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Night-mare  作者: せつ
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序章

 長い夏が終わり、少し涼しい風が吹き始めたこの頃。この学校はある行事で騒がしかった。誰もが何の日なのか知っている十月三十一日。そう、今日はハロウィンだ。


「それはあっちに持って行けばいいのか?」

「そう、お願いね!」


 この学校ではこの日の夜、生徒が学校に集まり普段とは違う服装で交友を深め合うハロウィンパーティが存在する。修学旅行に並ぶ程の人気のある行事だ。



 この行事は少し並の人から外れた考えを持った生徒会長から始まった。お菓子と悪戯(いたずら)と祭りが大好きな生徒会長は自分の性格にぴったりなハロウィンに憧れた。高校二年にあがったとき、彼は生徒会長に立候補する。そして見事会長の座を取るとすぐさま先生にこう言った。


「先生、僕はこの学校の行事にハロウィンパーティを加えたいです!」


 もちろん、それに賛成できる先生は誰一人としていない。だが、どんなに言ってもどんなに否定しても諦めない彼に先生も心労が溜まっていく。そこで先生はこう言った。


「その行事を加えて得られるものと毎年行なう必要性を原稿用紙十枚分にまとめられてこれたら少しは考えてやってもいいぞ」


 と。原稿用紙十枚。この数字は読書感想文三枚以上と聞くだけで文句を言う高校生にとってはかなり大変だ。だが、彼は文句も言わずただ本当に嬉しそうに家に帰ってしまった。その日の翌日、彼はその先生に十枚ではなく三十枚近い原稿用紙の束を差し出した。その量に驚き、だが、ただ同じことの繰り返しだろうと読んだ内容に更に驚愕を示した。


『中間テストが終わったこの時期、僕たち生徒は一番遊びたいときです。緊張やストレスから解放されて──── (中 略) ────ですから、このハロウィンは僕たちにとって必要なもので、この行事を行なえば今まで問題になってきたことが全て解決するのです。ねぇ?そう思いませんか?──── (中略) ────そう、今こそ全ての問題を解決すべく毎日でもハロウィンをやるべきなのです!わかりますか?行事にした方がいいではなく、行事にしなければならないのです!このハロウィンは最早高校から出て自立する際に行なう卒業式と同じくらい重要視するほどのものなのです!そうなんです!あぁ、ハロウィン!お前はなぜそんなに影が薄いんだ!もっと自己主張してくれれば先生を説得するのにも簡単だったろうに。今、この僕が言ったことを聞いて誰が納得できない人がいようか、いやそんな者はいない。そう、誰もが納得して頷いてくれるに違いない!』


 と、熱く、強く、そして明らかに最初と最後では言っている内容が異なる私情挟みまくりの素直過ぎる作文だからだ。

 もう、何もかもが面倒になった先生は校長に何とかお願いしてハロウィンパーティという行事をこの学校に入れたのだった。見事、自分の野望を達成した生徒会長の名は(やなぎ) 龍一(りゅういち)。彼が生徒会長になったその年の十月三十一日、初めてハロウィンパーティが実施された。だがしかし、生徒の中で一番これを心待ちにしていた龍一はその日から行方不明になった。



「あ、こんにちわ。悠真先輩」


 夜のパーティのためにせっせと全員準備に取り掛かる。そんなとき、二年の教室に一人の一年男子が顔を出す。声に反応した茶髪がかった髮の少年は笑顔で応える。


「よ、原松。どうしたんだ?」


「いや、もう用が済んだ帰りなんで先輩に顔を出しておこうかと。今日のパーティ、ぜひバスケの方にも顔を出し

てくださいよ。皆で着ぐるみかぶろうって何か張り切ってるんで」


 悠真と呼ばれた彼は鷹崎(たかさき) 悠真(ゆうま)、高校二年生。帰宅部だが運動神経の良さを買われてバスケ部にしばしば助っ人として現われているのだ。そのバスケ部の後輩がこの原松(はらまつ) 芳季(よしき)、高校一年生。先輩を押し退けてレギュラー入りした根っからのバスケマンだ。


