序章
季節は冬と春の境。厳しい寒さは次第に暖かみを帯びて、首元の防寒も皆外し掛けた。学生の服装もただの制服を着るだけのものとなり、陽が昇る時間もかなり早くなった。同時に、陽が落ちるのも遅くなり、そんな赤い夕陽を見やる学生がここにもいた。
一人は茶色がかった黒髪をした少年。大きな瞳に、少し丸い輪郭は男なのか女なのか一瞬戸惑ってしまうくらい中世的な容姿の彼は、紺色のブレザー姿はある意味で似合っている。
もう一人は黒い短髪をした、いかにもスポーツマンな顔をしている少年。少し細い輪郭に、切れ長の目をしたイケメンの部類にも入る彼は、同じく紺色のブレザーを着、シャツを着崩している。
「はぁ、にしても何とか勝ったなぁ」
「本当、先輩がいてくれてよかったです」
二人は今日、バスケの練習試合へと駆り出された。かなりの強敵だったのか、語る顔はいささか青い。先輩、と呼ばれたのは鷹崎悠真、十八歳。知っての通りこの話の主人公だ。そして、一緒に帰っているのは原松芳季、十七歳。二人は違う年齢で違う学年だったはずなのだが、様々な事情で今は同学年となっている。
「もう、三月か。この休み明けたら受験生なんだよな」
「嫌なこと思い出させないで下さいよ。はぁ」
そう、今は春休み。後二週間足らずで二人は三年生となる。先のことを考えると気が重くなるのか、長い溜め息を同時についた。ふと、芳季はじっと悠真を覗き込む。その視線が顔ではなく、首元に向けられていることに気付いて、悠真は首を傾げた。
「何だ?」
「先輩ってどうして首の所にそんなイレズミみたいのがあるんですか?」
問われて一瞬ドキリとした。この首元のイレズミは彼と魔界が契約している証拠。それをどの様に芳季に説明すればいいのか、これは悩むところだ。魔界、の言葉を出さないよう、どうやって…。と、ただ純粋に興味で入れたんだぁっという陽気な考えが咄嗟に浮かばないところが彼の弱点だろう。悠真は悠真なりに悩んでいる時のことだ。
ぞくりと、冷たい何かが背筋に這い上がった。何処かで感じたことのある感覚に、まさかとは思いつつ、悠真は辺りを見渡した。しかし、周囲には何もない。思わず安堵して、芳季をみると、彼は何かをジッと見つめていた。
「すっげー。何処かのモデルかな?」
思わず彼の視線を追ってみると、視界に入ったのは見覚えのある顔。紫がかった青い髮を三つ編みにし、肩から垂らしている長身の美男子と白い髮を腰まで延ばした同じく美形の男、更に緑の女性にしては少し短めの髮をした女性。悠真はこの者達と会うのは初めてではなかった。だが、この世界で出会うのはまさに初めてだ。
「いや、でも、何で?」
「先輩?さっきから様子おかしいですよ?」
慌てる悠真を怪訝そうに芳季は顔を覗いた。しかし、今彼は三人にしか焦点を合わせていない上、耳に音が入っても気にする余裕など一切なかった。じっとただあの三人を見つめていると、やがて向こうもその視線に気付いた。その内の二人は何故かものすごい笑顔で悠真に走り寄る。
「悠真くぅううん!!」
「悠真さぁああん!!」
何か来る、関ってはいけない人達が、来る。しかし、悠真にはわかっていた。これらからには逃れられないことを。瞬時に悠真の傍に来た二人は挟み撃ちで彼を羽交い絞めにする。
息が止まるかと思い、手をばたつかせる。芳季は遠目で見ているしかない。次第に顔を青くする彼を見兼ねて、ゆっくりと近付いてきた三人目の男がその二人の襟を掴み、悠真から引き離す。
「お前等は悠真を殺しに来たのか」
「あらら、すみません、悠真さん。ついつい☆」
「君を見て興奮してしまったのだよ。はっはっは!」
異界に来ても変わらない三人に悠真は内心感心しながら、大きく息を吸った。そして、久しぶりに見る彼等の名前を順に述べた。
「紫ちゃん、お鵺さん、伯凰さん…久しぶり」
彼等はこの世界に入られないはずの、既に死んだ妖怪。魔力を持つ、魔界の住人だった。
ついに最終シリーズスタートです!
ギャグを入れてできる限り自分が満足できる作品を仕上げていきたいと思います!
皆様にも満足いただけるよう、頑張りたいです!