終章
「う〜ん」
固い床の感触に身じろいで悠真は唸り声を上げる。埃っぽい空気が充満した場所にいることに気付いて、うっすらと目を開ける。
冷たさを伝えていたのはコンクリートの床だった。目をこすってそこを見渡せば、久しぶりに見る体育館の倉庫の中だった。
「そっか、戻ってきたんだな」
「先輩!何してるんですか?もう体育館閉めるみたいですよ」
様子を見にきたのは同級生だが、年下の原松芳季だった。魔界へ行ってしまった時と変わらない時間帯にいることに感動を覚えて、しばらく芳季の言葉に答えずにその場に立ち尽くしていた。
「先輩?」
「あ、わりぃわりぃ、今行くよ」
倉庫から出て自分の荷物を担いだ瞬間、悠真の懐から何かが軽い音を出して落ちた。
それを芳季が拾い上げると二人とも同時に目を剥いた。落ちたものは女物の髪飾りだった。
「せ、先輩?もしかして彼女でもできたんですか?」
「ち、違うぞ原松!別に俺はそんなものつけて喜んでるわけじゃないぞ!本当だぞ!決して女装趣味があるわけじゃないからな」
「へ?」
思った言葉とは全く違うものを口走る悠真に芳樹の目は点になった。しまったというように悠真は額から冷たい汗を流した。
いつまでも体育館から出てこない二人を訝って他の生徒も顔を覗かせた。
「皆、聞いて聞いて!先輩は実は女で好きで女装でわっほいだった!」
意味不明だ。それは彼の混乱をストレートに表していたが、もう少し日本語を話してほしかった。しかし、部活の皆は目を見開いて信じられないものでも見るかのように悠真を凝視した。
「本当ですか!女装は実は好きで、男じゃなくて女に生まれたかったって」
「何で今のでそこまでわかるんだよ!」
「先輩!大丈夫です!先輩ならそのままでも充分女としてやっていけます」
「嬉しくないわっ!!」
くそぉ!お鵺さんのせいだぁ!!
彼は魔界へ訪れる度に何かを失っているようでならなかった。
そして、また一つ魔界への秘密が彼、ナイトメアに暴かれた。
第二シリーズ終了です。
考えてみればこれはいつが終わりなんでしょうかねぇ?
ま、とりあえず今回は天力を主題とした話でした。
第三シリーズはおそらく紫の過去に迫ります。
ここまでの感想を送ってくださいますととても嬉しいです。これからもよろしくお願いします。