35話【それは、武力で戦うものに非ず。だが、全てを操ることさえ可能な職種である】
夜、俺の疲労は強制的に治され、
ルイも起きてきた。
「それじゃ、仲間になってくれ」
「勿論だよ」
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「どこから流れてくるんだい、この音楽は」
「さあ?世界の中心とかじゃね」
さぁ、夕食に移ろう。
展開が早いと思った人、居るかな。
仕方ないんだよ!作者のアホのせいで、全く進まないんだよ話が!
予定だとさ、そろそろ首都に攻めてたらしいぜ?
作者の予定、どうなってんのかね。
ルイは皆にも打ち解け始めてる。
俺ととっくに打ち解けてるのが効いてるのかな。
この後の予定では、夜中1日掛けて語り合うつもりだ。
酒も用意して貰おうと思ったんだが、ハンナは何故かノリノリで進めてくるのだが、皆がやたらと止める。
何故だ。俺に何故飲ませようとしない。
良いさ、ノンアルカクテルだって、旨いのはたくさんある。
ルイはカクテルそのものも作れる。
そう、そのイメージのあれ。シャカシャカ振るやつ。
夜もノンアルカクテルを作って貰おう。
だが、その前にやることがある。
――――
俺は、西城に用意して貰った自分の部屋に戻る。
ベッドとデスク、そこそこの部屋。
全く、あまり気を使わなくても良いのに。
まぁ、用意してくれるもんは使うけど。
コンコン。
「ハンナです。お申し付け通り、参りました」
「おう、入れ」
俺はベッドに腰かける。
「よしハンナ。まずそこで、正座しろ」
「畏まりました」
あれ?何故受け付ける。そして何故軽く喜んでいるんだお前は。
綺麗に、ピシッと正座している。
「さてと、ルイの件だが」
「あの件で御座いますか?」
「違う。そっちじゃない。ルイが俺の技のことを知っていた件についてだ」
「その件で御座いますか」
ルイは俺のことを、かなり調べていた。
噂以上に知っていたようだ。
ルイはかなり強かだ。きちんと情報収集という段階を経て、俺達に接触してきた。
問題は、
「なーんで、そんなに俺の情報が漏れてたのかなぁ?業焔剣嵐に至っては、一度しか使ってないんだがなぁ。何か知ってるかハンナ」
「はい。勿論で御座います」
「ほう、なんだ」
「私が噂に流しました」
「よしそこに直れ俺直々にお仕置きしてやる」
「ではこれをお使い下さい」
「へ?これは?」
「調教用の短鞭です」
あれー?おかしいな。想定したシナリオに進まない。
何故だ?何故自らお仕置きを受けたがる?
更には、何故攻撃力を増させるのか。
ヒュンヒュン。あっ、これ使いやすい。
「素振りならば、どうぞ私の身体をお使いください」
君は何を言ってるのかな。君のイメージがまた変わっていくよ。
「うーむ。てか、なんでこんな物持ってたんだ?」
「馬の調教用です。今日は一度馬房に行ったので」
「あー、そういうこと……?」
どういうこと?何故まだ持ってるのかな。
「さあリョーガ様。存分にお叩き下さい」
「いや、俺女の子を叩いたりとか、あんま好きじゃねぇんだけど」
「私は全く構いません」
「いや、そこは構えよ!」
流石に突っ込んでしまった。
おかしい、やはりこの侍女、パーフェクトメイドなのに、どこかおかしい。
まっ、別に良いか。俺の侍女やメイドに対する認識は、ライトノベルとかを読んでたせいでかなりおかしくなってるし。
「はぁ、まぁお仕置きは良いや」
「そうですか」
何故露骨にガッカリするんだ。
まるで、お仕置きされるために情報を流したみたいじゃないか。
そんなわけないだろうけど。
「これからは、あまり情報を流すな。流す情報は俺が指定する」
「勝率をあげるために、で御座いますか?」
「ああ。俺のシントウ流は、知られても平気なものが多いが、知られないに越したことはない。きちんと出来たら、そうだな、俺からも何かご褒美を」
「全てきっちりこなしましょう」
「早いなおい。んじゃ、情報を指定していく。まずは何の情報を漏らしたか全て正確に話せ」
「畏まりました」
――――
「やぁリョーガ君。それじゃあ、語り合おうか」
「おっ、それは?」
「カクテル。フォーキールというノンアルだよ」
「なんで皆、俺に酒を飲ませないんだろうか」
「君は、前に飲んだことあるのかい?」
「ちょっとな。この国の飲酒制限が、かなり適当で驚いたぜ」
「ボクも、向こうで少しだけ飲んだことはあるけれど、こちらでは飲み放題だね」
ハンナとの、イメージの変わる密談の後、語り合いにルイが来た。
仲を深めるには、語り合いが一番!て訳でも無いが、やはり、アニメを語るのは楽しいからな。
「リョーガ君、それは何かな?」
「ん?ああ、これか。さっきハンナが来てたんだが、その時に置いてった。馬の調教用の短鞭だとよ」
デスクに投げっぱなしにしといた鞭に、ルイが気が付いた。
ん?ルイの表情が少し変だ。
「これは、馬用じゃないと思うよ」
「え?マジか?」
「知り合いに、ジョッキーが居るんだ。父親の店の客でね。それで馬について、多少は知ってるんだけど。……これは多分馬用じゃない」
「んじゃー、これ何用だ?動物用だとは思うんだが」
ヒュンヒュンとまた軽く振り回す。
やたらと使いやすいのが、逆にあれだな。
「あー、これはね。多分なんだけど」
「見たことあるのか?」
「うん。えーとね。これは、そのー」
歯切れが悪い。
ん?まさか、
「人用?」
「多分」
あの無表情侍女なんてもの渡しやがった!
