表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Night-mare  作者: せつ
10/32

第四章 力の仕組み

 地下の部屋とは違い、明るく開放感のある部屋へ移されたレイズは窓の外を見やる。晴れることの無い空、不気味に広がる霧の森、鳴き止むことのないカラスの声。


「本当に天界とは全く違う空間です」


 淋しそうに顔を歪める彼女の頬に温かい滴が零れた。

 この世界で感じるものは全て魔力。いがみ合い、憎しみ合う感情で構成された力。それが溢れないようにレイズはここにいる。


「私の力だけでは……足りない」


 熱い吐息を吐き出して、レイズはうずくまる。拍子で純白の翼が広がる。




「そういえばさぁ、紫ちゃん魔力が負の力だって言ってたけど、それは俺の力もそうなの?」


 魔界が持つ波長と近い波長を持つ者ほど魔力の力は強い。そう、彼は以前に説明をした。そして、今回の説明で紫は魔力は負の感情が作用したものだと言っている。

 悠真がこの世界、魔界に飛ばされたのは彼が人間の身でありながらも魔界との波長と合ってしまったからである。つまり高い魔力を持っていたからなのだ。それなら、負の力の波長が魔界と同じということになる。


「それは………」


 何かを戸惑いながら説明しようと口を開いた。


「───────っ何だ?!」


 身体の芯が微かに痺れる。一体それが何なのかは悠真自身にもわからない。けれど、何かが危険を知らせていた。

 突然立ち上がった悠真に驚いて、紫は言葉を切った。


「何かが、消えそうになっている」


 呟いて走り出す。不意を突かれて、紫は一拍置いて後を追った。

 全身が誰かの何かの危険を察知している。寒気とも恐怖とも言えない感覚はそう言うしか説明できなかった。


「ここだ!」


「ここって………」


 そこが何の部屋だか理解する前に悠真は中へ飛び込んでしまった。

 魔力とは違う澄んだ力がその部屋に充満していた。純白の羽が部屋にばら撒かれ、中央に金髪の天使が蹲っていた。


「レイズ!」


 一瞬、怯んだものの、悠真は彼女に駆け寄る。

 彼女の身体に触れた瞬間、張り詰めていた空気が一気に解かれた。清涼な空気は徐々に薄れていき、顔を見なくてもわかるレイズの青い顔は少しずつ赤みを帯びていった。

 ゆっくりと顔を上げる。涙でくしゃくしゃになった顔を辛うじて笑顔にする。


「ありがとう」


「え?俺何もしてないけど…………。大丈夫か?」


 よく見てみれば、全身汗でびっしょりと濡れて、息も荒い。発作でも起きたような状態だった。悠真はポケットに入ったハンカチを取り出して、顔の汗を拭ってやる。

 難しい顔でその状況を見ていた紫は重そうな口を開いた。


「天力がなくなりつつあるのか?」


 表情を固くして、ゆっくりと頷く。

 彼女自身の力が無くなりつつあると、紫は言った。ということは天力と魔力で均衡を保っていたこの世界の安定が崩れ始めていうこと。


「へ?どういうこと?力って無くなるもん」


 一人また話についていけない悠真はきょろきょろと二人の顔を交互に見つめる。レイズは悠真の手を軽く握って、澄んだ瞳を向けた。今まで女と免疫が無かった悠真は小さなレイズでも思わずドキッとした。


「助けてくれて、ありがとう。貴方の力のお陰で落ち着くことができました」


「へ?俺の力って魔力だろ?逆に辛いんじゃ」


 レイズは首を横に振り、苦笑する。何を否定されたのか悠真にはわからなくて、ただ顔をしかめることしかできなかった。

 一回、紫が口を挟もうとしたが、視線で彼女に止められてしまう。


「確かに悠真さんの力は魔力です。しかし、天力も含まれているのです」


「へ?」


「魔力が負の力が作用していることはさっき知りましたよね?天力は正の力が作用していることも。悠真さんのように生きた者はどちらの力も常に持っているのが普通なのです」


 負の気持ちが力となったのが魔力。その魔力の波長が魔界の持つ波長と近いほど力は強大に。

 正の気持ちが力となったのが天力。その天力の波長が天界の持つ波長と近いほど力は強大に。

 二つの相違点は正か負かの違いしかない。生物は正だけ、負だけと片方の感情しか持たないことなど、無いに等しい。そのため、悠真にも両方の力があったとしてなんら不思議も無い。


「だけどそれを言うなら紫ちゃんとかは?」


「それはありえない」


「何で?」


「死んだ者は死んだ瞬間にどちらかの感情を手放してしまうからだ」


 天界にいる者。魔界にいる者。全ては人ではない魂。彼等のように本能で動く者は死んだ瞬間、その時の想いやうらみを忘れることがないように他の感情を消し去ってしまうのだ。

 そのため魔界に来た者は負の力、魔力を使うことが基本なのだ。


「そんなのおかしいよ」


「え?」


「…………何故だ?」


「だって、紫ちゃんやお鵺さん、伯凰さんは魔界の人だけど優しいじゃないか!紫ちゃんが俺のこと心配している時の感情は正の感情じゃないの?」


 何も知らないはずの悠真。その無知さと純粋さ故に時に核心を突く。戸惑いで一瞬息を止める紫にレイズは目を細める。彼が悠真に対する行動や発言を見ていれば、どれほど大切な存在かよくわかった。


