17話【本題に入ろうか、話が進まないんでな】
その頃の女子陣。
「暇だな」
フェイクライナ国近衛隊長シンシアが呟く。
「そうですね」
ゴゥアフト、フェイクライナ方面纏め役ティーことロッティーも呟く。
その他ゴゥアフトメンバー3人も暇そうにしている。
エルフを仲間に引き入れるという名目で来たのだが、
ここに残るように言われたので大人しく待っているのだが。
「何がモンスターを警戒してろだ。まるで見掛けないではないか」
「この辺り、もしかしたら何らかの結界が張られているのかもしれませんね」
「ならば、私達はここで警戒する必要性があるのだろうか」
「………体よく置いてかれた感があるような気も」
基本的に喋る、いや呟くのはこの二人だけ。
他の3人は、単なる任務なので暇は暇で良いようだが、
「折角ジンにくっついてきたかいがないじゃない」
「何のために私はついてきたのだ……!」
思春期によく見られる感情を持て余していた。
「私は別に恋などしては……!」
「いきなり叫んで、どうかしました?」
「いや、何か感じてな」
恋なんて誰も言ってないのに。
「そういえば、何故君は敬語なんだ?」
「えっ?いやその、色々あったので……」
「別に同い年位だろう?敬語など要らないぞ」
「流石に、近衛隊長は権力も凄いですし…」
「そんなことは気にしなくて良い。元々、権威を振りかざすつもりなど無いからな」
「それに、貴女は貴族ですから」
「!!?」
「アタシ達は、基本的に貴族は毛嫌いする傾向にありますが、貴女は良い人だと判ってますから」
「そうか、知っていたのか」
「ええ、調べることはゴゥアフトの任務の1つですから」
「私は、自分が貴族の出であることは好ましく、いや、嫌悪している」
「勿論、言いふらしはしません」
「だから、私は単なる近衛隊長、一兵士で良い。だから、敬語は止めてくれ。その方が気楽で良い」
「それでは、……それじゃあこれで良い?シンシア」
「ああ、ありがとうティー」
はっきり言って、微妙な関係だった二人。
ちょっと仲良くなったところで、
「おやおや、邪魔が居ますねぇ」
変態が現れる。
―――――――――
「!?」
「皆、構えて!」
シンシアは細身剣を構える。
レイピアと言えば突きの為のイメージが強いが、
それはフェンシングの影響だろう。
初期のレイピアには刃はついていて、尚且重量もある。
この世界では、騎士階級に好まれる武器だ。
美しさに加え、攻撃力もある。
シンシアは単に、適性があったからという武人めいた理由だが。
ティーはゴゥアフトメンバーを後ろに下げ、サポートに徹させる。
ティー自身は、身体に巻いたベルトから、筒状の物体を取り出す。
言うなれば、柄だろうか?
「<柄より出でよ剛なる棍よ>」
柄から、エネルギー、源子が迸り形を成す。
文の通り、棍の用に。
「貴様、何者だ!」
「ふぅむ、違うねぇ。褐色でもないねぇ。後ろの3人も違う。君たちに用はない。用があるのはエルフだけだからねぇ」
「エルフに何をするつもり?」
「なぁに、強い力を持つと聞ぃたのでねぇ?拐いにきたに過ぎなぁい。邪魔をする気かなぁ?」
「なんか、気持ち悪い」
外見、一見すると普通だ。
スーツのような服を着て、髪はオールバック。
顔立ちは悪くは無いだろう。
だが、何だろう。
顔付きがいやらしい。
生理的に受け付けないと言うべきか。
周りにいる、粘着質で、ぬめっとした性格、
両生類みたいな人間という評価が近いだろう。
「倒すのはともかくぅ、面倒ぅ、面倒ぅ」
「きっ、気色悪い」
女子陣は悪くないだろう。
キモいのだ。
そして、言われて喜んでいる節もある。
しゃべり方は何処ぞのゆるふわ系研究者と被っているのだが、
こちらはキモさが具現化したようなものだ。
「ふぅむ、解放」
「!、魔人か!」
「御名答ぅ、でも相手はしないねぇ。こやつらに任せよう」
魔人達は【解放】というなんの捻りもない文言で力を、
本性を覚醒させるらしい。
今までは、外見も大きく変わっていたのだが、
変化は薄い。
強いて言えば、髪が黒から毒々しい黄色に変化したぐらいだろう。
そして、解放後、腕を振った。
「あれ、は……!」
「まさ、か」
振った先の地面に、何かが蠢いていた。
地面から、栄養を吸い大きくなる。
たくさんの触手を滑らせて。
「「「「「キモい!!!!!」」」」」
全員の感想が、一致した。
リョーガ達が居たらこう言うだろう。
触手好きドMの変態魔人!?
