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Night-mare  作者: せつ
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第一章 天界

 鳥のさえずりが耳に届く。優しい風が頬をかすめ、揺れた髪が鼻をくすぐる。ほんのりと暖かい空気に目覚めを鈍くする。けれど、そういうわけにもいかず、彼は目を開けた。うっすらと徐々に見えてくる景色は光を阻む木々だった。


通りで寝心地がいいわけだよな。


 木の葉で少し暑い日差しは遮られ、時に吹く風が優しく彼に快適な環境を提供していた。彼は鼻をくすぐっている髪を払ってまた眠りにつこうとする。が、重大なある事実に気づいてしまった。


「そうだ!ここって魔界じゃないのか!」


 彼、鷹崎悠真はやっと気づいて飛び起きたのだった。




 一方、その魔界に住む彼等は。


「伯凰さまぁ、お気づきになられましたか?」


「あぁ、お鵺。気づいたとも!とうとう悠真君はあの場所に着いたのだね!」


「はい!あ、今回のお茶はどうですかぁ?ちょっと木の根っこと同化しそうになっていた妖怪から取ってみたんですけどぉ」


「うーん、少し甘味が出てるね!」


 ゆっくりとお茶を飲んでいた。未だにこの二人のペースにはついていけず、脇でレイズが困っていた。そんな時、彼女の横にある扉が勢いよく開かれた。


「おい!どういうことだ!一瞬あいつの気配がしたのにこの世界には来てないぞ!」


「あれぇ?もしかして紫さんずっと捜してたんですか?」


「それはそれは御苦労だな!さぁ、一緒にお茶でも!」


「いるか!そんな胃が溶けそうな茶なんて!それよりもあいつは今どこにいるんだ!」


 紫の言葉など耳も貸さず、二人は未だにお茶を楽しむ。そろそろ限界が近付いてきた紫は掌に炎を灯し始めた。

 その様子を見かねて、レイズが紫の傍に駆け寄った。


「悠真さんは多分、あそこにいます」


 流石の紫も彼女には手荒なことはできず、無言で続きを促した。


「魔界ではなく」


 一瞬息を止めて彼女は空を見上げる。常に曇っているその空の向こうには、何もないはずなのだが。そこに彼女の大切な何かがあるかのように、目を細めて。




「天界です」




 晴れ渡った空。綺麗な鳥の音。道の端に見える色とりどりの花。何かがいつもと違う。そう訝しりながら悠真は歩き続けた。


何だここ。魔界、じゃない?すっごく雰囲気がうふふと走り出したくなるような夢の国を演出してるんだけど、やっちゃいけないかなぁ。

ってか、ここにある花なんてずっと見てればそのうち影から綺麗な妖精さん達が舞い上がってきて踊りだしそうな…………って!


「妖精だぁ!!」


『きゃぁ!何なの?いきなり大きな声出さないでよ!』


 彼の目の前にいるのは掌程度の小さな人間のような生物。姿は人だが、背中には鳥のような羽が生えている。悠真が驚いて硬直していると小さな姿をした彼女は大きな瞳を更に大きくした。


『真っ黒な髪と真っ黒な瞳………。しかも、羽がないわ!』


 おそらく彼が人だということに気がついたのだろう。彼女は真っ青な顔をして徐々に悠真から離れていく。


「えっと、こういう時どうすれば!あ、そうだ!あの、お茶でもどうですか?」


『貴方、それ間違ってると思うわよ』


 混乱して口走った悠真に思わず突っ込み、彼女は更に彼から離れていく。それに気付かずに悠真は未だにどう話しをしようかと悩む。

 ふと、視線を下に向けた瞬間を見計らい、彼女は振り向いて逃げる。


『きゃぁ!』


 しかし、振り向いて飛んだ先には木の幹が立ちはだかる。勢いをつけ過ぎたため、今更止まることはできない。痛みを覚悟した瞬間、温かい何かに包まれる。


「大丈夫?」


 間一髪で悠真によって助け出された彼女は呆然と彼を見上げる。悠真は足元の大きな草に彼女を降ろしてあげて、微笑んだ。


「ごめんね、怖がらせて」


『あ、え』


「ほら、逃げていいから」


 悠真は彼女が怖くて何処にも行けないのだと判断して、自らその場から離れた。その後ろ姿を彼女はじっと見つめていた。




一体、ここは何なんだろう。


 悠真は今までにないこの場所をじっくりと観察して思案する。見るからにここは魔界ではないだろう。しかし、魔界以外に行ける場所などあるのか、そこがわからない。

 晴れ渡った空、綺麗な鳥の声、時に吹く暖かい風。全てが魔界とは正反対の印象を持つ。


「もしかして」


 悠真は足を止めて悩み出す。

 正反対の姿をした世界。先程出会った妖精。彼の頭の中にはそれを頷かせる世界は一つしかない。


「天界?」




「天界って、どういうことだ!」


「どうもこうもないですよ、紫さん。悠真さんは天界への門を通って、天界に行ってしまわれただけです」


「………っ、じゃぁどうするんだ!あそこではあいつが悪者だぞ」


 シンと、静寂が広がる。誰も、何も言わない時間が暫く続いた。

 天界、それは魔界に住む者が行ける場所ではない。迎えに行きたくても、誰も行けないのだ。今回ばかりは伯凰でさえも何の手もない。


「あの」


 そんな静けさを壊したのは、この中で一番小さな身体をする彼女。レイズは強い瞳を三人に向けて凛とした声音で話し始めた。


「私に考えがあります」




 気がつけば広い空間へと辿り着いていた。花が所々に色づくその場所には見たことのある姿をした人達が何人かいた。向こうは悠真の存在に気付いていないらしく、お互いに会話を楽しんでいた。

