第32エンド 父親達の座談会
『そういえば、剛士さん。来月でしたっけ?入学式』
我らがホーム「みゆき」、その小上がりの指定席。
悠歩と美鈴を除いての、反省会。
あーだーこーだとした話し合いもそこそこに終わり、空気は、ただの飲み会となっていた。
『えぇ、娘なんて、妻に「あと何回寝たら良い?」なんて、毎日聞いてるみたいで』
ホタテに貝焼き味噌に、日本酒。
俺の思う、青森満喫セットをつつきながら、彩夏から送られてきた動画をみんなに見せる。
小学校の教科書だとか、体操服だとか、そして、あの緑色のランドセルを、部屋中に所狭しと並べている、千春の姿が。
『いや~、羨ましいなぁ~、うちなんて3人とも男ですから、何をするにもバタバタですよ』
「野球だのサッカーだの、お下がりは嫌だのゲームを買ってだの、3人もいると、お金がいくらあっても足りませんよ」
と、為川コーチのように苦笑いをしているが、何を言っているんだか、随分と幸せそうな顔をしているじゃないか、望田は。
『ははは、お二人とも、今のうちですよ。子供なんて、親が思っている以上に、すぐに大きくなりますからね』
いつもの苦笑いではなく、気持ちの良い笑いだ。
我々、父親の後輩が歩いている道を、一足先に駆け抜けた余裕か、はたまた酒のせいか、為川コーチも饒舌だ。
カーリングや、先刻の練習試合の事はどこへやら、座敷は、すっかり子を持つ父親の座談会の様相を呈していた。
仕事柄、こういった事を話すことは余りないから、なんだか新鮮だ。
一応、藤原や篠山さんも子供はいるが、基本的にはいつもドタ-バタとしているから、こうやって腰を据えて、お互いの子供の事を話し合うなんて、無かったかもしれないな。
彼らの子供は、何歳だったか.....
篠山さんは確か、子供はもう一人立ちしてて、妻と二人で悠々自適な生活だとか言っていたような。
そういえば、篠山さんのやっているSNSのアカウントを見せてもらった事があるが、凄かったな。
レストランのように盛り付けられた料理と、綺麗に磨かれたグラスに注がれた赤ワインの写真。
文面には、料理名と、ペアリングしたワインの銘柄なんかを書いていたりした。
文章はシンプルだけど、流石は普段からカメラを持っているだけあって、どこか格調高いレストランの写真のようで、反響も結構あったな。
本人は「妻の料理を投稿しているだけなんだけどね?これが思いの外、好評なんだよねぇ 」などと嘯いていたが、あれは絶対に、心の中ではドヤ顔をしていたに違いない。
藤原は....確か、嫁に尻に敷かれてるだとか、息子が反抗期だとかなんとか、ボヤいていたか。
.....反抗期......かぁ。
来てほしくないなぁ。
それは.....来てほしくない。
「パパ臭い」だとか、「洗濯物を一緒に洗わないで」とか....
言われてしまうんだろうか.......
もし言われてしまったら、俺は、立ち上がってファイティングポーズを、取れるのだろうか.....?
『うちなんて、姉ちゃんが上に3人いるから、モチさんとこみたいに兄貴が欲しかったな~』
レモンサワーを飲みながら、海至が、朝なんて洗面所を俺が使えるようになるまでスゲー時間かかんの、と半目になりながらボヤいている。
「これ、うちの姉ちゃんたち」
そういってサッと、「家族ライン」と書かれたグループのアルバムから、海至と3人の姉が映った写真を見せる。
ほぉ~、随分と美人なお姉さんたちじゃないかぁ。
......さては、お前。
さっきはなんのかんのとボヤいていたが、本当は、自慢したいんだな?
「俺の姉ちゃんは美人だぜ?」って。
こういうところが、こいつの可愛い所なんだよなぁ。
人懐っこい、好かれる性格をしていると思ってはいたが、末っ子か。
しかも、美人なお姉さんが3人も。
なるほど、どうして、合点がいった。
となると、話は自然な流れで、我がチームで最も謎めいた男、佐山朝飛へと、視線が向くのも必然だろう。
『........離婚してますよ?子供はいませんが』
ゴォー......
「みゆき」のエアコンが、一瞬で下がった座敷の空気を、必死に温め直そうとする音が、やけに大きく響いた。




