26話【ホントに、大人のお姉さんはやりづらい!ポッケに入っちゃうモンスターの時は助かるけどさ】
とにかく駆ける!
「<汝は我が騎士にして主也>!」
リネットが慌てて強化をくれる。
ジンはもう分かってたから、ガンズ・カーニバルを即展開。
「シントウ流<一刃乃突楓>」
「あらあら、激しいのねー。そういうのも好きよ?」
風を纏い、刀を突き出しながら突撃。
途端、凍り付く。
それを予期して幾重咲きで、一の刃を先に閃かせておいた。
刀が凍り付く。本体、俺が凍り付く前に僅かな時間差。
その隙に俺は右へ緊急回避。
突撃中の回避は負担が大きいが、回避出来るよう突撃角度を計算していた為、大した疲労ではない。
そして俺が右に避け、出来たスペースをガンズ・カーニバルから放たれる銃弾が埋め尽くす。
通常、衝撃、貫通、破壊、爆発、光、炎、水、電気。
現在刃の使える銃弾を全て撃ち込んだのか。
だが、
「なかなか良いわねー。通じないけれど」
全て凍り付く。
凍化領域、とでも認識しようか。
恐らく、ラターニャから冷気、凍気が放たれている。
中心が最も強く、放射状で徐々に弱くなる。
つまり、近付けば近付くほどに凍る。
飛び道具すらも凍らせるから、防御力も偉く高い。
一刃乃風を放つ。やはり凍る。
成程、風でも、形のあるなしに関わらず凍らせることが出来るのか。
(ジン、弾の種類で効果の違いは?)
(何となく炎は効く。水はすぐ凍った。威力、大きさで凍る速度が変わる)
(まっずいね。攻撃手段がねぇとは)
はっきり言って、勝てないよねぇ。
俺のシントウ流は、妄想内ならば、幾らでも技がある。
しかし、現状の俺では遠距離技は少ない。
近付けば凍る。
刃のガンズ・カーニバルも凍化領域を突破出来ない。
まっ、だからと言って諦める理由にはならないよなぁ!
俺のシントウ流は、1度ラターニャの凍りを打ち破ってる。
てぇことは、俺のシントウ流は効く可能性がある。
ラターニャが、遊んでいる内に対抗策を考えねぇと。
「シントウ流<瞬連加>!」
「ガンズ・カーニバル、スナイプモード」
俺は瞬連加で加速しつつ、風を放ちながら牽制。
刃が現在使える最も貫通性能がある、スナイパーライフルでの狙撃。
「あらあら、良いわねー。でも、それでも届かないわー」
だけどさっきより確実にラターニャに近い。
風を、凝縮する。一刃乃風、風を刀身に集めまくる。
その間、投剣で攻撃。
投げて投げて、検証する。
ジンはスナイプモードで狙撃。この場で慣れながら、撃つ。
特訓や修行は効果がある。
だが、戦闘時の経験速度は、ソレとは比べものにならないほど早く、速く、上達していく。
こんなもん、単なる御約束や御都合主義と思ってた。
でも違う。分かる。判る。解る。
思いが、想いが違う。精神が、魂が、心が、震える。
この瞬間瞬間に、成長する。
風が、俺の扱える限界まで収束する。
それを察知したジンが、溜めに溜めた銃弾。
あれは、電磁銃!?
そうか、電気弾の電力で、磁力線を張ったのか。
何となく、勘でやったな彼奴。
そのスピードは桁違いだ。
それでも、届かない。だが、警戒はさせる。
「あらあら、やるわねー」
ここだ!警戒と油断の隙間。呼吸の合間。
意識と無意識の境。そこを突く!
「シントウ流<嵐刃突風>!」
一刃乃突風は、突撃時、回りに風が発生する。
この風は攻撃防御、両面に働く。
その風を、嵐と称するまでに溜め、解放することで生まれる強力な突撃。そして、凍化を中和する大きな風。
加えて!瞬連加で溜めた加速を解放。
平均速度を上げることも出来るが、今回は油断させるために低速状態で溜め続けた。
これで、どうだ!
一直線に進む突撃。近付くほどに加速する凍化。
だが、抜けたぞ!
「凄いわねえ。でもそれじゃおねいさんを熱く出来ないわよ?」
キンッ!
刀が凍る。
凍化領域は、受動的な防御。半無意識なんだろう。
てことは、能動的、意識して凍らせられるよな。
だからこそ、刀を囮に、
「<速度還元>」
とにかく触れる。手を伸ばせ!