 全員白く、綺麗な翼を背中から生やし、多少色が異なるが、金色の髪をしていた。


「やっぱり、レイズが元いた……天界」


 その様子に仮定だったものは確信へと変化する。悠真はとりあえず何故自分がこの場所にいるのか、その疑問を晴らすために天族の人達に歩み寄った。


「すみません、ちょっとお茶でもしながら状況説明をしてほしいのですがぁ」


 やはり間違っている。声をかけられた者達は悠真の姿を見たその瞬間、笑顔だった表情が消え去り、恐怖に満ちた瞳を彼に向けた。


「ニンゲン!ニンゲンでぇす!」


「こっちに、来るなでぇす!」


「え、外人?ってか、外人は皆そんな発音だなんて何か間違ってるし!」


 人のことは言えない立場で悠真は思わず突っ込む。

 そんなことをしている間にその場にいた天族はすぐにいなくなった。少し淋しく思いながら悠真はその場に座り込む。


「どうしようかなぁ」


また、時間がたてば元に戻るかなぁ?


 天界に来たきっかけがわからないため、どうしていいかわからない。悠真はその場に大の字に寝た。


「ニンゲンが何故こんな所にいる!」


「!!」


 突然声をかけられ悠真は飛び起きた。見れば、そこにはいなくなったと思った天族が震えながらいた。


って、遠っ!


 彼等と悠真の距離は裕に十メートルもある。苦い表情を漏らして、悠真は声を張り上げた。


「それが、わからないんです!」


 声が大き過ぎたのか、更に彼等は距離を置いた。次第に心の距離が開いていくのが目に見えてわかるというのはかなり辛い。悠真は泣きたくなった。


「早く帰りなさぁい!」


「それができれば苦労しません!」


「早くきえぇろぉ!」


「だぁかぁらぁ!」


 もどかしい距離に次第に苛つき始める。必死に説明しようとしたその時、彼等の間から少し違う雰囲気の天族が現れる。金よりも銀に近い髪をした男性だ。彼はしまっていた翼を広げて悠真に近づいてくる。


「………、話をしてくれるのか?」


「…」


 彼は冷たい銀の瞳を向けていきなり悠真に向かって掌をかざした。その状況が理解できず、首を傾げていると突然鋭い痛みが頭に走る。

 それと同時に視界は暗くなり、意識が消えていった。




 気がつけばそこは見知らぬ建物の前だった。その建物は何処かあのパルテノン神殿を思わせるような構造をしている。何本も立つ柱の間に白い衣をまとったブロンドヘアの女性がじっと悠真を見据えていた。

 ふと、両手が結ばれていることに気付く。同じく足も。状況が理解できずにそれを意味もなく見つめる。


「貴方は、人間ですね」


あ、この人は普通の喋り方だ。


 この状況でそんな呑気ことを考える。

 とりあえず声を出すのもだるかったので、頷いた。すると、周囲からざわざわと雑音が広がる。視界を広げて見ればそこには何十人もの天族が集まっていた。


「静かにしなさい」


「………貴方は、魔王じゃなくて、えーと」


天界の王なら何て言うんだ?


「天王?ですか?」


 彼の頭ではそれしか思いつかなかった。そんな彼に彼女はにっこりと微笑んだ。まさに女神のような。


「私はそのような者ではありません。魔界では魔王という者がいるらしいですが、天界にはトップは必要ありません。しかし、いざという時判断を任される族長という者ではあります」


「どうして、俺はここにいるんでしょうか?」


「おそらく、天界の波長に貴方の波長が一致してしまったからでしょう」


 魔界の時と全く変わらない説明をされて悠真は首を振った。

 否定する意味がわからず、彼女は続きの言葉を待った。


「俺は、天界じゃなくて、魔界に波長が合った者です」


「───っ!それは、何とも珍しい」


 これには彼女も大きく目を開けて、驚きを表す。同様に周囲の天族達も更にざわめく。一体何が問題なのか、まだ悠真にはわからない。


「レミ様!早く制裁を!」


「そんなニンゲン、もう見たくありませぇん!」


 次々と悠真を批難する声が広がる。彼等をゆっくりと眺めて、悠真は表情を苦くする。

 彼等の今の心情が、彼等の周りに色となって悠真に見えるからだ。


「これじゃぁ、妖怪と同じだ」


 一体何が怖いのか、一体何がいけないのか、悠真には理解できない。

 彼が小さく呟いたそれにレミは微かに反応を示した。


「残念ながら、私の力ではこの方を元の世界に戻すことはできません」


「なら、私が神力で」


 脇に控えていた銀髪の男が頭を低くしながら申し出た。それにレミは酷く慌てた様子で首を振った。


「それは───」


『その人を殺さないで!』


 悠真の前に小さな影が現れる。顔を上げてその姿を見ると、それは森の中で出会った妖精だった。綺麗な翡翠の髪が足元まで伸び、その間から覗く白い肌の顔。


ここにいる人は、本当に綺麗な人ばかりなんだな。


 また、呑気なことを考える。


「ルフィア」


『お願いレミ様!この人は私を助けてくれたの!怖い人なんかじゃないわ!』


 彼女の言葉に、静まりかけていたその場はまた騒ぎ出した。





お待たせしました、第四シリーズ第一章です!

今回は天界です。天使です☆皆ブロンドヘア(笑)

ちょっと可愛い女の子をいっぱい出したいと思います!

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