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GO!!~氷上の剛腕番長~  作者: 渋谷直樹
第3巻:見慣れた新天地
18/33

第18エンド 氷の仮面の下の顔

『お疲れ様です』


 いつもよりも活気と勝負の熱が漂うオカでんアリーナ。

 そのロビーで剛士と悠歩はたまたま二人になっていた。


 青森選手権大会、カーリングの公式戦は年間でそう多くは無い。

 だから、一つ一つが落とせない大事な試合だ。


 先程の試合、危ない所をこの新たな仲間、桐原剛士によって救われた。


 リンクに落ちた一本の髪の毛。

 投擲をした自分はもちろん、一緒にスキップとして参加していた望田さんでも気づいていなかった。

 それをこの人は気づいた。


 こちらからの指示を無視した、強引なスイープだと思った。

 初の公式戦だから緊張して暴走したのかと思った。


 違った。


 もしもあのままストーンが進んでいたら。

 髪の毛の上を通過していたら。


 ....負けていたかもしれない。


 これまでお飾りリザーブとして参加していた男が、今では立派な戦力となっている。


 たった7か月。


 それだけの短期間で。


 ふぅっと息を吐く。


 出会う前、そして、出会ってからを思い出す。


 ──────────


『断ってください』


 日本海から吹き付ける寒風と雪の降る青森の冬。

 オカでんアリーナのロビー、アップルストーンズのミーティングの場で、為川コーチから告げられた受け入れがたい宣告。


『それが、先方にはもう返事をしちゃいまして』

 テレビという事で舞い上がってしまって、つい即答しちゃいました。


 みんなにツッコまれながら、申し訳なさそうにたははといつもの苦笑いをして、弱ったような素振りを見せているが、違う。

 この人は、わかった上でやっている。

 チームのためになる。

 そう判断したことなら、絶対に実行する。

 撤回するならば、それ以上の実利がない限りは動かない。


 大人の論理。

 感情的な嫌だ、そんなものでは動かない。

 やんわりと、たはは、と苦笑いで躱される


 感情的な、子供の論理では、通用しない。


 嫌だ。

 どうせカーリングにも、カーラーにもリスペクトの無い素人を、半年近くもチームに入れないといけないだなんて。


 みんな真剣にやっている。

 僕も海至さんも、望田さんや佐山さんだって、働きながら貴重な休日を、カーリングの為に使っている。

 美鈴だって、バイトをする時間や勉強の合間を縫って協力してくれてる。

 最近は動画編集だってしてる。

 誰も、半端でなんてやっていない。


 為川さんは、日本代表を狙うチームを作る。


 だから来てくれ、君が必要だ。

 そう言って僕を口説いたじゃないか。


 なのに、なんで素人なんかを。


 以前、何かのYouTuberが北海道のチームとコラボしたのを見たことがある。

 ふざけてた。

 ブラシに跨って飛ぼうとしたり、ストーンを持ち上げてドスンとリンクに落としたり。


 許せなかった。


 マイナースポーツだからと舐められるのが、我慢ができなかった。

 それを言い返せない今の状況が、許せなかった。


 ──────────


 鹿児島の剛腕番長VS氷上の王子、スイープ対決〜〜〜!!


 ....お、王子?


 小太りのディレクターのダミ声が響き渡る中、僕は間抜けな顔をしていたかもしれない。


 王子....氷上の王子って....

 最悪だ、本当にテレビで流れるのか....

 放送されたら大学であだ名が王子になるに決まってる。

 ....最悪だ。


 ...


 .....


 .......


 顔は....まぁ悪い方では....無いと思う。

 ....多分。

 美鈴もよく褒めてくるし....

 いや、それでも王子って....


 20歳にもなって王子だなんて呼ばれると....

 流石に恥ずかしい。


 佐山さんの提案で急遽決まったスイープ対決。

 まぁ、負ける事は間違いなく無いだろう。

 ちびっこカーリング教室の頃から数えたら10...15年くらいやっているんだ。

 勝負にならないだろう。

 テレビ的にはそれでも良いんだろうか?


 ....相手の人、さっきまで立つことすら精一杯だったはずなのに、何だかんだでもう移動は出来てるし、さっき望田さんにスイープのレクチャーを受けていたのを見たけど、それなりにさまになっていた。


 そういえば、高校の頃の球技大会では野球部が活躍してたっけな。

 そういうのと同じなのだろうか。

 体の使い方の理解力とか、イメージ通りに体を動かすのが上手いとかそういうのと。

 その辺りは、ボクシングでもカーリングでも応用できる部分とか何だろうか?


 ────────


 そう思ったまま始まったが、やはり思った通りの展開だ。

 元ボクサー、腕力や体力に自信がある人がやりがちな力任せのスイープ。

 擦りすぎ、フォームも無駄が多すぎ、ちゃんと擦れてないからストーンの軌道がズレて距離をロスしてる。


 まぁ、素人だからな。

 むしろ、良くやれてる方か。


 ─────────


 もう一回、もう一回と負ける度に食い下がってくる。

 随分負けず嫌いな人だ。

 ....まぁ、人のことは言えないけど。

 本当は多少でも華を持たせたほうが良いんだろうなぁ、けどそれは無理だ。

 他のものならどうでもいいが、カーリングでだけは、それは出来ない。

 絶対に手は抜かない。

 勝負なら、勝つ。

 勝つ為に、やる。


 とはいえ、まだやるのかな?

 遊びとはいえスイープは体力を使う。

 テレビのカメラが回ってる。

 深夜番組とはいえ、全国放送に映ると思うと普段よりも何だか疲れる。


 何回やっても同じなん────


 目の前にいたリーゼントのおじさんが消えた。


「もう一回やらしちゃあくれないでしょうか!!」


 えぅ?

 えっ?


 土下座をしていた。

 なんで?

 バラエティだから?

 テレビで放送するのに?

 そこまでする?


 意味がわからなかった。


 でも、ふざけているようにも見えなかった。

 小太りのディレクターが勢い良く間に割って入ってきた。

 この人の指示でもないらしい。


 .....必死なのは、伝わって来た気がする。


 ─────────


 隣り合って暖かいカフェオレを飲む。


 放送された映像では上手い事編集されていて自分の態度は上手い事ぼやかされていたが、あの時は流石に子供じみていたと反省している。


『....剛士さん、その....さっきの試合はありがとうございます』


 今まで「桐原さん」とどこかよそよそしく呼んでいたので、何だかむず痒さと気恥ずかしさと照れが混じる。


 チームとして、メンバーとして、仲間として。

 よろしくお願いします。


 次の試合までまだ少し、時間はある。

 話したいことは、沢山ある。


 リンクのある方向から、ストーンの当たる小気味いい音が聴こえた。

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