11話【お風呂には夢がある。不可解なものだってあるだろう】
目が覚めたのは夕方。但し1日経っていたようで。
人って、本当に一昼夜眠れるんだな。
という、極めてどうでも良いことを悟った。
倒れた原因は過度な疲労。
よくあるパターンだ。
寧ろ1日で目覚められてラッキーだった。
目覚めた後、リネットには抱き着かれ、すぐに赤くなって離れた。
シンシアには心配させるなと、グーパンチを貰った。
セリアには、回復魔法を使いますかと聞かれながら、
無理しないで欲しいとお小言を貰い。
ハンナは食事を用意してくれたが、
とても栄養のつく苦味たっぷりなものを頂きました。
それを笑いながら見ていた刃を殴ろうとしたら、
「ぴぎゃぁぁぁ!!!身体がぁぁぁ」
「そりゃー、そうだろうよー。重度の筋肉痛みたいなものらしいぜ。まっ、安静にしてな」
「てめぇ、治ったらシントウ流でぶっ飛ばしてやるからなー!」
「そん時ゃ、返り討ちにしてやんぜー」
と、これもまたテンプレートな、強化の反動が出ていた。
強化してくれたリネット自身、この魔法を初めて使ったそうなので、完全に把握してなかったらしい。
まぁ構わない。護れたんだし。
ただ、刃を今すぐ殴れないのが残念だが。
さて、俺が倒れた後のこと。
砦内の損害は殆ど無く、魔人との戦闘場所のみ被害が出た。
これは【ゴゥアフト】が、刃のいった通り、義賊に近いタイプの集団だからこそだろう。
負傷者も、衛兵と【ゴゥアフト】達のみ、
一般人?はほぼ無傷だ。
【ゴゥアフト】の構成員は今、砦内の牢屋みたいな所に収監しているそうだが、取引やら何やらで、すぐに解放するつもりらしい。
刃もそれを望んでたしな。
こっちに来てから世話になったらしいし。
カッポーン
そして現在、俺は大浴場に居る。
まっ、戦って汚れてたし、侍女達が拭いてはくれてたそうだが。
くそう、何故その時の記憶が無いんだ。
ちなみに、ここは共用の大浴場だ。
どうも、城の風呂場で一戦交えたらしく、使えない状態。
かといって、王族と一緒に国民が入るのもあれだし。
そして、王族つまり、女子達が入ってるので男湯もダメ。
だけど、俺と刃は特例でいれてもらってる。
ついでに、お湯に魔法が掛けてあって、治癒力を高めるらしい。
「くっそ、何故混浴じゃねーんだ。男同士の入浴とか誰も望んでねーよ」
「そりゃなー。あっちはマジモンの王女様だろー?幾らなんでも無理だろー」
第一、こいつとは小学生からつるんでるんだ。
修学旅行とかでも一緒に入ってたから、新鮮味がまるでねぇ。
「そんでよー、俺がこっちに来たのは一昨日なんだよ。こっちの暦だと春の2月目、2の日だったか」
「オレはこっちに来てから1週間。正しくは9日かなー。春の1月目、27の日だったかな。そしてオレ達が飛ばされた日は」
「3月27日、ジンに合ってるようだな。どうも時間軸がずれたのか。それとも俺が目を覚ますのに、そんだけ時間がかかったのか?まだまだ、疑問点はつきねーな」
「そういうのはオレの得意分野じゃねーなー。やっぱりオレ達を連れてきた奴に聞くのが一番かもなー」
「おいジン」
「どしたー?」
「どうして、【連れてきた】、なんて表現した?」
「ん?だってそりゃー………、どういうことだ?」
「お前もか。俺もな、誰かに連れてこられたっていう感覚、印象が残っている。でも、全く覚えがないんだ。あの時、光ってた印象しかなかった」
「オレも同じだなー。そもそも、あんなんで異世界に跳べんのかよ。誰か説明してくれる人居ないかねー」
「そんなRPG序盤の説明キャラなんて、現実に居るわけが、
〔居るとしたらどうするかな〕
!?、何者だ!」
俺は構え、ジンは銃を精製する。
そこに居たのは、
〔さて、君達の言葉ではなんと表現したら良いかな〕
半透明で、お湯に浮かんでいる、
神々しさ抜群の、美少女様だった。
(えー、マジですかー)
(おいおい、どういう状況だこれ)
アイコンタクトってのは便利だな。
言葉に出さなくても伝わるんだから。
〔状況としては、一段落終え、次のパートに移る所だろう。そして君達を連れてきた理由などを説明しに来た〕
ん?アイコンタクトを読まれたのか?