「さぁて、任せましたよぉ、きみたちっ!足止めぐらいやっておきなさい」
意外?にも素早く扉を開け入ってしまう。
「しまった!キモくて捉えられなかった!」
「それは仕方ない、相手は魔人だ。それよりシンシア、こいつらをどうにかしよう」
蠢く触手は3体、キモさ全開の緑色。
乙女達は、絶対に触れることなく倒すことを決意した。
―――――――
「やっと、辿り着いたぜエルフっ娘」
時は少し遡り、リョーガがエルフの元へ突入したところから。
やっと主人公に視点が戻る。
「……………………」
「ヲイヲイ無言ですか」
「エルフと種族名で呼ばれるのはキライ」
「そうか、だが俺は君の名前を知らない。知っているのは【ヴェル】という愛称らしきものだけだ」
「っ!……。マーヴェル、マーヴェル⚫ダウティクス。それが名前」
「へぇ、良い名前だな」
それを言った瞬間だった。
バァン(マーヴェルが炎弾を放った音)
スパァン(俺が刀を創造、斬った音)
「いきなりだな」
「何が…、良い名前なの。こんな、こんな」
刃が血路を開いて造った道を、
一刃乃突颯にてくぐり抜け、
扉をこじ開けて入り、
話しかけて30秒で決裂かよ。
いや、違うな。
この反応、考えろ。
俺の武器、思考すること、分析すること、読み解くこと。
「成る程、嫌ってる。違うなそんなレベルじゃないな。呪ってるのか、自分の名前を」
「……そう、わかるの。呪ってるよ、こんな名前」
「エルフにとって何らかの意味合いがあんのか、もしくは過去に何かがあった雰囲気だな」
「凄い洞察力」
「そりゃどーも」
「褒めてない」
マーヴェルね、良い名前だと思うんだけどなぁ。
俺が知ってる意味とは違うのかねぇ。
ん?そういやヴェルって、おかしいような。
確かマーヴェルの略称、愛称はマーヴとかだったはず。
まぁ良いか、文化違うし。
「貴方は、仲間を置いてきたのね」
「ん?なんか酷い言い草だな」
「事実、400のモンスター、ワタシの強化もかかってる。その軍勢がいる場所に貴方は仲間を置いてきた」
「んー、それがどうかしたか?寧ろ君が何故心配するのかが分からないな」
「ワタシは死ぬところはみたくない。ただ追い返したいだけ。でもここまで辿り着いてしまった。二人なら逃げられる。でも一人じゃ逃げ出すことも難しい」
「ほう、追い返すね。そのわりには別の意図を感じたんだがな。つーか、あのモンスターは操ってないのかよ」
マーヴェルは優しい系だな、決定。
ツンデレってわけでもねーよーだが、
照れ屋ではありそうだ。
「あのモンスター達は、ワタシに襲わないようにしてるだけ。命令には従わない」
想像通りか、ここまで合ってるとチートくせぇな。
「ふーん。でもよ、1つ間違ってるぜ?」
「なにを?」
「ジンは負けねーよ」
「確証はあるの?」
「ああ、ある」
「どんな?」
「あいつが、刃だからだ。それだけで充分だ」
「……!?」
絶句してる。
理由になってないもんな。
「扉はどうしたの?」
「扉?」
「あの扉は、モンスターを全部倒さないと開かない仕組み」
「ああ、そういや鍵かかってたな」
「どうやって開けたの?」
「壊した」
「貴方、デタラメ」
「俺にとっちゃ誉め言葉だね」
シントウ流には、良い子は真似すんな、悪い子は別に良いよ、
という、覚えちゃダメな技術がある。
シントウ流は、格闘術じゃあない。
あらゆる技術を吸収している。
そう、あらゆる場面で役にたつように。
そして、そのなかに盗賊系の技はどれ程あるだろうか。
いやいや?使ってませんよ?
