第31エンド 苦しい言い訳
口数は、少なかった。
いつも通りの賑わいのロビーで、どう、声をかけたらいいのか、分からなかった。
俺もメンバーも、悠歩の彼女の美鈴でさえも。
「ドンマイドンマイ」
「惜しかったね」
「練習試合で良かった」
などと、パラパラと声を掛けていたが、悠歩の表情は、暗いままだった。
負けた所で、練習試合だ。
これで何かが終わるとか、止まるとか、そういう事は何も無い。
そう、たかが練習試合。気にすることはない。
.....本当に、そうだろうか?
今日起きた事は、本当に、取るに足らない些細なミスなのだろうか?
何かは分からないが、大事な事のような、気がする。
リンクの上では冷静沈着で、常に確実に事を進める男が、あり得ないミスをした。
今まで見たことの無いミスをした。
何かが、起きた。
怪我か?
それとも、ストーンを離す直前に目にゴミでも入ったか?
春が近づいてきたとは言え、まだまだ乾燥しているのかもしれない。
何にせよ、終わった事だ。
おいおい、話してくれるだろうさ。
そうやって、気まずい沈黙を噛み締めていると、ドヤドヤと声がした。
『いや〜、緊張しましたね~!練習試合だからと思ってたら観客が居たんですもの!ビックリしちゃいましたよ!アップルストーンズさん、ノッてますね〜!』
津軽じょっぱりーずの面々が、慣れない観客達から解放されて、晴れ晴れとした顔をしていた。
『いやはや、ご迷惑をおかけしてしまいまして、すみませんでした。我々もまさか練習試合にまで観に来る方が居るなんて、驚いてしまいました』
人の良い苦笑いで、ススっと前に出た為川コーチが、悠歩を後ろに隠した。
「我々も新鮮でしたよ!」
「マイナースポーツですから、注目は嬉しいですね~」
「また是非、声をかけてください!」
「ええ、また胸をお借りします」
それでは、と彼らもまた、打ち上げを行いに、自分達の行きつけである居酒屋へと、待ってましたとばかりに向かっていった。
さて、俺達もまた、いつも通りに我らがホームである「みゆき」で、反省会をしようではないか。
貝焼き味噌に、ホタテの刺身に、日本酒で一杯やって、次への英気を養おう。
『あ、あの、今日は、その、僕は帰ります』
悠歩が、口を開いた。
「おいおい、最後のミスでも気にしてんのか?大丈夫だって、あんなの!」
「坂本くんもあんなミスするんだって、逆に親近感が湧いたくらいだよ」
「.....切り替えろ」
『あの、その、もしかしたら、この前の熱がまだ下がって無かったのかもだし、新学期もそろそろだから、準備しないと、ですから...』
「真面目だね~、アルコール消毒でもするかぁ?」
「海至くん、そういうのはアルハラになっちゃうよ?」
「....お前が飲め」
悠歩の申し出に、場を和ませようと口々に声をかけたり冗談を言ったりしているが、どうにも空回りのような、滑っているような感じだ。
ふぅむ、あのショットは、随分とショックだったようにみえる。
元から口数の多い子ではないが、これじゃあまるで佐山のようだ。
そんな佐山ですら、ポロポロとジョークを言っている。
余り、面白くはないが。
『そうですねぇ、春先といえど、この辺りはまだまだ冷え込みますからね。今日は帰って、ゆっくりとお風呂にでも浸かると良いでしょう』
穏やかな笑顔で、為川コーチがそう促した。
「....ありがとうございます」
ペコリと頭を下げると、まるで逃げるように、忘れようとするように、足早に去っていった。
「ちょっと待ってよ!」
と言いながら追いかけた美鈴にも、構わずに。
『坂本くん、大丈夫でしょうか?引き摺らないと良いのですが』
腕を組み、小さくなっていく、悠歩と美鈴の背中を眺めながら、望田がポツリと呟いた。
その眼差しは、思春期の子供を見守る父親のような、温かいものだった。




