表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真実の中の虚構世界《フィクショニア》  作者: AKIRA SONJO
第2章【首都奪還プロジェクト、女の子が最優先です】
46/54

42話【もうすぐ山頂。だけどその前に休まないかい?fromルイ】

「グッハッ」


倒れていた男が、立ち上がった。

口からは血が出ている。喀血しているが、気にせず男は、いや、

魔人、ロウディーガは立ち上がった。


「侮り過ぎたか」


立ち上がったロウディーガは振り返る。


「竜だけで型が付くかとも思ったが、やるようだ。半数で潰すぞ」

「魔人180柱も、ですか?」

「ああ。今のうちに消しておいた方がよい。準備は」

「整っています」

「殆どが解放も出来ない出来損ないどもだが、これだけの数。それにこのロウディーガの全力を出そう」


竜に乗り移っていた魔人、ロウディーガ。

手に持つ杖、黒に彩られた鋼鉄に、鈍く反射する紫の宝石が先端に配置された、戦闘用のメイス。魔法補助であり、殴打用の鉄杖。

それを振り回しながら、ロウディーガは凄絶な笑みを浮かべる。


「我がネクロマンシスはあの程度ではない。貴様らの命をもって証明してみせよう!」

「おや、それは困りますね」

「ッ!何者だ!」


ロウディーガ、そして部下らしき魔人のすぐそばで、誰かの声がした。誰も居ないことは確実だった。

霧は、マーヴェルに協力したあと完全に消え去った。

1度完全に消えてから、緩やかに霧がかっていくのだろう。

霧もなく、クリアな視界。にも関わらず、いつの間にか現れた。


メイド服という出で立ちをした、奇っ怪な少女が。

いや、少女というべきではないだろう。少女というには、少しグバッ!?


(少女で結構ですよ?)


(゜Д゜;)……………ゴホンッ、メイド服、いや正しくは侍女服というべきか、完璧な正装をした少女は、一礼をしながら名を告げた。


「フェイクライナ王国、第二王女リネット様の筆頭侍女ハンナで御座います。お見知り置きする必要は、御座いませんよ」

「侍女だと?侍女ふぜいが、邪魔をするなっ!」


部下がエネルギー弾を放つ。普通の人間なら、それも華奢な女性なら、簡単に命を奪える威力。

それを、


「はっ……!?」


握り潰した。

音速程はないが、それでもかなりの速度。そして密度を持ったエネルギー弾。

それを、苦もなく握り潰した。ダメージはない。


「弱いですね。リョーガ様もこの技は使えますが、比較にも値しません。何よりも貴方の技は醜いですね」

「貴様ッ!」

「待て、そして落ち着け。ここにさっき言った半数、180柱を呼べ」

「ロウディーガ様!?」

「この娘、強いなんて次元ではない。お前では、力を感じることさえかなわない位にな」

「…分かりました。繋ぎます」

「…………成る程。貴方の能力は念話に類するものですね。ですが無駄ですよ、既に通じません」

「……!!?ロウディーガ様、誰も繋がりません!」

「何…?まさか娘、貴様」

「ええ、数えてはいませんが何百体と屠りました。簡単に壊れてしまって、面白味の欠片も有りませんでしたが」

「殆どが出来損ないとはいえ、全員を無傷で倒すだと?何人か解放の出来る魔人も居たはずだが」

「そうですね。狗、炎、雷鳥の魔人が居ました。多少は耐えましたが、その程度で」

「どうやってそんなことが出来る!」

「こうやって、ですが」


有り得ないものを見るような目で、口振りで叫んだ部下は、消し飛んだ(・ ・ ・ ・ ・)。なんの比喩でもない。

そう、それをスローモーションで語るなら。

叫んだ直後、侍女が音さえも置き去りにする速度で、尚且つ空気を破壊しない動き方で、部下に迫る。

近付いて、左手を部下に向け、掌底を放つように伸ばしていく。

そして、触れる。そして、消し飛ぶ。

触れた瞬間、消し飛んだ。


「何だと…!?何だとぉ!?」

「有言実行、この造語の通りにしただけですよ?」

「くっ、このぉ!」


メイスを、振りかぶる。

紫紺の軌跡を刻みながら、重い鉄杖が侍女に迫る。

瞬間、鉄杖の長さは半分以下になる。


「ッ!?」


声にもならない驚愕を上げる。

それもそうだ。鉄杖と表現はしているが、鉄どころか、鋼鉄を越える硬度を持ち、紫の宝石もかなりの硬度だ。

また、靭やかさも持っている。殴打用の武器だ、硬いだけでは砕けてしまうため、柔らかさも併せ持つ。

なのに、消えた。そう、砕けたのでも切れたでも割れたでもない。

消えた。

先程の部下と同様、消し飛んだ。


「がァァァ!」


特攻。拳を握り締め、ただ特攻する。

武器を失ったロウディーガは、錯乱したかのように特攻する。


「つまらないですね」


腕を一閃させる。その動きは、達人クラスであっても捉えるどころか気付くことさえ困難なもの。

手がロウディーガに触れた瞬間、全身の骨という骨が砕けた。

別段、消滅魔法が使える訳ではない。そもそも、現在・ ・の彼女は戦闘用の魔法が一切使えない。

単に、強すぎるだけ。衝撃の伝導速度よりも速く、余りに強すぎる一撃を加えられた、だけ(・ ・)


