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Night-mare  作者: せつ
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第四章 明かされる事実

 出会った時は確かに嬉しかった。しかし、悠真は気づく。自分といい、彼女といい、今回天界の人達に余計な不安を与えてしまっていることに。ざわざわと騒がしい外に心の中で軽く謝罪を繰り返しながらも、勝手にレイズを神殿に入れる。流石に彼女も神殿の中が限られた者しか入ってはいけないことも知っているためか、少し居心地が悪そうな表情を悠真に向けた。

 悠真は言い訳を心の中で呟きながら二人を連れて大広間に移動する。すると、ちゃんと騒ぎを聞いていたのか、そこには既にレミとシンバがいた。


「悠真さん、これは一体何の騒ぎで……」


「レミ様!」


 悠真が説明を始める前にレイズが彼女に向かって駆け出してしまった。これには誰も予想などできず、止める間もなかった。シンバが大きく目を見開いたことに気づく。これには悠真も一瞬ヒヤリとしたが、レイズを見たレミも同じく走り出してしまったため、シンバは鋭さを無くし、驚愕の表情へと変えた。


「レイズ!貴方、どうしてここに?」


「はい!悠真さんを元の世界に戻すために来ました。流石に紫さん達をここに連れて来るわけにはいかなかったもので」


 確かに天界に人が来ただけでも大騒ぎだったのに、さらに妖怪がこの世界に訪れた日には皆天界の破滅だと騒ぎ、仕舞いには祈り始めるような気がする。その光景を容易に想像でき、悠真は苦笑を浮かべた。


「ごめんな、レイズ。こんな所まで迎えに来てもらって」


「いえ、私はここにもう二度と来れないと思ってましたから、悠真さんには逆に感謝してますよ」


 にっこりと可愛らしい笑顔を向ける。その曇りのない笑顔に一瞬心臓が止まりそうになった。


純粋な、綺麗な心を持つ人ってやっぱりこの表情だよな。


 死にかけながらもそんなことを思う。顔を赤くしている悠真に気づいてルフィアは彼の頬を思い切りつねった。それにより悠真は死の危機から救われる。


「レミ様、本当にお久しぶりでございます。魔界に行っても、貴方様だけは忘れませんでした」


「敬語はよして。貴方は、私の妹みたいなものでしょう?」


 かなり親しかったらしく、二人は既に自分達だけで世界を作り、感動を噛み締めている。それを呆然と悠真は見つめる。

 自分がここに来たせいでレイズが里帰りができたのなら、今回の騒動もそれほど悪いものじゃなかったかな。と、心の中で呟いて、悠真はその場から離れた。

 天族では天族同士で話した方がいいこともある。そんな気の回しをして、与えられた部屋へと戻り、ベッドに腰を落ち着かせる。ふと、シーツが湿っていることに気づいて、首を傾げる。


「あ、そうだ。変な夢見たからだ」


 先ほど見た夢を思い出し、悠真は苦い表情を作る。ここに本当に紫が来なくて良かった気がした。


「静かだなぁ」


 魔界はよくカラスが鳴きじゃくっていたが、天界は鳥のさえずりが微かに聞こえてくる。それだけだ。時々妖怪の叫び声が聞こえることなどないし、伯凰達が騒ぐこともない。一人になると更にその心地良い静けさがわかる。

 しかし、何か物足りなさを感じる。それはおそらく魔界に慣れ過ぎたからだろうが、人間だからかな、と悠真は思った。


「人は、欲が絶えない人だって誰かが言ってたなぁ」


多分、先生。おそらく。


 曖昧な記憶を頼りに呟いたせいで誰もいないにも関わらずかなり恥ずかしい。思わずベッドに寝転がり、息をついた。


「紫ちゃんに会いたいなぁ」


「それは魔界の者のことか?」


「わぁ!!」


 人がいないはずなのに聞こえた男の人の声に悠真は飛び起きる。見れば、いつの間にか扉の脇に佇むシンバ。どくどくと早い音を刻む心臓が彼の驚きを示している。

 シンバは無表情のまま悠真のすぐ目の前まで歩み寄る。


「お前、本当は魔界からのスパイじゃないのか?」


「はっ?」


 意味が理解できず、思い切り表情を歪ませる。その顔が苛ついたのか、シンバは力任せに悠真を押し倒した。ベッドの縁に頭をぶつけて、ぐわんぐわんと脳が振動した。涙目になりながらシンバを見れば、彼の顔は今までにないほど恐ろしいものだった。

 一瞬、背筋を凍らせたが、彼に睨み返して、力任せに手を振りほどいた。


「何を勘違いしているか俺にはわからないけど、今回は本当に地球から来たんだから、スパイとかそんなんできないから」


「有り得ない!この道は、繋がってなんかいないはずなんだ!」


 きっぱりと彼は言った。その様子におそらく嘘ではないだろう。だからこそ、理解できなかった。何故、あるはずの門がこの世界と繋がっていないと言い切れるのか、一体何処からそんな確信が出ているのか。

 悠真は乱れた服を直して、シンバと向き合う。その瞳に恐怖が微塵も感じられないことに彼は驚いた。普通、こんなに乱暴をされればどんな者でも恐怖や怒りなどを映し出すものだが、彼にはそのどちらも瞳には見られない。いつものように、まっすぐな瞳をシンバを向けていた。


「………」


「ねぇ、教えてくれないか?どうしてそんなこと言いきれるんだ?この世界には人間なんて訪れたことなんてないんだろう?」


 そう、天界に人が訪れたのは今回が初めて。トップにいるレミでさえそう言ったのならそれは間違いないはずだ。と、いうことは天界の者達はこれまで門というものに関与してこなかった可能性が高い。