「着ぐるみって………誰がどれに入っているかわからないんじゃ」


「それがいいんだ!それが青春だ!それがロマンなんだぁぁぁ馬鹿野郎ぉぉぉ!って叫んでましたけど」


 バスケ部の先輩はかなり精神的にやられてるんじゃないかと少し心配になった。それを普通のことのように話す原松も原松だなぁっと悠真は思う。


「そういえば先輩は何を着るんですか?」


「そう、それが問題なんだ。何か俺はクラスの皆に衣装を用意してもらったみたいなんだけどさぁ、未だに何の衣装なのか教えてくれないんだよなぁ。何だと思う?」


「……………すみません先輩。俺はそんなこと言えません。先輩を傷付けるようなことできないですぅぅぅぅ!!」


 本当に悲しそうな顔で去り行く芳季の姿を見ながら悠真は頬を掻く。ふと、背後から何からぬ気配を感じて振り返る。だが、そこには変わらずパーティの準備をするクラスメイト。


「…………?何なんだ?」


 このとき悠真はクラスメイトから恐怖の衣装を受け取るとは思いもしていなかった。




 空は紅く染まり始めて準備もほとんど終わり、悠真はやっと一息ついた。早めに準備が終わったクラスはもう家に帰っていた。悠真たちのクラスもそろそろ一時帰宅するかと帰り支度を始めた。


「悠真!ちょっといいか?」


 クラスメイトの一人が悠真を廊下に呼び出した。何の疑いもなく廊下に出るとそこには数人の友人。少し悪い予感を抱きながら真ん中に立っている者が持つ紙袋を見つめた。


「何?」


「ほら、皆で考えたお前のとっておきの衣装だ!あり難く受け取れぃ!」


 変なノリで渡された紙袋を恐る恐る開けた。布の色は少し明るめの青色と透きとおる程綺麗な白。服の形は開けただけではわからず紙袋から取りだした。その瞬間彼の思考は停止する。少し制服と似ているが、制服よりも薄い布で作られた青い上着とその上着とよく会う純白のフリルがついたワンピース。この衣装が仮装のものと考えるなら誰しも理解できるだろう。これが不思議の国のアリスの服だと。


「ちょっと待て!何故俺がアリスの衣装なんだ!」


 叫ばずにはいられないこの展開に皆は有無を言わせない恐い笑顔で言った。


「だって、悠真君が一番似合うんだもん!」


「皆お前がこれを着るのを楽しみにしてるんだぞ!」


「もちろん、他に着るものがないからつき返さないわよね?」


 悠真の顔は少し丸みがあり、瞳も少し大きい。そのためか可愛い男の子としてこの学校では有名だ。女子にも男子にも結構人気があり、隠れファンも存在する。


「お願い!」


 必死な様子に悠真は嫌とは言えなかった。




 何とも言い難い気持ちで紙袋をさげて悠真は帰宅する。扉を開けるとその場に広がる光景は異様。おそらく悠真の母親だろうと思う女性が家の壁に平手打ちをしている。

 見なかったことにして階段を上ろうと顔を背ける。


「お帰りなさい、ユーマお兄ちゃん」


 声がしたのは前。のはずなのだが、視界には人はいない。顔を下に向けるとそこには柔らかい黒髪をした男の子。


「あぁ、ただいま静真」


 彼に声をかけたのはこの家の三男、鷹崎(たかさき) 静真(しずま)。小学四年生だが、頼りない両親のせいかしっかりした性格をしている。ちなみにあそこで壁に平手打ちをしている女性は悠真の母親、鷹崎(たかさき) 真澄(ますみ)。父親は医者の仕事でまだ家に帰っていないが、鷹崎(たかさき) 真也(まや)である。


「今日はハロウィンパーティだよね?また出掛けるんでしょ?」


「あぁ、悪いな。お土産持って帰るから。兄貴はいるのか?」


 静真は可愛らしい笑みで顔を横に振り、母親を指差した。


「トーマお兄ちゃんはね、今日友達と飲みに出掛けちゃったの」


「それとあれはどういう関係が?」


 静真はこれ以上ないという程の極上の笑顔で明るく言った。トーマとはこの家の長男で、鷹崎(たかさき) 透真(とうま)。大学二年生でこの家の中では長男だけあってしっかりとした性格をしている。