「身体が残った分、マシでは有りますか」


興味もなくなったと言いたげに、倒れたロウディーガの身体に背を向けて立ち去ろうとする。

しかし、立ち止まる。


その後ろから、幽鬼が如く立ち上がった男が居たからだ。


「成る程。ネクロマンシス。自分の死体を操るのが、貴方の奥の手ですか」

「まぁな。これは死んでいるから、戦闘終了後すぐに本国に戻される、正しく奥の手だ。元々より、何倍、何十倍もの力を発揮する」

「それなら、少しは楽しめそうですね。壊しがいが有りそうです」

「娘、ハンナと名乗っていたな。貴様、侍女にも関わらずS属性か?」

「いいえ、私はジン様にも称されたように従属性持ちです。この属性は、私が認めた主の器たる者のみにしか発動しませんがね」

「そのわりには、随分と破壊衝動が強いようだな」

「ええ。私は、MでもありSでもあるようですから」

「自分で言うことなのかそれは」

「既にリョーガ様に勘付かれておりますし、別に構いません。何よりも貴方はここで朽ちますから」

「はっ、やってみr…!?」


動いたことさえ、意識できない。

目にも止まらぬ、ではなく、目にも映らない、ですらない。

衝撃が加わり、痛覚が痛みを訴えて初めて何が起きたか気付いたのだ。


「強く力を籠めただけでこれですか、やはりつまらないですね」

「なっ、なんなんだこの理不尽なまでの力は。侍女?強い力を持った侍女、まさか、貴様、あの、伝説の、神話に存在すr……」

「おっと、それ以上は困りますね。それはバレてはマズイですから」


ロウディーガの身体は、消し飛んだ。

ネクロマンシスによる、再生能力の発動もなく、そもそも再生する基盤となる肉体を消し飛ばしているのだ。

タイミングが良すぎる気もするが。

喋っている途中で、何か重大な情報に気付いた途中で消すというタイミング。


「ジン様もまだまだですね。まだ生きているというのに、死んだと判断するとは。勘の精度が悪いようで」


侍女服の何処からか、水筒を取りだし、手に水を掛けた。

手を拭うようだ。


「さて、リョーガ様。邪魔はほぼ排除しておきました。きちんと、リバティを封印する匣、レーギャルンの少女を連れて帰って下さいね?」


何かのネタバレを含ませつつ、独り言をする。


「リョーガ様。貴方なら、私の目でさえも見通せない貴方ならば、リバティを掴む資格が、器が有るはずですから」


そして、侍女は消える。

何時合流するか、タイミングを図るように。


―――――


「いででででで!!!」

「もう、無茶し過ぎだよジン!」

「肋骨4本はイッテるな。随分と無茶したみてーじゃねーか、ジン」

「リョーガ、お前こそ身体中傷だらけじゃねーかー?それ、操炎の反動だろー?」

「そうだよリョーガ君!全然治療もせず動き出して!限界越えちゃうよ?」


一旦別れ、リョーガとリネットは紅毛の魔人アズメィアを。

色々と謎の侍女ハンナを除く残り5人で飛竜、或いは魔人ロウディーガを撃破した。

ロウディーガ撃破直後、リョーガ達が合流。

男二人の無茶のし過ぎを、それぞれヒロイン格の女の子達が諫めている。

それを、ボク、ルイは生暖かい目で見ている。


肩甲骨辺りまで伸びた茶色の髪。

155㎝の身長に、中性的な容姿、体格。

それが今のボクの見た目だ。

格好つけた話し方、自分のことをボクと表す喋り。

これは昔、宝塚を観て憧れた幼少時代を過ごした結果、基本となるほど身に付いたもの。

だけど、見た目は違う。

本来の身体はもっと華奢で、容姿も今ほど中性的ではない。

今の姿は、魔法によって造られたもの、と言うのは正しくない。

この姿は、この世界に来たときに造られた。

リョーガ達には、この世界に来るときのことを話した。でも、全部じゃない。少し隠してることもある。

今の姿は、ボクの憧れの姿らしい。この世界に連れてきてくれた女神っぽい人が言っていた。

この姿は、結局のところ魔法で、ボクの憧憬が基となって造られている。

ボク自身が造ってるみたいだけど、意識していない。

常時型魔法、と言うよりはアビリティと言った方が分かりやすいかもしれない。

だから、魔法と言うのは正しくない。


そしてボクは、女の子だ。

周りは、一部を除きボクのことを男だと認識している。

それはボクも望むところだった。

そう、だった(・ ・ ・)

