第一章7 『初陣』
「あれが敵だ、」
水平線の遥か彼方に、大きな鳥のような群れが見える。塔のてっぺんからの景色に圧巻されつつ、カズヤはヴェルファイアから作戦の説明を受けていた。
「今回の敵は鳥型だ。これまでならば大砲ぐらいしか立ち向かう方法がなくてこずっていただろうが、貴様の力があればうまくいくかもしれん」
ヴェルファイアが不敵な笑みを見せた。
「敵はまもなく境界線に接する見込みです」
そばにいた兵士がヴェルファイアに報告する。
「この国の周囲には防衛の魔法術式がかけられている。海上の魔法使いたちの合唱によって術式は守られているが、術式は完ぺきではない。誰かが音を外したら途端に魔法はほころぶ。」
「だから、そうなる前にあんたにはあいつらを一掃してもらうよっ」
よこで黙って聞いていたララが口をはさんできた。
「善は急げだ、行くぞ、お前ら!」
ヴェルファイアが開戦の怒号を挙げる。
「よいしょっ」
ララがしゃがんで、何やらハープのような大きな楽器を構えた。
「みんななるべくぎゅうぎゅうに集まってーっ」
言われたとおりに兵士たちが密集する。
「今から全員で海上にララに転送してもらう。海上には飛行龍と船が待機している。普段の訓練通りだ、行くぞ!」
集団が活気に満ちる。
ララがハープをつま弾きだした。
―カズヤには絶対音感がある自信があったが、どの音もハーモニーもはっきりととらえどころのない音だった。
だが、その音は聞くものに安心感を与えるような心地よい響きを含んでいた。
そういえば、今頃お母さんは何をしているんだろうなあとかカズヤが考え始めたとき、なんの前触れもなく、世界が暗転した。何も見えない―
次の瞬間、カズヤは強風にあおられる感覚を覚えた。さっきまで密集していた人の感覚を探そうとするが、近くに人の感覚はない。立ち眩みから戻るときのようにだんだんと視界がはっきりしてくると、カズヤは目の前の光景に唖然とした。
カズヤは、空中にいた。
そして、そのまま海へ加速しながら落下していた。
「おい!カズヤだけあんなところにいるぞ!」
体をもみくちゃにされながら、目の端で海に浮かぶ戦艦が見える。おそらく自分がいるはずだった場所―
「ふっふっふっ」
落ちるカズヤを見下ろすように、空中にララが静止している。
「ララ!どういうことだ?」
ヴェルファイアがララに叫ぶ。
「こいつはやっぱり生かしておくと危ないよ…っ」
「だからここで」
「私が始末するっ!」
ララがハープを構え、ものすごい速さで旋律を奏でる。さっきの旋律は優しさをはらんでいたが、今度の旋律は攻撃的な荒々しさを含んでいた。
途端、カズヤから少し離れた場所の海の水がかっぽりなくなり、海に直径10メートルくらいの大穴が開いた。
そしてその海水の塊がそのままカズヤの頭上に移動される。
―あ、終わった…
カズヤがそう覚悟したとき、
誰がどんな能力を使ったのかカズヤの手にギターが出現した。
カズヤは、わらにすがる思いでめちゃくちゃにギターを鳴らした。ただ”生きたい”という思いを込めて。
カズヤのギターから音が発された瞬間、斬撃がどこからともなく四方八方に発射された。カズヤは一瞬斬撃の光に包まれ、すぐに光はあたりに広がっていった。斬撃がカズヤの頭上に浮かぶ水の塊に接すると、水はすごい音を立てて蒸発していった。
水が蒸発仕切った時、ちょうどカズヤの斬撃も途絶えた。
「なんで楽器持ってんのよっ!封印したはずなのに!」
頭上のララが舌打ちをする。
ララが続けて二発目の攻撃をしようとハープを構えた時、カズヤは大きな水しぶきを立てて海中に消えていった。