 シンバは少し戸惑いながら肩の力を少しずつ抜いていく。まっすぐと向けられる悠真の視線に少しずつ敵意を無くしていっているのだ。


「あれは、俺が閉じたはずなんだ」


 静かに語られたその事実は、おそらく彼以外誰も知らない新事実だと、悠真は直感した。




「あいつは、着いたのかな?」


「おやおや紫君、まるで仕事に出かけた亭主を待つ奥さんのような顔をしているね。そんな顔もキュートだよ」


「黙れ!だぁ!だからお前等といると嫌なんだ!馬鹿とテンションが移る!」


 頭を掻き毟り、紫はどすどすと他の部屋へと移っていった。その後ろ姿をにやにやと見つめて、伯凰はもうそんな行動をしている時点でかなり自分達に感化されているよ、と小声で呟いた。

 ふい、と窓から覗く空を見上げる。依然として薄暗闇としている厚い雲は晴れる様子などなく、ゆっくりと先ほどとは違う形状に変化していく。


「この先には、地球のように青い空があり、白い太陽があり、暖かさがあるのかねぇ」


「伯凰様、ここは宇宙の中にいるわけではないですから、太陽があるとは思えませんけど」


「おや、今回は珍しく現実主義じゃないか」


「いえ、あるとしたら妖怪達の入り混じった魔力かと思いまして」


「それじゃぁ、今よりも真っ暗になっちゃうじゃないか」


 一体何が面白いのか分からないが、二人は相も変わらず愉快そうに笑っている。ふと、鵺はいきなり真面目な表情をして、伯凰にもう一歩近づいた。


「伯凰様、今回の一件て、やっぱり…」


「流石は鵺。もう気付いているんだね。そう、今回の原因は簡単に言えば」




「この私だよ」




 鳥のさえずりが絶え間なく聞こえてくる部屋で、男二人は何も言わずに見つめ合う。至って真剣に。


「閉じたって…」


「今から多分百年ほど前のことだ」


やっぱりこの人もそんな長寿だったのか。


 悠真の心の呟きなど知らないシンバはそのまま真剣な表情で百年前の出来事をゆっくりと語り始めた。


 今から百年ほど前、その時はレミも他の天族も同じ地位でしかいなかった頃だ。青い空、生い茂った緑、色とりどりの花、美しい姿を維持していた天界の姿が徐々にだが、失われていく事件が起きた。

 それは、一週間ほどで元通りに戻ったため、天族達はさほど気にも止めずにまた元の生活に戻った。しかし、その裏側では門が関係する恐ろしいことが起きていた。

 波長が合った者を通してしまう天界への門。それは地球と天界に一つずつ存在し、その間を道で繋ぐ構造となっている。その地球側の門が長年人の心に触れてきたせいか、故障を起こしていたのだ。


「ちょっと、待って!え?つまり、門へかかるダメージが天界に形となって現われてたことがあったってこと?」

「そういうことだ。それに天界の者達は気付かなかった。だけど、偶然俺だけがそれに気付いた」


「どうして?」


「門が、目の前に現れたんだ。だから、俺は咄嗟に触れてしまった」


 その時のことを思い出したのか、シンバは顔を悪くした。若干気持ち悪そうな表情に悠真も暫く先を促すこともなく黙って彼を見ていた。

 落ち着きを取り戻したのか、シンバは顔を元に戻して話を再開した。


「触れた門からは様々な感情が俺の中に流れ込んできた。欲望のこもった願い、罪の意識から流れ出る懺悔、人の死によって生まれた哀しみ、それらはこの世界で生きてきた俺にはとても耐えられないほどの強大なキモチだった」


「そっか、天界への門は教会だった。だから、そういった感情が特に集まりやすかったんだ」


「俺は必死にその感情から逃れようと全身に残る天力を放ったんだ。そして、気絶した」


 そこまで一気に話すとシンバは大きく息をついた。よほどその時に流れたきた人の気持が彼のトラウマになっているのだろう。話をしてくれたこともおそらく奇跡に近い様子だ。


「気が付いた時にはもう門は見えなくなっていた」


「でも、俺門とか二回ほど通ったけどそういった形をした物は見たことないから、隠れてただけなんじゃ」


「いや、姿だけじゃなく、その門から発せられる力も無くなっていたんだ。それは間違いようがない。微かにでも絶対に感じるはずなんだ!だから、俺はあの時門の力を自分で消してしまったんだと思った。だから…」


「だけど、俺が今回その門を通って初めて訪れた」


「そうだ!そして消えていたはずの門の力もお前が来たことで復活している!」


 こんなこと、普通なら有り得ない。と、低く吐き捨ててシンバは悠真から視線を逸らした。シンバが彼に向ける鋭い視線の理由はおそらく自分のトラウマとなったキモチを持つ、人間という種類に入るからだと、理解した。


「………門が消えて、復活した…か。でもさ、それって本当に有り得ないこと?」


「何?」


「だから、それって本当に有り得ないって言えるの?だって、門が人の気持ちだけで天界にも影響を及ぼすことだって普通に考えて有り得ないと思われていたことなら、それが起きた今、門の復活だって別に考えられることじゃない?」


 シンバは黙る。天界の起きたことを受け入れて、そしてゆっくりと結論を早めずに今の状況を考えている悠真に感心したからではない。彼にそう言われているこの状況に腹が立っているからだ。


「ま、でも普通じゃないことは確かだよね」




 少しずつ、歪んでいる何かが、ぐるぐると駆け巡り始めた。





四章突入!おそらく五章と終章でこのシリーズは終わりを迎えます。

この週で夏休みを迎える私なので、夏休み中にこのシリーズを終わらせたいと思います!

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