女の子が一人なのと、男が一人なのでは、随分と違う。

向こうの世界でも、一人で居ると良くナンパされた。あまり愛想や魅力のないボクでも、だ。

でも、コスプレして、男性として振る舞うと途端にそれはなくなる。

寧ろ、女の子にキャーキャー言われる。何人かには見抜かれたりしたけど、やっぱり男のカッコだと色々と楽だった。

この世界で、ボクが女の子と気付いているのはリョーガとハンナさんだけ。

演技力には自身があったけど、一目で見抜かれていたらしい。

だけど、リョーガはボクのことを言いふらしたりしない。

何より、ボクへの態度、扱いが普通だ。

女の子扱いや、男友達扱いと言うより、同じ趣味の友達みたいな扱い。そして、戦友という扱いだ。それ以上でも以下でもない。

だから、とても居心地が良い。

ボクが望んでいる、いや、望んでいた対応をしてくれる。

望んでいない対応を、全くしないでくれる。

全くもって、不思議な友人だ。

ハンナさんは良く分からない。何なんだろう、こちらはこちらですごい不思議だ。

でも、仲が良くなってくると、隠していることが心苦しくなってくる。

フェイクライナの人達は、個々にいる人達は、とても良い人達だ。

人間性がとても良い。心根が、魂が、芯から優しく温かい。

フェイクライナの国民性は、優しく温かいと言うのもあるけど、個々にいる皆はよりその性質が強い。

エルフのマーヴェルも、口数は少ないけど、とても優しいことが伝わってくる。

ティーも、ジンのことを気にしながら、ゴゥアフトという一団を纏め上げているし、好感を持てる。

ジンも、最初はボクのことをかなり警戒していたみたいだけど、戦いを通して信用してくれているし、警戒しながらもボクにも優しい。なんだか軽い口調だけど、芯に熱いものを持っている。

リョーガとの異様なまでの仲の良さは、何だかときめ………コホン、少しあれだけど見ていて面白いし、温かい。心がポカポカしてくる、ちょっとだけ別の理由が有る気もするけど。


さてどうしよう。

何時かは明かしたいけど、何時になるのかな。


―――――


「<精霊は宿り癒しをもたらす>」

「<ハイ・ライフ>」


騒いで怪我を悪化させたおバカな二人を回復させる。

ハイライフは、ボクの魔法。

カクテルの種類の1つだ。ウォッカベースで、何を混ぜるか、何と割るかで色々と変えられる。

光の色は、檸檬色を少し淡くした感じ。

ちなみに、ハイライフには色々と隠語が多いけど、何も関係はないからね、断じて。

効果は名の如く、高等回復魔法。下級だと、単純な怪我修復や体力回復位だけど、高等なら骨折も治せる。

リョーガから源子供給を受けているから、消耗はなく、少し疲労するだけ。


便利な能力だなぁ、本当に。というか、源子の限界値は無いのだろうか。

ボクの最大保有源子量は他の人と比べて、かなり多いとは思う。

源子、魔力とかオーラとか氣とか言い換えられるもの。

体力や精神力とは別個に存在するエネルギー。

この源子を、そのまま使ったり魔法や技に変えたりして活用する。

全ての生命体が持つもの、らしい。

この世界は、源子と源素から成り立つと聞いた。原子と元素とは別のもの。

人によって、種族によって源子保有量は大きく異なる。

異世界から来た、ビジター呼ばれるボク達の源子保有量は並外れて多いらしい。

だけど、リョーガは規格外、常識外れ、無限に比する程だ。

リョーガの反動による怪我を回復しているリネットとマーヴェル、

ジンの骨折やダメージを回復しているボク達に、源子を送っている。

それだけじゃなく、全員にも少しずつ送っている。

戦闘中じゃなければ、使用して減った源子は少しずつ回復していく。シンシアのような例外も居るけれど。

源子を送ることで、回復の助けをしているみたいだ。

ただ、これはかなり効率が悪い。

送った源子は、殆どが拡散してしまう。元々、自分のものではないから。

すぐに使うのであれば、何の問題もなく普通に使えるが、定着は殆ど出来ないらしい。

今のように、回復に使ってる分には問題ないけど、源子の回復は難しい。

それを、リョーガは莫大に過ぎる源子保有量によって解決している。

効率が悪くても、大量に送り込めば結果的に回復はする。

完全に荒業だね。複数人に送っているから、一人辺りに送れる源子量は落ちてはいるけれど。


「ほー、ネクロマンシスか。飛竜を倒したと思ったら復活とはな」

「きつかったぜー。結構ギリギリだったし。まー、新しい力が使えるようになったけどなー」

「背負式ロケットか。これでジンも飛行能力持ちか。航空戦力アップだな」

「そうともいえねーなー」

「?」

「ロケットスラスターなんだがなー。発現するのに、銃器系リソースを全て注ぎ込む必要があるから、ハンドガン1つ造れねぇ。銃弾も、スラスターの出力を上げれば上げるほど造れなくなっていく。最大出力なら、何とか1度に12発かなー」