もしくは……、
〔その通り、心を読んでいる。第一、この身体の声帯は動いていない。今は心に直接届いてるといって良いだろう〕
それじゃ、考え事やら何やらは必要ねーな。
そして、俺達が説明係を欲しがったところで都合よく現れた。
つーことは、
俺の厨二データベースにアクセスすると、
〔ああ、神などと俗なものでは当然無いぞ。そもそも、奴等とは成り立ちが違うのだからな〕
「どう見ても女神様なんだがな。存在的にも、美しさ的にも」
〔誉め言葉は受け取っておこう。それと、神はこの世界にきちんと存在する。君風に言うなら、神属性持ちというところか〕
なんともまー、便利なことで。
〔そしてこのワタシのことを、君風に言うと、1発でネタバレだ。それは避けよう。……ああ、分かってるとも。とりあえず、ガイドさんと呼ぶと良い〕
「んじゃー、ガイドさんとやら、説明してくれる?」
〔そう急くな。現状話せるレベルを教えてやろう。君達は、未だにチュートリアル中なのだから〕
なんだか、オタ形質でもあるのだろうか。
それとも、理解しやすい風に言い替えてるのか。
はっきり言って、
「うさんくせーな、この人(?)」
〔そう感じるように振る舞っているからな。序盤に出てくる裏キャラなんてものはこんなものだ。ちなみに、このワタシの話は聞いておいた方が良い。なにより、このワタシの為になる〕
「なんて自己中なんだ。まぁ良いや。話を聞こうか。その為に来たんだろう?」
〔そうだな。まぁ君達がのぼせる前に終わるだろう〕
「ああ、移動させてくれないのね」
〔さてと、面倒なので君達の質問は受け付けない。このワタシがただ、話すのを聞いていれば良い〕
(うわーお、なんて押し付けがましー)
(黙っとけ、いや考えることも止めておけ。全部筒抜けなんだから。こういう手合いは話したいだけ話させるのが一番だ)
〔全て無視して続けよう。先ずは連れてきた目的、理由だ。〕
〔目的というのは、1つ、この世界を行く末。2つ、このワタシ自身。3つ、そしてまだ明かせない何か。これ等を救ってほしいということだ〕
「………説明する気あんの?特に3つ目とか」
〔それを探るのも、君達の役目だ。そうだな、もう1つ付け加えよう。4つ、世界の真実を理解すること。これらはメインストーリーとでも考えれば良い。進めてくれさえすれば、サブクエストでも生産でも、何でもしてくれれば良い〕
「随分と上から目線だなおい。しかもホントに説明の仕方がメタだな。第一、俺達がメインをやるとは限らねぇだろ」
〔いいや、するさ。サブをやってれば関わってくる。そして、メインを進めてくれる人材を連れてきたんだから〕
「てぇことはー、やっぱりオレ達は選ばれて連れてこられたって訳かー。何故か選ばれる主人公かよ」
〔理由も説明しようか。君、リョーガを選んだ理由は、さっき言ったのと、君の能力だ〕
「ん?……能力だと、シントウ流のことか?つってもありゃあ大したもんでもねーぞ?第一、俺は魔法使えないし」
〔やはりそう思ってたか。この世界で言う【ビジター】は魔法使用の概念は全く違う。そして君はこのワタシが主人公に選んだんだ。何か、隠された力ぐらいあってもおかしくないだろう。それに、君のシントウ流とやらも今は弱くとも、とても強くなるだろう〕
「なんだと?俺のシントウ流は、物理的に出来る範囲の強化でしかない。魔法、炎やら雷やら、そういうのは出来ないが」
〔今はまだ、で通るだろう。そして、それについても君は自分で解明するべきだ。その名に籠めた意味と共に〕
「!?………ほう、シントウについて何か知ってるのか」
〔これでも、神様などとは較べるくもない。なにより、アヤメ流のことも知っているのだがな〕
「!!!!!………おいおい、ガイドさんとやら、それについて説明する気は?」