元の世界で使うことなんて有りませんでしたよ?
んで、今回使った技はシントウ流<抗錠壊耐>。まぁ、錠、鍵を壊す技だ。
といっても、壊す対象には、魔法や術式も入る。
モンスターの生体反応とリンクしていた、
扉を閉めている鍵を壊したってわけだ。
「それで、貴方の目的は?」
「君を、フェイクライナを救うための戦力としてスカウトしに来た」
「随分と自分勝手ね」
「というのが、姫様達を納得させるための建前だ」
「…え?」
「本当は、単にエルフと会いたかっただけだ!」
「………バカなの?」
「バカで結構!」
「じゃあ、叶ったんだから帰って」
「おっと、そうするわけにはいかないな」
そう、一目見た時から決めたんだ。
「もう、建前やらなんやら関係なく、仲間にしたいと決めた」
「それは、エルフだから?もしくは強い力を持っていそうだから?或いは」
「可愛いからだ!」
「………」
「可愛いは最強だ。理由になる」
「……本当にそれだけなの?」
「まぁな。つっても俺は外見だけで全ての判断はしねーよ。話してるうちに、君の人となりは少しずつ分かってきた。んで、より仲間にしたくなった」
「……それで、どうするの?ワタシはお断り」
「んじゃあ説得するよ」
「無駄、仲間になる気は無いし。帰って」
「嫌だね、仲間にすると決めた。帰らん」
「力ずくで追い出すよ?」
「追い出せるものなら」
「殺したくなんて無いけど、死ぬ可能性もあるよ?」
「殺せるものなら」
「そう、バカなのね」
「言ったはずだ。バカで結構。それに、俺に勝てると思ってるのか?」
「なら、試してみる?」
途端、マーヴェルから放たれる威圧感が大きくなる。
でもな、君は優しいよ。
殺気は無い、害意すら薄い。
君からは、試しているような印象を受けるんだ。
その理由は分からない。
推測しか出来ない。
俺が君を仲間にすることに決めた理由、
それは簡単だよ。
寂しそうなんだ?とても、とても。
悪いが、全力で行かせて貰う。
君を1度倒す。君を助けるために。
さあ始めよう。さあ、物語を進めよう!
――――――
「<支配を受けし精霊群>」
マーヴェルが文言を放つ。
ん?なんだ、技名?スピリチュアル⚫ドミニオンだと。
精霊の支配権といったところか?
でも、発動形式が違う。
そして、起こる現象は、
彼女に周りに、使役精霊が現れる。
彼女を王として、数十、数百の精霊が顕現する。
「おいおい、なんて数だよ」
「今まで貴方たちにぶつけてきた精霊とは、比較にならない」
「だろうな。しかし、技名による魔法行使とは。最初に命令文型使ってたから、てっきり人間と同じと思っちまったぜ」
「それは、使えるというだけ。元々使役精霊魔法に、言葉は要らない。意思を伝えれば応えてくれる」
「便利なこった」
俺は刀を構える。
これだけの数、さっきのモンスターボックスと大して変わらん。
だが、違うのはマーヴェルが操るということ。
刃はよく誤解したり、間違って認識していることがあるが、
シントウ流とは、全局面に対応するために創られたもの。
相手が多数ならば、それに対応するまで。
事前にありとあらゆる技を、
足りなければその場で創り、造る。
今回使う技は、
「シントウ流<颯舞>!」
襲いかかってくる多種多様な使役精霊達。
それを、颯舞の高速の斬撃で、切り払っていく。
「ワタシを舐めてるの?」
「なんのことだ?君を舐めるだなんて、するわけないだろ。ただでさえ精霊一杯できついってのに」
事実だ。敵は多く、さらに強い。
それでも、俺の方が速い、速いからこそ対応出来ているだけだ。
