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Night-mare  作者: せつ
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第三章 過去の訪問者

 レイズを空き室に移した後、悠真は何故か廊下を駆け回っていた。やっと制服を返してもらい、着替えたのでちゃんと男に戻っていた。


「ねぇ、紫ちゃんは?」


「さぁ、先ほどから姿を見てませんねぇ」


 二人でのんびりとお茶をすすっていた鵺がとぼけた口調で言う。レイズを地下から移した後くらいから彼の姿を見なくなったのだ。悠真はこの世界に再来してからのんびりと紫と話を交わしていない。やっとできると思った矢先に喪失。


「何なんだよ、もう」


 バツが悪そうに顔をしかめて、悠真は溜め息をついたのだった。




 一方、悠真が捜している紫は城の屋根の上にいた。霧に包まれた怪しい雰囲気の森を見渡して目を細める。カラスの鳴き声は昼も夜も関係なく響いて、空にはいつも雲が広がる。




『あんた、人じゃないのかっ!?』




 昔に聞いた言葉、聞いた声音を思い出して、目をつむる。

 思い浮かべるのは悠真と同じ黒髪と黒い瞳をした人間。紫が初めて魔界で会った人間。


龍一りゅういち……………」


 辛そうに呟かれたそれは彼の名前。悠真と似ている雰囲気を出した、悠真よりもしっかりとした意見を持った人物だったことを紫は覚えている。

 魔界に興味を持って、イキイキとした顔でこの世界のことを紫に聞いてくる無邪気な性格をしていた。




『俺、ここにいるとヤバいんだろ?』




 儚く笑った彼の顔が昨日ことのように思い出される。この二十年間、思い出そうともしなかったそれを何故今になって浮かんでくるのか。

 おそらくそれは悠真のせいだ。


「何でだか。似てないのに、似てるのが…………不思議だ」




 悠真は城を隅から隅まで紫を捜すと共に探検していた。大広間、客間、仕事部屋、調理室、鵺の部屋(ここは流石に入る勇気は無かった)、そして書斎。

 沢山の本が保管されたその場所を興味深げに覗いて、悠真は一冊、本を手に取る。


「世界の成り立ち?」


 表紙に書かれた達筆な文字を目に止めて、表紙をめくる。


「世界征服のやり方?」


 中に書かれた題名に眉をひそめる。ページを開いてみると中には何故か地層について長々と述べられていた。

 ここの本は題名はあまり意味のない物だとこの一冊で彼は悟った。


「ってか、まずこんなにある本は一体誰が読んでいるんだか」


 本を押し戻して、悠真は息をつく。もしここにこの魔界について記されたものがあるのなら、いつも本を読まない自分でも、頑張って読んでみようと考えていたのだ。


魔界、天界、魔力、天力…………

俺が知らないことが次第に増えていく。


 メルヘンチックな言葉に頭が痛くなる。っといっても彼にとっては勉強も同じ対象だが。


そもそも、本当に俺に魔力なんてあるのか?


 不思議に思うが、それを否定することはできない。何故ならその力が主となる能力を常に使っているからだ。それは妖怪達の能力を見極めること。

 魔力が無ければ決して見ることが無かった彼らの力の色。これが無かったらレイズのこともわからなかっただろう。

 そして、初めてこの世界に来た時に使ったあの強大な力。妖怪が一瞬にして灰となり、風に舞った。あれを見てしまえばいくら否定したい気持ちがいっぱいでも、認めるしかない。


「魔力かぁ。天力と基本的どう違うのかな?ってか、天力の本質的力がよく理解できない。魔力は魔界と波長の合った力だから、天力は天界と波長が合った力か?」


正の気持ち、つまり純粋な気持ちが力になったってことだよな?


 頭を掻き回して、その場に座り込む。考えを巡らしたことで、紫を捜すのが面倒になったようだ。その場に大の字になって寝っ転がり、悠真は天井を見上げる。一体誰がこんな立派な建物を造ったのかは不明だが、かなり手先が器用なのだろう、天井にも細かい装飾が施されいた。

 妖怪と天使、死ぬ時に感じたものが違うだけでどうしてこんなにも立場や力が異なるのか。悠真には理解できなかった。




「何やってんだ?こいつは」


 考え事をしたまま眠ってしまったのか、悠真は書斎で寝息を立てていた。屋根から下りてきた紫は呆れながらも、その寝顔に苦笑した。

 自分の世界とは違う、襲われるかもしれないというこの魔界で、こんなにも安らかな顔で眠れるものだろうか。悠真を見ていると、気を張っている自分が馬鹿らしく感じてしまう。


「本当、甘ちゃんだな。魔界にいてもマイペースなのは似てるよな」


俺達に振り回されながらも、文句も言わず。

レイズのことなど考える心の余裕など無いはずなのに、何故ここまで必死になれるのか。


「俺にはわからない。お前等の事は」


 悠真の髪に触れて、紫は目を細める。人は簡単にられてしまうほど脆くて、弱い生物。確かに悠真には魔力があるが、それでもそれを自由に使いこなせるわけではない。紫がその気になればいつでも彼を殺すことができる。

