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Night-mare  作者: せつ
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第二章 魔王登場

 歩けば歩く程不気味な森。悠真は自然と表情を固くした。


「異臭がする」


 悠真と紫が歩いている場所は城の周辺に広がる異様な雰囲気をかもしだす森。中に入ってみるとその雰囲気は更に濃くなっている。異臭、霧、不気味なカラスの鳴き声と断末魔。悠真は顔をしかめる。聞こえてくるのはカラスの鳴き声と断末魔。今度は青ざめる。しつこいようだがもう一度、聞こえてくるのはカラスの鳴き声と断末魔。ついに彼の顔は青を通りこして紫色となった。


「紫ちゃんなんか聞こえるよ!変な声が!変な叫びが!変な奇声がぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「だぁ!服を引っ張るな!ただ妖怪が共食いしてるだけだ!騒ぐことじゃないだろう!!」


 服を放してすたすたと先に歩く紫の言葉に納得という表情で安堵した。だが、その表情のまままた次第に青みを増していく。


「共食いっ!?何それ!何あれ!何これ!って骨ぇぇぇぇぇ!!!」


「うるさい!!静かに歩けないのかお前は!」


 悠真が見たものは木の葉に埋まりかけていた人ではない者の骨。太かったり細かったりするバランスの悪い骨はそこら中に姿を見え隠れさせていた。半泣き状態で紫に顔を横に振って見せた。


「無理無理無理!こんな所黙って歩いていたら俺精神もたずに壊れて暴走してどっか走って妖怪に食われて死んじまうよ」


「やけに具体的なのが気になるが………、ここはこういった所なんだ。力の弱い妖怪が入り込むと理性を保てず暴走し、共食いを始めて互いに死ぬ魔の森」


 妖怪に理性があるのかと少し疑問に思い、突っ込もうとした瞬間だった。どくん、と心臓が気持ち悪く動いた。その話を聞いて怖かったからではない。身体に直接かかる違和感に反応したからだ。悠真は辺りを見回すがそこには何もない。ぶわっと額からは汗がにじみ、身体は震えていた。


「紫ちゃん、ここってもしかして俺にも何か害あったりする?」


「え?あぁ、その線は考えてなかったな」


 今度は別の意味で汗がふき出た。硬直しているその様子に嘆息を漏らして紫は容赦なく述べた。


「こんな所で止まっていてもしょうがないだろ!行く─────!!!?」


 がさがさと草を踏みつける音が聞こえ、紫の顔に緊張が走った。悠真も咄嗟にそちらに身体を向けた。

 見ればそこには妖怪。妖怪。妖怪…。色とりどりの妖怪達は調理すればもしかしたら思った以上に美味しいかも。っと悠真は違う世界に意識を飛ばした。だが、すぐにその意識を戻さなければならなかった。


「おい!逃げるぞ!」


「うへぇい!!」


 襟を紫に掴まれて引きずられ、首が締まらないように踏ん張ることに必死になった。悠真を抱えながら尋常ではないスピードで走る紫について来れる者はあの中ではいないらしい。徐々に妖怪達の姿が小さくなっていくのを見ながら悠真は感嘆の声を上げた。


「すっげー!流石黒ヒョウの化身!足はやーい!」


 危機的状況がわかっていないのかかなりお気楽だ。紫は一瞬殺意が芽生えたが、理性を保つ。




ざざ


 摩擦を利用して急停止した。思いがけない行動に悠真は後ろを向く。そこには信じられない、いや信じたくない光景が広がっている。今逃れてきた者達と同じ、人ではない者の群れがこちらを狙って向かって来ていたのだ。

 思わず手近にある長い紐みたいのを掴み、ぐいぐいと引っ張った。


「髮を引っ張るなっ!」


「何言ってんだよ!こんな時は何か持っていないと落ち着かないんだよっ!紫ちゃんならハゲても根性で生えてくるって!」


「生えるかっ!」


 そんなことやっている間に四方から妖怪が迫ってくる。小さく舌打をして紫は戦闘の構えに入った。彼の周りの空気が変わったことに勘づいて悠真は離れた。


「いい撰択だ。もう少し後ろさがってろよ」


 一体何をするのかはわからない。が、直感で今からやることは恐ろしくヤバいものだろうと思った。その内、紫の身体を取り巻くように周りの空気が青くなっていった。

 その空気に鳥肌がたった。身体の中の何かが共鳴するかのように疼く。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 紫が身体を反ると同時にその青い光が分散する。その光は後ろの妖怪までに降り掛かった。殺那、その妖怪から紫がかった青い炎が上がる。喉が張り裂けるような叫びを上げて妖怪は灰と化した。驚愕で悠真は声も出ない。