〔勿論、無い〕
「だろうな、くそっ!んで、俺については聞いた。ジンのことはどうなんだ」
〔簡単なこと。元々このワタシは君しか連れてくる気がなかった〕
「「!?」」
〔偶々近くに、強いチカラを持った人間が居た。故に連れてきた。それだけだ〕
「ってぇとこは、ジンは巻き込まれただけってのか!!!」
〔そういうことになる。時間のズレについては、二人連れてこようとした時に式が乱れた。急だったのでな〕
「!!!!!」
「リョーガ、良い。オレはこっちに来れて良かったからよー。だから、オレの為に怒んなくて良いぜー。怒る気も無いしな」
〔急に連れてきただけだからな。リョーガには主人公にするためという理由があるが、刃には無い。差はそれぐらいだ〕
「くっ、てっめぇ。………まて、俺以外にも居るのか?〕
〔ああ、居るとも。総勢何人だったかな。そうそう、サッカーが出来るくらいだな〕
「それも、主人公にするためか」
〔そうとも。このワタシの目に止まるレベルではある者を連れてきた。さて、そろそろチュートリアルも終了だ〕
「またしても随分と急だな」
〔これ以上はネタバレになる。なにより、このワタシにも都合がある。後は自分で探すと良い。この、君の想像してきたことが通用する、とても温い世界で〕
「どういうことだ!」
〔覚えておくと良い。【言葉遊びの真実】。君も聞いたことがあるはずだ。ではな〕
「!!?、っておい!待ちやがれ!」
スゥっと消える自称ガイド。
ったくなんなんだ一体。
結局謎が深まっただけ。
だけど、
「ったく、分かりやすい目的が出来ちまったな」
「そうだなー、まぁやること無いし、やりますかー」
これが、心読めるチート謎ガイドとの初邂逅だった。
正しく、チュートリアルは終わり、
物語は勝手に動き出す。
序章は終了、次からは第2章と言ったところか。
「そういやよー、あっちの世界に帰るとかは良いのか?」
「ふん、別に構わねーよ。こっちの方が充実するだろうし」
「いやいや、あの妹さんとか、それに心残りはあんだろ?オレを誤魔化せるとは思うなよー?」
「そりゃな。でも、それでも!こっちでやりたいことがある。何より、こっちの世界に居れば、俺のあっちの世界でやりたかったことが出来る気がする。俺の厨二心がそういってんだ」
「そーかよ」
「ジンは?」
「オレもなー。あっちでは暇だったし。家族は居なくなってせいせいしてんだろー。当面、こっちで楽しむかねー」
「そうか」
全く、誤魔化せると思うな、か。
俺のセリフだっての。
とりあえず、
「上がろうか、のぼせる」
「ふん、残念だったなー」
「どした?ジン」
「既に、のぼせている!ウゥゥゥゥゥゥ」
「っておい、ジン?ジン!?なにしてんだてめぇはぁぁぁ!!!」
色々と、濃密な序章(まだ三日)が終わり、
第1章は幕をとじ、
〔さてと、折角来たんだ。女子風呂を覗いて行こうか。でないとなんのためのお風呂イベントだというのか〕
……………幕を閉じる。
少しだけ、覗いてから。
――――――――――
現在、風呂に浸かっているのは、
リネット、セリア、強引に入らされたシンシア。
そして、魔法学者エティの4人。
回りには、侍女筆頭ハンナ、以下7名。
近衛兵団、3人。
「私は、畏れ多いのですが」
「大丈夫、許可したのは私だもん」
「リネット様、口調が素に戻ってますが」
「良いの。リョーガ君が、この方が良いって言ってくれたし」
「まぁ、リネット、随分とリョーガさんを気に入ったのね。惚れたの?」
「ちょっ、姉上!?それは、その……」
「リネットさんのぉ、魔法はぁ、【感情魔法】ですねぇ。キスを必要とするタイプはぁ、相手に好意がないとぉ」
「もう!エティさんまで、酷いよぉ」
