表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

面倒くさい王子様が運命のような義妹に愛を乞いたい話

作者: 桃井夏流

短いです、設定がやや『このルートの悪役令嬢は〜』と似ていますが、単品で読めます。ゆるふわ。

「パーシヴァル様!囲まれました!!」

「後方部隊は!無事か!?」

「幸いにも中型魔獣しか出ていない模様です。それより目の前の…」


大きな魔獣の咆哮が辺りに響く。一般市民なら聞いただけで脳震盪を起こす様な。しかし俺はこんな事で怯む訳にはいかない。


何故なら。


「あら?あらあらあら?お義兄さまピンチになってしまいました?」


背後からのんびりとした可愛らしい声が聞こえる。


「まだやれた!!」

「でも私が召喚されたと言う事は、そう言う事なでしょう?」


ぐうの音も出ない。この祝福達に嘘などついても無意味なのだ。


「私今、アップルパイをいただこうと思ってましたのよ?季節一の、カーマインという品種の、それはもう美味しそうな…」

「姫様お早く!!」

「なんでお義兄さまならともかく貴方に急かされなければならないの。まぁ、いいわ。貸しひとつですわよ?」


『ミシェーラ・ラピスの名において、解放を命じます』


深い瑠璃色の髪がふわりと舞い、地面に大きな魔法陣が現れる。


「さぁ、やっちゃいませシヴァ兄さま!」


身体が軽くなり、剣を持つ力が強くなる。すると剣に魔力が流れる。ミシェーラだ。俺は目の前の魔獣の前に跳躍すると、剣で首を落とした。


「う、グロい…」

「いい加減慣れろ」

「それはそれで淑女としてどうですの…。他の皆様は?」

「後方で分断された。加勢に行くぞ」

「かしこまりましたわ。人命に勝るものはありませんからね」


キリッとした顔でそう言ったかと思えば、眉を下げた。


「アップルパイ…」

「…帰れば食べられるだろう」

「味見されて直ぐの熱々はもう失われましたわ。お義父さまに内緒でしたのに。悔やまれます」


ミシェーラのドレスごと抱えて走り出す。


「借りをそれで返そう。カーマインのアップルパイだな」

「流石の理解力。それでこそお義兄さま!」


そんな安い『貸し』じゃないだろうに。いつも危険な戦場へと突然召喚されて申し訳ないと思っているのに、俺はいつも素直にすまないと詫びれない。


「パーシヴァル様とミシェーラ様がご一緒だ!みんなもう大丈夫だ!!」



俺の腕の中でミシェーラが慣れた様に皆に笑って手を振る。その姿は本当に『お姫様』で『聖女』だ。


この国の者は産まれて直ぐに『祝福』を覚醒させる。

それは手から水が、火が出せる、そんな簡単なものから、傷を治せると言った奇跡的なものもある。それにも力の強さ、弱さがあり、様々だ。だから国は国民が三歳になったと同時に神殿に訪れる様に厳命している。

それは王族も例外ではなく、それでいて平民も例外ではない。

俺の祝福は『強靭な肉体』だった。疲れる事も無いが、あまりに力が強すぎて難儀する事も多かった。

対してラピス伯爵家の末娘として産まれたミシェーラの祝福は『封印と解放』、そしてなんと『魔力の恩恵』と言う、クリンステール国初の複数の祝福持ちであった。


王家はミシェーラを養女として迎えられるようラピス伯爵家に頼みこみ、大事にして下さるなら、とラピス伯爵家は泣く泣くミシェーラを手放した。


ミシェーラはぽやぽやしている癖に聡明な所があり、直ぐに陛下に頼まれるがまま、俺に定量の封印を施した。


生きやすくなった俺は、ミシェーラに心から感謝したし、大事にして、守っていこうと誓った。


危ない目になど何一つ合わせないと誓ったのに、戦場に出る様になった俺に、王妃が自分の『召喚』の祝福を使った。それはミシェーラと共に通じる道を作られるというものだった。


俺が窮地に陥ると陛下の『危機察知』の祝福が発動し、王妃の『召喚』が道を作りミシェーラが現れる。

そしてミシェーラが俺の『封印』を解くという流れだ。



『ミシェーラ・ラピスの名において、パーシヴァル・エンデ・クリンステールの力の封印を』


更にこうして再び封印してもらうという、なんとも情けない。その相手に惚れてしまったというのだから…。だが打ち明けられる訳がない。ミシェーラに断る事など出来ないと分かっているし、外堀は、完全に固められてしまった。自分で固めたのならまだしも、両陛下が。そんなの、あんまりではないか。ミシェーラが、可哀想ではないか…。


ビシッとミシェーラが精一杯背伸びをしながら俺の眉間を指で叩いた。


「…痛いだろう」


俺は『強靭な肉体』だ。そんな事で痛みなど感じる訳がない。痛かったのはミシェーラの指な筈だ。実際ちょっと涙目なのが可愛らしい。


「お義兄さまは!ちょっと!いえ大分!?意固地が過ぎるのでは!?」


「…………は?」


「そんなに私が嫌ですか!?確かにちょっと、育たなかった箇所もございますが…ぺったんこでは…ない」


「いや、待て、急に何の話だ!違う睨むな、そこを言えと言っている訳じゃない」


「じゃあ私の何処が不満です?親に決められちゃったところでしょうきっと!面倒くさい!手間が省けて良かったーで良いじゃありませんか!」


「俺は手間をかけたかったしそんな大切な事は手間だとは思わん!」


「では、今!今かけて下されば丸くおさまります!ほら!」


周りを見る、魔獣の死骸。なんか目が鬱陶しい部下達。


「…いや、今は無いだろう」


「私が何処かの馬の骨と結婚してもよろしいのね?」


「ぐっ……………結婚しよう、ミシェーラ」


「まぁ!ふふ、勿論よシヴァ兄さま!結婚致しましょう。因みにそこに愛は?」


「………あぁもう!愛しているに決まっているだろう!!もう知らないからな!逃げられないのはお前の方なんだぞ!?」


「嫌だわ、なんで私が逃げる前提なのかしら。本当そう言う所が面倒くさいです」


「面倒で悪かったな…因みに、この結婚に愛は?」


ミシェーラがここ一番の笑顔を俺に向ける。




「勿論!愛しておりますわ!」 

帰って来たらようやくか、とみんなに言われ複雑な気持ちを隠せない王子様とそうなんですの、長かったですわーと余裕しゃくしゃくのふりをする義妹殿。本当は照れ屋さんだったり。


読んで下さってありがとうございます。

いいね、評価などいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