39話【アズィとの2戦目。魔人との戦い。否が応でも昂るな】
「<汝は我が騎士にして主なり>」
リネットから強化が来る。
いつも思うが、リネットの強化は暖かいな。
「そういやアズィ」
「何ダ?」
「話し方少し変わったな。カタカナ喋りが緩和されてる」
「アア。ソウデモシナイト、再出演ガ難シカッタノデナ」
「そういうメタ発言は止めようよ」
俺の身体に、強化が、気合いが満ちていく。
アズィの身体も、さっきより大きく見える。相当気合いが入ってるな。
既に解放して、魔人としての力を文字通り解放している。
さっさと倒して皆と合流~、みたいな雑念は、負ける要因になる。
全精力を持って、アズィを倒しに行く。
「イイゾリョーガ。ソノ目ダ。臨戦態勢ノオ前ノ目ハ、トテモ戦イガイガアル」
アズィの目に、危険な光が宿る。戦闘狂の目だ。獣の目だ。
まぁ、眼光に怯むほど柔じゃねーよ。
「正式に名乗りを上げておこう。俺はこの戦いを、力を、誇りを、魂を賭けた決闘と認識する」
「俺モコノ戦イハ決闘ト定メテイル。異論ナド有ルワケガナイ」
「シントウ流、始まりにして終わりの当主、新藤リョウガ。参る」
「魔人ガ一柱、狂ナル紅獸アズメィア、参ル」
―――
初撃の激突は、霧を弾き飛ばしただけで、互いにダメージ無し。
俺は瞬加で突撃、右正拳。
アズィもまた、獣のバネによる超加速。獣の割りに、しっかりとした五指を固めて殴ってきた。
初撃は互角、次の手は…!?
「良イ判断ダナ」
バックダッシュ。あのまま拳を合わせたままでは、かなり危険な予感がした。いや、悪寒がした、と言った方が正しいな。
素手での戦闘はまずい気がする。
双剣創造、ってアズィがデカイ口を明け始めてる!
「させるかよ!<双刃乃風>」
クレイジーヴォイスは真正面から受けてもダメ、避けるのも難しい。逸らすことが俺の現状出来る対応だが、空転は素手限定。
咆哮させるわけにはいかねーな、に!?
「コレガオ前ノ風カ。柔イナ」
右手で払われる。
いや違う。右手じゃない。なんだあのデカイ爪は!
「<狂獣ノ狩爪>、ダ。俺ノ爪ハ、狂ウコトデ次元ノ違ウ強サヲ得タ」
両手両指、親指の爪まで生えてやがる。
元々、人間大、俺より少し大きい程度のアズィ。
しかし獣は獣。指や爪は常人の何倍もある。
通常時は10㎝位の爪が、50㎝は有るぞ。
太さも横幅も桁違い。ん?
「確かヴォイスが唯一の技じゃねーのか?」
「ソレハ前ノ俺ダ。俺ハ本国二戻ッテカラ、オ前ノ噂ヲ聞イタ。俺二見セタ技以外ニモ、多数ノ技ヲ持ツト。俺ハ今マデ、ヴォイスダケヲ使ッテイタ。最強ダト信ジテイタ。ダガ、ソレハタダノ甘エ、怠惰二過ギナカッタ。オ前ハ俺ノヴォイスヲ破ッタ。他ノ技モ有ルナラバ、俺モ技ヲ習得する以外ノ選択肢ハ無カッタ」
「そしてその爪か。なら、それごと破ってやる!」
まっ、実際にはヴォイスを攻略出来てないけど。
空転との相性が良かっただけだ。
会話は終わり。言葉ではなく、力をぶつける。
俺は双剣で突撃。アズィは両爪を貫手にして突撃してくる。
ガキィン!
