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Night-mare  作者: せつ
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第二章 混乱する世の中

 少し窮屈にテーブルについて八人は食事をとる。悠真はいつ伯凰と鵺が迂闊なことを話さないかで冷や冷やしながら横目で何度も見ていた。時刻は既に七時半。三人と話をしている間にかなりの時間が経過していたようだ。普通ならお笑い番組の一つでもやっている時間だが、静真はリモコンを持ちながら首を傾げた。


「何か、今日ニュースばっかなんだけど」


「七時過ぎなのに?」


 仕方なくあるチャンネルのニュースを見る。箱のようなものが映像を映す機械に三人も興味津々でそこに釘付けだ。ご飯を口に運ぶ作業を止めることなく、全員そのニュースを見る。ほとんどが生放送らしく、上にLIVEという字が映されていた。


『ただいまの情報によればアメリカ、中国、オーストラリア、更にはヨーロッパと何の繋がりも見えない場所の国に異常な現象が起きていることがわかりました。アメリカでは街にいたカラスが全羽突然死に、中国では春、夏、秋、冬関係なく、全ての植物が生え始め、オーストラリアでは原因不明の霧により、たくさんの人が病院に運ばれています』


「すごいなぁ、一体どうしたんだ?」


「こんなに一気に…本当に異常だね」


 悠真は思わず三人の方に顔を向けた。案の定彼等は深刻そうな顔でテレビを見つめている。やはりこの異常現象は伯凰達がこの世界に来たことと関係があるのだろう、と確信しようとした。


「悠真さん、これってどういう原理で動いてるんでしょうか?」


「これは魔界でも使えるかね?」


 この言葉でその考えは一気に消し飛んでしまった。

 食事も終わり、そろそろ三人を自分の部屋に戻そうと悠真は立ち上がる。食器を重ねて水道の所へ持って行くと、同じようにして紫が自分のお皿を持って後ろに立っていた。


「なぁ、さっきのここではおかしなことなのか?」


「え?あ、うん。今までそんなことありえなかったよ」


 それを聞くと紫は神妙な表情で考え始めた。


そうか、紫ちゃんちはここの常識を知らないから考えようがないんだ。


 彼等が地球にいた時の記憶は一切残ってはいない。どうして死んだのか、誰が親なのか、全く。今の彼等にある記憶は死んで魔界に来てからのものしかないため、地球のことがわかるわけはないのだ。

 悩んでいても仕方ないと思ったのか、考えるのをやめて紫は口を開いた。


「やっぱり世界は────」


 刹那、大きく床が揺れる。かちゃかちゃと棚にしまわれた食器が音を立て、軽い物は少しずつ床を滑る。突然のことでどう反応していいかわからず、悠真は思わず紫の腕を掴んだ。彼は意外にもしっかりと悠真の身体を支えて、柱に捕まった。数分間その揺れは続き、また何もなかったように動きを止める。


「長かったね今の地震」


「震度四くらいか?」


 少しだけ大きかったが、そこまで被害のある揺れではなかった。家族はとりあえずテレビを凝視して、情報が入るのを待った。


『ただいま起こりました地震ですが、………何と震源地がありません。火山のない国も含めて全国で震度四相当の揺れが起こった模様です』


「何だそれ」


「まぁ、地球が震えたってこと?」


 本格的に起こり始めた異常。それは、考えられないほど急激で、次は何が起こるのか予想もできない。悠真は紫に視線を送ると、彼も何かを悟り頷く。静かに伯凰と鵺を引っ張り、自分の部屋へと連れて行った。


「やっぱり地球にも異変が起き始めてるよ、伯凰さん!」


「うむ、やはりさっきの箱は普通なら使えないものなのだな」


「いや、テレビじゃなくて、テレビが放送していた内容が異常だったんです!ぬぁ!何でこんな時も突っ込み入れなきゃならないんですか!とりあえずどうすればいいか一緒に考えて下さいよぉ!」


 半泣きになりながら悠真は慌てる。そこらをぐるぐると回り始めたため、紫がその頭を掴み、止めさせた。けれど、彼は無意味に足を進める。


「そうですねぇ、普通に考えれば私達がこの世界から消えればいいでしょうけど」


「そうだな。確かに俺達がこの世界に訪れたことによってこの地球に歪みを発生させているからな。普通に考えれば歪みそのものである俺達が元の世界に戻ればいいんだが」


 今回の原因ははっきり言って門、つまり世界を繋ぐ道の暴走だが、地球が歪んでいる最大の原因は地球ではいないはずの妖怪がいることだろう。


「っと、いうことは………」


『門を使って三人を魔界に帰せれば、いいということですね』


 突然頭に響いた声に悠真と紫は驚きを示す。普通に声をかけられたものではなかった。例えるならマイクか何かで直接ではなく、間接的に話しかけれられたようだ。しかも、その声には覚えがあった。


「レイズ?」


『はい、どうやら世界の繋がりが不安定になったためにこちらの声が悠真さんに届くようになってしまったみたいです』


 この場にはいないのに聞こえる違和感に思わず顔を歪ませた。本来ならあり得ないことが続く。それは地球が次第に歪み始めていることを表している。


「ってーことは、魔界に戻るために」


「地球側の門の所まで行かないといけないな」


 さらりと言われた内容はかなり無理に近い。地球側の門は樹海にある。しかも、遊歩道で木々の中に入った所にだ。そんな所へ既に夜となった今から行くのはかなり危ない。しかも時間がかかる。ついでに言えば家族に気付かれないようにするのは更に難しい。

