第17エンド おっさん達の挽歌
ヤー!ウォー、ウォーノー!
スイープの指示を飛ばすカーリング特有の声が響く。
それに合わせて時に激しく、時に緩やかに、ストーンの軌道を導いていく。
カコーン、ココーン
投擲されたストーンに弾かれて、それまで円の中、つまりはハウスにいたストーン達が、小気味のよい音を立てて飛び出していく。
冬の風が吹き始めた青森の、オカでんアリーナのリンクでは、アップルストーンズが青森選手権大会へ向けて練習をしている。
熱のこもった、練習をしている。
メンバーにも、為川にも、剛士にも。
その様子を撮影する美鈴にも、
同じ熱がこもっている。
このリンクに来るのも残す所あと僅かな期間となった藤原と篠山が、感慨深そうにリンクサイドから、その景色を眺めている。
『剛士くん、良い目してるね。前と全然違うもの』
いつだったかの光の失せた、そんな目をしていた男が、今では別人のような顔をしている。
気力と生命力に満ち溢れた、生きている目をしている。
『....そうだなぁ』
9年間。
剛士が引退して、燻っていた所をバラエティの世界に引き込んだ。
腐れ縁。
アフリカに突然連れて行った時よりも、何も無い海岸線をひたすら歩き倒した時よりも、どんな時よりも、生きた目をしている。
『この少しの間で、決めたんだねぇ』
レンズ越しに見てきたゴウちゃんから、桐原剛士のアスリートの顔。
初めてみたかもしれない顔。
ようやく見れた顔。
『....そうだなぁ』
やっと、帰ってきた。
そう、ようやく帰ってきた。
『いやぁ、やっぱり、良い目してるねぇ』
今までで1番、楽しそうじゃないの。
良いねぇ、少し、少しだけ、羨ましいねぇ。
『....あいつ、火ぃ点いたんだなぁ』
今までの、9年間の腐れ縁が、走馬灯のように過ぎていく。
何となく選んだカーリング。
マイナースポーツの新設チームなら喜んで協力してくれるだろうと、打算で選んだチーム。
それが、桐原剛士に火をつけてくれた。
『おやぁ?随分嬉しそうじゃない』
隣で、いつもの相棒が、いつもと違う、遠い目をしている。
リンクの熱気に当てられたのか、はたまた別か。
目に熱いものが込み上げてるように見えた。
『そうかい?そんなことねぇよ?』
プイッとそっぽを向き、ぐしぐしと鼻をこすった。
カチャリと、眼鏡を動かす音がした。
『畠中くんがこの前言ってたよ?最近のゴウちゃんキレが増したって』
今までは藤原の番組や企画が主立っていたのに、こころなしか、以前よりも色々な番組の編集で、顔を観る機会が増えたように思える。
『ほぉ~ん、そりゃあ良かった』
「これで俺も無理やり企画を考えたりしなくて済むな!」
とガハハと笑っている。
『藤原くん、きみ、裏で動いてたでしょ?』
畠中だけではない。
この平成の視聴率男は伊達に長く業界に居るわけじゃあない。
特に中堅、古株連中に顔が利く。
禁煙してると言っていたのに、誰かと喫煙ブースにいたり、自分の番組じゃないのに若手にも挨拶に回ったり。
色々と、動いているのを知っている。
『いいやぁ?俺はなぁんにもしてねぇよ?』
あいつの頑張りじゃないかい?
そう、あくまで剛士の頑張りだ。
あいつに火がついたから、俺も動こうと思った。
そう思わせたのはあいつの力だ。
俺がどれだけプッシュしたとしても、中身のないものには誰も見向きもしない。
使いたいと思わせた。
だからそれは、あいつの力だ。
『ふふ、そうだねぇ』
大雑把で不器用で、中々本心を話さない相棒の、その態度が言葉以上に語っている。
素直じゃないんだもの、いや、ある意味素直なやつなのかもなぁ。
それまで腕を組んでリンクを眺めていた藤原が、うん、と伸びをして腰に手を当てる。
『しっかし、やつのカミさんは出来た人だよなぁ、俺が青森に引っ越してぇ!なんて言ったらふざけんな!って張り倒されちゃうよ』
普段はタレントを振り回している藤原も、家では完全に尻に敷かれている。
得意の話術も、テレビマンではない藤原義久を知る妻には、全く通じないのだとか。
『はは、それは普段の行いだよ』
そう、普段の行いだ。
くわばらくわばら、何があるかわからないからねぇ
過去のやらかしを思い出して苦いものが過ったらしく、へぇへぇ、と下唇を突き出しながらおどけたようにボヤいた。
『あいつも、明日にはまた東京だもんなぁ....前よりもハードだよなぁ。
サラリーマンの単身赴任だってもっと楽だぜ?』
夫婦の話し合いで、娘の小学校のことを考えて、剛士だけ青森に引っ越すことにしたらしい。
しかし、テレビタレントとしての仕事は東京が中心だ。
結果的に、青森と東京を行ったり来たりのハードスケジュールになる。
『そりゃあね、でもちっとも疲れてるようには見えないよ?』
生き生きしている。
活力に満ちた。
希望に満ちた目をしてる。
『....若いって良いねぇ』
かつて、自分もそんな顔をしていた時があったように思う。
いつだったかなぁ。
何の時だったかなぁ。
……思い出せないや。
『....それにしても、良い顔だねぇ』
『.....うん、そうだなぁ、良い顔してんなぁ。
うん、良い顔だ。』
コーン
カココーン
ストーンの音が心地よく、響いた。