 肩で息をする紫は未だ何処からか湧き出て来る妖怪に視線を向けて表情を歪ませた。流れた汗を咄嗟に拭ってまた身体に力を溜める。


「紫ちゃん?またあれやるの?」


 だけど、あれ辛いんじゃ…。自分が何も出来ないことを十分理解している悠真は何も言えない。だが、明らかに無理している紫をこのまま放っておくことも出来ない。近づいて来る妖怪、力を溜める紫。交互に首を動かしていくうちに疲れてきたのか、顔を地面に向ける。


「やるなっ!」


「は?いきなり何言ってんだ!?何も出来ない奴は下がって黙ってろ!」


「いいから力抜けって言ってんだよっ!!」


 打って変わった悠真の様子に動きを止めた。それを確認して怯まない妖怪に顔を向けた。



「これ以上近づくな!うざいんだよてめぇ等!!!」




 天井まで伸びる大きな窓から外を眺める。大きな部屋とは不釣合に四人掛けの小さなテーブルしか置かれていない殺風景な所だった。壁にはいくつかの価値がわからない不思議な絵画が掛けられ、テーブルには二つ分のティーカップが置かれている。

 窓側に立つ者は白い髮を腰まで伸ばし、白い服をまとった男。彼は口元に笑みを浮かべて楽しそうにはずむ口調で言った。


「おやおや、二十年ぶりのお客さんが来たみたいだね。すごい力を出してるよ」


「あららぁ、今度のお客さんはなかなか活きのよい人ですわねぇ☆そして、とても美味しそうな………」


 彼の脇から現われたのは少し小柄の女性。淡い緑色のショートヘアがとても似合う清楚な雰囲気を出している。にっこりと可愛らしい顔とは裏腹に声音は低くて、据わっていた。


「こらこら、食べちゃ駄目だよ。せっかく紫君が頑張って守ってるんだから」


「わかっていますよぉ。それに私は人の魂より抜殻茶の方が好きですしぃ〜」


 先ほどとは違い、高く可愛らしい声音で彼女は言った。二人はそのまま赤く光る森へと視線を投げる。森の中心に建つ城の中からその光を眺めた。




 気が付けばそこには二人だけしか生きている者はいなかった。呆然と立ち尽くす紫。ぼやける視界でそれを見やり、辺りを見回した。先が見えないほどいた妖怪がもう何処にもいない。あるのは足元に積もる灰だけ。

 何が起きたんだ?妙に疲労を感じる。そのためか状況が理解できない。


「どうしたんだ?」


「………………覚えてないのか?」


 戸惑いながら問われて、眉をひそめる。覚えている、ということはやはり何かが起きたということ。だが、思い出せない。


「俺が、何かしたのか?」


「力を使ったんだよ。しかも、自分の意志でな」


「は?」


 何を言っているのわからなかった。次第にすっきりしてくる頭を振って歩き出す。やはりこの森は悠真にとっても害になるらしい。気持ち悪さが先ほどよりも増している。ふらつく足どりで紫のところまで行くと、手を貸してくれた。


「力って……………何のこと?」


「ここじゃ説明しにくい。とりあえず城まで行くぞ」


 無理やり悠真の身体を持ち上げて紫は走る。

 俺、何抱かれてるの?ってか、さっきから俺のポジションヒロイン的になってない?うわっ!何か嫌だぁあぁぁあ!だけど、紫ちゃん強過ぎて俺が守るなんて芸当できるわけじゃないし!そうだ!ここの妖怪が悪い!何でこうも俺達を襲うんだよ!って、それも俺のせいじゃないか!!っと、妙な思考を繰り返している。

