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Night-mare  作者: せつ
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第三章 会話

 魔界にある一番高いと言われる高山の頂上に四人は立っていた。常に薄暗くしている雲は今は下の方に見えるが、それでもこの世界は薄暗い。それというのも太陽が存在していないからなのだが、この世界の全体に微かな光源があるために真っ暗にはならないのが特徴だ。

 逆に言えば天界はその光源が強すぎて常に昼間のような明るさを持っている。


「本当に行くんですか?」


「何今頃言ってんだよ、お前等」


「大丈夫ですよ、悠真さんなら多分あのお方のところにちゃっかりいそうな気がしますから」


「そうだねぇ、何だかんだ悠真君が一番この中で運がよくてちゃっかりした性格だからねぇ」


 四人は悠真を思い浮かべて微笑んだ。この時だけ、伯凰も鵺でさえも普通の人間のように。紫はそれを見て内心で苦笑した。


「それでは、行きます」


 レイズは両手を掲げて強く祈った。刹那、彼女の身体が眩い光に包まれる。その光は地上の方にも降り注ぎ、何体かの妖怪を灰にした。

 暫くするとその光は消え、また通常の魔界の姿へと戻っていった。




「そうか、レイズが…。確かに一回俺はレイズに呼ばれて魔界に行ったこともあったなぁ」


「レイズが貴方を呼んだんですか?」


 事実を知った悠真は意外とあっさりと納得して、頷いた。逆に彼の言葉にレミの方が驚きを示して、目を瞠った。悠真は後ろに隠れているルフィアを自分の膝に乗せてやり、はいと肯定した。


「何でも力が弱まったから助けを無意識に呼んだらしいです」


「───!!そんな、じゃぁもしかして彼女は…」


「そしたら俺が天力を放って魔界に溜まっていた魔力を相殺したから彼女は元気になりましたよ」


 その言葉には表情を出さないあのシンバさえも驚きの表情をした。悠真は何故二人が驚いているのかわからず、思わず膝の上にいるルフィアに視線を向ける。

 彼女も本当は驚愕していたのだが、悠真が視線を向けた時には既に元の表情に戻っていた。


「多分、悠真が天力を使えることを忘れてたんじゃないかな?魔力を使えることは常識でも、何故か天力を使えることは知らない人の方が多いのよ」


「そうなの?」


「天界の人達は人をあまりよく思ってないから、そういう偏った考えしか持ってないの」


 悠真はそんなもんかな、と肩を竦める。天界の人達は皆が皆、レイズみたいな人だと思っていた彼は、この世界の人達がああいう態度を取るのがとても意外だった。


思わず妖怪と一緒だと思っちゃったけど、考えてみればこの天界の人達って人に近い存在なのかな?


 人を恐れるあまり拒否することしかできなくて、そうしているうちに人への考えが偏っていく。それは人の間でもある差別的問題と一緒だ。


「悠真さん、貴方はもしかしてそのお力をコントロールすることはできますか?」


「え、いえ。流石にそこまでは。でも、感情が高ぶった時とかによく出ちゃうみたいです。魔界に最初行った時もちょっと怒っちゃって妖怪を灰にしちゃいましたから」


 へらへらと笑いながら言った。だが、その言葉はその場にいる者には軽い内容ではない。絶句しているルフィアに瞬きを繰り返すレミ、そして。


「レミ様、やはりこいつは危険です!今すぐ消すべきです!」


「おやめなさい!シンバ!」


 軽く一括されて、シンバは身を引いた。しかし、彼の眼はやはり悠真を睨んで、敵意を剥き出しにしている。レミはそれに肩を竦めて、諦めたように悠真の方へ顔を戻す。


「すみません、悠真さん。では、貴方が天力を放ったというのは、レイズを思う気持ちから出たのですね?」


「多分、そうですね。ただ、あの時ちょっとむかっと来たこともあったから…、きっかけは多分そっちですね。何故ですか?」


「いえ、本当に貴方は、ルフィアが言った通り綺麗な方のようですね」


 何を試されたのか、何で確信をしたのかはわからないが、レミは既に悠真のことを信じ切っているようだ。それにほっとルフィアは胸を撫で下ろした。この世界で族長から信頼を受ければ、もう危ない目にあうことはないからだ。


「でも、困ったね、悠真。どうやって元の世界に戻るの?」


「だよなぁ、原松置いてったきりだったし。あ、でもこれも門から来たから時間には差はないのか」


 それが不幸中の幸いとも言えるだろう。こういった世界に行くことは悠真は抵抗はないが、いつ、どんな所で行くことになるのかが予測できないところは考えものだ。しかも、特別な日に限っては、その日と同じ力が宿る日にしか戻れないというのも困りもの。


いっそ、こう時間とか全部差がなくなってしまえばいいのに。


 切実な悩みだった。

 こんなところで悩んでいたところでこのメンバーではいいアイディアが浮かぶはずもなく、レミは客室を空けるからそこで一晩休むことを提案した。内心かなりの気疲れがあったため、それを素直に受け入れた。


「ルフィアはいつもどんな所に住んでるの?」


「私は木にあいた穴とかを家にしてるの。ちょっと大きめの穴じゃないと入れないけど、結構いいんだ。まぁ、悠真は招待できないけど」


「そうだね、ちょっと入れないなぁ」


 小さく作られたタオルのベッドにルフィアは潜る。それに習い、悠真も自分のベッドへ身を沈めた。ふかふかな感触は彼の眠気をすぐに引き起こして、数秒もたたないうちに、夢の世界へと旅立って行った。




