序章
季節は冬、冷え切った空気に身を晒して、彼は息を吐き出した。
こんな寒い、休日の日に彼、鷹崎悠真は何故か軽井沢にいた。避暑地である軽井沢に、冬に来るものではないと思いながらも、悠真はひたすらに外を散歩する。
「なぁ、原松。呼んでくれたわいいけど、暇だぞ」
「そんなこと言わないで下さいよ、先輩。こんな所に家族連れで来る俺の身にもなって」
この軽井沢に来た理由は原松芳樹に誘われたからだ。彼の祖父達はこの軽井沢に別荘を持ち、夏休みなどよく借りて遊びに来るらしい。しかし、何故冬に来たのか。
何でも、ちょうど両親の休みと、学校の試験休みが重なったから、芳樹の両親が行く気満々になってしまったらしい。
そんな時、家族だけできても何もすることがないと考えたのか、芳樹は悠真を思わず誘った。あまり軽井沢という洒落た場所に縁のない悠真はその話に乗ったのだが、やはり何もすることがなく、二人は途方に暮れていた。
「まぁ、でも…空気は美味いから許してやるよ」
「よかった。あ、先輩!何なら軽井沢になら何処にでもある教会でも見学してみますか?」
「お、いいなそれ!」
二人は散歩がてら近くの教会まで足を進める。自然を大切にするこの軽井沢は他の場所とは違い、自然という環境をかなり重要視している。土地を持っても、その場所の規定により建物自体は敷地の限られた範囲でしか建ててはいけない、などという規則を作っているほどだ。
そのため、木々が多く、野生の鳥などが多く生息している。
避暑地のもあり、多くの人々が癒しを求めてこの場所に別荘を作るのだ。
「軽井沢って本当山みたいだよな」
「っていうか、森ですよね。こういった所を好んで結婚式を挙げる人も多いみたいですよぉ」
自然や動物達に囲まれた結婚式、それは確かに神秘的で理想なものかもしれない。と思わず想像して思う。確か、前にこういう所で式を挙げたかったと、母さんが言っていたなぁっと思い出してしまった。
「軽井沢になんで教会が広まったんだろうな」
「さぁ、外国の人からじゃないですか?」
そんな他愛の無い話を繰り返しながら、二人は近くの教会へ辿り着いた。森に囲まれた建物。
自然の景色を崩さない、木造。だけど、普通の家とはやはり違うデザインに、シンプルに十字架だけが飾られて、どことなく神秘的な雰囲気を醸し出していた。
二人は感嘆し、おずおずと教会に近づいた。空気の違うその領域は正直入りにくい場所であったが、吸い込まれるように足が動いた。
普通に考えたら教会内でも、同じ空気のはずなのに、何故かそこはとても澄んでいるように思う。天井が高く、手の届かない場所にある窓から差し込まれる光はとても神秘的で、輝いていた。
「すげー!」
「ここで祈れば何かいいことありますかね?」
おそらく間違った考えを二人は信じ込み、祭壇に向かって祈る。初詣の時よりも熱心に目を瞑りながら。
ふと、悠真の身体が何かに引き寄せられる感覚に襲われた。眉を顰めて目を開ければ、そこには白い靄みたいなものが彼の身体を引き寄せていた。
「───へっっ??」
っと、言っている間に彼はまた違う世界へと旅立って行った。
第四シリーズ、やっと始まります!
何となくですけど、終わりを考えつつあります。