10話【あれ?こんな重傷でどう倒せと言うんだろう】
どうしてなんだろう。
なんで私には戦う力が無いんだろう。
リネット⚫コル⚫フェイクライナは素直にそう思った。
彼女は王女だ。
故に、日常的に誰かに護られる。
救いなのは、皆自分の意思で護ってくれることだろう。
ハンナなどはその筆頭だ。
だけど、何時も何時も、
自分は何も出来ないのに、自分のために誰かが傷付く。
自分の意思で護ってくれるということは、
ある程度人徳があるのだろう。
でも、それは救いではなく、呪いではないか?
自分の為に、人が集まり、命を賭け、散って行く。
今だってそうだ。
価値のない私なんかの為に、会って丸1日足らずの少年が、
命を振り絞って戦っている。
ボロボロになりながら。既に左腕と右足はやられ、
全身にもダメージが、内臓だってもうわからない。
【ビジター】の肉体は強靭といっても、限界はある。
ここに来たときから、既に彼は傷だらけだった。
それでも、彼は立ち上がり、拳を握っている。
背中に居る私を護るために?
「やめとけやめとけ、立ち上がっても辛いだけだチビ。それと立ち上がれるとめんどくさい俺が」
「はっ、知るかよ木偶の坊!立ち上がるさ、失いたくないものがあるからな。後悔したくないからな!」
「はー、めんどくせ。とりあえずプチッといっとけ」
4メートルはあろうかという巨躯なる魔人、ガイザの豪腕が迫る!
「だから避けんなって言ってんだろ俺が」
「避けるってーの」
倒れながらも、避け続ける。
残った左足で、瞬加を繰り返す。
「そんなに大事なのかー?あの女達が」
「さぁ、どうだろうな。それでも俺はあいつらを守るよ」
やっぱり、護るために。
「良いよリョーガさん!もう良いよ、魔人の狙いは私なの。なら、私がやられれば良い」
「!、何を言ってやがる」
「リネット様!?」
「私の為なんかで、身体張らなくて良いよ。迷惑だよそんなの」
精一杯嫌われるように、言葉を選ぶ。
「勝手に守るなんて言われても、こっちにとったら良い迷惑だよ。ほんとは最初から、変な人だと思ってた。私は王女なのに、そんな馴れ馴れしく。姫さんとか読んでさ。もうやめてよ!どっかいってよお願いだから!」
敬語さえ忘れて、何時もの口調を顔を出す。
なんだろう、悲しいや。
会って丸1日足らずの、親しくもない少年に、
罵倒を浴びせることが、こんなにも辛いなんて。
「はっはっは、良い悪口だな王女。でも勘違いしているな。狙うのは王族だけでなく、全人間を殺す気だ我々は。とりあえずこの砦の人間は全てだな」
「そん、な」
でも、リョーガ君なら。怪我さえ治ればどこでも生きられるはず。
逃げる隙くらい、つくれるかな。
「おい、バカ姫。いや、リネット」
「ばっ、バカって何よ!」
「俺はあんたの為にあんたを守るんじゃねぇ。俺は俺のために、自分に嘘を吐かない為に、あんたを守るんだ。自意識過剰だぜ?」
「えっ、そんなの……」
名前を、きちんと呼んでくれた?
それだけがこんなに嬉しいなんて。
「だから、あんたは後ろに居ろ。背中に居てくれると、嬉しいんだ。それに、何があったか知らねーが、俺は他の奴とは違うッつーの」
心を読んだ訳じゃないだろう。
過去を知ってる訳でもないだろう。
それでも、特にカッコつけた言葉じゃなくても、
「グスッ、リョーガ、君」
彼なら、もしかしたら。
「なんかラブコメってるとこ悪いが、さっさと終わらせてもうぞ暇ないんだ俺」
「ガッ!」
殴られ、こっちに飛ばされてくる。
「クッ、そ。マジで身体が。どんだけカッコつけても、これが限界かよっ!!!」
「ねぇ、リョーガ君。……私を護ってくれるの?私の為じゃなく、自分の為に」
「ふん、そんなこと言われても嬉しくないだろうがな。でも守りたいかな」
「ううん、私に、責任を押し付けてない。自分だけに責任が行くようにしてる。優しいんだね、リョーガ君」
「!、誰が優しいんだよ!それにそんなのは深読みだ!」
「なぁ、そろそろ良いかな。さっさと殺したいんだが」
「黙ってなさい、この愚弄!」
「愚弄って、なめてんじゃねぇぞ俺を!!!」
「ねぇリョーガ君。私のことどう思ってる?」
「はぁ!?何だいきなり」
「いいから」
「………まぁ、守りたいと思えるほどに、可愛いとは思う、ぞ?」
「そう、良かった」
これで決心がついた。
もう迷いはない。
「リョーガ君、責任は取らなくて良いからね?」
「はっ?って、ンン!」
思いきり、唇を唇に押し付ける。
「ン、ンン!……アッ、ンンン!!!」
舌まで入れる。ディープなキスを。
私のファーストキスを捧げる!!!