「中々ノ硬度ダナ」
「そっちこそな」
双剣を縦に横に斜めに、斬って突いて叩く。
両爪も、使い方は似たようなものなのか、斬撃を放ってくる。
突いてくる右爪の腹を右剣で払い、左剣を右脇腹へ。
左へステップするアズィ。に向かって左剣を振り抜く。
アズィは爪を十字に構える。
放った斬撃波は、爪の盾で防がれる。
振り抜いた勢いで回転。アズィに背を向けた瞬間右へ瞬加。
スレスレで、クレイジーヴォイスが通り過ぎる。
全く、十字に構える時に、ヴォイスを待機させるとか。
威力は弱めだが、充分速いんだよそれ。
アズィが爪を、斬撃ではなく、突貫に切り替える。
双剣を使って、いなす、いなす、叩き込む。
アズィがまた戦法を変える。斬撃、突貫、時には蹴りも加えてくる。
対して俺は、攻撃をいなしながら、隙を見て攻撃を叩き込むスタイルを変えない。
シントウ流、流舞。その基礎的剣術。
双剣を、片方を防御回避に、片方をカウンターに。
その都度役割を入れ換えながら使っていく。
動きは、舞を踊るが如く、流れに乗るように。
止めず絶えず、時に緩やかに、時に激しく、舞踊る。
更に、絶えず動くことで、速度が貯まる。
シントウ流、瞬連加。その効果は、速度の保持及び変換。
貯まった速度を、カウンター時衝撃エネルギーに変換し叩き込むので、威力を高める事が出来る。
つっても、流舞の基礎と、瞬連加の重ね掛けは結構キツい。
シントウ流は、技の多重行使を前提になってるし、
瞬加の系統は他の技との併用が基本だ。
多重行使は、体力を削るし、何より精神力をガリガリ削っていく。
出来れば、普段は使いたくない。それを言ってられる相手じゃ無いけど。
アズィは強くなっている。それも、最初に戦ったときは異質な程に。魔人も成長するんだな。成長ってレベルじゃないけど。
ってか、攻撃が殆ど効いてないんだよなぁ。
シントウ流、貫倒剣。一種の鎧通しだ。
アズィの全身を覆う紅毛は、凄い防御力だ。
前に使った時は、倒せないものの効いていた。
でも今は効いてない。
なんか、硬いだけじゃなく、毛特有の柔らかさまで強くなってんのか?防がれ、吸収される。
硬いものを想定している貫倒拳/剣じゃ、相性が悪すぎる。
おっとと、考えてたらやられる。意識を戻さなければ。
キィン!キン!カキキン!
両手剣と両爪の交差は繰り返される。
両爪は俺に届かないが、両手剣はアズィの紅毛を突破出来ない。
ダッ!
埒があかないと感じたのか、1度アズィが大きくバックジャンプして間を空ける。
いや違う。これは、技の発動に必要な助走距離か!
アズィの源子が活性化していく。大技か、だがヴォイスではなく、爪に源子が流れている?
なら、対抗技を。シントウ流の大技を。
アズィが五指を開き、掴みかけの状態で、構える。
俺は、左足左肩を前に、右足右肩を後ろに。左剣を胸の前に構え、右剣を背中に隠すように構える。
後は、見極める。1…2…3…4…今だ!