 震源地がないという異常な地震も起き、世界で様々な現象も起き始めている。このまま朝を待っていてもそれはそれで危ない。既に三人は地球に来ている。それならいつ他の妖怪達もこちら側に来てしまうかわかったものではない。


「どうしよう」


『悩んでいる暇はありません』


『そうだ、魔界や地球だけじゃない、天界にも影響が出てるんだ、早く何とかしろ』


 レイズの声に交じって新たな人物の声が悠真の頭に響く。聞き覚えのあるそれは、魔界の住人ではない。


「嘘、シンバの声も聞こえるようになっちゃった!」


『私もいるよー、悠真!久しぶりぃ』


「ルフィア!元気にしてたか?って、そんな場合じゃない。天界ではどんなことが起こってるの?」


『今のところ植物がしおれているくらいかなぁ?でも、そのせいで天族の人達が元気をなくしてるの。お願い、悠真だけが頼りなんだよ』


植物、毒の霧、カラス………もしかして今こっちで起きていることは、全て天界、魔界に関連していることなんだ。


 アメリカではカラス。中国では植物。オーストラリアでは霧。これらは全て魔界と天界で普通だと思われる現象。つまり、魔界、天界、地球の世界の枠が本当に崩れつつある。

 悠真はダウンジャケットを羽織り、家族に気付かれないよう靴を自分の部屋まで持ってきた。


「どうする気だ?」


「紫ちゃん、俺を担いで走れる?屋根の上とかつたって」


「───やってみる。案内はお前がしろよ」


 そして、しばし硬直して、今度はまた違う部屋から何かを探り出して戻ってきた。手に持っているのは何回か折りたたまれた紙。それを広げてじっと見つめる。何度か視線を往復させて、それをポケットに突っ込んだ。


「よし、多分大丈夫」


「…………」


 紫は不安になりながらも、彼を信じるしかなかった。




 冷たい風が頬を叩きつける。大きく上下するその衝撃にそろそろ慣れ始めた悠真は、紫の足の速さに感嘆を漏らした。器用に音もたてず、屋根を伝っていく彼は、元は黒ヒョウらしい。だが、妖力の強さからそれを証拠づけるものは黒い耳しかない。その彼の後ろを白い羽ですいすい飛んでいるのは白ガラスの化身、伯凰。彼が空を飛ぶところを見るのは、もしかしたら初めてかもしれないというほど、その姿は珍しい。そして、暗殺者のように闇にまぎれながら後をついてくるのは鵺。彼女に関しては何の化身なのかもわからない。

 こんな姿を誰かに目撃でもされたらそれだけでまた騒ぎになりかねない。が、今はそんなことを気にする余裕もなく、悠真はポケットに入れた地図を引っ張り出す。あれから一時間は走り続けている。もうそろそろ樹海の木々が見えてもいい頃だろう。


「紫ちゃん、もう少し左側に寄って走って」


「左の方なのか?」


「何言ってんの!この世界は左側通行が基本なんだよ」


 どこか間の抜けた突っ込みを入れて、悠真は地図に視線を戻した。道路標識などで確認したところもうすぐ樹海には到達するだろう。しかし、問題はその後だ。樹海といっても範囲はかなり広い。この前行ったところは決まっているから大体の場所はわかるが、細かい所までは覚えていない。そんな門をどうやって探し出すか。


『悠真さん、急いで下さい』


「どうしたのレイズ?」


『このままでは、妖怪達が────してしまい……』


 突然彼女の声が切れてしまった。今の様子から魔界に何かあったのは明白。悩んでいる暇は彼にはない。とりあえずめぼしい所に向かうしかなかった。

 やっと樹海に辿り着き、ひとまず遊歩道の所で悠真は自らの足で歩く。夜で、更にはまだこちらの方は寒い季節。薄気味悪さがこの間よりも増幅している。


「あららぁ、何だか魔界の森に似ていますね、伯凰様」


「そうだねぇ、これでカラスの鳴き声と毒の霧さえあれば」


「変なものを地球に残してもらっちゃ困ります。多分、この雰囲気が魔界に似ているからここに門があるんじゃないですか?」


 足を進めながら悠真は必死にあの時のことを思い出す。しかし、樹海など中に入ってしまえば大体が同じように見え、更には今は昼ではなく夜だ。それだけでイメージは一変してしまう。


困った、わからない。


 肩を落として、視線を下に向ける。すると、そこには見覚えのある小さな穴があった。悠真は暫くそれを見つめて、顔を上げた。ゆっくりと手を伸ばしていくと、確かに何もないはずなのにそこには何かが存在していた。


「ここだ」


「ここが?だけど、門の姿が見えないぞ」


 門というものは常に透明なのではない。ここにある、と確信した時自ら姿を出すもの。しかし、今は姿を出すどころか、門の力さえも悠真は感じられなかった。


「もしかして、門が閉まってる?」




やっと見つけたそれは、彼の道を塞ぐ。





ふぅ。人が多いって大変です。

次は久々に魔界へGO!

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