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第一章8  『たらい回し』

「がぼっごぼっ」


 めちゃくちゃに魔法を繰り出したはいいものの、大海原にちっぽけなカズヤが勝てるはずがなく、カズヤは海中に吸い込まれていった。


 頭上からララがとどめの一発を繰り出したが、カズヤはすでに海の奥深くまで飛び込んでいた。


「さすがにこれなら死んだわよね…ふう、なんで武器が急に出てきたのかしら。まるであの伝説みたいじゃない…」




 海の中でカズヤは、朦朧とした意識の中で必死に生き残るすべを探していた。


―この世界に来てから、ずっと朦朧としてばかりな気がする…


 とにかく、呼吸をしなければ―


 体をよじって、必死に上を目指す。もっぱら、どこが上かわからないのだが。


 そのとき、一つの海流のようなものが、カズヤをさらっていく感覚が襲った。


 その流れにもみくちゃにされて、カズヤの意識はとうとう切れてしまった。



 

「……うぇっぷ。」


 口から大量の水を吐きながら、カズヤは目覚めた。


 どうやら命は助かったらしい。

 

「こいつ、どうします?」


 上のほうで、声が聞こえた。


 瞼が重くて開かない。


 また見知らぬ声である。気の抜けた、若い男の声だ。


「潜水艇の上に引っかかってたんですけど」


「食うにしてはまずそうなやつだな…」


―食う!?


「おい!起きろ!」


 声の主が自分の顔をぺちぺちたたいた。


 カズヤが目を開ける。


「ひえええっ」


 思わずカズヤは悲鳴を上げた。なにせ、目を開けた先に現れたのは顔面がチョウチンアンコウみたいな大男だったからだ。


「人の顔を見て笑うとは失礼な奴だな」


「うへ…すみません」


 思わずカズヤが謝る。


「ん?こいつ、ステランティスの一派じゃねえか?」


 魚顔の男が、カズヤの服装を見て叫ぶ。そういや、出陣前に戦闘服を貸してもらったんだっけ。セレナたちのいるあの国、ステランティスっていうのか、


「生かしちゃおけねえ!」


 別の魚顔の男が叫ぶ。そして背中から大きなナイフを取り出した。


「まて!」


 もう一方の魚顔の男が制止する。こっちのが上官みたいだ。


「様子がおかしいぞ。このチョーカーはなんだ。妙な魔素反応がある。」


 カズヤの知らぬ間に、カズヤの首には確かにチョーカーがつけられていた。


「普通仲間にこんな物騒な魔法器具付けるか…?」


 魚顔がチョーカーに顔を近づける。磯の香りがカズヤの鼻を刺した。


「ん……?こいつは…やべえ、傍聴魔法と位置追跡魔法だ!」


 上官のほうの魚が叫ぶ。


―次の瞬間


 轟音とともに、カズヤのいた部屋(洞窟のようだったが)の壁が崩壊し、大量の水がなだれ込んできた。


「でかしたぞカズヤ。おい、ララ、ここがどうやら拠点のようだ。」


 この世界に来て割となじみのある声―ヴェルファイアの声が聞こえた。


 天井に穴が開いて、日が差している。


 その向こうから、アマテラスよろしくヴェルファイアとその軍団がのぞいている。


「ララ!」


 ヴェルファイアが叫ぶ。


「ちっ生きてたのかよ…」


 ララがハープで術式を奏でる。


―次の瞬間、カズヤは別の場所に転移された。



―なんか移動してばかりだな…


 カズヤは再び宮殿のベッドー最初にカズヤが目覚めた場所に横たわっていた。


 カズヤが魚顔の男にあってから、ほぼ一日たった。時刻はすっかり夜


 先ほどの一戦はどうやら無事勝利したようだ。カズヤのめちゃくちゃにだしたギターの魔法が敵の大群に運よく命中したのと、カズヤがたまたまさらわれた潜水艇が敵の大将の船だったようで、偶然にもカズヤがMVPとなった。


 その説明やチョーカーの説明、カズヤの処分については当分決めかねるというのをヴェルファイアから聞かされた後、カズヤは「安静に!」とスクーデリアに言われたのでおとなしくベッドの上で天井を見つめていた。


 時刻は夜だがほとんど気絶していたカズヤはなぜだか眠れず、カズヤは尿意を理由に部屋から廊下に出てみた。なんのセキュリティもないようだ。位置情報のついたチョーカーも、充電するからと言って先ほどスクーデリアが外してくれた。


 そーっと廊下に出てみると、昼の時とはだいぶ雰囲気が違う。


 壁にかかった大きな時計。現世と読み方が同じなら、ちょうど午前三時を回ったくらいになる。


 廊下の向かい側の壁に、大きな窓がついていた。


 真っ赤な月と真っ青な月が二つ出ている。


 幻想的な風景にカズヤは心を奪われ、思わず壁のほうに歩み寄った。


―その時。


 廊下の向こうのほうから、かすかに話し声が聞こえた。


 とっさにカズヤは身をひそめる。


 話し声は廊下の角の向こうからしているようだった。


 よーく耳を澄ますと、ヴェルファイアの声のようだった。


 もともと好奇心の強いカズヤは誘惑に勝てず、そろーりと角から話しているほうを見てみた。


「姉さん、こんなこともうやめたほうがいいんじゃ…」


 話しているのは紛れもなくヴェルファイアである。薄明りのなか判別しにくいが、確かに声はヴェルファイアである。


「何を言っている。すでに召喚まで終えた。今更変えることはできまい。」


 ヴェルファイアと話しているのは誰だろうか。


 よく見えない。


「私を信じろ」


 声はどこか聞いたことがありそうである。


 しかし、どうもおもいだせない。


「姉さん…」


 姉さん?ヴェルファイアには姉がいるのか?


―その«姉さん»の顔をよく見ようと目を凝らしたとき

 

「誰だ!」


 後ろから大きな声がした。


 見回りの衛兵のようだ。


 話している二人もはっと振り向き、向こうへ走り去っていった。顔は結局見えなかった。


 カズヤはまずいと思い、いそいで部屋に戻った。幸い、T字の通路だったので、ばれずにすんだようだ。


 部屋のベッドの上で、カズヤはさっき見たシーンを思い出していた。


 姉さん…?どっかで見たことあるような…?


 記憶を辿っていると、気がついたらカズヤは眠りに落ちていた。


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