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Night-mare  作者: せつ
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第六章 慌しく

 頭がくらくらした。自ら出した光に目が眩みそうになって、悠真はふらついた身体でその様子を一瞥した。妖怪達はその場に倒れ伏して、レイズも気を失っていた。ただ一人意識のある紫は茫然と悠真を見つめていた。

 肩で息をしている彼はじっと紫を見返して、流れ出た汗を拭う。

 充満していた魔力は紫でも感じられなくなるほど薄れて、辺りには清々しい空気が満ちていた。


「これで、いいんだろう?」


 既に自分の力に驚くこともなく、当然とばかりに呟いた。

 力を使い果たして、悠真はふらりとその場に倒れた。地面につく直前に紫がその身体を支える。それとほぼ同時に森から伯凰と鵺が姿を現した。


「やりましたわね。これで当分は魔力の充満に悩むことはなくなりましたわ」


「悠真君の優しい心に火がついたんだろうね」


 わかりきったような口が気に入らなかったのか、紫は怪訝な顔を二人に向けた。内心舌打ちしたいのを我慢して、紫は一つ息をついた。


「お前等こいつがいつかこれをやるってわかっていたな?」


「わかっていたわけではないぞ。望んでいただけさ」


 元々、正義感の強い悠真だった。レイズの純粋さに触れて何の罪もない彼女を守りたいという気持ちにられ、更には自分の気持ちとは別なことを言う紫に腹を立てた。

 それには紫が悠真におこなったことを否定したと思ったことも関係しているが、一番の理由は自分が掲げている信念を否定されたからだ。

 その時の悠真の気持ちはけなされた怒りよりも、嫌なことを考えさせないようにしようという正の気持ちだった。


「悠真さんは言ってできるような人ではないですからね」


「そうだとも、単純だが、難しい扱いだよ。彼は」


「だけど、こいつ自分がこの力使えたことに驚いてなかったぞ?」


 紫も伯凰も鵺も、誰一人として今の事実に驚きはしない。しかし、彼が自分の力に疑問に思わなかったそれだけは少し興味深げに目を瞠った。彼はどこか抜けているため、事態をいつも読めない傾向があった。それなのに、今回はその反応が見られなかったのが不思議なのだ。


「とりあえずお二人を城に運びましょう」


「そうだな」


「あ、紫君!ちゃんと悠真君は横抱きで抱いていくんだよ」


「何でだよ!」


「そういいながらも既に横抱きですよぉ、紫さん」


 茶々しながらも三人は二人を抱えて城に戻る。悠真が放出した天力のせいで、森の霧さえも少し晴れていた。珍しい現象をまじまじと見つめながら、紫は思案する。


命の大切さか………


 理解できない悠真の言葉を悶々と考える。負の感情を持ってこの世界に来た紫は未だに正の感情を掴み損ねていた。




「わぁ!!俺が暴走して力を使ったら、紫ちゃんが乙女になっちゃった!!」


「何つー夢見てんだテメー」


 彼が普通に突っ込んだのに安心したのか、悠真はほっと息をついた。いつの間にか与えられた部屋で寝かされて、しかも何故かその部屋に全員集合していた。

 窓の側に設置された小さめのテーブルでお茶を楽しむ伯凰と鵺。ベット脇に座っている紫にその隣でフヨフヨと浮いているレイズ。未だにこれだけの城にこの四人しかいないことに疑問に思いながら悠真は頬を掻いてその様子を見つめていた。


「ん?」


「覚えてないとか言うなよ?」


「えっとー、俺が天力を使ってぇ、死んだ?」


「悠真さんはここにいるじゃないですか」


 あ、そっかと苦笑して紫を見る。いつもよりも何か怒りを含んだ瞳にたじろいだ。身構えていると紫は少し視線を落として小さな声で呟いた。


「悪かったな」


「へ?」


「お前を怒らせるようなこと言って」


 度肝を抜かれた悠真は口をあんぐりと開けたまま動けなくなった。珍しく伯凰と鵺も目を真ん丸くして紫を見つめる。その間抜けな顔に苛ついて、彼の顔は怒り顔に変わっていく。


「そんな顔するならもう言わないぞ」


「いや、別にただ驚いていただけだから!別に、わかってくれたならいいよ。誰も傷つかなかったわけだし」


 明るい笑顔で答えて悠真は簡単に許す。その笑顔に何かを感じて、紫は息を詰めた。

 顔を伏せて、拳を作る。彼の様子を訝り、悠真は顔を傾げた。


「俺はやっぱり正の気持ちなんか持ってない」


「そんなことないだろ!紫は俺を助けた。そして今も守ってくれてる。それは立派な正の気持ちのお陰だろ!!」


 きっぱりと言われて紫は言葉を飲み込んだ。まっすぐと向けられた黒い瞳が彼を捕える。悠真は先ほどから黙って様子を見ていたレイズに向き直って、声をかける。


「もう、苦しくないのか?」


「はい。悠真さんのお陰で」


 嬉しそうに微笑んだ。そして、安堵した瞬間、他のことを考える余裕ができたせいか、悠真はあることに気付いた。次第に顔を青くして、恐る恐る疑問に思っていることを口にした。