「機動力の分、攻撃力ガタ落ちって」

「あっ、機動力もあまりないぞー?」

「……へ?」

「加速力はかなりあるけど、前方向にしか行けないし、横への移動もムズいしなー」


リョーガとジンが、傍らで回復されつつ、情報交換をしている。

良い身分だね、君達。


「おっし、治った!」


リョーガが腕をぐるぐる回し、


「これならまともに動けるなー」


ジンが伸びをしつつ身体を確かめている。


「ありがとな2人とも(ナデナデ)」


リョーガがリネットとマーヴェルの頭を撫でている。

マーヴェルはとても嬉しそうに目を細めている。

一方、リネットは少し不機嫌だ。嬉しくは有るようだが。


「なんだか、子供扱いされてる気がするよ……」

「ん?ならこうか?(ナデナデ)」


今度は、顎の下を撫でている。

その撫で方は、子供扱いどころか猫扱いじゃないかな。


「……んっ!じゃなくて!」

「ならどうしろと?どうして欲しいんだ?ほら、言ってみろよ」

「えっ!?えと……、その……」


赤くなったまま、黙り混んでしまう。

リョーガは潜在的なSなのかな。自覚は薄いようだけど。


「わりぃわりぃ。赤くなってる顔が可愛くてな」

「!……もう、リョーガ君の意地悪……♪」


そのわりには、かなり喜んでるけどね。改めて、また撫でられてるし。その間ずっと、マーヴェルは撫でられ続けて、蕩けきってる。

それを、シンシアが少し羨ましそうに見ている。

分かりやすッ!分かり易すぎるよ君達。


「さて、ジン。ちょっくらロケット見せてくれ。源子は送るし」

「そりゃー構わねーけど、どうするんだ?」

「こういうのって、形からある程度分かる場合もあるからな。少しはアドバイス出来るかもしれねーし」

「了解。少し待ってくれ」


ジンが全力で力を入れる。源子は供給されているとはいえ、体力使うんだよね。折角回復したのに。

背中に、源子が集中・集束し、形を成していく。


「よし、出来たぞ」

「ほう、個人用ロケット、昭和のアニメみたいな型式だな」


それは同感だな。円筒が2つ、縦に並んでいる。

下には噴射孔、中央にはバックル?で良いのかな、で繋がり、噴射孔より上に行くにつれて1つになっていく。頂点は横長の四角錐になっている。


「噴射孔の横に付いてるのは、スタビライザーか?」

「ああ。ただかなり大まかにしか曲がれねぇなー。急カーブは難しいな」

「ふむ。離陸に必要なエネルギー、ってかこれは何を糧に推進力を生み出してるんだ?」

「銃弾や火薬系のリソースを使ってる。感覚的には、航空燃料をイメージしてる」

「制御ミスったら?」

「オレ爆死」

「ですよねー」


仲良いねぇ、君達。いや、本当に。というかどうやって航空燃料なんて生み出すんだろう。


「最低でも、重力を越えるには、銃弾系リソースの半分は必要。だが、これじゃあただ浮くに近い。3/4か、4/5位注ぎ込まねーと戦闘中にゃあ役に立たないなー」

「ふーむ。これを背負ったままの空中格闘は?」

「出来ると思うが、反動がでかくなるだろうな。前進しか出来ねーからパンチ位しか使えねーし」

「いや、1回転(ターン)すりゃ踵落としは出来るだろ」

「あっ、そういや。でも相当なGが掛かりそうだな」

「………なぁ、このスラスターの噴射孔、2つ有るんだが、これ片方だけ噴射とか、偏った噴射とか出来ねーか?」

「うん?………やってみるか」


背中のロケットスラスターに力を籠めていく。

離陸しない程度に、疲労しない程度に噴射。

両方から同程度に、推進力が出ている。

いや、少しずつ変わり始めた。右腕側のスラスターの出力が上がり、左腕側のスラスターの出力が下がり始めた。


「よし、少しムズいが出来なくはない。でもこれがなんだってんだー?」

「いや、それが出来るなら急カーブ位出来るだろ」

「…………!!!」


驚愕の表情を浮かべるジン。その手があったか!みたいな感じで。

バカだこいつ…みたいな表情したリョーガがジンの反応を切り捨て次に進む。


「それと、そのロケット、逆向きには出来ねーのか?」

「逆向き?」

「ああ。噴射孔を上向きにするか、或いはロケットごと逆さまにするか。出来れば色々と便利だし、加速キックも出来るだろ」

「そうか!試してみる」


再び背中のロケットに意識を集中している。が、


「無理ぽいな。今のオレじゃあ、ロケットの発現が限界ギリギリだ。応用はもっと先だなー」

「そうか、んじゃあそのロケットを、背中以外の部分に発現できるか?」

「背中以外?」

「腕に付けられれば、パンチの加速を。足に付ければキックの加速を効率良くできるだろ」

「よし。………………やっぱり無理だわ。元々火炎放射機(スローアー)からの発展のはずなんだが、別の部分には発現出来そうにない」

「スローアーから強引にそこまで発展したのかよ。ん?それじゃあスローアーの方はどうなってる?」

「ん?…そうか!発現してみるぜ!」


リョーガとジンだけでポンポンと話が進んでいく。

恐らく、これが2人の何時も、なんだろうね。

リョーガが主導で進めつつ、2人で進めていく。

何度も何度も、日常とすら認識しない程に繰り返されたやり取り。

良いな、そういうの。

ただ、もの凄い疎外感だけどね!置いてけぼりだよ。


「おお!スローアーの発現難度が下がってる!熱量も相当上がってるし、かなり使いやすくなってんな!」

「ほう、どんな感じで?」

「元々、スローアー発現時は、別の銃火器を発現出来なかったんだ。多分、形状や用途が全く異なるからだと思うんだが。今は、スローアー発現時にも、拳銃やライフルを造れるようになってんなー」