「その、ハヤテマイという技はもう見てる。貴方なら、ワタシが視ていたこと位気付いてる。なのに、同じ技を使った。舐めてるとしか
「ハッ、舐めてるのはどっちだ」
……どういうこと?」
「もしかして、1度見たくらいで俺の颯舞を攻略出来るとでも?バカにされた気分だ。颯舞は俺の技の中でも、特に気に入っている技だ。そして、攻略不能を唱ってんだよ」
「攻略不能、大きくでるのね」
「ああ、それだけ自信があるってこった」
「なら、崩す」
使役精霊が殺到する。
戦意を秘め、だが害意は薄いままに。
シントウ流四大舞闘が1つ、颯舞。
それは疾風が如く、刀を閃かせ、全ての敵を一息に切り裂く。
という技ではない。
元々、シントウ流、舞闘の類いは瞬間発揮の必殺技ではなく、
長期戦用の技術体系だ。
舞闘の名の如く、踊り、日舞からコサックダンス、サンバなど、節操なく俺は取り入れている。
この舞闘とは、踊りという技術を、体術に組み込む冒涜にもなりかねないものだ。
目的は、疲労を最小限にしつつ、長期戦を戦う為のもの。
想定は、局地戦制圧、一点防衛など。
俺は普段から颯舞を使っていたが、刹那的なものばかり。
颯舞は、攻撃が高速連撃という形をとる。
そのため、俺は好んで使ってた。
単に好きな技だからというのも否定しない。
颯舞を、本来の形で発動すれば、
体力、身体疲労を抑えながら、連撃を放ち続けることが可能となる。
ただし、精神的に疲労しやすくなる。
それは、一瞬一瞬で判断を下しながら、
消耗の少ない動きをとるからだ。
思考は常時フル稼働、それでも、肉体的疲労よりは軽いものだ。
放たれる使役精霊達を、
ステップを踏み、合わせて腕を閃き、敵は散っていく。
「なんで?攻撃パターンが読めない」
「何でだろうね?」
「っ!」
攻撃密度が上がった。
颯舞は、経験を積めば積むほど強くなる。
これは、RPGのレベルとかじゃない。
颯舞の動きは、経験によって増えていく。
それは、一人で素振りするより、戦闘時でより増えていく。
颯舞の真骨頂、それは瞬間判断に基づく最適解の行使。
つまり、その状況下で、自分が有利になる行動を起こす。
ただ、それだけ。
刹那より短い時間で、最も優れた行動を選択、
そしてそれを行使する。行使し続ける。
例えば、敵に囲まれた際、誰から倒すか、どの攻撃は避け、
どのタイミングで防御するか。
そして、判断した行動を正確に行使することも重要。
颯舞には、センスと経験が要求される。
経験は、無数の攻撃パターンを生む。
今この瞬間に増えていく。
何故俺が【颯舞】と名付けたのか。
簡単だ、名前からのイメージによる誤認識を狙うため。
颯舞と聞けば、速い攻撃だと想像するのは容易いだろう。
それを狙う。そこで思考を止める。
それによって、颯舞の本質を隠す。
斬って斬って斬りまくる。
3分程経った。
「!……モンスター達が、倒された!?」
「ほう、流石。なっ、言ったろ。あいつなら大丈夫だってな」
「でもこれで、全力を出せる」
「やっぱりな」
倒されれば、そいつらに使ってた制御力が戻る。
厄介度が増したな。
「強いな。俺の颯舞で防戦一方になるとは」
「よく言う。攻めきれない、余裕のある完璧な防御」
「エルフってのは、皆こんなに強いのか?それとも、君だけ特別なのか?」
「特別っ!なんかじゃ、ない!!!」
攻撃の密度が更に増した。
「こんな力要らなかったのに。こんな、力なんて」
力を持った者の悩み。持ってしまった者の悩み。
「君がこんなところで一人でいるのは、そのせいか?」
「っ!本当に良く頭が回る」
「そりゃな。結界まで張ってあったし」
「それで何が判るの?」
