表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

剣客! 橘ウコンのバカンス

作者: フリードリヒ・ハラヘルム・タダノバカ

 風がピュウゥと吹き抜ける。


 昔の忍者漫画に出てくるような草原。


 ややカレーのいい匂いが風に混じっている。


 浪人、嵐山権兵衛左衛門は、目の前の相手に内心たじろいでいた。これが噂のアイツかと──


 それでも威勢よく、己の名を口にした。

「拙者の名は嵐山権兵衛左衛門! 18歳の浪人だ!」


「ふゥん……」

 相手の男はのんきな口調で言った。

「浪人なの? 来年こそ大学、受かるといいね」


「意味がわからぬ! 貴様も名乗れッ!」


 着流しに鍔のない剣を一本手にしただけの男は、トントンと自分の肩を叩くと、指先についたフケをフッと吹き、名乗った。


「それがしの名は橘ウコン。カレー剣の使い手だよん」


「やはり……。貴様が橘ウンコか」

 浪人はいきなり刀を振り上げ、襲いかかった。

「貴様を倒して名を上げさせてもらうッ!」


「ウンコっていうなあーーー!!!」


 名前を言い間違えられ、橘ウコンの形相が鬼のように変わっていた。

 刀を鞘から抜くと、真っ黄色の刀身がスパイシーな輝きを放つ。


 橘ウコンは優しく歌った。

「おうち、はちみつ、カレーだよ……」


 歌が終わるなり、嵐山権兵衛左衛門は斬られていた。いつ剣が振られたのか、まったく見えなかった。


 橘ウコンは目を瞑り、カッコをつけて、言った。


「これぞカレー剣奥義、『にんじんじゃがいもたまねぎおにく』……」


 斬られた嵐山権兵衛左衛門の体じゅうから、どばーっ! とカレー汁が噴きあがる。

 嵐山権兵衛左衛門はその場に倒れ、あっという間に美味しそうなカレーになっていた。


「このそれがしに決闘を挑むとは、ばかな子!」


 立ち去ろうとするウコンの背後から、女性の声が呼び止める。


「ウンコさま!」

 

 ウコンは一瞬、額に青筋を浮かべた。しかし声の主が恋しいひとだとすぐに悟ると、カッコをつけながら振り返った。


「おくみん殿か……」


 美しいカレー色の着物を身にまとった美女がそこに立っていた。


「ウンコさま! また決闘をなさったのね?」


「それがしの名はウンコではない……。ウンコではないのだ」


「あら? こんなところに美味しそうなカレーが!」

 おくみんはしゃがみ込み、カレーになった嵐山権兵衛左衛門を指先につけ、ペロッと舐めた。

「おいしいわ! 二日酔いに効きそうなウンコの味がする!」


「それもウンコではなく、ウコンだよ!」


「ねえっ、ウンコさま。決闘なんてしてないで、あたしとプールへ行きましょう」


「剣の道に女はいらぬ」


「近くの市営プールのレストランのカレーがとってもおいしいの。マンゴーとパイナップルが溶け込んだシャバシャバのトロピカルカレーなのよ」


 ウキウキしながら出かけた。






 プールサイドで白いリゾートチェアに寝そべりながら、青い飲み物の入ったおおきなグラスを傍らに、ウコンはカレーを食った。


「ウンコさまぁ!」

 遠くで水着姿のおくみんが手を振る。

「あたしの泳ぐとこ、見ててねー!」


「極楽やん……」

 ウコンは嬉しいほどの甘みと酸味の混じった辛口カレーを食べながら、おおきなグラスを手に取り、青い飲み物をストローで啜った。

「剣の道とかアホらしゅうなったわ」


「貴様が橘ウコンか」


 二本の刀を刺した剣豪が、ぬうっと姿を現した。


「これはこれは……。あんたが有名な宮本の……?」


「いかにも。わしがあの有名な宮本の……うっ」


 宮本は既に、自分の体に二本の刀をブッ刺していたので、その場に倒れた。


「介錯いたっすー」


 橘ウコンが愛刀『華麗剣』を抜くと、宮本を斬った。斬られた宮本はじゃがいもとなり、カレー汁を迸らせて息絶えた。


「平和が一番だよなぁ」

 

 遠くでこっちを見ながら笑顔で手を振る恋しい女を眺めながら、橘ウコンは飲み物をまた啜った。口の中で天国のような冷たさとシュワシュワが踊った。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
右近をウコンと書くだけでこれ程までカレー化するとは……恐るべし、フリードリヒ・ハラヘルコ・タダノバカ……! 剣技ではなくどう見ても物質変換なのがなお恐ろしい。 これが全てをカレー味にするという最強の調…
七○が書いた短編かと目をこすった。 浪人の解釈ちがいと市営プールの登場に、時代背景がまったくつかめずに脱毛。
 なんかカニバリズムが流行ってません?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