「リソースはどれくらい必要なんだ?」

「元々、スローアーはオレの最低基準である拳銃32丁分必要で、2つ造るのが限界だった。今なら、24丁程で出来そうだな」

「てことは、2つ造り出しても16丁分は残ってるのか」

「まあ、腕二本だから、ガンズカーニバルで飛ばすことになるけどなー」

「確か、1つにリソースを注ぎ込むことで強化出来るんだよな?スローアーは出来るのか?」


右腕に造り出したスローアーに左手を添え、強く集中するジン。

肘から手先よりも、数十センチ長めな円筒。腕より少し短い程度。それを、腕の外側に持ち手やベルトで固定している。

手先より少し先の、円筒の先っぽに孔がありここから炎が放射されるようだ。

これを、背中に持ってきて2つくっつけたのがロケットな訳か。

円筒とは形容したけど、もっとメカメカしく、肘側は大きく膨らんでいる。四角いけどね。円筒と長方体を部分くっつけた感じ。

それに、更に力を籠めていく。

籠めて籠めて、籠めていく。


「出来たぜ、リョーガ」


その形は、大きくなっている。右腕から肩に乗るように、長く太くなり、左手も用いて標準合わせをしている。


「ほぉ、デカイな。火力も相当なものになりそうだが……、なりそうなんだが」

「わーってるよ。機動力だろ?落ちてるな、でもガタ落ちって程でもねぇ。砲台に近くなっちまったがなー」

「ふぅむ。射程は?」

「長くなってるぜー。それに、1つ新技思い付いたしなー」

「ほう?」

集束する炎熱線フラム・インフィラオート。ってとこかな」

「ん?赤外線か?」

「いや、熱線。炎を集中・集束させて放つ、熱線。レーザーみたいな感じで」

「成る程な、ある程度予想はつく。射程も中々ありそうだな」

「有効射程は大してないと思うがなー」

「しかし、かなり炎系随分と増えてるな」

火炎放射機・狂鬼スローアー・ド・ピュロマーネ。この進化型はそう名付けよう」

「ヲイヲイ、放火魔かよ」

「まぁ、良いじゃねーかー。カーニバルだって、狂乱祭と称してるし」

「いや、なんでだよ。単なる謝肉祭じゃねーのか?」

「だって人肉だし」

「カニバリズム!いや、別にカーニバルとカニバルは繋がってねぇよ!」

「え?語感同じだし、語源同じじゃねーの?」

「流石にそこまで知らんが、それは幾らなんでも違うだろーよ!」

「えっ、マジ?」

「まー、ジンがそう思ってんならそれでいーよ。確かに語感は似てるし、気に入ってんだろ?」

「まーなー」


きっ、君達。流石に2人だけで盛り上がり過ぎじゃないかい?

さっきまで見守ってた皆だけど、どんどん目から光が無くなっていってるよ?


「ねっ、ねぇリョーガ君」

「おっ、どうしたルイ」


見るに見かねて、割って入ってしまった。

ようやく皆の目に光が戻り始めた。


「ボクから言い出したこととはいえ、幾らなんでもまったりし過ぎじゃないかな?霧も殆ど出てないし、見晴らしは良いけれど、警戒緩すぎはしないかい?」

「あー、その辺は抜かりねーよ。こう見えても警戒レベルは落としてねーしな。それにヴェルが警戒してくれてる」

「マーヴェルさんが?」


マーヴェルの方に目を向ける。さっきまで、治療したり撫でられたり惚けてたりしたこの子が?


「ああ、精霊使役でな。精霊たちに辺りを周回して貰ってるらしい。だから警戒してないって訳じゃねーんだぜ?なぁ?」

「うん」


マーヴェルの頭を撫でつつ、こっちに目を向けてくるリョーガ。

そしてやはり嬉しそうなマーヴェル。


「そうか、まぁリョーガ君のことだしその辺は大丈夫か。そういえば気になってたことが有るんだけどね?」

「おぅ?どした」

「マーヴェルさんの使う精霊使役魔法。それはどういう理屈、仕組みなんだい?」

「ほぅ?」

「よく知らなくてね。随分と多彩だし、威力も有るから知りたいと思ったんだ。何より、精霊を使役するなんて凄いしね」

「ほー。ヴェル、良いか?」

「うん」

「それじゃ、回復ついでに説明するか。俺が主導で話す。ヴェルは補足してくれな」

「わかった」

「んじゃ、どこから話したもんか」


―――――


精霊使役魔法とは何か。

文字通り、精霊を使役・利用して効果を生み出す魔法だ。

精霊とは、意思を持ったエネルギー体だ。

最小サイズでは、素粒子よりも小さい。自我というには弱いが、本能に近似する意思を持っている。

精霊は世界に満ちている。何処にでも存在し、物質非物質問わず在り、空気中や人の身体、鋼鉄から光そのもの等、精霊は何処にでも存在し、存在できる。

精霊族エルフという種族は、特別な知覚能力を有し、精霊と対話することが出来る。

対話し、精神こころを交わすことで、力を借り魔法を使うことが出来る。



「ということは、精霊使役魔法はエルフ達しか扱えないということかい?」

「いや、そうでもねーぜ。エルフの長耳とか、ヴェルの可愛さとかは知覚能力とは別物だ。長い耳はエルフの特徴ではあるが、それだけだ。聴力や知覚とは関係ない」

「可愛さを入れる必要はあったのかい?」

「つい口に出ちまった。気にするな」


何故つい出たのかな。そして物凄いよ。喜びようと、周りの不機嫌さの差が凄まじいよ?


