第一章6 『突然』
「やっぱりこいつの力は危険だよっ!」
張りのある高い声があたりに響き渡る。
「落ち着け、ララ」
少し高いところに座るヴェルファイアが声を放つ。
書いてある模様が見えないくらい高い天井の聖堂で、カズヤは裁判(?)にかけられていた。
―俺がギターを軽くつま弾いただけで大惨事になってから、半日ほどたっただろうか。俺は今、屈強な兵士たちに囲まれて椅子に括り付けられている。
問題のエレキギターは俺から遠ざけられ、何やら封印されているらしい。
そして正面では、団長―そして国王代理、ヴェルファイアがこちらを睨んでいる。
俺の左側には、さっきから団長に俺の危険性をアピールしている緑髪金眼の女。
―ララというらしい。ショートカットの、気の強そうな少女だ。
「この異世界人は、自分の力を制御できてないし、放っておいたら大変なことになるよっ!」
「カズヤ、どうなんだ?」
ヴェルファイアが俺に質問する。
「力の制御は…できないみたいだな…」
俺が力を制御できるか試すために、裁判中に何度か人形を的にコントロールテストをしたのだが、全部外れて兵士に斬撃が当たってしまった。
「どうしたものか、せっかく伝説、いや伝説を超えるかもしれぬ魔法を使える逸材を召喚できたというのに、この精度では使い物にならないな…」
「まだ利用しようなんて考えてるのっ?こんなやつ、さっさと殺しちゃえばいいのにっ!」
ララはさっきから発言が少し過激である。
ただ今のところ、ヴェルファイアの口ぶりからして俺を殺す気はなさそうである。逆にどうにか使えるようにしようと考えているらしい。
そもそも、勝手に召喚された俺がなぜ殺されなきゃならんのだ。元の世界に返すのが筋だろう。
「カズヤ、確かにお前を殺す気はない。お前の処遇は大臣とよく相談しよう。それに、お前をすぐに返すこともできない。お前をもとの世界に返せるのは召喚主であるセレナだけだ。そのセレナもあのケガじゃ、数か月はろくに魔法は使えまい。」
ヴェルファイアは人の心が読める。殺さないと明言されてカズヤの心が少し穏やかになった。だが、セレナの状態が悪いと聞いてカズヤの心に罪悪感が走る。
「セレナ様をあんなに傷つけたやつに、なんの罰も与えないなんて…っ!」
この宮殿では、セレナの人気が高い。スクーデリアもララも、セレナにゾッコンのようだ。
部屋に沈黙が生まれる。
その時、その沈黙を破る甲高いノックの音が部屋に響く。返事をする前に勢いよくドアを開け、甲冑姿の兵士が現れた。
「西方に敵を発見しました!」
走ってきたのか、息が切れている。
「なんだと?!」
ヴェルファイアが驚いてうつむいていた顔を上げる。
「時速300㎞で我が国に進行中、およそ30分後には海岸に到達する見込みです」
「なぜもっと早く言わぬ!」
「強大な魔力による深刻な干渉が起き、数分間レーダーが使い物にならなくなりました。たぶん、カズヤ様の魔法による影響かと…」
「この大変な時に…」
あげた顔を再び下げ、うつむきながら声を絞り出す。
「いったん会議は終わりだ。カズヤの処遇については他の大臣と話し合う。」
ヴェルファイアが立ち上がり、目下に整列する兵士たちを見渡す。
「総員、戦闘態勢に入れ!」
ヴェルファイアが団長らしくあたりにいる騎士たちに声を張り上げた。
開戦の咆哮を挙げる戦士たちの中で、ララが控えめに前に出る。
「ですがヴェルファイア様、セレナ様が…」
ヴェルファイアが、痛いところを突かれたといった感じで困り顔を見せる。
「テスタロッサ、セレナの容態はどうだ?」
「スクーデリア様が治療していますが、当分、意識回復の見込みはないかと…」
さっきから黙って聞いていた執事のテスタロッサが恭しくヴェルファイアに伝える。
「セレナ…こんな時に…!」
ヴェルファイアが悔しそうに声を漏らす。
「セレナほどの力を持つ騎士…誰でもいい。セレナほどの戦力の代わりになるものは…」
ララがカズヤのほうをちらっと見た。
それを見逃さなかったヴェルファイアが、カズヤのほうを見る。
ヴェルファイアが、焦燥と決断の入り混じった苦い顔をする。
「カズヤ、お前の思っている通りだ。緊急時だ。仕方がない。」
「こいつ、攻撃力だけはあるもんねっ」
―なんだこの展開は。
「カズヤ、お前の初陣だ!」
途端、カズヤは再び兵士たちに両腕をつかまれ奥の部屋に連れていかれた。