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野球づけのゴールデンウィークが明けた。
久しぶりの学校は、野球部の話題で持ちきり。
関東大会出場の影響力を痛感した。
久しぶりに会ったつむちゃん。
少し日焼けしていて、休み中の様子が目に浮かぶ。
「かんちゃーん! おめでとー!」
朝の教室に響く元気な声に自然と笑みが溢れる。
やったーーーーー!!
私たちは手が痛くなるまでハイタッチをした。
————お昼休み。
「かんちゃーーーん」
人がたくさんいるロビーで呼ばれる私の名前。
犯人は2年生の鳥原先輩と青木先輩。
笑顔で手を振ってこっちに来る。
春大をきっかけに、先輩たちとの距離は縮まった。
特に話しかけてくれるような社交的な人たちとはもう普通に話せるレベル。
だからと言って、大声で名前を呼ぶのはやめてほしい。
あーあ。周りからの視線が痛い。
ちょっと考えればわかるでしょうが。まったく。
無視はできないからぺこっと頭を下げてその場を乗り過ごす。
もう手振れるくらいの仲だけど、さすがに今は無理でしょ。
「……手、振ってあげればいいのに」
見上げるとそこには見慣れた顔。今度は3年生だ。
佐々木先輩と飯塚先輩。
なぜかふたりが私の代わりに手を振ってる。
「あ、お疲れ様です。いやいや〜この状況では無理ですよ〜」
「おつかれ。まぁかんちゃんにはちょっとハードル高いか」
飯塚先輩の言葉に深く頷いた。
「でもあいつら手振ってほしそうだったよ〜ははは」
そういってどこか楽しそうな佐々木先輩。
ふたりと少し話して、また部活でと言って別れた。
「あんなのが1年のマネージャーなんだ」
「あれ誰、さっき2年とも絡んでたし」
「全然可愛くないじゃん」
「うわ〜馴れ馴れしい、1年のくせに調子乗ってる」
それは先輩たちがいなくなった瞬間だった。
ヒソヒソ嫌な感じ。
聞きたくない言葉が私の耳届く。
「チッ。……気にすることないよ。行こ!」
あ、私よりつむちゃんのほうが怒ってる。
「つむちゃん、ありがと。大丈夫だよ」
つむちゃんがいてくれてよかった。
よし!気にしない!
そう自分に言い聞かせるしかなかった。
でもそんな簡単な話じゃなかった。
——————それから1週間いろいろあった。
おめでとうって言ってもらったり。
話したことない1年生に野球部のことを聞かれたり。
知らない人から声かけれることが増えた。
何より入部1ヶ月そこそこの私を野球部のマネージャーとして認識していることに驚いた。
もちろんいいことばかりじゃない。
陰口も嫌なこともたくさん言われた。
そもそも私の存在が気に入らない人。
単純に私がマネージャーやっているのが気に食わない人。
先輩たちと仲良いことが気に入らない人。
——ある日、売店に行くのも嫌になった。
早めに買いにいけるとき以外は、友達が代わりに買いに行ってもらうようになった。
ふたりで買いに行ってくれて、ひとりは私と一緒に教室にいてくれた。
何より救いだったのはクラスのみんなが優しかったこと。
だから教室にいれば安心だし、いつも通り過ごすことができた。
あ、あと部活のときもね。
……でもそれも3日くらいで落ち着いた。
私が気にしなくなったのか。
言われることに慣れたのか。
そもそも言われなくなったのか。
わからないけど、いつも通りの日々に戻った。
部活も変わらない日々を過ごす。
だけどどこか気合いの入ってる部員たち。
みんな頑張ってるから、私も頑張らないとね!
————いよいよ明日、関東大会が開幕する。