「人間、ノーマルな人類種ヒューマンでも、精霊の知覚能力を有する場合があってな。リネットの魔法程ではないが、かなりレアな能力、というかアビリティらしい」

「アビリティ、ね」

「ああ。知覚能力持ちでも、精霊使役が出来るとは限らないがな。それで言うと、エルフはほぼ知覚アビリティ持ち。そして精霊使役魔法の因子を持ってるってことだ」

「それで、精霊族というわけなのか」

「そいつぁ違うぜ?」

「そうなのかい?」

「ああ。それは少し後で、話の流れで説明するつもりなんだが」

「それじゃ、そこまで待とうか」



精霊は全て繋がっている。素粒子以下の大きさから、人型以上まで千差万別だが、意思が繋がっているらしく、それぞれの自我は薄いが総体意思に近いものがある。一にして全。個にして種に近い。

精霊は、エルフに使役・利用されることに関しメリットが存在する。

精霊の大きさは前述通り千差万別。精霊の大きさは、そのまま精霊の持つ力・成長度に値する。

精霊は使われることで成長していく。厳密には、そのままでもゆるゆる成長するが、使われることで一足飛びに成長することが出来る。

大きくなった精霊は、強い意思を持てたり、分化して精霊の総数を増やすことが出来る。

精霊もまた、エネルギー体ではあるが、エネルギー生命体だ。

生存本能がきちんと存在する。

エルフと精霊の関係は、Win-Winの関係なのだ。



「なんでも、使われる際に流し込まれる源子によって精霊は成長できるらしい」

「へぇ。それで精霊は協力するわけか。でも、それじゃロスが出ないかい?」

「源子ってのは、魔法使用後霧散しちまう。そういう、使用者側のロスを利用してるんだ。だから、エルフ側に魔法使用時のロスは殆どないな、なあヴェル?」

「…………(フニャ~~ン)」

「ヴェル?」


あー、さっきので惚けていたね。まだ意識が帰って来ていなかったんだ。


「うりうりうりうり」

「んにゃっ!」


あっ、長い耳を弄くってる。確かに触ってみたくなる魔力があるなぁ、エルフの長耳。


「う、うん。ロスは感じない。それに、そういうのは元々意識していないから」


話はきちんと聞いてはいたのか。それでも、惚けることを優先するとは。


「言い伝えでは、神話の、神代の次の時代で、エルフの始祖と精霊との間で相互契約が出来たって」

「それは、随分と長い歴史だね」

「流石に眉唾。エルフは長命種だけど、幾らなんでも有り得ないから」

「長命種なんだ」

「平均寿命は人間の数倍らしいな。成長速度は変わんないが、老化速度が圧倒的に遅い。何処ぞの戦闘民族みたく、若い時間が長いらしい」

「へぇ。マーヴェルさんは幾つ、ってこの世界の年齢判断はどうなってるんだろう」

「リネット、歳の数えってどうなってる?」

「どうと言われても。春の1月、1日に切り替わって、自分のお誕生日が来たら1つ増える。そんな感じ」

「オレ達の世界と、殆ど同じだなー。暦の数えも、ほぼ同じみたいだしなー」

「確か、春は3、4、5月に相当するはずだよね。なら、1月分きっちりズレているだけかな」

「そんな認識で良いだろうな。ヴェルは、確か13って言ってたな」

「冬の2月に14歳になる」


ボクと3つ離れてる。丁度中学二年か。

淡い、綺麗な金色の髪は、低い位置で煌めいている。

ボクも高い訳じゃないけど、マーヴェルの身長は低い。

シンシアよりも数センチ低いくらいだ。リョーガとは30㎝定規1本分近く高低差がある。

てっきり、小学生くらいだと思ってたな。

そのシンシアは、同い年。背、小さいな。胸も、あまり?いやアレは押さえ付けているのかな?実際はもっと有りそうだ。


「おっと、脱線したな。話を戻そう」



精霊は成長すると、現象と同じになる。また、物質に宿ることが出来るようにもなる。

例えば、炎を例に上げよう。

エルフが炎の魔法を行使する際、周りに存在する、或いは自分の裡に存在する精霊に働き掛け、精霊を炎に転化する。

(余談だが、魔法行使スピードは他の種族と変わらない。魔法行使のプロセスは多いものの、ほぼタイムラグなしだからだ)