アズィの膝が動いた。後出しながら、瞬連加で貯めていた全ての速度を解放し加速度に変え、同時に初動が始まる。
彼我の距離が、2メートルに。
「<狂獣ニヨル暴爪嵐撃>!」
「シントウ流<颯舞×交回爪裂/咲>!」
輝きを増す両の狂う狩爪が、嵐が如く暴れまわる。
回転し、交差する剣線は、花弁が如き形を咲かせ、散る毎に敵を散らしていく。
嵐暴の撃爪、回刃の花弁。
その激突は、一帯の霧を完全に消滅させ、斬り結ぶ音は増していく。
撃爪は花弁に阻まれ、花を咲かす茎には届かず。
花弁は嵐暴なる厚き紅毛を貫けず、咲くごとに散っていく。
甲高い音を鳴らせ、右の撃爪と右の花弁が、技の終着を告げるように止まる。
アズィは技後硬直で、ほんの一瞬止まる。
だが俺は、右肩から降り下ろした剣が爪と交差し、止まった瞬間も動きを止めない。
止まった瞬間、瞬転加で後ろに回り込む。
瞬転加は、脱出用の技というだけじゃない。転の名を関する瞬加の用途は、とても幅広い。
ついでに瞬影加で残像を残しておく。手応えは消えても、目の前に姿が有るから、刹那ぐらいなら回り込んだことを隠せる。
颯舞という大技を使い、ほんの一瞬だけ作れたこの隙を使って、攻撃を叩き込む。
腕を交差する。瞬加で、初速を最速に。
使う技は、
「シントウ流<心限×髄衝>!」
シントウ流奥技、シンケンには種類がある。
これはその一つ、心限。心の限りを尽くし、あらゆる技を、奥技クラスまで引き上げる事が出来る。その分、奥技クラスの消耗だが。
そして髄衝とは、交差して攻撃を加えることにより、相手の芯、つまり髄に衝撃を叩き込む、貫倒剣の強化版だ。
「ガッ、グァァァァ!!!」
俺の全力の一撃を、文字通り身体の芯に叩き込んだんだ。
ダメージが無くちゃ割りに合わねーよ。
颯舞の技後硬直を瞬転加で無理矢理引っこ抜いたから、身体への反動は莫大。しかも大技の連チャンだ。
リネットが回復してくれてるとは言え、かなりキツい。
今回リネットには、強化ではなく、反動の中和を主にして貰ってる。今の俺には、それが合っていると思ったからな。
「グガァァァ!」
大技、それも決め技の技後硬直。数瞬だが致命的なラグ。
背骨を確実に捉えた攻撃。
しかし、狂った獣には、常識は通用しない。
「ぐっふ」
込み上げてくるものを気合いでねじ伏せる。
腹を後ろ蹴りされたか。
「リョーガ君!」
大丈夫だ。すぐに立て、違う!
リネットは心配したんじゃなくて、警告したのか!
身体を無視したかのような動きで、アズィは迫る。
離さなかった双剣を、なんとか前に出し盾にして受け止める。
両手を、剣で受け止める。
勢いまでは、全く受け止めきれず数メートルは後退する。
「<感染スル狂化>!」
身体のダメージとか、体勢が悪いとか、そんなの関係ない。
初手に感じたのと同じ悪寒が、俺を動かした。
剣を手放し、両足を使い全力で脱出。
クェンティジョン?………感染か!
クレイジーの、感染?
「ヤハリ、良イ勘ヲシテイル」
両手に掴んでいる剣が、弾け飛ぶ。
握り潰した訳でもないのに。
そして何故、俺はアレを危険だと、今俺に迫るクレイジーヴォイスよりも危険なものと直感した?
空転で、なんとか逸らす。
ヴォイスを逸らす時に体勢が乱れたが、再度空転で、俺自身を回し着地。着地の衝撃は、下に速度を放つことで相殺。
「今、オ前ノ逸ラシ技デハ弾ケナイタイミングデ撃チ込ンダ。ナノニオ前ハ弾イタ。何ヲシタ?」
「ネタバレすっかよ!つーかお前も今の何だ!俺の剣をあんな風に壊すなんて、どういう理屈だ」
「オ前ノ洞察力ハ知ッテイル。オ前ナラ、自ズト分カルダロウ?」
「買い被り過ぎだ!」
今のクレイジーヴォイス、ネタバレすると、瞬連加の応用でなんとか避けた。
空転は、逸らす対象の圧力が強すぎると、逸らせなくなる。
しかも空中だから、踏ん張る足場がなくて、空転の限界圧力が下がっている。
だったら、相手の圧力を下げれば良い。
瞬連加は、速度エネルギーの保存と変換。
相手の速度を受け取ることだって、可能なんだ。
まぁ、今の俺じゃあ大したことは出来ないし、本来は相手の攻撃を全て受け取り、速度を返還/変換する技なんだがな。
クレイジーヴォイスの速度を、空転で逸らせるギリギリまで受け取って、着地時の衝撃相殺に利用。
しかし、アズィの力は何だ?
