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GO!!~氷上の剛腕番長~  作者: 渋谷直樹
第3巻:見慣れた新天地
20/33

第20エンド カーリングおじさん誕生

「ゴウちゃん!やばいって!!」


「剛士さんたいへん!!」


「....有名人ですね」


「とにかくネットをみてください!」


 12月17日に意気軒昂に臨んで惜敗となった東北選手権大会も終わり、街はクリスマスと年末の、祝賀のムードを帯びて活気づいていた。


 東京と違って、青森は既に本格的な寒さが幅を利かし、俺の住む安アパートには底冷えのする朝がやってきていた。


 青森に引っ越して初めての本格的な冬。

 この見慣れた新天地での初めての冬。

 そして、千春が小学校に上がる前の最後の冬。


 そろそろクリスマス....千春には何をプレゼントしようか。

 お年玉もどのくらいの金額にするのが妥当なのか....


 いつもであれば彩夏にすぐに相談できるが、そうもいかない。

 改めて、今は一人なのだと思い知る。


 青森の冬が、余計に寒く感じた。


 ホームシック、郷愁、物思いに耽っていたら、いきなりピコピコピコピコと携帯が引っ切り無しに喚き始めた。

 すぐに気付けるようにと思ってマナーモードにしていなかったせいで、まるで壊れたのではないかと思うほど、ピコピコと鳴り続けている。


 一体何が起きたのかとぼんやりしている間に、トークルームの未読メッセージ数がシュポポポ.....と見る見る増えていく。


 一体どうしたんだ?

 通知に表示されてる範囲のメッセージだと、どうやら余り良いニュースのようではないらしい。

 そして、話題の中心にいるのは恐らく俺みたいだ。


 うぅむ、ますます良くわからん。

 そう首を捻っていると。


「取り敢えず、まずはこちらのリンクをご覧になってください」


 混沌とした短いメッセージの暴風が鳴り止んだ隙を突いて、為川コーチから一つのリンクが貼られた。


『スケート場に変なおじさんいたwww』


 そこには、休日の親子連れで賑わうスケート場には場違いの、リーゼント頭の中年がシャカシャカと、一心不乱にブラシでリンクを擦っていた。


 ....ん?


 おや?


 ......?


 .......俺?


 ──────────


 青森市の中心部に近い住宅街。

 まだまだ真新しいピカピカの一戸建て。

 大きめのファミリーカーに、恐らく望田の妻が使うのであろう軽自動車。

 メッセージで話していても埒が明かないという事で、俺たちは一度、望田の家に集まることになった。


 .....うぅむ、ローンは何年くらいなのだろうか。

 自分のようなテレビタレントでは銀行の審査は厳しいが、流石は出世頭の営業マン。立派な家だ。


 望田は確か神奈川の出身と聞いていたが、青森に骨を埋める覚悟をしているんだな。

 二子玉川の国道246号線の喧騒と、外壁の劣化した我がアパートが頭を過る。


 このような家と、この広々とした空のある土地で子供を育てられたら.....


 そう考えているとインターホンに呼ばれた望田が現れた。

 玄関に揃った靴を見ると、どうやら俺が一番最後に到着したようだ。


───────


 言葉自体は聞いたことはあるが、まさか自分がそうなるとはな。


これが「バズ」というものらしい。

 アップルストーンズに本格的に加わる前の、東京で何とか練習をしようともがいていた日々。


 そんな懐かしの様子が、誰かに撮られていたらしい。


 フォームがまだまだだなぁ。

 これはまだ力が入りすぎだな。

 そういえば、この頃に収録したバラエティは微妙な出来だったなぁ。


 メンバーはみな口々に慌てた様子でいるが、当の俺はというと、イマイチこの状況が飲み込めておらずにそんなことを考えていた。


「うわ....めっちゃバズってんじゃん」


「こっちでも転載されまくってるよ?」


「これって....訴えたりとか出来ないの?」


「いやぁ、無理だろ?多すぎるもん数がさ」


「....消すと増える」


 佐山の一言を境に、うぅむ、と淀んだ空気が流れた。


『しかし、これは一体どうしたら良いんでしょうか?剛士さんの了解を取っているものでは勿論無いでしょうし』

 正論ではあるが、この状況となってしまってはややズレた望田の言動が、この手の現象に対しての不慣れさを物語っている。


『えっ?何これ?』


 引き続きスマホでワラワラと転載された動画を漁っている美鈴が声を上げた。

 そこには、ブラシで必死にリンクを擦る俺が、数年前にヒットした落書きを消すゲームの登場キャラのように、画面を所狭しと駆け巡っていた。


 美鈴が言うには、いわゆる「ネットミーム化」という奴らしい。

 この動画を皮切りに、色んなバリエーションが作られている。


「随分と器用な人もいるもんだなぁ。ほぉ~、音楽に合わせて上手い事作ってあるじゃないか。藤原にでも見せたらゲラゲラ笑いそうだ」

 相も変わらずみんなとはズレた反応を俺がしていると。


『俺、普段はこういうので笑ってるけどさぁ、仲間がこうなると笑えねぇわ』

「マジ許せねえ。だってゴウちゃんめっちゃ頑張って練習してるやつだろこれ!」

 海至がまるで自分の事のように、悔しそうに呟いた。


『こういったものは、無視しておくのが得策らしいのですが、余り良い気分はしませんね』

 いつものように、たははと苦笑いをしているが、その中にはほんの少しだけ、何か含みがあるような気がした。


 アップルストーンズと出会って7か月。

 最初はお客さん扱いだったのに、今ではネットであまり好ましくない注目のされ方をしている俺の為に、みんな真剣に怒っている。


 仲間として、怒っている。

 嬉しいじゃないか。


 これに応えなきゃ、男が廃るってもんだ。


 ふぅっと息を吐き、首を回す。

 リーゼントを軽く整える。


『為川さん、これ、使えないかな?』


 為川コーチの目の奥が、チラリと光った。


『いいよ、乗ってやろうじゃん。ネットミーム?ってのにさ』

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