「なぁ、そういえば俺元の世界に戻る時、また一年も時間経って帰るのか?」


 以前彼が魔界に訪れて、契約を行ってから帰れば、そこは引き込まれた時とは違い、一年も時間が経った後の地球だった。今回もそのようなことになるんではないかと不安になり、悠真はうろたえているのだ。

 レイズはぱっと顔を輝かせて首を振った。


「大丈夫ですよ。今回悠真さんがこの世界に来たのは前回とは違い特殊な日ではないですから」


「へ?どういうこと?」


「つまりだね、普通なら悠真君がこの魔界に来るには特殊な力を放出している日でなければいけないのだよ!」


 自信満々に話し出す伯凰に苦笑しながら聞く。だが、続きは彼ではなく隣にいる鵺が引き継いで、同じように陽気な声で説明をする。


「悠真さんが最初にこの世界に来た日はハロウィンの日ですわよね?そういった迷信で騒ぎ立てられる日でも人々の思いで魔力が放出されることが多いんです」


「だから、その日はかなりの魔力が放出されていて、だからこそお前がこの魔界に来れたんだ」


 つまり、悠真みたいな人間がこの魔界に訪れるには地球側の方で魔力が放出される限られた日しかないのだ。例えばお盆といった死者のための日や何千人もの人が死んだとされる命日などだ。

 しかし、今回彼はそういった特別な日にこの魔界に訪れてはいない。


「今回は私が天力を欲するあまりに悠真さんをこの世界に連れてきてしまったのです。ですから、この前のようになることはありません」


「だけど、それってつまり今度俺が普通に特別な日にこの魔界に来たら、その時こそ一年後にまた戻ることになるってこと?」


 悠真がそう思うのは仕方が無い。しかし、紫は軽く首を振ってその意見を否定する。彼の代わりにまた伯凰が口を開いた。


「考え方は惜しいけどねぇ、ちょっと違うんだよ悠真君。その特別な日に君がここに訪れる。そしてここから元の世界に戻る時は来た時と同じ種類の魔力が放出している日に戻るんだよ」


「?」


「つまりはお盆に来たら次のお盆の時に。誰かの命日に来てしまったのならその次のその人の命日に。とそういうわけですわ」


 最初に悠真がここに来たのはハロウィンの日。そのため、戻る日は同じ魔力を放出している一年後のハロウィンの日になったというわけだ。

 なるほどと納得しているのも束の間、ふと悠真はもう一つの疑問を口にした。


「じゃぁ、今回俺はいつ帰れるんだ?」


「地球側の方でなら、この魔界に来た時間とさほど変わらない時間に帰ってきますよ」


「いや、そうじゃなくて。帰るにはどうするんだってこと。前みたいに伯凰さんがやってくれるの?」


 魔界から地球に帰る時、前の時は伯凰の力を借りて帰った。今回もその方法で帰れるのかどうかを聞いていたのだ。


「いや、今回は時間がくれば勝手に戻ると思うよ」


「時間って、それっていつ頃?」


「さぁ?明日か明後日か………早ければ今日中ですね☆いやぁ、大変ですねぇ悠真さん」


 完全に他人事の物言いに思わず苦い表情を作ってしまう。ふと視線を紫に戻すと彼はじっと悠真を見据えていた。首を傾げて微笑む。


「自分に自信を持てとは俺言わないぜ。俺は自分に自信なんてないし。だけど、俺が紫ちゃんを信用していることは信じてほしい。今は、それだけでいいから」


「ちゃん付けするな」


 いつも通りの無愛想な彼の声音に嬉しそうに笑って、悠真は自分の手を眺めて、目を細める。あれだけの魔力を自分が浄化させたなど本当は信じられるものではない。

 だが、今回はすんなりと受け入れることができた。それはあの夢があったお陰かもしれないと微かに思う。


「「「「あ」」」」


「ん?」


 四人の声が重なると同時に彼の身体が淡く光り始める。それは彼に帰る時を表していた。突然のことに驚いて悠真は戸惑いを隠せない。


「あ?何だ何だこんな最後のお別れ的な光り方!俺死ぬの?え?天界に?それとも魔界に戻ってくるだけ?あれ?地球帰る前に俺また魔界に戻りますみたいな?」


「落ち着け!帰るだけだろ。じゃぁ、またな」


 軽く言われたことが少し寂しい気もするが、悠真は落ち着いて四人に笑顔を向ける。ふと今回紫と距離が離れてしまうかもと不安に思った時のことを思い出す。

 今はこうして笑ってくれている彼が自分から離れていくかもと思うだけで不安で堪らなかった。今この瞬間、まだ繋がっているこの関係に感謝して、悠真は手を振った。


「あぁ、またな。皆」


 彼らしく来る時も帰る時も慌しく、そして元気よく去って行った。





はい、っというわけで次の一話で第二シリーズ終了です。学校が始まったことで更に更新が遅れています。すみません。


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