クレイジー、狂った、狂気染みた、狂う?
狂う、感染?
「そうか。クレイジークェンティジョン、狂いの感染。俺の剣を、狂わせたってことか。あの壊れかたからすると、剣という形を造ろうと、保とうとする力を狂わせたな」
「数秒デソコマデ辿リ着クトハナ」
「だとすると、他のにも説明がつく。クレイジーヴォイスは、大気中の源子を限界以上に吸い込む。限界以上放てるように、狂ってるんだ。クロウも同じ、爪を狂わせているんだな」
「ソウダ」
「加速力も、耐久力も、何から何まで狂わせた。しかし、狂うことは暴走すること。よく持つな」
「持ツモ何モ、俺ハソモソモ狂ッテイル。狂ッテルモノガ狂ッテモ、暴走ナドオコリハシナイ」
「随分と暴論だな。回復力も狂ってるのかね?でも、良いねぇ。そういうのは、俺も好きだぜ」
問題は、狂化感染が、どこまでの力なのか。
恐らく、手で触れたものに、クレイジーの力を送り込むことで狂化するんだろう。
アズィ自身は、狂化は強化にしかならず、暴走はしない。
だが、他に送り込めば暴走する。させる事が出来る。
無機物だけでなく、人にも効果は有るはずだ。食らった場合、どれだけの暴走になるのか。
とりあえず初手の対応策は、
「シントウ流<幾重咲き>。及び<剣嵐舞闘>」
宙空にたゆたう、十八の刃たる花弁。(2本は両手に)
嵐が如く咲/裂き誇る、剣の舞を起動。
身体に触れられたらマズイ。ならば、盾を用意するだけだ。
「ナラ俺ハ、ソノ剣ヲ全テ狂ワセルダケダ」
狂った速度で、実際に狂わせたのであろう速度で、アズィが迫る。
十八の刃を乱舞させ、即席のバリケードを張る。
剣嵐舞闘の刃達は、手で振るうより威力も練度も落ちる。
アズィの堅く難い紅毛を突破することは出来ず、アズィをとどめることも出来ない。
だが、一瞬ならば停滞する。
アズィの突破力でも、ノータイムで弾ける程剣嵐舞闘は弱くない。
一瞬の停滞、その間に行動を起こす。
瞬影加で俺の影像を造り出す。
その影像を、身体に張り付けたまま行動する。
シントウ流影華纏振。
アズィが、バリケードを蹴散らし、幾つかの刃を狂わせ、俺に迫る。
4の刃を狂わされた。刃を自分で消滅する。
突撃してくるアズィに、同じく突撃。
双刃を叩き付ける。だが、殆ど通じてない。鎧通しも使ってない単なる攻撃じゃあ、牽制にもならない。
アズィの、狂なる双手が迫る。
しかし、その狂える豪腕は、空を切る。
俺はステップを踏みつつ、瞬影加を連続発動。
全ての刃を乱舞させ、アズィにアタック。
ダメージは、やはりない。
アズィの攻撃は、またも空を切る。
おっと、業を煮やしたアズィがクロウで大きく薙ぎに来る。
しかし、それもまた空を切る!
「貴様、幻影カ?俺ノ攻撃ガ全テスリ抜ケル」
「それはどうだかね」
「ダガ無駄ダゾ。例エ避ケ続ケテモ、何処カデ当タル。ソシテ、オ前ノ攻撃ハ通用シナイ」
まーね。確かに俺の攻撃は効かない。
アズィの攻撃も、今のところ俺に当たらない。
効かないと当たらないは、結果は同じでもまるで違う。
「加エテ、今カラソノ幻影ヲ破ル」
「!<瞬加>」
空気を吸い込む、ヴォイス?
いや、それにしては口の開け方が違う。
あれでは空気が収束しない。
てことは、空気弾ではなく、音声技?
「<狂わせる共振音>!」
「!これは!?」
影像を、剥ぎ取られた!?
レゾナンス、…共振か!
しかし、それが何を………。
音、空気の振動、空気を振動、共振させる?
