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Night-mare  作者: せつ
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第三章 進行する歪み

 やっとの思いで辿り着いた樹海。そこですぐに門を見つけた四人だったが、門が扉を開いてくれない為そこで立ち往生していた。普通、門の存在を認めた瞬間にそれは目の前に現れるものなのだが、一切反応を断っている。


「どうして?」


「これもおそらくは私達がここに来てしまった影響でしょうかぁ〜?」


 どうも緊張感に欠ける彼女の喋り方に悠真は気が抜けそうになるが、場合が場合だけに何とか堪える。このままでは魔界に行けない。助けを求めるように紫を見やるが、彼にもいい案は浮かばないらしい。口を開こうともしない。

 万事休す、そう思った矢先に伯凰が見えない門に触れる。地面に着地したと同時にしまっていた翼を広げ、珍しく真剣な面持ちを作っていた。一瞬、彼の身体が白く光る。眩い、というよりもゆらゆらと纏うような光。それは門の輪郭を沿って移動し、いつしか門の姿を炙り出した。


「おぉ!すげー、伯凰さん」


「こういった時は力ずくに限るよ悠真君」


「だけど、どう扉を開けるんだ?」


「流石にそれは私の力では何ともできないなぁ。門を開けるには門に勝る力が必要になるし」


「それは、私でも無理ですねぇ〜。あ、悠真さんならどうですか?」


 じっと三人に視線を向けられて悠真は戸惑う。門の力とはおそらく魔界そのものの魔力と同等のものなのだろう。しかし、そんなものに勝る力を自分が持っているとは思わない。苦い表情で三人の顔を見返していると紫が大きく溜め息をついた。


「そうだな、悠真だけじゃぁおそらく無理だろう。なら、俺も一緒に力を使う。それならいくんじゃないのか?」


「そうだね、それなら名案だ!」


「でも、俺どう力使うかまだわからないけど…」


「そうですねぇ〜魔力は負の感情からきますから、怒りの感情を露わにすればいいんですよぉ☆」


そんな無茶な…。


 今まで自らの意思で力を使ったことのない悠真にとってはかなりの難題だ。しかし、今はそれに縋るしかない。自分の力を信じるわけではないが、仕方なく門に手を寄せる。

 いつも無意識に使っていた力。最初は魔力。次は天力。その時の気持ちを頭に浮かべて悠真は目を閉じる。隣りで紫も同じように門に手を寄せる。


「悠真、落ち着けよ」


「大丈夫」


 紫は先程までの様子と異なる悠真に驚き、思わず視線を向ける。悠真は目をゆっくりと開けて門だけを見つめていた。その目には静かな怒りさえも窺えるほど強い光を宿している。彼の周りにまとっていオーラが広がる。それは次第に門に移り、扉が開かれた。


こいつ、いつの間にそんな芸当できるようになったんだ?


 あまりにも自然と行っている彼に目を見開き、彼は唾を飲み込んだ。いつの間にかこちらの世界に馴染んでいる悠真。それは彼の素直な性格と純粋な心が一番の原因だが、力の操作に関しては彼の才能としか考えられない。


「紫君、君がやらないと流石に開かないよ?」


 伯凰の最もな言葉に正気に戻り、紫は慌てて魔力を放つ。もう八分くらい開いていた扉はそれによりゆっくりとまた開き始めた。ついには完全に扉が開き、それど同時に消え、門の枠だけが残った。扉の向こうには真っ暗な闇が広がっている。

 悠真はそれに臆することなく最初に足を踏み出した。紫もその後に続く。


「驚きましたねぇ〜、本当にやってしまうとは」


「そうだね、だけど想像通りだよ」


 伯凰は楽しそうに笑って鵺の頭を撫でる。珍しい行為に彼女は瞬きを繰り返した。そのまま門の中に入っていく彼の背中を見つめながら鵺は妖しく笑った。




 常に雲に覆われた空、深い霧が立ち込める森、鳴き止むことのないカラス、それが普通の魔界の姿だった。しかし、四人の目の前に広がるその世界は見たことのないものだった。

 薄暗いだけだった空が黒く、霧は森の範囲を超えてどの場所にも存在し、うるさいくらい鳴いていたカラスさえも姿が見えない。これは魔界の住人達が危機に晒されている証拠だ。驚愕で声を失っていた悠真は唾を飲み込む。


