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GO!!~氷上の剛腕番長~  作者: 渋谷直樹
第4巻:もう一つの闘い
26/33

第26エンド 俺のヒーロー(前)

『ドキュメンタリーに変更?』


 東京東都テレビ局。

 の、虎ノ門にある薄暗く、小さな、ヤニ臭い編集室。


  剛士くんのカーリング企画も終わり、もうすぐそこまで近づき始めた年末年始の特番の準備。

 そのバタバタとした慌ただしさの中、突如として、彼は言い始めた。


 いきなり何を言い出すのやら。

 いつもの相棒が、いつも通りの突拍子もない事を言い出した。


 入社してこの方、バラエティ一筋だった男が、急にドキュメンタリーを作るなどと。


『そう!編成部長に直談判してくるぞぉ!』


 息巻いているのは良いけどねぇ。

 僕らと、彼らとじゃあ、乗ってるレールが違うじゃないの?


 現場はやる気と熱意と技術があれば、それで良い。

 僕ら窓際なんて、トラブルさえ起こさなければ、見て見ぬふりをしてもらえる。


 けど、編成部長だの編成局長だの、上の管理職連中はそうもいかない。

 生き馬の目を抜くような、ただの雑談の中で腹の探り合いをする、複雑な人間関係の九龍城。

 魑魅魍魎が巣くう、社内政治の伏魔殿。

 そんな魔境を生き渡っているような連中だよ?


『ふぅん、そんなの聞いてくれるかなぁ?』


 テレビ局の予算が厳しくなってきて久しい昨今。

 ドキュメンタリーだなんて、それも、何の実績もないカーリングチームの密着の予算なんて、果たして聞いてもらえるかどうかだって怪しいものだ。


 それに、ドキュメンタリーは継続的に追わなければいけない。

 つまり、結果や区切りが出来るまで。

 もしかしたら、予算を、穴の開いたバケツで水を汲み続けるような事になるかもしれない。


 それなりの予算をつぎ込んで、結局、何も起きませんでした。

 それでは許されない。

 追い落とすための格好の材料になるようなことを、あの連中が許すはずがない。


『あの人が出世出来たのだって、半分は俺の手柄だろ?』


 分かるよ、そう思う気持ちは。

 実際に、そうだと思う。


 きみがあの時代に、局の歴代視聴率ランキングに入る様な番組を何本も出したから、当時の上司だった古室さんは、順調に出世出来たのだ。

 あの時に作った実績と人脈が、彼を編成部長まで押し上げた。

 実績に物を言わせて、かなり強引な事もやっていた。それも、結果があったからだ。

 それに、君とはサハラ砂漠を横断した仲だしねぇ。

 あの時の武勇伝は、今でもよく聞くよ。


 それでも。


 潮目が変わるのを見極めるのも、あの人は早かった。

 破天荒で、勢い任せで、強引で。そんな風だったなんて全く思えないほどに、今は、算盤の上で立ち回る。

 柔和な笑顔で、リスクを切り捨てる。

 今では、そういう人じゃあないか。


『間違いではないけどさぁ、もう随分昔の話じゃない』


 そう、あの時とは違う。

 予算も潤沢で、コンプライアンスも、まだ後回しに出来た。

 僕らテレビマンにとっての、黄金時代。


 君が、最も輝いていた時代。


『まぁまぁまぁ....話ぐらいは聞いてくれるだろ!』


 彼も、分かってる。

 自分が何を言っているのかを。

 どれだけ無謀な事なのかを。

 今から立ち向かおうとしている相手が、そんな甘い相手ではない事を。


 だけど、それを認めてしまったら、大事なものを失うかも知れないことを。


『昔だったらわかんないけどさぁ、古室さんだって今は随分厳しいじゃない。僕もやったことあるけどさぁ、ドキュメンタリーはお金かかるよ?』


 そう、自分自身、最初から、今のようなやる気のないテレビマンだった訳では無い。

 やる気も、野心もあった。


 が、駄目だった。

 自分の好きだった、やりたかった歴史物やドキュメンタリーでは、駄目だった。

 数字が、取れなかった。

 ネットがまだ普及していない、あの時代ですら、駄目だった。


 ……きみのような才能が、無かった。

 その言葉は、飲み込んだ。


 古室さんだって、藤原の功績にただ乗りしただけの男ではない。

 優秀な現場叩き上げのテレビマンだ。しかし、周りは早稲田やら慶応やら、親や親戚の代から方々にコネがあるような連中ばかり。その中で、今のポジションから先へ行くのに、随分と苦労をしているらしい。

 そんな上司を説得して、ドキュメンタリーの体裁を装ってまで、彼らを追い掛ける。

 かなり、無茶な話だ。

 下手をしたら、僕らは、この窓際にだっていられなくなるかもしれない。


 .....長年、疑問に思っていた。

 聞きたかったけれど、聞かない方が良いのかも知れない。

 そうやって、9年も経っていた。

 もう聞かなくても良いかなぁ、そう思っていた。


『....藤原くん』


『なんでそこまで、剛士くんに拘るんだい?』


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