ピチャピチャと、艶かしく音をたてながら、濃厚なキスを続ける。
あの魔人も、ポカンと見てる限りだ。
はぁ、柔らかいなぁ。
そして、これで繋がった。
―――――――――
どうなっている?
それが率直な感想だ。
リネットがいきなりキスしてきた。
途中からは思いっきり濃厚なのを。
柔らかくて艶かしくて、ねっぷりと。
そんなことになってるのに、思考は冷静さを保っていた。
まぁ、ボッコボコにされて、芯まで打ち抜かれてるしね。
つーかね。幾らなんでも、
落ちるの早くない?
確かにね?そりゃね?この王女様は可愛いです。
ええ、とても可愛いです。
なのでカッコつけてましたよ。
厨二の力をフルパワーで。なのに2日目でこれとは。
まさかのフラグ形成完了。
つり橋効果ってやつか?
なにかしら、過去に有ったのだろうか。
口調は変わってるし、呼び方も変わった。
だけど、
護りたいという気持ちは強くなったがな!
しかしどうしよう。
依然大ピンチ。俺もう限界突っ走ってるしな。
ん?これは……
「<汝は我が騎士にして主也>」
力が、溢れてくる。
身体が、動く、左腕も、右足も。
痛みすら引いてやがる。これは、
「私の魔法、だよ?キスをすることで源子経路を繋いで、直接力を注ぐ。相手を自分の騎士に、そして主とすることで、自分の全ての思いを強化に変える、私の魔法」
この、体内に流れ込んでくる、暖かい力。
優しい力の源泉、それが、
「私は戦えない。でも、護ってくれる人を強化することが出来る。リョーガ君、私の全てを君に預ける。だから、私を護って欲しい。
君の、その感情の力で!!!」
「ああ、受け取ったぜ。お前の思い。だから、俺の背中だけを見てろ!」
身体は全快!、力は全開!!!
「よう、デカブツ。これでフラグは立ったな。てめぇの負けは決定事項だ!」
「はん、女に力を借りてカッコつけても、カッコ悪いぜチビ」
「良いんだよ、てめぇをぶちのめせればな!」
さぁ反撃の開始だ。
俺のシントウ流でぶっ飛ばしてやる!
――――――――――――
「つーかよー。身体が治ったからってなんになるよチビ。潰すのが少し遅れるだけだ」
「言ってろよ、デカイだけの能無しが」
「死ね」
殴りかかってくる浅黒の巨人、ガイザだったか。
だが、快癒したうえにリネットの強化でより速く動ける気がする。
瞬加で左へ、ついでに裏拳を打ち付ける。
反応する前に左爪先キック。
その巨大な右腕を後ろに打ち付けてくる。
「おせーよデカブツ!!!」
「ガッハ、……クッ、ソッ、ガァァァァ!!!」
一回転、回し踵蹴り。
左ナックル、右裏拳、左掌底、右肘鉄、左膝、両掌底!!!
回転しながら関節を変えて打ち続ける。
シントウ流の真骨頂。その一つに、溜めや技後硬直といったありがちな弱点を無くすため、円運動を基礎とした連撃がある。
一発一発の威力は落ちる。だが、相手に、
「反撃の隙なんかやるかよぉぉぉ!!!」
「グッ、ガッ。はん、ちんけな攻撃だな、聞かねぇよ俺に」
「くっ、結構力いれてんのによ」
「全く使うことになるとはな、こんなチビの為に。<巨躯なる我に巨躯なる武器を>」
「!?、瞬加ァ!」
うち下ろされる一撃、だがその射程が広い。
一息で六メートルは下がった俺の目の前にそれはあった。
いや、
(風圧だけで、ここまでだと!?)
強化がなければ、それだけで飛んでいた。
「どうだ、メイスだぜ俺の。いや、棍棒といった方がしっくりくるがなチビ!」
「おいおい、反則だろーよそれ。三メートルクラスの棍棒って。重力どうなってんだ」
鋼かあれは?あの質量を軽く振り回すとか。
鬼に金棒なんてレベルじゃねえ。
「棍棒を使わせんたんだよ俺に、せめて気が晴れるまで、なぶらせろよチビが!」
「はっ、ほざけ!」
棍棒が迫る。風を伴い、破壊の嵐が駆け巡る。
俺はそれを瞬加を頼りに避け続ける。
瞬加で近付き、一発当て、また安全圏へ。
シントウ流の真骨頂その2
判断力だ。俺の戦闘経験は殆ど無い。
元の世界でケンカしたこともあんま無かったし。
だが、厨二の妄想力。
あらゆる攻撃をシュミレート、幾千幾万もの対応策、そしてそれを発揮出来る現在の俺。
つまり、
「読めるんだよ。その程度の攻撃はなぁ!」
「ああああ!めんどくせぇ!」
だが、問題が浮上する。
それは、
(こいつ、固い。ドラゴンとは違う固さだ。まさか、あの棍棒、所有者を強化してるのか?だとしたらまずい。このデカブツ、それ相応のスタミナがあるはず。くっそどうする。幾らシントウ流でも、打撃が効かず、浸透も出来ない相手にはきついぞ)
「どうやら気付いたなチビ。棍棒は強化するぜ俺を。能力は攻撃に対しての超防御力。素手のチビじゃあ倒せねぇな俺は」
(どうするか、素手による斬撃くらいある。でも、あれは出来れば使いたくは)
そして、忘れてはいけない。
これは一対一の戦いではない。野戦である。
物事には御約束が存在する。
例えば、ピンチには
パパパパパパン!
