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Night-mare  作者: せつ
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第一章 歪んだ世界

 何故、三人がこの地球にいるのか。悠真にはもちろんわかるわけもなく、更にそんなことを呑気に考えている暇はなかった。何故なら、ここにはこの三人と悠真の他にもう一人存在しているからだ。

 芳季はもちろん今の状況を理解できておらず、三人と悠真の関係を本当に不思議そうに眺めていた。見るからに悠真よりお年上の三人。普通に知り合えるわけでもない。悠真はどう説明して逃げようかと必死に悩んだ。


「原松、あのな、こいつらはぁ……」


「先輩、ついにそういった道に歩んだんですね。わかってます。何も言わないで下さい。俺は何も見てせん。このことを誰かに言うこともしません。ちゃんと約束しますから」


「おい、原松?お前、何言ってんだ?」


 何を勘違いしているのかわからないが、芳季は更に熱を込めた目で悠真を見つめて、首を縦に振った。ものすごく嫌な予感がして、思わず否定したくなったが、紫が後ろから悠真の口を押さえてきたので何も言えない。


「まさか、本当にそういったコスプレの世界に入るなんて、俺は嬉しいですぅうううう!!」


 そう叫びながら芳季は走り出した。すぐにその姿は消えて、彼の声が小さく木霊している。コスプレという言葉に流石にショックを受けて悠真は引きつった笑みを漏らした。確かにそういったものでないと、この三人は説明しにくい。とがった耳や、見慣れない服、染めたにしても綺麗過ぎる白や緑の髪など、この世界では少し奇抜すぎる恰好だ。

 しかし、だからといって自分の立場をかなり悪くした気がする。しかも、芳季は好きらしい。本来の姿ではなく、勘違いされた姿を好まれても、複雑な心境だ。


「コスプレとは何だ?」


「紫ちゃんは知らなくてもいいような言葉だよ」


 力なく呟いて悠真は改めて三人を見やる。突然地球に来たにしては皆妙に落ち着いている。しかし、普段の三人ならこのくらいで動じはしないのだろう、と悠真はわざわざ問いもしなかった。


「とりあえず、ここでは目立つから、俺の家でも」


「おぉ!まさしく初めての訪問どっきどきだね!」


「はい、伯凰様、これは更に悠真さんをいじるチャンスです☆」


「いや、いじらないで下さい」


 疲れた口調で言い、悠真は自分の家へと急いだ。この三人を共に連れているだけでも、かなり目立つ。更に警察などに補導された場合、何をし出すかがわからない。三人が。あくまでも、三人がである。

 運よく家に帰るまでの道ではあまり人に会わずに済んだ。しかし、問題はここからだ。家族にどう説明するかである。


「はわぁ、ここが悠真さんの家ですね!」


「ここまで家があるなら全てくっつけて大きなものにしてしまえばよいのに」


「家がないと生きられないなんて人って不便だな」


 生きていた時の記憶がないとはいえ、理不尽なことを言う。その言葉のせいで悠真の頭には何もいい案が浮かんでこない。いや、静かであっても彼の頭にはいい案など浮かんではこないだろう。何故なら、要領が悪いから。

 入らずに悶々と考えていると、ついに悠真は案が浮かばないうちに。


「あれ?何してんだ悠真」


 家族に見つかった。丁度大学から帰ってきたのだろう、悠真の兄、透真だ。彼は見慣れない三人に目をぱちくりさせながら、悠真に視線を向ける。


「あ、いや、遠い友達がわざわざ来てくれたからさぁ」


 ものすごく苦しい言い訳だ。この場にいた五人全てがそう思った。しかし、この家族の中で一番常識があり、一番お人好しの透真は一つ苦笑して優しく言った。


「それなら早く家に上げてやんなよ、友達待ちくたびれてるじゃないか」


 何も聞かずに家のドアを開けた。最初に会ったのが透真でよかったと心から思い、やっと家の中に入った。だが、まだ問題は解決してはいない。透真だから何も言わなかった。ならば、他の家族ではそうはいかない。また、悩み始めた悠真。


「こんにちわ、僕静真です。ユーマ兄ちゃんのお友達?」


「あららぁ、悠真さんそっくりですぅ☆」


「おぉ!こんにちわ、私は伯凰というのだよ。今度その顔を生かして何かしてみないか?」


「そうだね!僕、将来は逆玉の輿を狙ってるんだ。少し大人のお姉さんとか…、結構要領いいから僕ならいけると思う★」


「おい、この子供、お前とオーラが似てるんだが…」


「やだなぁ、紫さん。★を使ったくらいで同じにしちゃいけませんよぉ。下手したら塗りつぶされている分この子の方が腹黒ですよぉ」


「あらあらぁ、なぁに?こんなにお客様が。悠ちゃん、ほら、早く客間に通しなさい」


「あ、はぁい。って、馴染みすぎでしょ!そして、疑わなすぎ!心配して損したしぃ!」


 気付けば伯凰が母の真澄の手の甲に口付けようとしていたので、すかさず引き離して、客間ではなく自分の部屋に三人を押し込んだ。こんなにもスムーズに受け入れてくれるとは思わなかったため、安堵というよりも少し複雑な心境だ。