そうか!そういうことか!
瞬影加は、歩法によって自分の像をブレさせる。
元々は影分身程度で、像を結んだ場所からは動かせないんだが、この世界では動かせる。
像に源子を籠めることで、気配を、存在を持たせた影像を造ることが出来る。
影華纏振は、ブレさせた影像を身体から離さずズラしたまま行動する。
これによって、相手は現在位置を誤認させられる。
だが、影に存在感を持たせても、あくまでただの像。
実態はなく、用意にブレる。
それが、空気の振動でも。
本来は振動程度で、壊される程じゃないんだが、狂った共振波は、像そのものをぶっ壊すみたいだな。
俺の技が、即行攻略とは、ヘコむね。
「コレデ、避ケルコトモ出来ナイナ」
「ああ。でも別に構わないんだよ。避ける必要は無くなったからな」
「ナニ!?」
「ここからは、俺の攻撃ターンだ」
『リョーガ君、もうすぐ、源子が尽きるよ。もって数分!』
リネットから思念が届く。双方向通信は出来ないが、十分便利だ。
リネットに、大丈夫すぐに決める、という視線を送る。
通じたか通じなかったか、だがリネットは力強く頷く。
「俺二勝ツ気カ?通用シナイノニカ?」
アズィは危険な笑みを浮かべる。
それを望んでいたかのように。
「ああ、見せてやるよ。<業焔剣嵐>」
手に2振り、宙空に14振りの燃え盛る剣が舞い誇る。
「ソレガオ前ノ焔カ。ソレデ、俺ノ紅毛ヲ貫ケルト?」
「いや、紅毛どころか、全身を燃やし尽くしてやるよ」
「ヤッテミロ。ソウコナクテハ面白クナイ!」
そして、アズィの身体から、紅毛から4の火柱が爆発する。
「コレハ!」
「俺が無駄な攻撃を加えるとでも?既に火種は撒いておいたんだよ」
エティ謹製、発火装置は、オールドファッション的な見た目で、着火にアクションが必要。に見えるだけ。
火打ち石ではなく、源子を通すだけで火種が生まれる。
それを、長袖の右腕にバンドで巻き付けている。
そして、影華纏振で仕掛けながら、アズィの紅毛に剣を、細く小さく毛に紛れる火種を設置。
狂わされた4の刃を、即再生成しこっそり設置したのだ。
幾重咲きは、例えなんど砕かれようと散らされようと、すぐにまた、誇り高く咲き染める。
そして、火柱は、
「クッ、クアッハッハッ!」
いや、効いてるんだけどね?なんか、逆に興奮してるんですが。
「コレダ。コノ痛ミダ。良イゾ、ヤハリオ前ハ良イ!」
炎刃を乱舞させる。
精神由来の迸る焔の熱さは、アズィの紅毛さえも侵していく。
だが、燃やせるが、時間は掛かる。
リミットはある。ケリをつけよう、俺の焔の、全てを燃やして。
気炎を正しくあげ、アズィに突撃。
アズィもまた、クロウではなく、狂える双手で迫ってくる。
直接手に持つ双剣は、特に焔の力が強い。
攻撃が効くのなら、一気呵成に攻め立てる。
颯舞を起動、軸をつくり、回りながら刃は閃く。
アズィの紅毛を、削る砕く割る切る斬る燃やす!
アズィは豪腕を振り回し、俺を、刃を捉えようとする。
瞬影加の偽装は剥がされた。
だが、俺を捉えられると思うなよ?
瞬連加を起動、颯舞で回るたび、速度を上げていく。
瞬連加の真骨頂、速度の累積加算。
回れば回るほど、ギアは上がっていく。
消耗はその分跳ね上がる。だが、前提としてリミットがある。
リネットの強化は生命線だ。それが切れたらジリ貧だ。
だからこそ、削る削る、削る!