 だが、それをしなかった。正直、できなかったのだ。彼を殺すことなど。


「龍一にはできたのにな………何でだろうな」


「んー」


 身じろぎして、悠真は目をゆっくりと開ける。ぼんやりとした視界の中に紫がかった青いものが揺れ動く。はっきりと見える前に悠真にはそれが何なのかすぐに理解した。

 がばりと勢いよく起き上がり、茫然と紫を一瞥する。


「何だ?」


「ど、何処行ってたんだよ!物凄く探したんだぞ!」


「……………何か、互いに擦れ違っているな」


 最初は紫が悠真の所に行こうとしたら、穴に落ちて。

 次は悠真が紫と話をしようとして、紫を捜して。

 そして結局先に見つけたのは紫。

 一番会って話をしたい人に互いに会えないなど、ロ○オとジュリ○ットくらいだと悠真は思っていた。


「お前、身体は大丈夫なのか?」


「え?あ、あの霧の影響のこと?大丈夫。こう見えても身体は頑丈だから」


「それ、あいつ等に不用意に言わない方が身のためだぞ?実験台にされて殺されるからな」


 この中で一番まともな感性をした紫の言葉は、時に残酷だ。しかもそれが本当にありそうなことなので更に恐ろしい。

 思わず身震いをして、悠真は話を変えることにした。


「ねぇ、ついでだからさぁ。この世界のこと詳しく教えてよ」


「あ?何だいきなり」


「だって、何も知らないままここにいるのって、何か駄目な気がしてさぁ」


 契約を交わしたこの世界で唯一の人間である悠真。いつこの世界に来て、いつ向こうの世界に戻れるかはわからないこの状況で、いつまでも無知のままでいられるほど余裕ではいられない。

 少しでも知識を身につけて、紫や鵺等がいなくてもある程度生き延びられるようにしなければいつか本当に彼はぽっくりと死んでしまうだろう。


こいつ、直感で理解しているのか


 悠真には残念ながらそこまで考えられる知能は無く、動物的直感とも言えるもので本能的に理解しているだけなのだ。

 馬鹿なのか凄いのかわからない。


「そうだな。ここの書斎の本でも読んだらわかるんじゃないのか?」


 そこら辺に転がっている本を手に取りめくる。彼が顔をしかめた時を見計らって悠真は悟った声を出す。


「あの二人が住むこの城にある本がまともなものだと思う?」


「すまん、無意味な提案をしたみたいだな」


 力なく本を放って、立ち上がる。手を差し出しながら彼はいつもの低い声で言った。


「ここじゃぁ、話し難いし、部屋でも行くか」


「あ、あぁ」


 あまり乗る気ではない彼に歯切れ悪い返事を返して、悠真は紫の手を掴んで立ち上がる。

 魔界のこと。妖怪のこと。天界のこと。レイズのこと。少しでも知識が増えれば紫のことが理解できるだろうか。と、淡い期待を胸に秘めた。




 場所を悠真に渡された部屋に移動して、二人はベットに腰掛けた。


「で?何から聞きたい?」


 説明できない重苦しさが部屋を包む。悠真は突然の緊張に唾を飲み込む。

 何から聞けばいいのか正直わからなかった。けれど、一番聞きたいことははっきりしていた。


「紫ちゃんは、死ぬ前は何処にいたの?」


「は?」


 一番聞きたいのは自分を心配してくれる紫のこと。にっこりと深い笑みを作って、悠真は立ち上がる。大きく伸びをして、そのままの視線で話を続ける。


「俺さ、身近の人のことから知りたいんだ。些細ささいなことでいい。教えてくれない?」


「何を馬鹿なことを」


 失笑されて、目を細める。

 おそらく今上手く笑えないだろう。そう思いながら声だけは平静を装って言葉を繋げる。


「冗談だよ。俺が一番気になっていたのはそうだなぁ、俺と同じ立場だった、昔この魔界に来たっていう人間かな?」


 意外な言葉に紫は一瞬息を止めた。悠真はそんな彼の様子に気付かず、意気揚々と話し始めた。


「二十年以上前の人なんだよね?俺と似てた?男?女?歳は?やっぱり魔力とか強かったのかなぁ?」


 イキイキとした横顔は紫にある人物を連想させた。瞳を曇らせて、視線を外した。

 しばらく沈黙を守っていた紫だが、やっと決意して、口を開いた。


「あいつは………、本当にこの世界が好きで、人間以外の者がいるこの世界に興味津々で、凄くはしゃいでた」


 悠真は穏やかな顔をして語り出した紫に驚いて、目をみはった。彼が人のことをこういう顔で話すことは無い。と思っていたからだ。

 もちろん、長い付き合いではないし、理解しているはず無いのだが、伯凰や鵺の言い方でそういう人なのだと仮定していた。


「初めて俺を見た時も怖がるどころかこの世界のこと、俺のことを質問攻めにしてきたな」


 信じられない言葉に悠真は目を丸くした。

 人とは違う、動物とも言いがたい形状をした妖怪、それか人に似ているが、力も身体能力を持つ彼等に恐れもせず、目を輝かせていたというのだから、驚きもするだろう。

 どんな人でも妖怪を恐れ、自分の身を守ることを最優先にするのが通常だ。


「凄いなぁ。何だか俺の学校の伝説の生徒会長みたいだ」


 生徒会長という聞きなれない単語に顔をしかめる。自分の世界の人に興味を示してくれたことが嬉しかったのか、悠真はにっこりと無邪気な笑顔を向けた。


「俺の学校にさぁ、ハロウィンパーティって行事があるんだ。それはある生徒会長が悪戯好きで、皆で騒ぎたいという願望だけで作り上げたんだ。不思議な力や不思議な生物を信じてて、いつもそれを追い求めていたっていう噂なんだ」


「やっぱりそういう奴が一人や二人いるもんなんだな」


 紫の顔が柔らかい。ピリピリとした雰囲気が和らいだのにほっとして、悠真は微笑む。




良かった


まだ関係は崩れない




 悠真は一番信頼できる紫との絆が一番脆くて、薄いもののような気がした。







何となく気付いている人は少しにやけた顔で読んでくれたかもしれませんね。

久しぶりの更新です。もう少しペースを上げられればよいのですが。

待たせてすみません。

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