序章
うっそうと、暗い森。クモの巣だらけのその道を歩きながら、彼は深く溜め息をついた。皆様お馴染みの彼、鷹崎悠真は今、何故か樹海に来ていた。
何故この暗い森に来ることになったのか、それは今日の朝の出来事から始まった。
『最近、お出かけしてなぁぁぁぁぁい!!』
久々の登場である彼女、鷹崎真澄はいきなり狂ったように叫び声を上げた。いつものことなので誰もさほど気にしはしないが、この言葉の内容には気にせざるをおえない。
この家族の主導権は彼女が握っている。大体の戯言は皆無視をするのだが、仕事の鬱憤が溜まり、苛つき始めた時の言葉は逆らうと後でどんな目に遭うのかわからない。
すぐにお出かけの支度が始まった。
『何処に行きたいの?お母さん』
言いだしっぺの人の意見を一番に聞かなければならないと思った静真が首を傾げながら聞いた。真澄は頬を赤くして静真を抱き締める。
『可愛い!静ちゃん!あのね、私白糸の滝を見たいわ』
『じゃぁついでに氷穴洞や風穴洞にでも行くか』
そうして家族はテキパキと用意をし始めた。
そんなこんなで今は樹海の遊歩道を家族で歩いている。落ち葉でふわふわした道をふらふらとした足取りで歩く悠真はこの状況に溜め息を漏らしてしまったのだ。
何が哀しくてこんな大人数でこんな暗い森を歩かねばならないのか。高校生の男がそう思うのも仕方がない。
「ユーマ兄ちゃん大丈夫?」
「あ?何が?」
「変なところに足がハマってるよ?」
静真に言われて足元を見てみれば確かに落ち葉と木の根っこの間に足を突っ込んでいた。考え事をしていたからと言ってもこの状況はかなり恥ずかしい。
悠真は足を引っ張って取ろうとするが抜けない。
「こいつ!俺に恨みがあるのか?俺は馬鹿だけどそれなりに大人しくこの世界を生きてるんだ!それとも何か?お前はもしかして魔界の住人か!?前世で俺の魔力で燃やされたから復讐しているのか!」
森の暗さに当てられたのか、悠真は意味のわからぬものを口走る。静真は密かに心配そうな目つきで自分の兄を見ていた。
「ってぁ!こらぁ!勝手に俺を置いていくなぁ!それでも家族かぁ!静真、呼んで来てくれ!」
「えー、仕方ないなぁ。じゃぁもう少し頑張って自分の足を引っ張っといてよ」
静真の後ろ姿を見送りながら悠真は自分の足を引っ張る。こういった薄暗い森にいると彼はすぐにあの場所を思い浮かべてしまう。
常に曇り空で、カラスが鳴き止まない暗黒の世界。妖怪がいる、彼等がいる特別な世界。足の力を緩めて悠真は一つ小さな溜め息をついた。
「元気かな?紫ちゃん」
ぽつりと呟いた瞬間だった。挟まっていた足がいきなり地面側に引っ張られる感覚に襲われた。悠真は突然のことに顔を引きつらせて、身体に力を入れる。しかし、それは意味のないことで。
「おいおいおいおいおい!!まさかまさかまさかぁぁぁ!!魔界へドビューんですかあああぁぁぁぁぁ────……」
成す術なく彼は再びあの世界へと向かったのだった。
第三シリーズです!予定通り今回は紫の過去についてのみ触れさせて頂きます。
そのためそんなに長くないです。