「悠真さん、それは違います」


「何がだよ?」


「確かにそれは正の気持ちにカウントされるものですが、魔界に来てから手に入れたその感情はもう力にはなり得ないのです」


 死んでからこの世界に来た者は死んだ瞬間、正の力を手放した者達。だが、魔界に来てから正の気持ちを手に入れることは少なくない。しかし、それは自分の中にある魔力に押し潰されて正の力にはなり得ないのだ。それは天界に行った者にも言えることだ。

 魔界に来て両方の力を扱えるのは死んでもいない人間、悠真一人だ。


「そう、なんだ」


 やっと理解できて、少し力が抜けた。難しい話は本来得意ではない悠真は今までの説明のせいもあって、ヒート寸前だ。

 普通の世界とは違う。魔界も天界も不思議な力を扱えるが、それはいいことばかりでなくて。


「私の身体は日々、弱くなってきています。一度死んでしまったといっても、この世界にも死はあります。恐らく私はその瞬間が近づいているのです。私が死んでしまったら、この世界の安定は崩れてしまいます」


「何言ってるんだよ!あんたそんな時に何心配してるんだ?自分の身のことを一番に考えろよ!それが普通だろ!」


「────っ!!」


「確かに世界がどうかなっちゃうのは良くないけど、その前に自分の身を案じろよな!大きいことは後でいいからさ!」


 いつも彼は他の者とは違う言葉を言う。そう紫は目を細める。普通なら小さなことより大きな方を優先するべきだと偽善でもなく言うだろう。しかし、彼ははっきりと言った。大きな方、つまり世界のことはほっといて身近な方を気にしろと。


「悠真さん…………?」


「天力がなくなってきているのはその身体が弱まっているせいなのか?それとも力を使い過ぎているせいで身体が弱っているのか?」


「どちらかといえば後の方です」


 それを聞いてにっこりと悠真は笑う。レイズの頭を優しく撫でて、紫の方へ顔を向ける。

 何となく言われる言葉を覚悟して、紫は息を吸った。


「じゃあさ、レイズに休暇を与えれば解決じゃん!」


「何馬鹿なことを言っている!一日でもこいつを休ませればこの世界の魔力は増幅して、安定を崩し、暴走が始まるんだ」


「そんな!でも、このままレイズを酷使しても、そのうちに天力を扱える者はいなくなってしまうんだろ?それなら一か八か一日くらい休ませてみるもんじゃないのか?」


 彼の言葉に冷たい瞳を向けて、紫は嘆息した。ゆっくりと口が開かれる。そこから何か哀しい言葉が放たれることを予想して、悠真は眉をひそめた。


「そいつが」


「レイズが死んだらまた新しい奴を呼べばいいなんてこと、言うなよ。俺はそんな生きている者を使い捨てするような奴、嫌いだ」


「!?」


 言おうとした言葉を先に言われ、更に追い討ちをかけられた。

 真っ直ぐに向けられる強い瞳、紫はそれを以前もどこかで見た気がした。はっきりと彼は言った。嫌い、と。今までどんなことがあっても紫や伯凰などにそんな言葉をかけたこと無かった彼が。


「人の命を何だと思ってるんだ?あ?人じゃないか。えっと、生物?生きてもいない?あぁ、面倒だ!とにかく、命を大事にしない奴は嫌いだ!人の命でも、自分の命でもだ!」


「────────っ。だが、どうするんだ?このままだとどちらも失うぞ?」


 悠真は隣にいるレイズをチラリ見る。確かに彼女を休ませてもその後の処理でまた無理をしなければならないし、だからといって休ませなかったらその分彼女の身が危険だ。


「そんなのわからない。でも、自分達の世界を守るのに、他人に負担をかけてちゃいけないと俺は思う」


「確かにその通りだね」


「当たり前過ぎて気付かないことってありますけど、まさか悠真さんに言われるとはぁ〜」


 突然の声音に三人共振り返る。いつからそこにいたのか、伯凰と鵺がいつもと変わらぬ笑顔をこちらに向けていた。はっきり言ってこういう状況でそんな笑顔を向けられても苛つくだけだと悠真は思った。

 悠真は二人に近づき、必死な声で頼んだ。


「お願いだよ!一緒に方法探してくれよ!」


「うーん、愛しの悠真君にそう言われては仕方が無いなぁ」


「といっても何か心当たりあるんですかぁ?」


「いや、全くと言ってない!」


 思わせぶりの彼の言葉に期待していた悠真はがっくりと肩を落とした。この世界の魔王である彼が知らないのなら一体誰が知っているのだろうか。

 半ば絶望的になりながらも、しかし彼は挫けない。


「いや、絶対手はあるはずだ!」


「探すのか?」


「それなら書斎を調べてみるといいですわ☆あそこの本はお茶目な本ばかりですけど、虱潰しらみつぶしに探せばかなり有力な情報が詰まってますからぁ」


「あ、あそこを調べるのかぁ」


 やる気はあるが、脱力してしまう。そういうことは誰にでもあることだろう。




 悠真、紫、伯凰、鵺、レイズという何気に違和感のあるメンバーで書斎の手がかり捜索開始。





何かいろいろと設定が増えている気がします。

皆さん、理解していただけたでしょうか?わからないことがあったら是非、感想として送ってください。できる限り答えていきたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説ランキング>サスペンス部門>「Night-mare」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