使いやすいとか言ってた俺はなんなんだ畜生!
「しかもね。それ、多分リョーガ君用にカスタムされてる」
「は?んだそりゃ」
「使いやすいでしょ?リョーガ君の手に合うように、グリップや、重心とか、きちんと計算されてる。侍女さんが渡したって言ってたけど、まさか」
「俺が頼んだ訳じゃねぇよ!」
「だよね。なら、偶然かなぁ?」
「イヤな偶然もあったもんだな」
あれ?なんでルイはすぐにそんなこと見抜けたんだ?
軽く振ってたとはいえ、そんなすぐに見抜くもんかな。
つーか、あの侍女に対する認識が更にダメな方向に進んだぞ。
どうなってやがる。
軽く仕切り直して、カクテルを飲み、アニメの語りを始めた。
少し、観点は違うものの、好みは近くて楽しかった。
気付いたら、2時だって奥さん。丑三つ時ですよ。
話始めたのが、10時だから、四時間ですよ四時間。
まっ、それだけ楽しかったってことだな。
「じゃ、リョーガ君。ボクはそろそろ戻るよ」
「おう楽しかったな!」
「うん。ボクも楽しかった。また語ろう」
「ああ!それじゃ、お休み!」
「お休み、リョーガ君」
―――
こんな夜中まで語り合ってしまった。
リョーガは良い人だ。話も合うし。
ここに来てよかった。でも、少し心苦しいな。
隠し事があるのは。
ふぅ、御風呂入ってから寝たいけど、流石に無理かな。
こんな夜だし。明日、朝になったら、タオルと水を借りよう。
御風呂に入るのは危険だ。
「御風呂のご用意なら出来てますよ」
「うわぁ!」
っと、今は夜中。あまり声を出しちゃいけない。
って、
「ハンナさん。ビックリさせないで下さい」
「そんなにビックリされるのでしょうか?」
無表情だから、尚更怖い。
あれ?でも、少し悲しそう。傷付けちゃったかな?
「それで、ルイ様。御風呂のご用意は出来ておりますが」
「本当に!……あっ、でもダメかな」
「何か理由が?」
「ちょっとね」
「ですが、心配はご無用です。防音ですし、誰も今は御座いません」
「そういうことじゃないんだけどさ」
少し話が通じない。と言うかなんでこんな進めて来るのだろうか。
「ああ、もしかして、女性であることを気にしているのですか?」
「──────!?」
なんで!?しまった。反応してしまった。
「えーと、どういうこと?」
「文字通りで御座いますが。ルイ様が女性なことは、一目で把握しておりましたし、男装しているので隠しているのだろうと」
完全にバレてる!なんで!?
そう、ボク、ルイは性別上、女。
あっ、中身が男とかじゃない。きちんと、女。
この口調も、元々。女の子ぽくないのは分かってる。
そういえば、宝塚の男役に例えられたこともあったかな。
「その、誰かに話した?」
「いいえ、誰にも」
「そっか。ハンナさんしか知らないのか。なら良かった。この事は誰にも言わないで貰えるかな?」
「それは構いませんが」
「?」
「リョーガ様は既に知っておられます」
「────────!?」
再度絶叫しかける。リョーガまで!?なんで!?