 すっと息をついてベッドに腰掛ける。そしてやっと本題に入ろうと口を開いた。


「で、どうして皆は───」


「お茶入れたわよ、悠ちゃん。はい、どうぞ」


 突然入ってきた真澄によって中断。出鼻を挫かれたとはこのことなのだろうか、と問いたくなる。差し出された紅茶を遠慮なく鵺は一口飲んだ。すると、目を大きく見開いて立ち上がる。


「これは!!」


「どうしたの?お鵺さん」


「お口に合いませんでした?」


「な、なんて上等な抜殻茶!ほんのりとくる香りと、ちょっと口に残る苦み、そして綺麗なこの色。百年に一度取れるかわからない弱っちぃ妖怪をじわじわと鞭で痛めつけて、殺し、そのあと丁寧に血に染めなが───」


「わぁぁああああ!!お鵺さん、落ち着いて下さい。欲しいなら後で少しわけますから!」


 突然出てきた言葉に顔を真っ青にして悠真は口を挟んだ。心配そうにちらりと真澄を見ると何故か少し嬉しそうだ。単純に褒められたのだと思ったのだろう。ほっと胸を撫で下ろして彼女が部屋から出ていくのを見送る。足音が消えるまで待ち、改めて口を開いた。


「で、さっき言おうとしたことなんだけど」


「なぁ、これって何だ?」


 本日二回目の中断。それは紫の声だった。まだ伯凰や鵺じゃないだけマシだったが、問われたことに意識を失いそうになった。彼が持っていたのは綺麗な青い衣装。少し飾りは質素だが、腰の部分で柔らかく広がった布はとても可愛い。更には白いエプロンまで付いている。組み合わせて着れば本当に可愛い衣装となるだろう。

 つまり、ワンピースだ。女物の服。そんなものが悠真の部屋にあるはずない。しかし、紫は隅に置かれたそれを見つけてしまった。


「そ、それは…」


「まぁ☆悠真さん、本当にそんな道に足を踏み入れて下さったんですね!私、感激ですわぁ」


「ち、違います!」


「まさにこれは女性の衣装。言い逃れはできないよ、悠真君」


「だからぁ、違うんです!この世界でもお鵺さんみたいな人がいてですねぇ…」


 思い出したくないことを思い出して、言葉に詰まる。女装趣味と思われても困る。が、これを説明するのも恐ろしかった。しかし、先ほどの言葉で事情を大体は理解した紫はまた袋に服を戻した。


「なるほど、やはり皆悠真君を放って置くことできないのだな」


「いいことじゃないですかぁ☆皆様に可愛がられて。では、今度私も悠真さんを可愛がって差し上げますわ☆」


「うぅ…」


 もう、彼は泣くしかなかった。流石に申し訳なく思ったのか、話を変えてしまった紫が彼に助け船を出した。


「で、何を聞きたいんだ?」


「だから、どうして三人がここにいるのかを、聞きたいんだよ」


 そしてやっと、三人から事情を聞き出すことができたのだ。




 今の状況を理解した悠真は顔を凍らせて、三人の顔を凝視していた。

 その内容とは、前回天界へ行った時に浮上した問題とも関係する。それは、門の異常。三人がこの世界に来てしまった原因は他でもない、門が暴走し、三人をこの世界に送り込んでしまったからだ。普通ならそんなこと絶対にあり得ない。そう、出会った時に伯凰が言っていた。


「あの、伯凰さん。実はこの前俺が天界に行った時も」


「それはレイズから聞いてるよ。大変だったね悠真君。確かに天界の異常といい、魔界の異常といい、同じような症状だね。無関係とは言えないだろう」


「じゃぁ、一体」


 一瞬、四人の中に重い空気が流れた。悠真は何も言えずにただ縋るような目で彼等を見ているしかなかった。そして、やっと口を開いたのはこれまで黙っていた紫だった。


「とりあえず、言えることは───」


「悠ちゃぁん!ご飯、できたけどどうする?」


 又突然ノックもなしに入ってきた真澄により中断。紫は「は」の口のまま止まり、悲しい瞳を悠真に向けている。内心で謝りながら、悠真は真澄を押して廊下に出た。


「もちろん、あちらの方達も食べていくでしょう?もっと早く言ってくれたらマシなものを作ったのにぃ」


「いや、あのね」


「あ、そうだ何ならどこか食べに行く?作ってから言うのもなんだけど。どうせ明日の朝にでも食べるでしょう?」


「だからね」


「お母さん、それならやっぱりファミレスだよね!色んな種類あるし」


「そうね、流石は静ちゃん。わかってるわぁ」


「真澄、父さんは焼き肉が食べたいな」


「父さん、変なこと主張しなくていいよ」


 次々にわいて出る家族に突っ込むタイミングを逃して、悠真はどうしようかと悩み始めた。いや、食事は別にとってもいいのだろう。いいのだろう、が。っというか自分は一体何を言いたかったのだろう。次第によく理解できなくなっていた。


「とりあえず、家でいいです」


「そうだよ、一応人数分用意したんだろ?」


 紫と透真によって話は終わり、次々と家族は下に降りていく。それを見計らって紫は一つ息をついて、静かな口調で告げた。


「とりあえず言えることは、天界も、魔界も、そしてこの地球も何かが狂い始めてることだ」


 それは、これから起こる何かを決定づける、静かな言葉だった。





ちゃんと見直ししないで投稿したので多少誤字などがあるかもしれません…。

久しぶりに家族登場です。ギャグになっていたでしょうか?

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