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おだやかな青空が広がり、時より吹く春風。
まだ咲き始めたばかり、緑が混じる桜の木々が揺れる。
憧れだった紺色のブレザーにチェックのスカート。
学年カラーの青色リボンをつけて、これからの高校生活に胸を躍らせる。
私が通うここは、私立水明高校。
文武両道を掲げる、至って普通の学校だ。
「ご入学おめでとうございます」
たくさんの明るい声に迎えられ少しずつ実感が湧いてくる。
教室へ向かうともうすでに席に何人かいるが、知っている人は誰もいない。
新しい環境への第一歩を踏み出した。
教室の左奥、窓際の1番後ろの席に座る。
中庭の木や花壇が見渡せる特等席。
窓から吹く風が心地よくて、眠気を誘う。
「ねえねえ、となり座ってもいい?」
声の主は肩にかかるくらいのボブヘアの女の子。
肌が少し焼けていて、太陽のような笑顔で私を見ていた。
「もちろん、いいよ」
そういうと、大きなリュックをおろして隣に座る。
「ありがとう。私、北川月紬。つむぎとかつむとか好きに呼んで!」
「じゃあ、つむちゃん! 私は菅野咲花。よろしくね」
「かんちゃんって呼ぶね。こちらこそよろしく」
つむちゃんは女子サッカー部が目的で入学したみたい。
特進に入ることを条件に許可してもらったと話してくれた。
……きれいな校舎と制服が目当てな私とは全然違う。
————入学式までの間、私たちはお互いの話をたくさんした。
これが高校生になって初めての友達、つむちゃんとの出会いだった。
入学式は特に変わったこともなく終了。
***
初めての登校。
青空の下、駅から少し離れた学校までの道のりをひとりで歩く。
途中、大きな湖やおだやかに流れる川の横を通る。
ランニングや散歩コースになっていて景色が良くて気持ちがいい。
私たち1年1組特進クラスの先生は、澤村先生。
担当科目は英語。陸上部の顧問らしい。
背が高くて短髪で、さわやかな印象がある男の先生だ。
先生の挨拶が終わり、私たちも自己紹介をする。
クラスの委員長は、優しい雰囲気の寺田くん。
副委員長は、背が高くて真面目そうな久保さんに決まった。
時間がかかりそうな学級委員決めも、立候補のおかげでスムーズ。
————その後、校内見学が始まった。
私とつむちゃんは列の後ろのほうに並んで歩き出した。
校舎は1棟で、空から見るとLみたいな形をしていている。
私たちの教室は2階の端っこ。
1階は保健室とか図書室、自習室、理科室とか利用しそうな教室があるフロア。
2階は教室1年生の全クラスと、2年生の教室が4クラス分だけある。
私たちの教室があるほうは、廊下に面して教室が並んでいるだけ。
でももう一方は全然違う。そもそも広さが違う。
まず、中央ある広いロビーは天井が吹き抜けで、テーブルや椅子が置いてある。
そのロビーを囲むように、各教室が並んでいる。
他に売店や自動販売機もあって、ロビーでご飯を食べることができそう。
売店の先の角を曲がると、私たちの教室が並ぶ。
ほら、やっぱり全然違う。
例えるなら、こっちは一方通行道路。
向こうは駅前のロータリー、あるいは駐車場だ。
3階は、2階と変わらず3年生の教室が並ぶ。
違うのはロビーの吹き抜け部分があること。
その空間を囲うように廊下があり、左右に4室ずつ教室が並ぶ。
廊下から下を見るとロビーが見下ろすことができる。
各教室から視線を感じながら、校舎見学が終わった。
————憧れだった綺麗な校舎。
ここで3年間過ごせることにワクワクした。