だが、焚き火などで炎が元々ある場合、それを利用することも可能。

これは、炎に宿る精霊は、炎の精霊となっており、且つ存在も大きい。炎に転化するよりも、使う源子は小さく、扱う力は大きくすることが出来る。

ヴェルの場合は、更に派手だ。

本来、現象に宿る精霊を扱う場合、現象そのものに変化はない。

焚き火から炎の精霊を抜き取っても、炎の質量は変わらないのだ。

これは、炎そのものではなく、炎に宿る精霊のみを扱っているからに過ぎない。

正しくは、炎に宿ったことで自らも炎と化した精霊、を操っているだけだからだ。

しかし、ヴェルの場合は違う。

霧に宿る精霊を、霧ごと集めて使っていた。現象ごと操っていたことになる。

霧の性質を得た精霊を通し、精霊が宿る霧ごと凝縮し形と成した。

先程の例で言うならば、焚き火から、炎そのものを操ることと言える。精霊のみを操るよりも、格段に大きな質量を扱えるため、威力は段違い桁違いなものになる。

ただし、勿論難易度は跳ね上がるし、普通は無理らしい。

ヴェルは、普通のエルフよりも大きな力を持っていて、尚且つ精霊との相性がとてつもなく良いことが要因となる。

また、使役対象が霧なことも要因だ。

霧は質量が小さく、凝縮もしやすい。規模は破格だが、まだ御しやすいのだ。



「相性なんて有るんだね」

「ああ。精霊にも意識が有ると言ったが、それは本能とは別に、きちんと感情に近いものがあるらしい」

「感情?快不快と言ったものとか?」

「いや、単純な好き嫌いみたいだ。その辺は人間とは根幹から違うし」

「好悪が有るのか。つまり、精霊に好かれるかどうか、ということだね?」

「そういうこったな。ヴェルは精霊に好かれている。他のエルフとは比較にならんくらいにらしい」

「好かれていると、どんなメリットが? 力を貸してくれやすくなるとか?」

「概ねそんな感じだな。精霊に好かれていると、大きな力を使いやすくなる。難易度もかなり下がるし、何よりもエネルギーロスがなくなるらしいな」

「エネルギーロス?」

「ああ。精霊を従わせるのにエネルギー、源子が必要となるんだが、好かれていると力を容易に貸してくれるから、ほぼエネルギーロスがねぇ」

「反対に、嫌われていると従わせるのに大きな力を要する。その辺りは、対人関係と似ているね」

「そうだな。対人関係と同じように、人それぞれ、精霊それぞれの相性も有る。例えば、炎の精霊には好かれているが、水の精霊には嫌われている、といったな」

「成る程ね」

「相反する属性の場合、同じく相性も相反しやすい。逆に、水の精霊に好かれているなら、氷の精霊にも好かれやすい、近似の属性は相性も近似する、みたいにな」

「一概にはいえない。でも概ね合ってはいる。という解釈」

「マーヴェルさんの相性はどうなんだい?」

「ヴェルはほぼ全属性の精霊に好かれているらしい。それも高レベルでな。ただ、ヴェル自身の適性がある」

「ワタシの精霊使役魔法は、ほぼ全属性扱える。扱えるけど、得意なのは現象系」

「現象?」

「炎とか電気とか風とか、あと水とかな。厨二用語ならエレメント系かな」

「ああ。そういうことか」

「鉄とか、植物とかも扱えるようだが、あまり得意ではないらしいな。精霊に好かれてはいるらしいが」

「うん? 適性と相性は一致しないのかい?」

「その辺も、一概には言えない、だな」

「基本的には、適性と相性は一致する。でもそれは概ね」

「例外と言うほどでもないが、不一致は時たま有るらしいな」



精霊は成長すると大きくなっていく。

それは質量が増し、体積が増していくのだ。

だがそれは、沢山の精霊がくっついて大きくなるわけではない。

精霊の成長と、使役魔法は、単細胞生物と多細胞生物のような違いがある。

成長はする。だが、それはあくまでも1個体が大きくなるだけだ。

最初は素粒子以下。これは分化したての精霊はほぼ全てこの大きさだ。そして成長を続けることで大きくなり続ける。

大きくなると、人型に近付いていくらしい。

単独の精霊で、凡そ拳大サイズの精霊は、人型に、小人っぽいシルエットになる。

そして、凡そ子供よりも大きく、人のサイズに近くなると固有名が付けられる。これは、このサイズに至る精霊は殆ど居らず、またその前に分化してサイズを拳大~小型犬辺りまでに留まるからである。

固有名がある精霊、例えば水の精霊ならばウンディーネだろうか。

一定サイズを越えると、固有名で呼ばれ、強い意識を持ち、基本的に一人のエルフと契約を結ぶ。

固有名クラスの精霊と契約するのは、精霊族の王族(ハイ・エルフ)だったり、古い血統を持つ家系。或いは飛び抜けて相性の良いエルフだ。

契約をしていない、或いはしない強力な精霊は、森や湖、山の主・守護者となっている。

使役魔法を使う場合は、辺りの精霊を集めて使う。

集めて使わなければ、望む力は得られないからだ。

精霊を沢山集め、多細胞生物のように役割を与えて大きな力とする。ヴェルの精霊騎士なら分かりやすいだろうか。

沢山精霊を集め、頭を構成する精霊、鎧を構成する精霊、盾を、剣を、と役割分担させるのだ。これは、エルフ側、行使側は殆ど意識せず行われる。

精霊側も、1度に沢山の精霊が成長できる為文句もないとか。



「へぇ。そういう風になるんだね。あれ?それじゃッ!?……」


それじゃあ、マーヴェルさんは固有名クラスの精霊と契約してもおかしくないのではないか?