手が凍り付く、その前に!
ドォン!
溜めた速度のほぼ全てを叩き込んだ。
でも、
「あらあら、やるじゃない。おねいさん火照ってきたわあ」
「効いてない、か」
くそ、速度を凍らされた!
自分に触れたダメージを凍らせて防ぐとか。
どんだけ防御に適した魔法だよ。
しかも、
「遊びは終わりねえ。凍らせるわよ?」
「<瞬連加+瞬継加>!」
使いたくねぇのによ!
瞬連加は速度を溜めるまで時間がかかる。
ならば、瞬加で一気に溜めれば良い。
負担がかかる、自壊技だけどさ。
寒気が襲い来る。直感じゃなく実感で。
とにかく逃げる。幾重咲きで十の刃を閃かせ、囮にする。
ジンも常時動いてる。スナイプモードを止めて、16丁の拳銃が踊り続ける。
まずい。まだ遊びもあるだろう。
凍化領域の能動使用のみなのがその証拠。
だけど、それだけで追い詰められている事実。
「リョーガ!」「リョーガ君!」「リョーガ!」「ジン!」
やべぇ!
シンシアがレイピアを、ヴェルが精霊を、ティーが武器を精製する。
「来るんじゃねぇ!」
「あらあら、おねいさんは、女の子に興味は無いと言ったわよ?」
強い、あまりにも強くなげやりな凍化が、女子陣を襲う。
「<速度還元>!」
溜めた速度を、加速に使う。
高速の状態で、更に加速。
脚が壊れようが、吹っ飛ぼうが、関係あるか!
「はっ、間に合って良かったぜ」
俺は凍った。
―――――
オレは、軽くキレた。
訂正。全力でキレた。
リョーガは分かってたのかな。
相手をするのはオレとリョーガ。女の子相手には容赦がないと。
「やってくれたなァ!ラターニャ!」
リョーガが行動不能の為、オレに視点が移る。
まっ、すぐに視点は変わるさ。
オレじゃ勝てねえもの。
でもよ、一矢ぐらい、報いてやるさ。
「ラターニャ!リョーガはどうなった!治るのか!」
「あらあら、速いのねえ。つい凍らせちゃった」
「聞いてるんだ!」
撃ちまくる。怒りを、感情を弾に乗せ、激情と共にトリガーを引く。
「無理ねえ。だって、存在ごと凍らせちゃったもの」
つまり、なんだ。
「治す方法は」
「そうそう無いわねえ。おねいさんの凍りは強力よ?」
知るか。
「!?あらあら、おねいさんに銃弾を届かせるなんて」
レールガン。例え銃身が壊れようが、消費が激しかろうか、撃ってやる。
効くものがそれしかねーんだ。
「撃ってやるさ!ガンズ・カーニバル、電磁祭り!」
オレはリョーガと違ってフェミニストじゃねぇ。
そりゃ抵抗感はあるが、躊躇いなんてない。
撃つ。撃つ。撃つ。
凍化領域とリョーガが便宜的に名付けたラターニャの攻防一体の領域。
オレの能力、魔法で一番効果のありそうなのは、ぶっつけで試したレールガンだけだ。
しかもライフルで。今は16丁で撃ちまくる。
銃身が短いから、加速の到達点はライフルとは比較にならない。
それでも、物量で押す。
凍らせてくる攻撃を、拳銃を囮に、発射や爆発の反動で生まれる力を無理矢理に使って逃げまくる。
オレ達のパーティーで、ラターニャに敵う可能性があるのはリョーガだけだろう。
女子達はきっと即やられてしまう。おねいさんことラターニャの遊ぶ気がないから。
今、女子達はリョーガを助けようと頑張ってる。
シンシアは風で、マーヴェルは精霊で、リネットは強化魔法を通じて何か出来ないか試している。
ティーはオレは助けようとしているのか、だが、さっきの二の舞になることが分かってるから苦々しいんだろう。
さてと、オレはどうしますか。
リョーガ風に言うなら、覚醒を1度経たことで源子の最大保有量は物凄く上がってる。
それでも、何時までも攻撃が出来る訳じゃねぇ。
リョーガだって、無限に等しい源子保有量でも、体力や肉体の限界がある。
今の状況は、後先考えないオレの命懸けの銃乱と、ラターニャの未だ遊びが残る対応により生まれている。
オレの体力切れ、或いはラターニャの心変わりで容易く崩れる状況。
崩れた瞬間全滅。死んでしまうとは情けない!で王様か教会で復活だ。出来たら良いけど。
今のオレで勝てないのなら、この戦いの中で成長する。
でも、覚醒には頼らない。頼れば出来なくなる。
そんな気がするんだよ。でも、願うことは止めない。
頼らず、でも願うことを続ける。
「あらあら、頑張るわねえ」
当たり前だ。頑張るしかねーし。
今のオレの、使える魔法。それを一秒毎に改良していく。
撃つ角度、撃つタイミング、撃つ強さ、反動のいなしかた、エトセトラエトセトラ。
気付いたことがある。オレの最大は16丁拳銃。
スナイプモードだと、ライフルと4丁。
つまり、12丁=ライフル1丁に匹敵する。
或いは、12丁使って、ライフルを形成している。
ならば拳銃を、1丁を単位として、合成すれば?