 目の前に紫がかった青い縄がぶら下がっている。

 本当に目と鼻の先にそれがぶら下がっている。

 悠真はそれを邪魔臭そうに払いのけるが、またその縄は前に戻ってきた。思わずその縄を掴んで下に引っ張った。すると、上からずるり、と何かが落ちてきた。


「って、紫ちゃんじゃん」


 縄だと思ったものは紫の髪の毛だったらしい。彼はいつもの仏頂面で立ち上がり、悠真の前に立つ。


「お前、馬鹿だろう?」


「ちょ、確かに俺は馬鹿かもしれないけど、何の前触れもなく言われるほど紫ちゃんに馬鹿なところ、…見せてきたけど、でもでも、何の前触れもないのは失礼じゃないか?!」


 何も否定できないところが悠真らしい。紫はそれでも表情を崩さずに彼の前に突っ立っている。そして、更に。


「お前、阿呆だろう」


「ちょ、ちょ、ちょ、さっきから何なのさ!頭大丈夫?紫ちゃん!」


「ちゃん付けするな!しゃん付けしろ!」


「紫しゃん??」


 悠真は本当に意味がわからなくなって、混乱し始めた。一体、何が起きているのか。

 そして、ふとあることに気づいてしまった。


「紫ちゃ、紫しゃん!か、か、髪が!さっきまであった三つ編みがなくなってる!何で?もしかして失恋!?誰にっ?」


「お前にだ!」


「マジで?いや、確かに俺はそっちの方向じゃないけど、紫ちゃんは嫌ってないよ?むしろ好きだよ!だけど、そっち方向じゃなくて、この場合は失恋なのか?!」


「お前が俺に失恋したのだ!」


「逆じゃね?しかも、のだってお前誰だぁ!!」




 気がついたら悠真はちゃんとベッドの中に入っていた。あれが夢だと気づいて深い安心と共に溜め息をついた。どうしてあんな夢を見たのか、彼にはわからない。

 ふと、自分が何か握っていることに気づいて見てみると、そこにはルフィアが必死にもがいていた。


「うわっ!」


「もう、死ぬかと思った………」


 本当に顔色を悪くして、ルフィアは息を荒くする。悠真は苦笑して、ごめん、ごめん、と軽く謝った。


「大丈夫?すっっっっっっごくうなされてたわよ」


「あはは、ちょーすげぇ、夢見たから」


 今思い出しても寒気がする。何故あんな夢を見てしまったのかと。夢はその人の心情や状態で変わるというけれど、あれは一体どういう心情からきたのだろうか。と変なところまで気を回していく。


もしかして、俺、紫とそういう仲になりたかったのか?

いやいやいや、あり得ない。

何いきなりそっち系に入ってんだよこの小説はっ!!


 必死に頭を振る彼にルフィアは訝る。しかし、悠真がおかしいことは通常のことだと既に認識済みの彼女はそれほど気にすることもなく、自分のベッドへ腰を落ち着かせる。


「ここって、やっぱり夜がないんだ」


 窓の外は依然として明るく、のどかな昼の一面を見せていた。魔界とは本当に正反対なこの場所。違和感ばかり覚えて、悠真はこれでもかなり混乱している。

 もしかしたらそれなりに淋しかったのかもそれない、と心の中で失笑した。


「はぁ、俺いつまでここにいるんだろう?」


「うーん、そうだね、いつまでもってわけにはいかないもんね」


 少し淋しそうにルフィアは呟いた。彼女のその様子が可愛くて、思わず心を震わせた。


落ち着け、いくらなんでも色々ヤバいって!

ってか、俺最近モテ期?

いや、この世でモテろよってーの!


 一人ボケ突っ込みで、先ほどの卑しい気持ちは捨てて、彼はまた頭を振る。いつにも増して変な想像や夢を見てしまうのは、環境の変化からなのかもしれないが、もしかしたら伯凰や鵺の影響かもしれないと、顔を青ざめた。


「やっぱり魔界は恐ろしい」


「何今頃言ってるの?」


 唐突な彼の悟りにまたルフィアは怪訝な表情を浮かべた。

 暫くして、完全に目が覚めてしまった二人は部屋から出た。勝手に歩き回っていいのか迷うところだが、何もないあの部屋でじっとしていることは怒られることよりも辛いと判断して、せめてあの大広間にでも移動しようと考えたのだ。

 大理石と似たような素材で作られた床、壁に囲まれた廊下を音も立てずに歩き、二人はふと外のざわめきを聞いて眉を寄せた。


「何だろう?」


「ここまで騒いだのは悠真の時が初めてだと思ったのに。皆静けさに飽きたのかな?」


「え?俺のせい?」


 軽くショックを受けている彼を放っておき、ルフィアはふよふよと窓の方へ近寄る。神殿の入り口付近に天族は集まっていた。悠真の時と違うのは、そのざわめきに恐怖などが感じられないことだ。逆にその声には歓喜のものが混じっているようにも聞こえる。

 悠真も同じく窓からその様子を覗いた。


「何だろう?あの人達の中心に誰かいるのかな?」


 よく目を凝らして、人の隙間から覗くと、同じく金髪の小さな人物が皆に囲まれているようだった。更に揺れ動く人の間から必死に見れば、見覚えのある顔が彼の目に飛び込んだ。


「あ!!」


 その声に彼女は微かながら反応する。視線はまっすぐに悠真を捕えて、釘付けにした。エメラルド色の彼女の瞳が揺れ動く。そして、周りの人達を一切無視して、彼に駆け寄った。


「悠真さん!」


「レイズ!」




 鍵を握る、彼女がこの天界に訪れた。





何か、久しぶりに純粋なギャグを書いた気がします。どうでしょうか?皆さん、天界に来るのが紫だと思いましたか?騙されてくれましたか?

それなら嬉しいです。夢の内容は適当に書きました(笑)楽しんで頂けたのなら嬉しいです。

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