 森に入るまでは親指ほどの大きさしかなかった城はいつの間に山のように大きくなっていた。そして、やっと入口らしき所に辿り着く。

 木の高さほどある大きな門は取っ手がなく、引くことができない。開けようとしない紫を不審に思いつつも、悠真は門を見た感想を呑気に述べた。


「でっけぇぇぇ!何か幽霊屋敷みたいだな!ほら、木像の扉あたりがぴったり!これで勝手に開いたりしたら───」


ぎぎぎぎぎぎ


 錆びついた金具が擦れるような音が響いて、触れてもいない門が開く。タイミングのよい開門に悠真の顔は引きつった。その顔はあまりにも情なかったのか、紫ですら失笑を漏らす。


「こんにちわ。お待ちしておりましたわ」


 そこから現われたのは小柄な女性。やはり人とはあまり形態が変わらないが、耳が異様にとんがっている。清楚な雰囲気を出す彼女に悠真は笑って近づこうとした。が、紫が腕を押さえてそうさせない。


「何だよ、紫ちゃん」


「不用意に近づくな。言っただろ、人に姿に近い奴はそれだけ力の強い奴だって」


「え?だからって最初から疑ってちゃ何も力を借りることができないよ。俺は疑うなんて簡単なことじゃなくて、信じるっていう難しいことをやり通すって自分に誓ってるんだよ」


 あそこまで妖怪に怖い思いをさせられた者の言葉とは思えないものだった。驚きを見せている紫を気にせずに悠真はニコニコと笑顔を向けている彼女を見る。着物のようでそうじゃないそんな服を着ていた。鮮やかな朱色の服は袖口にいくほど大きくなっていた。


「初めまして。私、鵺と申しますわ☆よろしくお願いします」


「俺、悠真です。こちらこそお願いします」


 (ぬえ)と名乗った彼女は二人を城の中へと促した。城内は明かりが少く、足元があまり見えない。足音だけが響くのが更に不気味に感じさせる。


「あ、気を付けて下さいね。気を抜いていると足だけになってしまいますから☆」


「は?」


「暴走した妖怪が城内に入って来た時用に罠を張ってあるんです」


「えっ?取っといて下さいよ!」


「いやぁ、全て取ろうとしたんですが、かなり多く張ってあったものですから」


「ふん、どうせお前等には縁のない罠だか────────────」


 途中で途切れた言葉を疑問に思い、振り返る。だが、そこにはいたはずの紫の姿がない。


「あれ?紫ちゃん!!消えちゃったぁぁぁ!!」


「………こ、ここだ」


 絞りだしたような声が聞こえ、下を見た。そこには何処まで続いているかわからないほど深い落し穴にはまった紫の姿があった。慌てて彼に手を貸した。


「あららぁ、情ないですねぇ。紫さんという者が落し穴なんかにはまって」


「うるさい!大体、こんな見え見えの場所の罠、何で取っておかないんだよ!わざとだろ!絶対!」


「人聞きの悪いですわねぇ。こんな姿の紫さんが見たかったわけじゃなくて、悠真さんの運を試したかっただけですわ」


 鵺はこの城の罠を把握しているためかからないが、この城に初めて来た悠真は罠に簡単にかかるはず。だが、偶然か必然か彼は簡単に罠を避けて不運にも紫がはまってしまった。


「俺の運?何か関係あるの?」


 話についていけない悠真は聞くしかないが、二人はなかなか答えてくれない。結局二人には上手くかわされて奥の突き当たりの部屋に着いてしまった。今まで通って来たところにあった部屋と比べて一回り大きな扉をしていた。扉の両脇にはランプが付けられていて、扉を明るく照らしていた。鵺は軽くノックをして扉を開ける。

 扉に相応しいほど大きな部屋に一人だけ優雅に立つのは白髪の男性。背中に大きな翼を生やしたこの魔界の最高位につく………。




魔王だった





はい、少しずつキャラも増えてきました。一応第一シリーズ目のキャラはこの話で出てきた四人だけです。次の話でほとんどの謎が解けると思います。ってか、謎って言えるのかもわかりませんが。

この話の元は一応中学に書いたもので、流れはそれに合わせてあります。なので、第一シリーズは次の次で終わると思います。

最後までお付き合いして下さいますと嬉しいと思います。


三亜野雪子

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