結界については、ここに着いたときに把握した。
俺たちに害するものじゃなかったから、
何もしなかったけど。
「結界は気付かれない為の隠密。そして、特定対象の侵入不可の二種類。その対象もまた2種。モンスターと、精霊族、なんだろう?」
「結界に気付いただけじゃなく、仕様まで読み取るなんて。どんな感覚をしてるの!?」
「さぁ?ビジターだからじゃねーの?」
「それは関係無いと思う。でも、なんのために張ったかなんて、貴方に判るの?」
ふぅむ。試されてるな。
敵対心を見せようとしてるが、甘いな。甘いよ。
俺には通じない。
判るわけがない、でも判って欲しい、ってか。
「精神支配という、強すぎる力を持ったが故に迫害され、ここで一人で居る」
「っ!……なんで、それを」
「判るさ。俺ならな」
スピリチュアル⚫ドミニオン。
マーヴェルは精霊使役の技をこう呼んでいた。
直訳すれば、【精霊を支配する】で良いだろうが、
俺はこの技名を、総括的なものではないかと考えた。
技名ってのは、あらゆる種類があり、
その技に、何を籠めたかを端的に表してるからな。
スピリチュアルってのは、精霊的という意味。
そして、別訳として、精神的という意味がある。
モンスターを操っていたのはこれだろう。
モンスターにも精神があることは、何となく解っている。
戦ってたら、何となーく有る気がした。
結界を張るのも、これだろう。
ドミニオンには、領地とかの意味がある。
精神に作用する結界ってところか。
気付かれない、も、近寄れない、も、
精神に対して効果を及ぼしてる気がするしな。
「やっぱり、君は優しいんだな」
「何をっ、言ってるの……!」
「精神支配を使えば、迫害されるどころか女王になることだって可能だろう。なのに君はしない。それは優しいからだ」
「優しくなんてっ!」
ちょっと泣きそうになってる。
涙目ってのも可愛いね。
「それに、最初に俺に撃った風の攻撃。クッションも有ればダメージも無い。ここまで来るときの精霊達の動き。全部おかしかったぜ?君の力、強さに全く見合ってない」
「そ、んなことは」
「手加減じゃなくて、俺達に怪我をさせたくなかったんだろ?第一、心配してたよな?モンスターボックスについて。君は優しいんだよ」
「もう、やめて」
「やめないさ」
あっ、戦いながら話してるよ?
攻撃の密度は少し落ちてるけど、俺はずっと颯舞で、
精霊と踊り続けてる。
颯舞を選んだ理由はここにもある。
戦闘中に喋るとかさ、普通無理じゃね?
でも、それが出来た方が役に立つ。
そう厨二パワーを持つ俺は考えた。
颯舞は無意識領域の判断で動いてる。
その方が、相手の動きに対応する速度を得られる。
でも、疲れるねえ。
まっ、マーヴェルと話すのは楽しいけれど。
「貴方に何がしたいの」
「そうだな。君をここから連れ出したいかな。最初は仲間に引き入れる為だけど、今は違ぇ。君を救いたい」
「……貴方には無理だよ」
「ほう?なんでだ」
「貴方は強いけど、ワタシより弱い」
「なにぃ?」
「ワタシの精霊達を突破出来ない。それが証拠」
「なら、突破してやるよ」
「どうやって?貴方の力はもう把握した。貴方には不可能」
「把握した、ね。シントウ流には無意味な言葉だな」
確かに、俺じゃあこの精霊達の壁を突破するのはムズい。
一刃乃突颯は突撃用だけど、精霊達を一掃しなくちゃ、
すぐにまた囲まれる。
なら、一掃すれば良い。
そして、力が無いなら成長すれば良い。
「シントウ流は進化する。進化して、到る」
望むは精霊の一掃。
一振りの刀では足りない。
ならば、一振りじゃなければ?
例えば、十の刀の乱舞なら?