ヒュ、パァ!!!
「大丈夫か、リョーガ!」
「救援到着ー、だぜ」
「はあああ!?めんどくせーなチビどもがぁ!」
味方が駆け付ける!!!
でも、それは小説の世界。
刃にアイコンタクトを取る。
(戦えるか?ジン)
(きついなー、オレの残弾数は少ないし、この小女騎士もバッテバテだからよー)
(マジか、マジでどうしよう)
(てかリョーガー?何で治ってるんだ?しかも軽く光ってるぜー)
(後で説明するから!)
このくらいの意志疎通が出来る程度には、親友なのである。
「ったくよー。痛いじゃねーか、めんどくせー。弾が残ってるじゃねーか俺の中に」
ん?ちょっと待て、何故傷ついた?
俺の打撃は効かなかったのに、弾丸は体内に残り、
斬撃波は皮膚を斬った。
そして奴の言葉、【素手の俺】じゃ倒せない。
つまり、
(奴の防御力は素手に対してのみ。武器はその範疇に入らない!何でそんな変な仕様かは知らんが、それを突くしかない!)
「んー?よく見りゃバテバテかぁ?はっ、使えねぇ救援だなぁチビ!結局よぉ!倒せねぇんだよてめぇら程度のグズにはなぁ!」
「はっ、そうかよ。ならその考えのまま負けなよデ⚫カ⚫ブ⚫ツ!!!!!」
「ああああ!?」
「良いことを教えてやるよ。シントウ流ってのはな、倒せない相手に出会ったとき、倒せるまでにその場で進化する、その為の流派なんだよ」
「あー?意味わかんねぇことほざいてねーでさっさと潰れろチビ」
凄まじい速度で降り下ろされる棍棒。
だがそれを俺は避けない。反らしもしない。受け止めもしない。
ただ、
「そん、な…!?棍棒を、斬っ、た、だと、ありえねぇ。ありえるわけがねぇ!なんなんだ、その手に持った刀はなんだってんだチビィ!」
「これが、進倒流だ。デカブツ」
右手には、一メートル程の刀身を誇る、鋼色の刀!
もう一度言おう、物事には御約束がある。
ピンチには、隠された力が解放するのが主人公だ。
勿論、ヒントはある。
(ジンの源定武装という言葉、魔法で造り出した銃、そしてシンシアの持つ剣。剣があるこの世界、そして武器を造り出せる奴がいるなら、俺にだって造れるはずだ!!!)
といっても、ビビりまくったが。
(ほんっとうに、成功して良かったぜ畜生。しかも、なんかスゲー良い業物じゃね?これ)
そして再度のアイコンタクト。
(ジン!俺が合図したらやれ!)
(おっ、おう、わかったぜー!)
「さてと、てめぇご自慢の棍棒は斬った。覚悟は良いな?」
「はっ、なら新たな棍棒を呼び出すだけだ!」
「そんな暇はやるかよ!ジン!」
「おーよ!<爆発せよ>!」
「んなっ、なにぃ!」
刃の弾丸の1つ、爆発弾。
体内ににて爆発する、殺傷能力の高い弾丸。
そしてそれは、爆破タイミングを操作できる。
多分あいつはなんかに役立てばと思ったんだろーが、
役にたちまくったぜ!!!
俺は刀を構える。
八相の構え。
そして、
「シントウ流剣技、<即断速決>!!!」
悲鳴は上がらない。
その間すら与えず、頭頂から股まで、一刀両断。
現在出せる最高速度、そして一撃必殺の斬撃。
「相手が悪かったな、デカブツ」
光となって、消えて行く。
いや、こいつもまた、本国に戻るだけか。
それにしても、
「今日は疲れたぜ、全くよおぉぉ……」
前のめりに、ドサァ!っと倒れこむ。
これもまた御約束、
限界を振り絞って敵を倒したら、
バタンキュー、する。
「っておいリョーガ!?まずくねーこれ」
「おっ、おい大丈夫か貴様!」
「リョ、リョーガ君!?」
「これはまた何とも……」
三者三様の驚き方、+感情の読めない侍女一人。
バトルパートは終了。
後は事後処理だ。
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春の2月目、3の日。
砦に盗賊団【ゴゥアフト】襲撃。
およそ二時間で鎮圧。
死者数、共に0。
負傷者少数。重傷者、約1名。
及び、これは魔人どもの策略であることが発覚する。
魔人5名、撃退成功。
【ゴゥアフト】メンバー24名、一次収監、すぐに解放を決定する。
とある冒険レポートより抜粋。
著者、不明。作成時期は記載内容と同時期と推定される。