しかし、アズィもそんな柔じゃない。
簡単に削れるなら、そもそもこんな苦戦はしない。
俺の回転は、向かって半時計回り。
左腕を贄に、右腕で俺の刃を掴みに来る。
深々と、紅毛を割り砕き豪腕に刺さり、俺の回転にブレが生じる。
左の剣を、掴まれる。
「<クレイジー・クェンティジョン>!」
狂化が、剣を侵す。
侵す狂化は、剣を、砕き、
「はしねぇよ!」
左に流れた体の勢いを叩き付けるように、右の蹴り。
「狂化ガ、効カナイダト!?」
その掴んだ右腕は、燃え上がる。
「狂化ゴト、焼キ付クシタカ、強引ナ対処法ダナ!」
「お前に言われたくねぇよ!?」
だがこれで、感染狂化は防げる。身体に狂化が来ても、身体ごと燃やす。
乱舞によって、アズィの鎧たる紅毛は削り、燃やし尽くした。
それでもなお、獣の堂々さが無くなることはない。
これで、防御力はない。
そして、残り時間もない。
「決めさせて貰うぞ。俺の、現在の最大技で」
「望ムトコロダ。俺モ、最大最後ノ技ヲ放トウ」
守りを失い、狂化も無効化されようと、その狂った闘争心に陰りはない。
狂なる体躯に、荒々しい力が纏われはじめる。
大技、それも力を使い尽くす技、その準備。
こちらもまた、それは同じ。
両手に、気炎を上げ、気焔を纏う刀を。
そして、宙を舞う十八の刃を、背中に。
炎刃の翼、無我夢中で身に付けた力、扱いきれないし、空を自在に舞うことも叶わない。
だが、その炎刃が生み出す、爆発的な推進力。
その力は、その力だけなら、扱ってみせる。
瞬間、常時漂い続けた霧が、綺麗に消えた。
まるで、邪魔をしてはならないと感じたが如く。
アズィの身体から狂った力が迸り、大気を破壊しながら突き進む。
俺もまた、炎刃全開、全力加速!
「狂獣ノ狂撃!」
全身を駆動させ、限界さえも振り切って放たれるその右の拳は、
「!?」
俺の身体を捉えることは、ない。
俺の前に生まれた像が、陽炎のようにかき消える。
「シントウ流<心剣×双炎十字>」
陽炎を消し飛ばしながら、炎刃を爆発させ、双の刀が交差する。
「グッ、ガァァァァ!」
アズィの身体を、4つの塊に、切り裂いた。
「ガッハッ。………最後ノアレハ、炎ノ幻影カ」
「ああ。アズィの一撃は、合わせれば確実に壊される。それが判るほど凄まじい一撃だった。たとえ、フェイクで攻撃を外したと責められようが、俺は恥じたりしないぞ」
「恥ジルコトナドナイ。リョーガ、正々堂々ト、避ケタコトハワカッタサ」
「ふっ。やっぱりお前は変なやつだな」
「リョーガニ言ワレタクハナイナ」
「お前はリネットを狙ったりしなかった。だから、俺も正々堂々と、お前と戦えた」
「当リ前ダ。俺ハ俺ノ戦イニ誇リヲ持ツ。リョーガ、俺ハマタ、挑ムゾ」
「誰にも迷惑を掛けないのなら、幾らでも来やがれ。何度だって返り討ちだ」
「クッ、ハッ、ハーハッハッハッ!!!!」
笑いながら、アズィはまた消えていく。
また本国とやらに戻るのか。
それはともかく、
「つっかれたぁ」
「お疲れ様」
倒れそうになる俺を、リネットが支えてくれる。
「助かったぜリネット、ありがとな」
「いいの。リョーガ君は、私の騎士で、主なんだから♪」
リネットも疲れてるはずだ。
全力で俺に力を送り続けてたんだから。
ったく、守りてーのに、守られてるよ。
「少し休んだら、行こう。俺の俺達の目的は、もっと先だからな」
「うん。でも、無理しちゃダメだよ」
「ああ」
先に行った皆はどうなってるか。
かなり足止めされちまったな。
敵と遭遇して、激戦とかになってなければ良いが。
って、これフラグ立てちまった、かな?