「シントウ流<幾重咲き>」
両手で2振り、回りに8振りの刀が浮いている。
いや、刀じゃなくて良いな。
望む。願う。創造する。
「刀が、剣に?それが10本?」
振り、な。やっぱ形状変えられるのか。
幾重咲き、幾重は名の通り。
咲きは、裂きや割きに通じる。
そして、幾重咲き発動で使うことが出来る技。
「シントウ流<剣嵐舞闘>!!!」
剣が嵐が如く舞い、使役精霊達を切り刻む。
両手の剣は閃き、宙空の剣達は次々と軌跡を残し舞い踊る。
幾重咲きは単に刀、剣を造り出すだけ。
それを使うのが、この剣嵐舞闘だ。
「そんなっ!?ワタシの精霊達が、追い付かない!」
「これがシントウ流だぜ、マーヴェル!!!」
かかった時間は15秒程か。
かなり疲労する技だこりゃ。
「どうだいマーヴェル?俺はつえぇぜ」
「それでも、ダメ」
「なん、そうか。もしかして、精神支配は操りきれないのか?」
「っ!本当に、なんで判るのかな。そう、ワタシのスピリチュアル⚫ドミニオンは、人を、エルフを無意識に操ってしまう。ワタシはそれを制御仕切れない。だから、ワタシは」
「一人で居る、か。なら、心配は要らねぇ」
「な、に?」
「俺に掛けてみろ」
「!、イヤ。もう、操りたくない!」
「心配すんな。操れねぇよ俺は」
「根拠はあるの?ワタシは、イヤだ。操るのは」
「根拠ならあるさ」
「?」
「君が泣いている。君が悲しんでいる。俺は君を助けたい。救いたい。それだけで、俺は強くなれる。だから、効かねぇよ」
「………ヒドイ根拠。根拠になってない」
「そんなもんさ。俺を信じてくれ。俺は絶対、君を悲しませない」
「………。うん、信じてみる」
博打だこりゃ。
根拠なんかねーよ。
でも、確信はあるさ。
ここでやんなきゃ、俺じゃねぇ。
「行くよ。……えっと」
「俺としたことが。俺はリョーガだ」
「うん、リョーガ」
マーヴェルから、源子が、精霊が、精神支配の力が放たれる。
「信じてるから。だから、<ワタシの頸を絞めて>」
手が、動く。腕が、両の腕が、頸に伸びていく。
「こうなっちゃうのか。良いよ。貴方なら、リョーガなら良いよ」
腕が頸に。
そして、背中に回し一気に抱き寄せる!
「なぁに言ってんだ」
「……え?」
「言ったろ?操れねぇってよ。ったく、勝手に諦めやがって」
「えっ、えっ?」
「信じるって言ってくれたのは嘘なのか?」
「違う!違うけど、本当に」
「ああ、効かなかったよ。全くな」
「……っ、……ぅああああん」
「おっと、まっ泣いとけ。泣くのは良いことだぜ」
精神支配か、なんで効かなかったんだ?
確かに力を感じた。俺の中に、精神に干渉があった。
でも、効かなかった。
どうも、俺にゃあまだまだ未知があるようだな。
数分後。
「大丈夫か?マーヴェル」
「マーヴェル、か」
「そういや、なんて意味なんだ?」
「エルフではね、【精霊に愛された者】」
「なんだ、良い名前じゃねぇか」
「今はちがう。今は【化け物】、だって」
「なるほどね、だから嫌ってんのか」
「うん」
「なら、意味を変えてやるよ」
「え?」
「俺の知ってる意味はな【奇蹟】っつう意味だぜ?」
「きせ、き?」
「ああ、君にピッタリの意味だ。マーヴェル」
「奇蹟、奇蹟か」
「愛称もあるんだよな。ヴェルと呼ぶか?」
「うん。リョーガのお陰で、名前を好きになれそう。でも、呼ばれなれてるから。ヴェルって呼んで。でも、珠にはマーヴェルって呼んで」
「難しい注文だなヴェル。てことは、俺に着いてきてくれるのか?」
「うん。でも、リョーガに着いてくけど、フェイクライナは関係無いからね?」
「ああ、それで良いさ。歓迎するぜマーヴェル」
マーヴェルが、仲間に、なった。
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(お好きな仲間サウンドを)
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「さてと、良い雰囲気なんだ。邪魔しないでくれ」
「おぅやおや、気付かれて居たとはねぇ。でぇも、その娘は必要なんだよねぇ」
「連れてくってのか?」
「そうなるかなぁ?」
「なら、てめぇをぶっ飛ばすぞアブザーダ!!!」
「邪魔だねぇ君も」
全く、少しはイチャイチャさせろよなー。
次回へ続く!
えっ続くの?