「紫ちゃん、急ごう。レイズの元に」


 何が起きているのか、今は細かい現状が知りたかった。何かをするにも、まずはそれだ。悠真は紫の背中に乗って、四人は城を目指す。何処にいても城付近と同じくらいの霧が浮流している。長居をしていたら悠真の命が危ないくらいだ。そのためか、紫の速度は他の二人に対していささか速い。

 彼の気遣いに直感で気づいている悠真は苦笑するだけで何も言わない。この行為は彼自身もありがたいことには変わりない。


「間違いありません、また魔力が充満しています」


「うむ、レイズが不調というのは考えにくいのだが。やはり異常がこちらにもきているということだね」


「つべこべ言ってないで飛ばせ!魔界を、滅ぼすわけにはいかないだろ」


 あっという間に城に辿り着き、中に入る。彼等が入ってもレイズが迎えに来る様子は一切ない。悠真は少しだけ胸騒ぎを覚えて、走り出した。いつも予測不可能な彼に振り回されるはめになる紫は溜め息を一つついて後を追った。


「おい、悠真!」


「感じる天力が弱いんだ!レイズがあぶなっ────」


がこん


 こんな時にも罠は作動する。突然悠真の右側の壁が回転して、中に放られる。一瞬の出来事に紫も対応できず、それを見送るしかなかった。そして、もう一つ溜め息をついて引き戻した。罠に詳しいはずの鵺の元に行くために。

 一方、壁の中に放られた悠真は真っ暗なその場所に動けずにいた。


「どうしてこの城はこんな罠がいっぱいあるんだ」


いや、わかってる。わかってるさ。どうせお鵺さんの趣味なんだってことは。


 もう、何もかも諦めかけている。しかし、彼は今落ち着いてここで助けを待っている場合じゃなかった。そもそもこの罠にはまってしまったのは、急いでいたのだから。


「何とかしてレイズの所に行かなきゃ」


 真っ暗なその場所に不安を抱きながらも悠真は歩き出した。壁伝いに歩いていれば壁にぶち当たることはないらしく、スタスタと進むことができる。次第に強くなる天力にレイズの所に遠ざかっていないことはわかるが、詳しい位置は理解できない。

 そろそろ元の道に戻りたいと壁に仕掛けがないか探す。しかし、何の変哲もない壁、なのかはいまいち理解はできないが、何の反応もない。


「うーん、困った。やっぱり紫ちゃんを待ってればよかったかな?」


 今更後悔しても遅い。こうしている間にも天力が弱まりつつある。急がなければならない。そう自分に言い聞かせて何とか方法を考える。


そうだ、あの時できたんだから。


 壁に手を押し付けて悠真は目を閉じる。思い出すのはあの時の気持ち。そうすればまた身体が熱くなる。これは自分の中にあるあるものが騒ぎ出している証拠。

 いつしかそれらは身体の外に飛び出し、手を伝って壁にぶち当たる。ぴき、と鈍い音が辺りに響いた。音がした所から更に大きな音が響き、パラパラとそこから破片が落ちる。


「壊れろ!」


 一気に放出された魔力により壁は見事に吹っ飛んだ。あまりの威力に悠真も思わず唖然として、その様子を暫く見つめる。これが、魔力。自分の中に眠る力なんだと、とても信じられない気分になる。

 だが、今は呆けている場合ではない。そのことを思い出して、悠真はその場所から離れた。力を感じる場所は近い。おそらく悠真が寝泊まりしていた部屋だろう。一直線にその場所に向かって走る。