「ほら、トーマお兄ちゃんいつも飲みにいくと酔っ払って帰ってくるでしょ?だからお母さんが『また酔っ払って帰ってくるのねぇ!!』ってお兄ちゃんを張り飛ばしちゃって。そしたらそのお兄ちゃんの飛びっぷりを見て、『私、お相撲さんの才能があるんじゃ』ってありえない夢を見ちゃったんだよ!」


 無邪気の笑みは何故が邪気をおびているように見えた。

 自分の家族もバスケ部と同じでまともではない気がする。と、少し心配になった。息子が帰ったというのに未だに壁と格闘する母親に冷たい視線を投げて、悠真は階段を上る。鞄をベットに投げつけて髮を掻き回す。ハロウィンパーティは衣装以外の持ち物は特にはいらない。食べ物も遊びの道具も全て学校に揃っているからである。

 悠真は今日渡された紙袋を複雑な心情で見つめた。


「何故アリスなんだ?しかもご丁寧にカツラとエプロンつきだし。しかもこの服………作ったのか?」


 募る疑問に答えてくれる者はいない。ただ、わかっていることはこれを着る運命を変えられないことだ。


「は、はは。くそぉ!」


 諦めて彼は泣きながら紙袋を片手に玄関に向かう。母親は…気にしないことにした。靴音に顔を出した静真は出迎えに近寄って来る。弟っていいなぁっとこのとき心から思う。


「もう行くの?帰ってきたばっかなのに」


「あぁ。ご飯は学校で食べるしな」


 優しく頭を撫でると静真は少し寂しそうに顔を伏せた。


「トーマお兄ちゃんはいないし、お母さんはアホなことやってるし、お父さんはお仕事だし、本当につまんないよこの家。はっ」


 低めの声のためか静真が恐ろしい。悠真は適当に相槌を打ってそそくさと家から出ていった。




 既に陽は沈みきり、外は真っ暗だった。明かりは家から漏れる光と街灯だけだった。さすがにこの時期になると夜は冷える。肌寒さを感じながら悠真はため息をついた。


「この格好して俺はバスケ部に会うのか?」


 会ったときを考えて悪寒が走った。着ぐるみをロマンと考えるバスケ部。それはやはりおかしな連中が多いからである。女にも男にも妙な人気のある悠真はバスケ部にもかなりの人気がある。その悠真が女装をして彼らに会おうものならかなりの勇気が必要だ。


「やばいやばい!襲われるよ!おそらく多分女言葉を要求され、写真を撮られ、告白遊びが始まり、挙げ句の果てに服の奪い合いが始まるよっ!」


 彼の中のバスケ部のイメージは一体。このような調子で様々な妄想を広げながら彼は歩く。ふと、ある物が視界に入り足を止めた。日本の道路には似合わない大きな外国製の街灯が一本だけ立っていた。


「何だこれ?こんなのさっきまで立ってなかったよなぁ?」


 見たこともない街灯に興味がそそられ近づく。日本製とは違い彫刻などの装飾があり、かなり作りが凝っている。


「すっげぇ!かっこいい!」


 目を輝かせて街灯に触れる。だが、その瞬間なんとも言えない寒けが背中に走る。鳥肌が立ち、すぐに街灯から手を離した。


「なんだ?今の……」


『─────だぁ!』


 低く聞き取れない声音が街灯から漏れた。思わず紙袋をその場に落とす。


『魂───た…ましい!魂だぁ!!!』


「う、うわぁぁぁぁああああ!!!!!」


 街灯から人のものではない、黒くごつごつとした手が伸びる。尻もちをついた彼は足が震えて動けない。伸びて尖った爪は指が動く度に合わさり高い音を出し、皮しかない手は徐々に悠真の顔に近づく。


『何処だ。魂。めしぃ!』


「やめっ!触るな!や、やめろぉぉぉぉおおお!!!!」


 悠真はその手に見事に捕まり、街灯の中へと引きずり込まれた。

 それから先のことは気を失って覚えていない。




 次に彼が目覚めたとき、そこは道路も家もない未知の世界だった。





序章、いかがでしたか?まだほんの切っ掛けしか書いてないのであまり理解できないと思いますが、気になって続きを見てくれることを祈っております。


三亜野 雪子

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