「ちょっと待って!リョーガ君は確か、ボクを見たときに、【男か、残念】みたいな顔してたよ!?」
「ああ、そのことですか」
本人は隠そうとしてたけど、父親の店の手伝いをしていたから、色んな人の顔色を見てたから、少し見極める自信がある。
「それはフェイクで御座いますよ」
自信崩壊。
「リョーガ様は、基本的に嘘は付きませんが、フェイクは多用します。親友を騙し、あまつさえ読者さえ欺くほどに、フェイクが多いです。リョーガ様のモノローグは大抵フェイクと真実が混ざっているので、かなり質が悪いですし」
後半は訳がわからないけど、前半は少しわかった。
「リョーガ様曰く、【女の子が1人で、この異世界を旅するのと、男が1人で旅するのとじゃ、かなり難易度が違う。元々顔立ちが中性的で、偶然異世界へのシフト時に、コスプレしてたか、衣装を持ってたんだろ。それに、カクテルにはエンジェル・フェイスというものがある。俺の予想では、この技名は、天使は性別なし、フェイスは顔立ち。つまり、性別を誤認識出来るんじゃないか。それも使って隠してんだろ。こういう技は、消耗が小さく常時発動ってのがデフォだ。本人が隠したがってるならわざわざ暴く必要もねぇ】と。私には、そのフォローを命令されました(実際には頼んだだけで命令はしてない)」
「そこまでバレてたのに、普通に接してくれてる?」
「私には分かりかねますが、1つ言えることは」
「言える、ことは?」
「リョーガ様は女性に対してとても優しい、ということです」
「なんだい、それ」
推測も、大部分は合ってる。
なのに、指摘しない。これから、仲間になるのに。
命を預けるというのに。
彼は一体、何を考えているのだろうか。
「私にも分かりかねます」
「心を読まないで貰えるかな」
「リョーガ様は、私を初めて認めさせた程の男。いいえ、見抜くことも、見越すことも敵わない御方。そのお心を計るのは、神の領域に入らなければ不可能でしょう」
「君は、本当にリョーガ君を買っているんだね。君の主はリネットさんではないのかい?」
「リネット様は、私が仕えるに値する、とても綺麗な心を持った人です。ですが、私は、私たちは、女性に仕え、男性に全てを預ける。ルイ様とは、価値観がまるで違うので御座いますよ」
「んー、よく分からないかな。ボクはこの世界のことはあまり詳しくもないし」
「それで構いません。私のことなど、些末なことです。それより」
「?」
「御風呂に入られますか?」
「………そうだね。入るよ」
「では、こちらへどうぞ」
―――
一方そのころ、俺はと言えば。
「そろそろ出てこいよ。俺に敵対したいんじゃないんだろ?」
何故かまた、西城の天守閣の上に居た。
俺がこの世界に来て、砦についてすぐから感じていた視線。
それは、ほんの僅かな違和感ぐらいなもの。
とても隠行に慣れているものの視線だった。
俺がそれに気付けたのは、昔から視線を感じる訓練をしていたからだ。
何?厨二じゃないかって?そうだよ!何か文句あるかぁ!
と言うのは半分ホントだが置いとく。
師匠との訓練の1つに、こんな訓練があったんだ。
視線に気付かないと、滅多うちにされたから、必死になって感じたよ。師匠、5歳の子供にやる訓練じゃないっすよこれ。
「流石だな。敵意が無いことまで感じ取っていたか」
「それは途中からだけどな。しかし、見事なものだぜ。忍者顔負けの隠行っぷりだ。天守閣来るのに、気配の乱れが一切無い」
しかも、速い。俺の瞬連加の限界地点並みだぞ。
西城の、外に居たのに、通常ボリュームで話した俺の声を聞き取り、瞬時にここまで来るとは。
その姿は、よくわからない。
マント?コート?顔から、身体まで、全てを隠せるローブ、かな、これが一番しっくりくる。を羽織っているから体型さえ読み取れない。
声もまた、低く男の声に聞こえるが、変えてる可能性はかなり高いな。
「それで、素直に出てきたということは、元々俺に接触する意思があったんだろ?俺をつける理由は聞いても無駄だから聞かない。用件が聞きたい」
「ほう?ストーキングしていたことを咎めないのか?」
「しても無駄。あと、俺眠いので手短かに頼みたい」
「それが本音だな。………俺の名前はレゼル。偽名だがな」
「偽名かよ」
「通り名のようなものだ。俺は、情報屋をやっている」
「成る程、逆に信用出来るわ。それで、俺の情報を集めるのか。或いは、俺に売りたい情報でも?」
「その通り。だが、今回は初回だからな。信用代金として、無料でプレゼント。信用が何より大事な情報屋だ」
「そ。なら、何の情報をくれる?」
「この周辺に居る、君達だけでは知ることの出来ない人間達。すなわち、君が求めている協力者足りうる者達だ」
スイッチオン。
「その情報を渡すことで、レゼル、あんたのメリットは?」
「ある。俺はな、この国、フェイクライナを無くしたくない。おっと、勘違いしないで欲しいのは、俺はこの国に愛着は無い。情報屋として、だ」
「ほう。なんだこの逆に信用出来る感」
「それで、俺の情報はいるかい?」
「いる」
「即答だね。疑うことはないのかい?」
「ああ。仲間が欲しいのは事実だ。それに、疑う必要がない。俺の信用を得たいなら、或いは騙したいのなら、この初回で俺を欺く必要性がないからな」
「その頭の回転の早いところ、やっぱり良いね」
「んじゃ、情報を頂こう」
「急ぐね」
「眠いからな」
「それじゃ、所在地入り地図と、情報メモ。リョーガ、君に渡そう」
「貰った」
「これからも、このレゼルを御贔屓に」
「ういー」
シュン!じゃない。闇に飲み込まれるが如く消える。
音なんて、まるでない。
情報屋か。これからも、あいつとは色々ありそうだな。
さてと、まずは寝るか。