「レイズ!」


 部屋に入ればベッドの上でうずくまる彼女が目に入った。慌てて駆けつけて、触れる。天力が弱まっているのなら、彼女に天力を分け与えればいいのだと、前回の経験で理解していた。魔力同様気持ちを落ち着かせて天力を使った時のことを思い出す。ゆっくりと、静かに沸き起こる洗練された何かが身体の奥から沸き起こる。それはまた手を伝い、彼女の身体にゆっくりと移った。

 しばらくすればレイズは青かった顔を上げて悠真を見やる。不安そうな瞳に少しでも落ち着かせようと優しい笑みを向けた。


「ありがとう、悠真さん。また、助けてもらっちゃったね」


「いいんだ、そんなの。大丈夫か?」


「うん、だいぶ楽になった」


 確かに先程の顔とは打って変わって彼女の頬には赤みがさしている。悠真も一安心して、息をついた。


「まったく、いくらなんでも壁を壊すことないだろ?」


「本当、豪快だなぁ、悠真君は」


 タイミングよく追いついた三人に二人は顔を見合せて笑ったのだった。

 場所は広間に移り、鵺の出す紅茶を飲みながらやっと本題に入った。まずはこの世界の現状。伯凰が言うには既に半分の妖怪が消滅しているようだ。他の妖怪は生きてはいるものの、自我をなくしていてもおかしくない状態らしい。事態は柳龍一が訪れたあの時よりも深刻だ。


「でも、どうして。地球との繋がりが不安定になったことでここまでなるの?」


「まぁ、確かにこちらの世界にも地球からの魂の香りが微かにですが届いていますわ。そこが問題なのでは?」


「まぁ、少なからずは関係していると思うが、実際ここまでの被害にはならないだろうね」


「………なぁ、ずっと気になってたんだが。何を隠してる?」


 紫は紅茶を一口も飲むことなく、二人を睨みつけていた。その鋭い視線を軽々と伯凰はかわして笑ってみせる。それが逆に紫の癪に障る。


「どういうことですか?」


「こいつらは何か隠してるんだよ、そうだな……天界に悠真が行ってしまった時くらいから」


「あぁ、それって門についてじゃない?」


 何気ない悠真の一言に珍しく鵺と伯凰も目を丸くした。悠真は落ち着いた様子で紅茶を口に運びながら気持ちを落ち着かせる。連続で力を使ったためか、心なしか身体は重い。紫でもそんなに頻繁に魔力を使うことはない、とこの部屋に来る前に怒られたくらいだから、疲労は相当なものだろう。


「どういう意味だ?」


「さぁ?俺にはわからないけど、天界の門のこと、今回の門の異常、それらは何となく伯凰さんに関係してるんじゃないかと思って」


 ただの当てずっぽうだが何故か確信を抱いた様子に紫は苦い表情を作る。しかし、その言葉に伯凰は堰を切ったように笑い始めた。


「伯凰様?」


「はっはっはっは!本当悠真君には敵わない。そうだよ、天界での門の出現はこの私が仕組んだこと。それがきっかけとなって今回の門の異常が発生した」


「な、どういう意味だ!何でそんなこと」


「これが、魔王の仕事だからさ」


 いつもとは違い、冷たい目線に紫は口を閉ざした。口出しを許さない、とそれが語っているのだ。それぞれの世界を滅亡させるためなら、こんな回りくどいことは彼ならしない。それなら、別の理由があるのだろう。


「とりあえずどうしますか?このままこの状況が続けば私だけでなく悠真さんはもちろん、紫さん達にも何らかの異常がくるかもしれません」


 既にほとんどの妖怪に異常が起こっている。この世界をこのまま放っておくわけにはいかない。


「ならさ、門を閉ざせばいいんじゃないの?この世界と地球を一番深い所で繋げているのは門だろ?こちら側の門を探して閉ざせば、少しは回避できない?」




そして、次の目的は。

また、門。





遅くなりました。そして、またギャグない。し、話の進みが早い?

のぉ、すみません。次は少しでもギャグを入れたいと思います!

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