8丁の拳銃、だが、2丁で形成されるソレは、
2倍を越える威力を持つ。
「あらあら、まだ上がるのねえ」
そして、16丁で、1つの銃を、銃身が長く、口径の大きな銃を!
「ガンズ・カーニバル、集中型狙撃銃」
名前は適当で良い。
(弾丸は1発。弾丸が耐えられる限界の源子を注ぎ込む。銃身には電磁を充填。オレの電気は電気弾から生まれる、間接的な使い方。でも関係ない。とにかく電磁を全力で。そして、後はオレの狙撃力!!!)
引き金を、引く。
電磁線に乗って弾丸は加速。
長い銃身により、加速時間は長く、加速到達点は高く。
電磁の銃弾が、炸裂する。
「それでも、おねいさんには届かないのねえ」
凍らされた。恐らく、意識的に凍化領域を集中して。
つまり、無意識の凍化領域なら、貫ける。
リョーガは武道の経験で、相手の呼吸を読んで虚を突いた。
オレにそれは出来ない。
なら、真正面から撃ち抜く。
意識しようが無意識だろうが、更に速く撃ち抜く。
16丁で足りない?ならば32丁で。
それでも足りないのなら、64丁の拳銃を1つの拳銃として!!!
「ガンズ・カーニバル、64倍集中型狙撃銃」
「あらあら?なかなか強そうね」
この1発に、全力を籠めよう。
オレが、1度に振り絞れる最大値を。
「レールガン、発射」
音はない。置き去りにしたからだ。
それは一筋の閃光。電磁が生む速度。
大気を焦がし、いや大気を破壊しながら突き進む。
凍りは電磁によって発生する、余剰熱が融かす。
密度の上がっていく凍化。それを速度によって無視。
まだ2章にして、チートが如き銃撃は、
「おねいさんを熱くすることは、出来ないのねえ」
チート極まる氷冷喚ぶ使者には届かない。
「もう良いかしらあ?これ以上は望めなそうだし」
「ああ。オレの力じゃ、これ以上は未だキツい。でもよ、出来ることはあんのさ」
「どういうことかしらあ?」
「こういうことだ!」
全力を籠めた。でも、あくまで1つに籠められる全力。
疲労はある。限界に近い。でも、源子は、エネルギーは残ってる。
今のオレは64丁まで成長してる。それでも通用しなかった。
だから?そんなことは想定済みだ!
キャノン・ライフルを、64丁拳銃に戻す。
それを展開。凍ったリョーガを囲うように。
「離れろォ!」
それを聞いた女子達が、訳もわからず離れる。
「見ていろラターニャ。その方が面白いからな」
「あらあら、おねいさんを脅すの?」
拳銃に込めるのは炎の弾丸。
拳銃に籠めるのは熱く燃える魂。
「ガンズ・カーニバル、集中せし劫火の宴」
氷像と化したリョーガに、集中砲火。正しい意味で弾丸を撃ち込む。
「マーヴェル!リョーガに炎の精霊をありったけぶち込め!リネットはリョーガに強化を全力で送れ!早く!!!」
「!?<皆、お願いィ!!!>」「<我が騎士にして主よ、我が願いに応え給え>!!!」
全力の全開の全撃。
これで、オレの源子も、体力も、精神力も空だ。
だから、
「任せたぜ、親友」
感情と共に、燃えている。
己という存在を燃やし、バカは復活する。
「任されたぜ、親友」