアは気絶した!!!
「ふぅ、これで良いか」
「はい。決闘はこれまで!勝者、リョーガ様!」
はぁ、モンスター戦とは比較になんねぇほど疲れたな。
だが、魔法ってのはやっぱすげぇな。
斬撃波出るし、風が飛んでくるし。
きちんと学んで、俺も使えるようになりたいね。
そういや俺のシントウ流(笑)、なかなか効果アリだ。
(笑)はとっても良さそうだな。
「お疲れ様です、リョーガさん!やっぱり凄いですね、近衛隊長をあんなにあっさり」
「いや、でも凄いな。魔法もだけど、剣筋はかなり綺麗だった。そういや、気絶してるけど、大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。これくらいならすぐに目を覚まします。回復もかけておきましょう」
セリアが言霊を唱える。
シンシアの身体が柔らかな翠色に包まれる。
「リョーガさんは大丈夫ですか?砲弾を1発受けたと思うのですが」
「あー、大丈夫だ。これくらいなら回復しなくてもなんとかなる」
実はちょっとだけ、ちょっとだけど痛い。
あれで体力ごっそりもってかれたからな。
「それでは、シンシアが目を覚ましたら、会議場へ戻りましょう」
「おーけー」
――――――――――――
「ふーん、この世界はそんなことになってんのかー。なら、オレの力を貸してもいいぜー。あんたらには恩があるからな」