「良いじゃない。確か、初恋でしょ?それにファーストキス。彼なら大丈夫よ。それに、結婚とかも大丈夫。この国は、王族は王族だけとかは無いから」
「そっ、そんな!気が早いよ姉上!そんな、結婚なんて、まだ」
「ま⚫だ、ねぇ。たった3日で、よくそこまで惚れたわね」
「だっ、だってリョーガ君は凄いもん」
以下、絶賛が続く。
――――――
「へっ、へくし!!!」
「湯冷めしたー?」
「いっ、いや何でもねぇ」
――――――
「ですが、あんな男を。私は賛成出来かねます」
「そんなシンシアも気にはなってるでしょ?」
「えっ!いやそんなまさかあんな男気になることなんてあるわけがそもそもあんな男なんて確かに強さはあるかもだけど気になるなんてありえないあんな男%#&£☆★●#◎◇…………」
「ハンナはどう?」
「そうですね、仕えるに価するかと思います」
「あら、ハンナがそう言うなんて。随分とリョーガさんの株は高いのね。私も気持ちは判るけど」
「エティさんは?」
「そうですねぇ。研究対象として、とても興味が有りますねぇ」
「けっ、研究って。そっちなのね」
「男の人としてもぉ、良いと思いますよぉ。あんな人はぁ、今まで居ませんでしたしねぇ」
「そうでしょ!やっぱり解るのね!」
――――――
〔………あれ?キャッキャウフフなイベントは?〕
――――――
「ねぇねぇ、ハンナも入りなよぉ」
「リネット様、どんどん口調が退行しておられます。それと、私が一緒に入るのは私の主義に反します」
「えー、主義ってなんなのよー」
「侍女のたしなみ、と同様のものです」
「もおー」
「良いじゃないリネット。主義というのは重要なものよ?」
「だってー、ハンナの胸は大きくて柔らかいんだもん。姉上より大きいよー?」
「!?……ハンナ、貴女も入りなさい」
「遠慮します。それに、シンシア様の方が大きいと思います」
「売ったな!?ハンナ、さては貴様売っただろう!」
「ハンナ、シンシアを抑えてー」
「承知しました」
「えっ、って速いな!ハンナ何で近衛隊長の私より速いんだ!?」
「侍女のたしなみでございます」
「さぁて、やりましょーか」
「リネット様ァ!?ちょっ、お戯れをっォォォ!?」
「問答無用!」
両手をわきわきさせ、シンシアの、低身長にしては相当大きな胸に飛び込み、
「むにむにむにむにーーーーー!!!!」
「ひゃ!ちょ!リネ!ット様!!!止め!抑え!」
「柔らかいっ!私より大きいし、なんて揉み心地の良さ」
「んっ!ああっ!!止めてェェェ!!!」
風を巻き起こし、本気で逃げる。
涙目で、真っ赤になりながら。
「随分と可愛らしい姿ですねぇ。あのお堅い近衛隊長さんがぁ、あんな可愛い声を漏らすなんてぇ」
「ハンナ、追撃よ!」
「承知しまし
「止めてあげなさい。流石に可哀想よ」
承知しました。では、シンシア様のタオルを持ってきましょう」
「えー、つまんなーい」
「そろそろ戻りなさいリネット。そんなんじゃリョーガさんに嫌われるわよ?」
「はい!戻りました!!!」
「…………ぐす」
「シンシア様、タオルです」
「ぐす、ありがと」
――――――
〔あの第二王女、あんな裏性格とは。そしてあの少女騎士、随分と可愛らしいことで。やはり、この国は面白い〕
笑みを浮かべる。
いや、すぐに疑問符が浮かぶ。
〔?〕
エフェクトで。具体的には黄色いハテナマークがそのまま。
〔そう言えば、この国は巨乳が多いのだろうか。他の国も見てみようか〕
どうでも良い命題を見つけ、
何者かは、消えた。
――――――――
「おせーなー。やっぱ女の子は風呂長いんかなー?」
「それより俺は、キャッキャウフフが気になるんだが」
「いやいや、そんなお決まりは無いでしょー?」
そして、日は暮れていく。
束の間の平和と共に