と言おうとしたら、リョーガから物凄いプレッシャーがかかった。

リョーガの双眸は、常時よりも遥かに強い意志を放っている。

ただ、とてもプレッシャーの扱いに慣れているのだろう。

誰も気付いていない。近くにいるマーヴェルでさえ気付かない程コントロールされている。いや、ジンだけは気付いているみたいだ。流石親友と自称し他称され、そして親友と言う言葉さえ置き去りにするような関係だ。気付いて、気付いたけど何も言わない。

成る程、ボクの言うことを先読みしたのか。

そして、


「?」


マーヴェルが不思議そうな顔をしている。彼女について、聞かれたくない。何らかのトラウマ、傷に触るのだろう。

ボクとしたことが、浅はかなことをしでかそうとしてしまったね。


リョーガに目線を向ける。


「それで……、それで! 精霊は大きくなると人型になると言っていたけれど」


ありがとう。と目線に籠める。


「おう。さっきルイが聞こうとしてことに少し繋がってんな」


いいさ、構わねーよ。とでも返されたのか。

苦笑しつつ、話題そらしに付き合ってくれる。恐らく、話しているうちに危険性に気付いていたのだろう。

考えてみれば、危険な箇所でマーヴェルの頭を撫でて気をそらしていた。



精霊は大きくなると人型になる。それは、エルフに使われるから、ではなく精霊の総体意志に依るものらしい。

元々、エルフは精霊に起源があるとされる。

精霊が、突如人の属性を、人の因子を持った進化をした。突然変異体が表れた。

先程話に出た、エルフの始祖。それはこの突然変異体だ。

突然変異体が生まれた理由、因果は定かではないが、人と関わったからではないかと言われている。

精霊が、精霊の総体意志が成長の先に人を、人型を望む理由は分かってはいない。

ただ、解っているのは、エルフは精霊に起源を持ち、エルフは精霊を知覚する能力を持っているということだ。



「………………えっ!? 終わり!?」

「うむ。結局分かんねーのよ。なんだか、情報が変に消えたり錯綜しているらしくてな」

「昔起きた2回の戦争のせいだって言ってたなー」

「2度の戦争? それってあの世界大s」

「関係ねーと思うぞそれは」


食い気味に否定される。


「時代が合わねーからな」


あー、一応言葉にするなってことかな。


「結局、調べてみるしかねーみたいなんだ。サブクエ、いやこれもメインクエなのか? あの自称ガイドめ」

「どうしたんだい?いきなり悪態ついて」

「いや、なんでもねぇ。分かんないってのは、あまり気持ち良いもんじゃねーからさ」

「それも、そうだね」


「さて、そろそろ回復したな。精神力も大丈夫そうだ。急いで、会いに行こうぜ。準備はいいか?」

「準備は整ってるぜー」

「周辺に敵なし」

「よし、行くぞ!」


――――――


ラッゾ山脈、その中の1つの山頂。そこには、1つの家が、巣があった。

しかし、そこは一面全てを、煌めく焔で埋めていた。


焔の中で、光が消えていく。あれは、モンスターを倒したときのエフェクト。そして、魔人を倒したときのエフェクトも混じっている。

つまり、殺られたのだ。ここの主に。


そして、その主は中央に居た。


紅い、髪。赤く紅く明く、紅葉よりも明るく、炉の炎よりも熱い、真っ赤な、生命力に満ちた炎髪。

そして髪の隙間にに、一筋のカチューシャが見えている。

大きな花を、右側に飾り付けられた、炎髪を映えさせる白い髪飾り。

装いは豪華なもの。炎髪に合わせるように、金と橙色を織り混ぜた豪奢な服。派手ではあるが、気品があり、服のみが目立つということはない。

凡そ160㎝程だろうか。そこそこの身長。豪華豪奢な服装。燃えるような炎髪。

だが、目を引くのはその双眸だろう。

小さなたまご型の頭部には、炎髪をも霞ませるほど美しい紫紺の瞳が1対、黄金比を描いて配置されている。

宝石のような、アメジストのようななどと評することすら失礼に当たるほどに美しく。

だが美しいだけではない。澄んだ瞳からは、強く焔よりも熱き意志を感じられる。


「あの娘が、リバティの……?」


ルイが、抑えきれず言葉を漏らす。


「ああ。だろうよ。焔のような煌めきを持つ髪とそれを飾るカチューシャ。何よりも、紫色の瞳。画像と同じだ。いや、それ以上、だな」


そして、気付いたか。それとも、気付いていたが今初めて意識を向けたのか。

こちらを、リバティの少女が見る。その瞳で、射貫いてくる。

腕を掲げる。

手のひらをこちらに向けている。

そして目の前が。

明るい赤色に。

染められた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